第九十九話
御伽学園戦闘病
第九十九話「VI」
光輝、蓮、漆の『VI』は渓谷地帯から宮殿へと向かっている。三人は助け合いながら道を進む、道中で何故この三人なのか聞くと二人を誘った光輝が
「前一緒に任務に行って今までで一番戦いやすかったから」
と言う。二人は一年以上前の漆の初任務で三人で組まされ戦闘を行ったことがあったことを思い出す。その時は確かに光輝の本気が出ている様に見えた、今回は全チーム自分の最大限の力を出すためのメンバーで構成されているので光輝が二人を誘ったんのは当然だろう。
「そういう事だったんですね!でも僕は現世と違って操れる動物さんが少ないのであまり役立てないと思うのですが…」
「いや宮殿には動物がいるはずだ」
「何故断言ができるのですか?」
「俺はフェリアに聞いたんだ、普通に現世にいる動物をペットとして飼っているって」
「それなら大丈夫そうですね」
「あぁ頑張ってくれよ」
宮殿では戦闘している事が分かる程の霊力反応がする。光輝はさっさと抜けて宮殿へ向かいたい様でソワソワしている。漆はプテラノドンなら今でも命令できるので宮殿まで飛んでいけますと提案してみるが光輝は霊力を温存しておきたいしエンマが強いといったフラッグならそんな簡単にはやられないだろうと言い堅実に谷を越えて行く。
すると付近の適当な動物に視界を移しているせいで平衡感覚がいまいち掴めていない蓮が足を滑らせそうになる、だが光輝がすぐに支え落下は防いだ。ただこのままだといつ落ちてもおかしく無いので光輝が背負っていくことにした。幸い蓮は小さく軽いので軽々持ち上げ特に支障もなく渡っていけている。
「というか蓮の家の親厳しいんだろ?遠征でさえ渋るのによく来れたな」
「まぁ駄目って言われても無理やり来るから。折角生徒会に入ってるのに一緒に行けないなんて面白くもない冗談だよ」
「そうか。親が生きてるだけ幸福者なのかと思ってたけどそうでもないのかもなぁ…」
「不幸とまではいかないけどいちいち文句垂れてくる親がいないのは羨ましいな」
「ま!そん時が楽しければそれでいいだろ!」
「そうですね!」
「そうだねー」
三人はその後も他愛もない会話を続け十分ほど恐怖の渓谷地帯を進み遂に渓谷地帯を抜けることに成功した。三人は少し休憩しようと座り込んだ、降ろされた蓮は感謝しながら胸ポケットから小さな何かを取り出した。二人は何をしようとしているのか見ていると蓮はその小さな物体を叩いた、するとその物体は膨らみ水筒になった。漆と光輝は驚き興奮している、蓮は二人にお茶を与えた。
「ありがてぇ!」
「ありがとうございます」
「にしてもそれどんな仕組みなんだ?」
「大分前崎田に創らせた。叩いたらデカくなって時間が経つと小さくなる水筒。ちなみに霊力は120ぐらい消費したらしい」
光輝の霊力は100程度、漆は150程度なのでそれ一つを創るのにそんな大量の霊力を消費することを知り崎田が何か創った時にあんなゲッソリして元気がなかった理由が分かった気がした。
お茶を飲み休憩を取った三人は再び宮殿へと向かうため立ち上がったその時声を掛けられる。
「やっほー光輝」
そこにいるのは水葉達だった、丁度渓谷地帯を抜けて来た様で立ち止まっているのが見えたから話しかけに来たらしい。水葉は何かあったのか心配していたがただ休憩しているだけだと伝えると「紛らわし」と言って貶してくる。
「まぁまぁ水葉さん。ところで何故皆さんはチームを組まれたんですか?」
レアリーが仲裁し三人が組んでいる理由を聞くと光輝より先に会長が答えた。
「覚えてるんっすね、そういうの」
「勿論だ。私はリーダーなんだからな」
そう話していると刀迦が「さっさと行こうよ」と言って服を引っ張ってくるのでそこで解散ということになりそれぞれ分かれて宮殿へと向かうことにした。光輝は会長達ならフラッグをやる可能性があると少し急ぎ目に進んでいく。
そんな七人を眺めながら佐須魔と流は呑気にお話をしていた。
「なんで僕を攫ったんだ?」
「京香を殺したんからお前も殺そうとしていた」
「氣京って?」
「お前の母親[櫻 京香]。僕が殺して今は流君の守護霊となっているよ、君はあまり出して戦闘したがらないようだけどね」
流は母親がどうなっていたかは知らなかったので初めて死んでいる事を聞かされた。だが驚くでも怒るわけでもなくただ冷静にどんな人だったのかを聞く。
佐須魔はあまり覚えていないよと言ってはぐらかした、流ははぐらかされたことに気付いてはいたが佐須魔がはぐらかすなんて考えられないので何か理由があるのだろうと追及するのを諦めた。
「あんときの俺はどうかしてたよ、なんで関係のない能力者を殺したんだろ」
「成長途中だったんだよ」
「ん?」
「今の僕と同じ怪物になるための成長の道を歩んでいる段階だったんだ、だからおかしくなっていた。今の僕はおかしい、それぐらい自分でも分かる」
「じゃあ何故進化を拒まない?」
「言っただろう。皆を守るため、お前らを殺すためだ」
「その殺害対象が目の前にいるのに手を出してこないのは何故かな」
「ただ進化するだけじゃ駄目だ。お前らの技術を盗んで進化する、そうすればお前らより強くなれる」
佐須魔はふーんと言い流の両頬を固定し目を見つめる、流は微動だにせず佐須魔の眼を見る。佐須魔は手を離し流にこう言い放った。
「流君は楽しんでいるかい?」
「戦闘か?楽しいわけがないだろ」
「じゃあなんで僕が楽しんでいるか分かるか?」
「知らないよ」
「正解は僕にも分からない、自分自身が何故笑っているかなんて分かりっこないのさ」
意味のない質問をされた流は少し機嫌を悪そうにする、佐須魔は謝りながら隣に座り話し始める。
「俺も本当は武力改革なんでしたくない、だけど数百年以上この世は変わってきていない。君もラッセルから教わっただろう?『能力者戦争』。約百年前に起こった歴史に残る戦争、今までは国同士で戦争をすることなくそのヘイトを能力者に向け追放していた。だがそれが激化し能力者が耐え切れず全世界で戦争となった。
結果能力者は敗北したが一部の地域では能力者が勝利した、だが能力者は一般人を痛めつけることなく普通に暮らしていた。その地域は今も少しだけ能力者に優しい、こういうことがあった以上僕らも武力で制圧するしかないんだ。」
「バカみたいだな。そんなことしたって結局は変わらないさ」
「じゃあどうしろっていうんだい?まさか現状を受け入れろなんて言わないよね」
「知るか、僕はこのままででもいい。だからお前らの事なんでどうでもいい」
佐須魔は子供の流を見て何故か少しだけ安心した。これだけ力の差があろうとも歯向かってくるのは勇敢だからではなく頭が悪いからだろうと思う事にして頭の中で結論を出した。
そんな中須野昌が家から出て来たのが見える、須野昌はまだ出発していない二人を見て「お先に」と手を振ってから相棒を出し崖を飛び降りて行った。
「さーてあと約一時間、宴が始まるよ流」
「何かっこつけてんだよ、まぁいい僕も楽しみだルーズとニアの父親[フラッグ・フェリエンツ]」
二人は待ちきれずに準備運動を始めた、そして出発していないのは佐須魔と流だけになった。全チーム着々と宮殿へ近づいて行く、だがこの時誰も気づいていなかったある者が動き出しそうになっていたことを。
第九十九話「VI」




