第九十七話
御伽学園戦闘病
第九十七話「生前」
礁蔽達は港町まで移動して朝食を取っていた。他国と戦争中かつ日も昇っていないのにも関わらず町は賑わっている、礁蔽達は魚介の料理を楽しみ食後の話に移る。全員日が昇るまで待つ木だった、ただ紫苑があの地帯の謎に追求する。
「というかなんで夜だけ暑くなるんだ」
その質問にはフェリアが回答する。
「あの砂は日中の光を集めて夜にそれを放出する謎の砂なんですよ、そのせいであそこら辺一帯は何も建てれないですし作物なども育てる事が出来ません」
「ふーん」
紫苑は少し考え込む、そしてある名案を思いついた。すぐに全員にこの策を伝える。
その策とは蒿里が『|肆式-弐条.両盡耿(よんしき-にじょう.りゃんさんこう)』を最低限で使用し光を発生させて暑くない内に渡ると言う物だ。全員賛成しているが蒿里だけはあからさまに嫌な顔をしている。
「えぇ…出来なくはないけどさぁ…霊力の消費とかさぁ…」
「でも佐須魔曰く消費霊力指数はおおよそ十程度と言っておったが?しかも最低限でええんじゃろう?」
「あーもう分かった分かった。やるよ」
やると決まると全員すぐにでも行こうと席を立つ、金を払おうとしたが全員財布を持ってきていない。するとフェリアが「私は顔が効くので大丈夫ですよ」と言って店員に話しかけに行った、そして三十秒程話してから戻って来た。そして行きましょうと店を出て行く、全員続いて出ていく。
外が未だ暗いままで荒廃熱帯夜地帯からは嫌な雰囲気が漂ってきている、蒿里は早速唱えた
『|肆式-弐条.両盡耿(よんしき-にじょう.りゃんさんこう)』
最低限皆の周囲が照らされる程度に光を発生させた、すると予想通り暑さが無くなり快適になった。十人は荒廃熱帯夜地帯を進み始める、道中で礁蔽がフェリアに質問する
「ここにいるってことは死んでるって事なんか?」
「はい。三十年、現世の時間換算では約百年前に死亡しています」
「百年!?思ってたより前に死んどるやんけ…フェリアは生前何してたんや」
「私は普通の能力者でした、ただその頃は今よりも差別や迫害が激しく常に死の恐怖に晒されていました。そんなある日家に乗り込んで来た人がいました、その人は私達を殺しにかかってきた。ですがお父様が庇ってくださったんです、その時にお父様はなくなってしまいました。お母様は顔も知りません。
そして私はどうにか食い繋いでいた、そんな時ある男性に出会ったのです。彼は無能力者ながら非常に優しくそんな彼に私は惚れてしまいました。
その頃は娯楽もなかったので毎晩のようにふけっていました、そうすれば当然子を孕みます。当時十六歳で妊娠した私は産む決心を固めていました、ですが彼は子供が出来たと知るや否や失踪し私を一人にした。それに重なるように流産を起こしたんです、支えになってくれていた彼が姿を消し子供さえ失ってしまった。その精神的苦痛から私は豪雨の中川に飛び込んだのです、そして魂は無事天へ昇りここにいるわけです」
あまりの壮絶で悲壮感溢れる人生に何と反応していいか分からず叉儺以外が黙り込む、叉儺は「何でそんな男を」などどう考えても今聞くべきではない質問を連発する。フェリアは何事もなさそうに質問に答える、様子を見るとフェリアにとってもあまり重く受け止めて欲しくなさそうだ。
「処女じゃないから降ろせないのか」
菊がそう何かに納得しながらそう言った。フェリアは申し訳なさそに誤った、だが礁蔽や紫苑達は何の話をしているか分からないので聞いてみると菊が今まで話してこなかった術の詳細を話す。
その術はある血筋の者を降ろしそれぞれにある[卸術]を使用して攻撃する術だそうだ。黑焦狐がやっていた霧や咆哮はそれのおかげらしい、そしてその血筋を受け継いでいる女を『姫』と呼ぶ。そして姫は処女だと強くなると言うクソみたいな仕様があるそうだ。何故そんなのがあるかと言うとこの術が作られたのは数十年前の日本で純血が大切にされていたからだそうだ、そしてその術は本来二十歳を超えると使えなくなる。だが菊は『奉霊』という元祖の女に支えていた霊を使うことで使用しているそうだ。だが降ろすのが難しく非処女は降ろすのも難しいらしく二十歳を超えて半ば裏技で使用している菊はフェリアを降ろす事が出来ないらしい。
「てことは親戚なんか?…でも日本と外国やん」
「なんか元祖が日本に渡って子供作って米国でも子供作ったらしい、だからこんなにも違う。そもそも何代も前の姫だからほぼ血は繋がっていない。他にも制約とかルールはあるけどクッソややこしいから宮殿にいる元祖に聞け」
「宮殿にいるんか!?」
「元祖は元マモリビトらしい、エンマに託して今は好き勝手してるんだとよ」
全員話に着いて行けていない、ただ來花は佐須魔によって対策として全て聞かされていたので特に困ってもいない。
菊は十六で孕んだと言うことに少しだけ驚いている、十六歳と言えば水葉や胡桃が該当する。だがフェリアは二人と比べると大分落ち着いていて大人っぽい、そして十六歳と言うことは紫苑、礁蔽、そしてもう少しで誕生日の素戔嗚と同じだと思いフェリアが更に大人に見えてくる。
「にしても君は私が側にいても何とも思わないのか?」
來花がフェリアに聞く、來花はエンマに許可を取って現世に降りたのではなく佐須魔が無理矢理連れて行こうとして賛同し黄泉の国を脱走したのだ。フェリアはいつも通り微笑みながら
「何かあったらこちらは刀迦さんの魂を握っていますから」
と言い放った。來花は青ざめる、他のメンバーも詳しくは分からないが何かヤバいことを平然と言っている事は分かり恐怖する。
「フェリアは元々蜂の霊を使っていたのか?」
素戔嗚がそう訊ねるとフェリアは元々は鳥霊だったが自殺した時に消えてしまい黄泉の国に来たら蜂の霊に変わっていたと言う。ただ菊が使っている術の『姫』と王族の姫の、二つが重なり女王蜂になったのではないかとラックが推測した。
フェリアは特に気にしていない様で蜂を出して戯れる、皆蜜蜂だから何とも思っていないがスズメバチなどだったら今頃阿鼻叫喚の地獄絵図と化しているだろう。
歩き始めて三十分、時刻は六時前。十人は無事荒廃熱帯夜地帯を抜ける事に成功した、思っていた以上に早く渡る事が出来て早速宮殿へ向かおうと叉儺が言うと礁蔽がそれを断る。
「悪い!わいらはちょいとここで待つ、だから先に言っててくれや」
「なんじゃ?流か?」
「そうや。そう言う事だからすまんな!」
礁蔽は謝り適当な場所に座った、菊はさっさと行こうと宮殿へ歩を進める、フェリアは「それではまた後で」と言い残し言ってしまった。七人は流が動き始めるのを待つばかりだ。
そんな中出遅れ組の一人[葛木 須野昌]が動き始めた。
「やるぞ、香澄」
第九十七話「生前」




