第八話
御伽学園戦闘病
第八話「双狐」
歩き始めて三時間が経った、そろそろ休憩しようとラックは空き地に椅子を出して座る。素戔嗚とラックは生徒会の事について話している。
「もう康太と灼を使うとは…あいつらはコンビを組めばすごく便利なのに早すぎないか」
「あの二人を切ってくるのはよく分からんが…今分かったことがある」
その言葉に全員がラックに注目した。ラックはポケットからある物を取り出しながら言う
「俺はルーズ以外の倒してきた奴にこれを付けといたんだ」
その手にはダンゴムシ程の大きさの球体だ、超小型カメラらしい。普通のカメラより撮影出来る範囲は少ないが録音も出来る何よりバレない、そしてそのカメラで分かった事があったらしい
「倒された奴らは全員動物に回収されていた、つまり[菊]が珍しく働いているということだ」
全員が少し険しい表情になる。だがその中で一人流は菊が分からなかったので聞いてみると蒿里が自慢げに説明を始めた。名前は[松葉 菊]、生徒の中で最年長の二十一歳。頭はいいがすぐにサボるせいで留年している。そして休憩中に堂々とタバコを吸うらしい。流が怒られないの?と聞くと
「保健室の先生は知ってるわよね?」
なんの関係性があるのだろうと思いながらも返事をする。
「あ、うん」
『阿吽』
素戔嗚が口を挟んだせいで真面目な雰囲気だったその空間に沈黙が流れた、素戔嗚は何故か胸を張って何もなかったかのような顔をしている。蒿里は素戔嗚を睨みつけた、素戔嗚は謝り話を続けてもらう
「それでね保健室の菜園時先生と、まだ会ったことないだろうけど能力訓練いわば体育の担当をしている[華方 薫]って先生が菊さんと同級生なの。しかも仲がいいから菊さんには甘くてね」
流はそんな私情を持ち込む人が教師をしていいのかと呆れつつも能力は何なのか訊ねる。菊の能力は『生物と話せる』能力だ。流はそんな能力だけで生徒会に入っているのか疑問に思ったが蒿里がある情報を付け足す。それは動物達に妙に好かれやすいそうだ、その特性を使い数多の動物達でゴリ押して倒せるのだろう。流はそれを聞いて何故エリートしかいない生徒会にいるのか納得した。
次にラックが話を戻す
「そしてもう一つ分かった事があるんだ」
ラックは少し間を置いてから
「俺らは人殺しと思われている」
その言葉を聞いた素戔嗚は「はぁ!?」と声を上げニアと蒿里、流はキョトンとしていた。ラックは顔に手を当て呆れながら続ける
「どうやらルーズが学校に帰らず行方不明らしい。生徒会はルーズが帰ってこないのを俺らがルーズを殺したと考えているらしい。生徒会側からしたら俺らが生徒会をガチで潰そうとしていると思われている、だからあんなに本気で連行しようとしてるんだよ」
ニアが立ち上がりルーズの事を問い詰めようとした瞬間近くで見知らぬ声が聞こえてくる。
「やっと見つけた!人殺し!」
その声が聞こえると同時にラックが目を抑えながら目が見えなくなったと言う、素戔嗚は急いでポチを召喚した。
『降霊術・唱・犬神』
流は急いで声がした方向を確認すると屋根の上に二人の人が乗っていた。一人は緑髪の低身長の少年。もう一人は朱色の髪をした青年だった。その二人を見るとラックに誰が来たか説明するため蒿里が声を出す
「[目雲 蓮]と[諏磨 香澄]!蓮は『目操術』でラックみたいに目がおかしくなるから気をつけて!」
ラックは戦闘体制に入らず対話を試みようと話を持ちかけた。だが二人は聞く耳を持たず攻撃を始める、香澄は両手を狐の形にしながら
『降霊術・唱・狐』
唱え終わると香澄の両脇から銀色に輝く狐が二匹現れた。香澄は狐と同時に屋根から飛び降り走り込んでくる。話し合いは無理だと決断した素戔嗚は刀を構える、香澄は構わず素戔嗚に突っ込む。銀狐の一匹はポチに襲いかかる、もう一匹の銀狐は素戔嗚に向かって口を開き鋭い牙を見せつけながら噛みついた。
素戔嗚は反応が遅れたせいで左足に噛みつかれなんとか振り解こうとしている、香澄はそんな隙だらけになっている素戔嗚の顔面の拳を打ち込もうとした。
拳が顔の寸前まで来たところで香澄の体は大きく揺らめいた。何事かと見てみると横から流がタックルをしてきたのだ。だが香澄は冷静に流を掴みぶん投げた、戦闘の経験がろくにない流は受け身など取れず勢いよく地面に叩きつけられる。
その衝撃で口内を切ったのか口から血が出てきていた。そんな事構わず香澄は流に追撃を入れようとする、だがそれは叶わない。素戔嗚が刀を振ったのだ、それに気付いた香澄は間一髪で避けた。香澄は一度距離を取るため後ろに引く
「ありがとう…」
「いや、こちらこそ礼を言う」
「こっちに来い銀狐!」
香澄がそう言うとポチと戦闘をしていた銀狐と素戔嗚に噛みついていた銀狐が凄まじいスピードで香澄の元とへ戻った。そして香澄が唱える
『妖術・絆薔』
すると二匹の銀狐の尻尾から無数の棘を帯びたツルが一瞬にして流達の元へと伸び二人をぐるぐる巻きにした。二人はそのツルについている棘が食い込み至る所から血を流し始める。素戔嗚は刀でツルを断ち切ろうとしたが何故か切る事が出来ない、その様子を見た香澄が笑いながら話し出す
「それは僕しか使えない妖術だ、絶対に切れないツルで拘束し棘でじわじわと殺す。お前らも今日で終わりだ」
そう言い放った香澄は流目掛けて走り出す、流はツルのせいで動く事が出来なかった。すぐそこまで近付かれ何度も殴られているのに抵抗する事が出来ずただ痛みを受け入れるしかなかった。
素戔嗚はどうにかしなくてはと流を助けろとポチに指示を出したがポチは吠えるだけで動かなかった。どうしたのかとポチを見てみるとポチの足には自分にも巻かれているツタが絡み付き拘束されていたのだ。
素戔嗚はどうする事も出来ずただ流が殴られているのを傍観するしかなかった。そんな時流を殴っていた香澄が吹っ飛んだ、目が見えていないはずのラックが香澄を蹴ったのだ。
「なんでだ!?」
「うるっせぇな。お前も俺の能力知ってるんだから分かるだろ」
そう言われた香澄は不服そうにラック目掛けて石を投げた、ラックはそれを軽々と掴み取り流を縛っている方の銀狐に向かってぶん投げた。その石は銀狐にクリーンヒットして銀狐は声を漏らし、それを見た香澄は怒りを露わにし、殴りかかった。
だがラックは攻撃を受け流し逆に蹴りをお見舞いした。香澄は「もういい」と言って再び流を殴りつける
その時だった、素戔嗚が呟く
「いい加減にしろよ、我の友に手を出すな」
『干支術・干支神化』
ポチの毛が伸び、身体が三倍近く大きくなり、牙が伸びる、目は草食動物を狩る肉食動物のような鋭い威圧感を放つ目へと変化した。それと同時にツルは弾け飛びポチは立ち上がる。
「なんだ?それは…」
「説明する必要はない、我を怒らせたお前の負けだ。やれポチ」
その瞬間ポチは同時に銀狐二体に噛み付いた。いや噛みつくというレベルではない引きちぎろうとしている。香澄がやめろと叫ぶが素戔嗚は「やめろと言われて誰が止める」と言い攻撃を続けた。
そして銀狐の片方が断末魔をあげて動かなくなった。そして続くようにもう片方も断末魔をあげ動かなくなった。そしてポチはその二匹を飲み込んだ。
「取り…こんだ…?こいつらは上級だぞ…こいつは神格を超えているのか…化け物だ」
顔面を真っ青にして震えている香澄に拘束から開放された素戔嗚がゆっくりと近付いていく。そして「悪いな」と言って蹴り飛ばした、香澄は電柱と衝突し動かなくなる
異様な光景に全員が動きを止め呆然としていた。すると素戔嗚が
「蓮はどこだ」
そう言うと流が正気を取り戻し「あそこ」と言って既に倒れている蓮を指差した。素戔嗚は何故あんな事になっているのかを流に訊ねると流はスズメをゆっくり蓮の背後に移動させて小さな声で『妖術・神速』を使って突き落としたと説明をした。すると素戔嗚は流を褒め称えた後ポチを戻した。流もスズメに還ってくるよう言った。
「よくやった流」
「いや、大した事じゃないよ」
話しているとニアと蒿里が近寄ってくる、蒿里は急いで回復術をかけ始めた。ニアはラックにルーズの事を聞き出す
「ルーズは行方不明らしいんだ。俺はそれ以外よく分からない」
「兄さん…」
「まだどこかで生きているかもしれない、良い方に考えるのだ」
ニアは兄を非常に心配している様だ、ただ素戔嗚の言葉の通りポジティブに行こうといつも通りのニアに戻った。ラックはニアの事を心配しながらも全員に向かって言い放つ
「行き先を変更する、目的地は御伽学園だ!そして生徒会の誤解を解き一緒に兵助を探してもらう。そして交換条件としてルーズを探し出す、そしてルーズを襲った人物はこの島にいると思われる、そいつも探り出そう」
皆ラックの言葉により全員の士気が上がる。ここで止まってはいられないと五人は早速学園に向かって歩み始めるのだった。
目雲 蓮
能力/念能力
対象と自分の視界を入れ替える事が出来る『目操術』
強さ/サポート系のため不明
第八話「双弧」
2023 4/13 改変
2023 5/24 台詞名前消去