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三題噺もどき

ハリネズミ同好会

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくろくじゅうはち。

 お題:ハリネズミ・秘密・裏切り



 ハリネズミ同好会。

 それは、僕と君。

 たった二人の、秘密の逃げ場。

 1人が嫌いな僕らが。

 2人で温めあうだけの。


 1人では生きられない。

 ひとりではいられない。

 孤独なんて信じられない。

 たった一人では世界に存在できない。

 1人立ち尽くしていると息もできない。

 独りでいるなら死んだほうがまし。


 それでもなぜか。

 僕らは他人と共にいられない。

 ひとりを孤独を。嫌う癖して。

 僕は人を傷つけて。

 君は他人を嫌悪する。


 人といると自分が亡くなっていくようで怖い。

 他人と居るとその温かさに吐き気がする。

 自分が自分であるために。

 そのぬくもりに触れないように。

 僕らは傷つけ、嫌悪し。

 そして、1人になった。


 独りでなんていられないのに。

 生きていけないのに。

 息をしていけないのに。

 人といることで。

 自分は生きていけるのに。

 他人といないと。

 自分は生きていけないのに。


 なぜ傷つけてしまうのだろう。

 なぜ嫌悪してしまうのだろう。

 なぜ吐き気に襲われるのだろう。

 なぜ怖くなるのだろう。

 なぜ。

 なぜ。

 なぜ―?


 それは人が他人を裏切ることで生きていると知っているから?

 それは他人は人を騙すことで生き抜いていると知っているから?

 人は。他人は。僕以外の人間は。君以外の人間は。

 人を、他人を、僕を、君を。

 裏切って騙して蔑んで妬んで馬鹿にして。

 その黒黒とした感情をもって触れてくるから?

 その暗黒そのもののようなそれを見るのが怖いから?


 ちがう。

 いや、そうなのか?

 でもきっと。

 違う。

 もしそうであったとしても。

 必ずどこかに明かりはある。

 その裏切りには理由がある。

 その感情にはワケがある。


 それなら。

 その理由に。原因に。なるのが怖いのか?

 他人と触れ合うことで。

 その他人に。

 自分が原因になって裏切られるのが。騙されるのが。

 怖いから?


 それでもそれは自業自得だ。

 その場合、弱者は僕だ。悪者は君だ。

 それ以外のナニモノでもない。

 裏切った他人は。

 騙した人は。

「お前が悪い」

 で終わるのだ。

 はっきりと面と向かって。

 他者と自分の間に線を引いて。

 もう二度と消えることのない。

 境界線を作り上げて。


 だから―?


 そう。

 だから。


 そうなるぐらいなら。

 他人と関わってしまう前に。

 その原因になってしまう前に。

 その接触を断てばいい。

 最初から失くしてしまえばいい。

 始めからなかったことにしてしまう。

 作らなきゃいいのだ。

 消すことのできない。

 忘れることのできない。

 一生付きまとうそれができてしまう前に。


 だから僕は。

 人を傷つけ。

 だから君は。

 他人を嫌悪する。


 それでも。

 1人は嫌いだ。

 ひとりはつらい。

 孤独でいるなら。

 死んだほうがまし。


 人を傷つけるたび。

 心にチクチクと針を刺し。

 他人を嫌悪するたびに。

 心の臓を針の筵にし。


 そんな風に。

 小さな針でおおわれた僕らの心は。

 誰とも寄り添えず。

 他人を傷つけることしかできず。

 その度自分たちも傷だらけになって。


 いつだったか。

 初めて出会ったとき。

「ハリネズミのジレンマって知ってる?」

 そう聞いてきた君は。

 僕と同じに見えて。


 1人が嫌いで。

 ひとりでは生きていけなくて。

 孤独でいられない僕ら。


 けれど。

 人を傷つけ。

 他人を嫌悪し。

 遠ざける僕ら。


 それでも。

 互いに温もりを求め。

 他人と共に在ることを願う。


 そんな僕ら。

 立った二人の。

 秘密の。

 ハリネズミ同好会。


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