第九十六話
御伽学園戦闘病
第九十六話「III」
ラッセルが先導する『III』は渓谷地帯から宮殿へと向かっている、渓谷地帯は非常に起伏が激しく少しでも足を滑らせたら死んでしまう程に深い谷が続いている。
五人は安全に少しづつ進んでいく、中盤まで来た所で宮殿の方から灼達の霊力が発生した。もう戦いは始まっていると知ると出来るだけ早く宮殿に着かなくては戦闘が出来ないかもしれないと思い少しだけスピードを上げる、ただ早く移動する事に焦点を当てすぎたせいで注意を怠ってしまった。
「うわぁ!!」
蒼が足を滑らせ落下する、だがラッセルがすぐに腕を掴んで引っ張り上げた。こんな所で怪我をしていては話にならない、ラッセルは今一度注意をする様伝えてから再び歩を進める。
進んでいる最中影がある話を持ちかける。
「ラッセル先生は僕が誘ったので何にもないですがなんでこの三人を誘ったんですか?」
「私のお気に入りだ」
すると半田が何故お気に入りなのか聞いてくる、ラッセルは確実に注意をしながら説明する。
「私は元々無能力者だ、だが家族は全員能力者で私が特異体質だった。それもあって無能力者と言えど能力者の気持ちは理解しているつもりだった、そして佐須魔様に出会った。ただ無能力だとTISに入るのは不可能だと言われどうにか出来ないか聞くと黒蝶与えてくれた、私は色々な人に教えてもらいながら重要幹部までのし上がり学園への潜入という重大なミッションを請け負った。そして学園で教師をして毎日一緒にいると敵と言えども少しばかし情が湧いてくるもの、私は元々そこまで強い訳でもないのに日々の努力を欠かさず生徒会に入った君達をもしかしたら自分自身に重ねてお気に入りと言っているのかもしれないな」
確かに全員強い能力とは言えない、蒼は自分を追い詰めなくてはいけないし半田は戦闘役ではない、美久は半霊という単体の力が弱い霊だ、そして影はあまり得意ではない体術を組み合わせないと使い物にならない能力だ。
ただ皆日々の鍛錬から弱い場所を見つけそれをどうにかして補っている、そんな姿に心打たれたのだろう。
全員褒められて少し嬉しそうだ。今ならラッセルは戻って来れるかも知れない、影がそう口に出そうとした時ラッセルが先に発言する。
「だが私はTISに残る、出来れば私は学園にも属していたい。だがそれは無理な話だ、TISはいつ崩れてもおかしくない程逼迫している。そんな中重要幹部が一人抜けたらどうなってしまうか分からない、そもそも私は君達がいれば学園は大丈夫だと思っているからな」
そう聞き影は言葉を抑え込んだ、というより消滅した。てっきりラッセルは学園に戻りたくなど無いと思い込んでいた、だがそれなりの理由があり自分達を信用して学園を切り捨てたのだろう。ラッセルが学園にいたのは一年と少しという短い間だったが生徒や教師とそれなりの仲を保っていた、そんな仲を自分の意思で断ち切って裏切り自分の生徒を死に追いやった。託してくれたのだからつべこべ言わずに受け取ろう、影はそう思ったのだ。
その思いは影だけではなくそこにいる全員が思った事だ、どれだけもがいてもどうにもならない事はある、そのどうにもならない事から逃げていてはいけない。
影はラッセルから色々な事を教えてもらった、元々影は生徒会になど興味はなかった。だがラッセルが何度も入って見ないかと誘ったおかげで今こうしてここに立っている、それだけでも充分だと思い直し歩を進める。
そして苦労の末渓谷地帯を抜けた、もうすぐで宮殿なので一度休憩をしようと木陰に身を寄せる。そして休憩中美久がぼそりと呟く。
「TISの奴って根はいい奴が多いですよね」
「ああ。あの子達も辛い思いをしている、だがその辛い思いを吹っ飛ばして日々活動している。私は辛い過去なんてない、せいぜい疎外感を感じていた程度だ。そんな私でも受け入れて仲間だと言ってくれるあの子達は優しいよ。むしろ優しすぎてTISに流れ着いたんだ、私は少しでもバックアップをしてあげたいな」
「私はどんな目的で活動していようがTISが存在していてもいいと思う、ただ大事な人を亡き人にしたのだけはどうしても許せない。だから敵対するんです、絶対に許さないんです」
「頑張れ、許可が出るならば私はどこにでも向かって助けてやろう」
美久が「信頼しているじゃないんですか」と冗談混じりに言うとラッセルは黙り込んだ。だがいつでも助けに来てくれると言う発言は不安を少しでも取り除いてくれる、この発言一つでも大きな力へと変わるのだ。
「そろそろ行きましょうよ」
半田がそう言うと全員立ち上がり宮殿の方へと歩み始めた。影の能力を使って侵入しようと話し合っていたので城壁の元まで歩いて行く、その間にも宮殿では熾烈な争いが繰り広げられていた。
影達は城壁を抜けそのまま宮殿に侵入した、侵入した所で服装が変わり灼達に言ったことをエンマが復唱した。ただラッセルだけは服装が変わらず付き添いの教員と言う設定らしい、五人はゆっくりと王座の間へと近づいていくのだった。
そんな中港町で呑気に飯を食っている礁蔽達はフェリアからある話を聞いて荒廃熱帯夜地帯を抜ける策を思いついた。
第九十六話「III」




