第九十話
御伽学園戦闘病
第九十話「あいの櫻」
テレビに映し出されたのは二人だった、素戔嗚とルーズだけだ。何故流がいないのか不思議に思っていると莉子がエンマに話しかける、内容はテレビを通して聞こえてきた。どうやら流がどこにいるかわからないらしく探し出すのが不可能に近いらしい。エンマはしょうがないと素戔嗚、ルーズの二人でやろうと言い出した。
「でもそれじゃあ俺達が不利じゃありませんか?」
「まぁまぁ安心しなって」
エンマはそう言って二対一で戦う強制させる、二人は渋々ながら納得し戦闘体勢に入る。ルーズはいつでも言霊を使えるように軽く発声練習をして準備を完了した。素戔嗚は刀を抜いて構え犬神を召喚してから準備を完了した。
先に動いたのは素戔嗚だ、刀を構えながら突っ込む。エンマは触手を向かわせたが全て断ち斬られてしまった、やはり刀使いの中でも最強各の男といった反応速度と技術だ。エンマはどんな戦い方を見せてくれるのかワクワクしながら次の手を打つ、今度は自分自身で殴り掛かってみた。
素戔嗚は冷静に攻撃を受け流し反撃を行った、だがその刀はエンマに届かず風を斬った。エンマが避けたわけじゃない、外したのだ。流石に何か変だと感じたのかエンマは少し言及を試みるが素戔嗚は無視して斬りかかる。だがその攻撃さえも虚空を斬る。
『下がれ』
異変を感じ取ったルーズは言霊を使って素戔嗚を引かせた、何かあったのか聞いても素戔嗚はわからないとしか答えなかった。ひとまず二人で連携して攻撃しようと提案したが素戔嗚は何故か焦った様子でそれを却下し一人で突っ込む。
「おい!何焦ってんだ!」
「黙っていろ!」
素戔嗚はエンマに斬りかかる、だがエンマは動かないでも刀が接触しなかった。三度目の空振りだ、この異様な状態の原因を突き止めた者は二人いた。TIS陣部屋、そして学園陣部屋にそれぞれ一人。
TIS陣部屋では佐須魔が気づいていた。
「こりゃ面白いことになるね。あとこれが終わったら素戔嗚はもう一度鍛えなおさなきゃね」
「どういうことですか?私にはよくわからないのですが」
ラッセルが訊ねてみると佐須魔はこう答える
「素戔嗚は今恐れている。恐怖のあまり正常な判断ができずあんな馬鹿みたいなことをしているんだ」
「恐れている…?何にですか?」
「多分その気配に気づいている奴は沢山いる。だけどそれが何かまで気づいている奴は俺と数人だけだと思うよ。あと気づけなかったラッセルは帰ったら素戔嗚と一緒に特訓ね、俺付きっ切りで」
ラッセルはこの世の終わりのような顔をして再び観戦する。佐須魔はいつ面白い事態が起こるのかワクワクしながら待っている。
一方学園陣部屋で気づいたのはラックだ。ラックは誰にも言わないが何が起きていて素戔嗚が誰に怯えているのかも理解していた、ラックは万が一の事態が起きたときにすぐに移動できるよう扉のすぐそこへ移動した。他のメンバーはラックが何をやっているか理解できなかったが別に気にするわけでもなく再びテレビに目を戻した。
現在の状況は素戔嗚が無茶をしてすべて外しルーズが言霊やフィジカルでどうにかカバーしているおかげで三人全員無傷という今までに無かった戦況となっていいる。
だがこのままではエンマの大きな一手で崩壊してしまう、なんとかして素戔嗚の不調を直さなくてはいけない。だがルーズは恐怖でこうなっていることも知らないし知っていたとしてもルーズがどうにか出来る事ではない。ひとまず声をかけてみる
「おい!もうやめろ!」
「黙っていろ!」
当然素戔嗚は言い分を聞かず突撃する、さすがに飽きたようでエンマが終わらせようと術式を発動しようとしたその瞬間素戔嗚が吹っ飛んだ。
「やっと来たね。これで三対一だ」
そう、素戔嗚を吹っ飛ばしたのは流だ。流は咲から形見として渡された使い古された黒い皮手袋を両手にはめる、そして素戔嗚に向かって近づいていき思いっきり蹴り飛ばした。エンマは二人の間に大きな関係性がある事を理解しているので気が済むまで見ていることにした。
流は何度も何度も怒りを込めて素戔嗚を蹴る、今度は馬乗りになって殴りだす。あまりの迫力に固まっていたがすぐに正気を取り戻したルーズが止めに入る、流は案外大人しく離れた。そして素戔嗚を罵倒する
「何してんだよ、なんで空振りなんだよ?僕だってあんなの当てれるぞ。なんで外したんだよ、なぁTIS重要幹部[杉田 素戔嗚]!答えろよ!なんでニアの時は確実に当てたのに今回は当てられなかったんだよ!答えろよ!」
素戔嗚は体だけ起こ質問には答えない。流は何度も答えるよう怒鳴るが素戔嗚は黙って立ち上がり刀を構えてエンマに突撃する。流はそんな素戔嗚に苛立ちを感じる、今聞いても意味はないんだと知った流は舌打ちをしながらエンマに攻撃を試みる。
『降霊術・唱・鳥』
スペラを召喚してから素戔嗚に遅れて走り出す。スペラは後方で羽を丸め風を発生させた、その追風は流だけに効果的な箇所に発生した。そのおかげで少し遅く動き出した流は素戔嗚より早くエンマの元へ到着する、すぐに足を上げ蹴ろうとす。エンマは片腕で軽くいなす、素戔嗚は片腕だけなら当てれるだろうと刀を振った。だが変わらず外していく、流はそんな素戔嗚を睨みつける。素戔嗚は少し申し訳なさそうな顔をしてから一度距離を取った。だが流は距離を取らずそのまま攻撃を続ける、その攻撃の速度は数日前とは桁違いのものだ。水葉のような素早い手数にラックのような一撃が重い攻撃、完璧といえるほどの体術だ。あまりの強さにエンマも両手両足、そして触手を四本使用しても受け流すのが精一杯だ。
「流…すげぇ強くなってるな。じゃあ俺も!」
『エンマの能力が使用できなくなる』
そう叫んだ瞬間エンマは能力を使えなくなったが偉大な存在[マモリビト]の能力を封印するなんて言霊の代償は大きすぎるものだ。鼻血や口から血を流し左腕の骨は全体がボキボキに折れてしまった、流は楽になったためエンマを肉弾戦でねじ伏せ始めた。初めてエンマが押されている状況に部屋の中は大いに盛り上がっていた。ただラックだけは渋い顔をして見守っていた。
素戔嗚が雄たけびをあげながら刀を構え攻撃を仕掛ける、すると流はエンマの両手両足を動けないように固定してから振り向いてこう言う
「さぁやれよ。ニアにやったみたいに、やれよ…やれよ!」
素戔嗚はニアの事を突かれた衝撃で足を止め思考に囚われる。ニアの件は素戔嗚も罪悪感を抱いていた、そして大切な仲間を裏切ったことも自責の念を加速させて行く。とうとう素戔嗚は刀を落とし汗をかいて涙目にまでなってしまう、そんな素戔嗚を見て流はエンマから手を離しこう言い放った。
「何被害者面してんだよ、この屑が。僕は今にでもお前を殺してやりたい、そう殺してやりたい。いやもう殺そう、そうだ殺してやるよ!」
そう言いながら流は憎悪と怒りと高揚が混ざった顔する。そしてその瞬間流の右目に火花が散る、更に数秒後流の目に可憐な火が灯った。その火は通常の赤い火ではない、更に熱く燃えあがる炎『碧眼』碧い覚醒だ。
その映像が映った瞬間ラックは扉を蹴破り凄まじいスピードで廊下を駆け抜けて行く。
「怒りでの碧眼覚醒、まずいな」
すぐに止めに入ろうとした時今まで沈黙を貫いていたフェリアが言葉と術を発する
「行きなさい、私の大事な下部たち」
『熱殺蜂球』
するとフェリアの服の中から超大量の蜜蜂が飛び出してきた、その蜜蜂たちは集団で流を抑え込む。振りほどこうとするが蜂とは思えない強靭さで身動きを封じてくる、そして蜜蜂たちが流を埋め尽くし完全に姿を消した。だがその数秒後蜂の中からスペラが飛び出した、そして羽毛をまき散らして再び蜂の群に戻っていく。
『流し櫻』
その瞬間羽毛は鋭利な刃と化し蜂たちを切り裂いていった、意味がないと知るとフェリアは蜂たちに帰ってくるよう命令する。蜂がいなくなった流はすぐに素戔嗚に襲い掛かる、だがラックが家から出てきてそれを引き留めようとしたが何か駄目だったそうで
「駄目だ!境界線のせいで俺には手出しできない!」
そう言うとエンマは顔をしかめ最終手段を取ることにした、広域化を発動する。なにをしようとしているか気づいたフェリアやルーズ、ラックは退避する。そしてエンマはこう唱えた
『|肆式-弐条.両盡耿(よんしき-にじょう.りゃんさんこう)』
その瞬間上下から光が発生して流、素戔嗚、エンマの三人を包み込んだ。そして攻撃が終わり光が消えるとそこには傷だらけの素戔嗚未だ殴り続ける流がいた。素戔嗚も巻き込むため多少威力を下げはしたがここまでピンピンされているとエンマも驚かざる負えない。
「さっすが王と女王のハイブリッド王子だ」
そう言って次の攻撃を行おうとしたその瞬間エンマの長髪が風でなびく、その風は自然に起きたものではない。起こされたものだ、エンマのわきを走り抜けた者がいた。
その刹那流の首が飛んだ、打ち首状態だ。
「任務…完了」
そう呟き刀の血を払ったのは華奢で身長は150センチほどの兎グッズを身に纏っているTISの少女だ。
名を[神兎 刀迦]、彼女の一撃はエンマの術やフェリアの術よりも強いということになる。なんせ彼女は“TIS重要幹部元No.1”の実力者なのだから。
第九十話「あいの櫻」




