第七十五話
御伽学園戦闘病
第七十五話「黄泉の国」
薫が二チームから話を聞き兆波が生徒会メンバーを起こした。生徒会メンバーが全員集まると部屋が狭いので能力館に移動することになった。
生徒会メンバーの数人はほぼ寝ているような子もいる。そして集まる頃には日が超えていていつ迎えにくるか分からないので薫が説明する。
仮想のマモリビトやエンマから聞いたのか特に反応をしない者もいるし追いつけない者もいる。中にはあの声はそう言うことだったのかと納得したりする者もいる中薫の説明が終わる。いつ来るか分からないので基本的に能力館にいるよう命じた。二度寝をしたり中等部やエスケープのメンバーに話を聞いたりする、その中でも一際人が寄ってきているのは流だった。
「あの頭痛は理事長の能力の副作用的な奴で能力がかき消されそうになると頭痛を起こしてそれを止めるんだ。だから俺と会った時も頭痛がしたんだ」
半田が初めて会った時に頭痛がした理由を教えてくれる、流はその後も色々な人に囲まれて過去の話や戦闘の詳細を話すのだった。
紫苑は迎えが来たら適当に霊でも出して信号を出してくれと薫に頼んでからニアのいる病院に向かう。道中では何か理由があって一度帰宅する奴らとも少し話をしたりした。須野昌と話をしていると香澄とその霊、そしてレアリーの話に変わる
「俺香澄と仲良かったんだ。ほぼ同時タイミングでこの島に来てそれからずっと仲良くしててよ…だけど肝心な最期を見てやれなかった。というか止めたかった、けど意地でも止めなかった遠呂智を恨んだりはしてないし寧ろ二人の被害で済んだのが奇跡だとすら思っている。だが出来るなら二人とも生き返らせたい、黄泉の国のエンマってやつに聞けば分かるかもしれないだろ?だから俺は今からあの狐と契約を結んでくる」
「今から!?」
「あぁでも霊力が足りなくなったら怖いから崎田からお前が貰ってたチョコを貰ってくる」
紫苑はあれを食うと霊力が多すぎて体から崩壊してヒビが入ると言うが須野昌は一番と大事にしているとも言う顔にヒビが入ってでも香澄を追うと決意を固めている様子だ。紫苑は好きにしろよと分かれ道で右に行く、須野昌は黙って左に曲がっていった。
ラックはポメを黄泉の国に行かない誰かに預けるため菊の部屋へと向かっている、本来ならラックの家にいるはずだがラックがいつ帰ってくるか分からないからと菊が気を使って部屋に招き入れていたのだ。
ポメを回収したラックは誰に預けようか考えた末ろくに仕事をしないで寮の部屋にいる崎田に預けようとそのまま崎田がいる三階まで上りインターホンを鳴らす。
すると崎田ではなく同室の梓が出てきた。中等部のメンバーはさっき帰らされたばかりで眠たいはずだ、ラックは寒そうな梓にポメの事を頼んでみると快く承諾してくれた。ラックはポメを受け渡し菊と一緒に昔の事や咲の事を話しながら能力館に戻るのだった。
そして能力館に戻るとほぼ全員が集まっている。だが紫苑、須野昌、拳、灼、影がいない。紫苑と須野昌は能力館から出ていったのを見ていたが残りの三人は最初から見ていない、薫にその事を訊ねてみると
「あいつらは遠征だ。一応菊に遣いを飛ばさせたがまぁ間に合わないだろうな」
ラックは拳がいるだけで大分戦力に差が出る事を知っていたので少し落ち込む。
そのまま一時間が経ち時刻は三時丁度、紫苑が丁度帰ってきた所で学園から少し遠くに異様な霊力を感じる。全員すぐに気付きその霊力が放たれている場所まで向かう、どこを目指しているかは分からなかったがエスケープチームと薫、兆波だけは薄々どこに向かっているか勘付く。そしてその勘は的中する。
皆が足を止めたのはエスケープチームの基地の前だ。そして木の前には制服姿の少女が佇んでいる、その少女は薫達に気づくと自己紹介を始めた
「私は[フェリア・アルデンテ]と申します。[フロッタ・アルデンデ]、いや[エンマ]から黄泉の国に連れてくるよう命じられました。」
「おいフェリア、俺らは行っていいのか」
薫が着いていっていいか聞くが首を横に振り黄泉の国に参るのはエスケープチームと生徒会の方々のみですと説明する。兆波と薫は少し顔をしかめる、だが自分達ではどうしようもないのでそれを受け入れるしかない。
香奈美がどうやって行くのかと聞くと彼方に門がありますと東南を指差す。薫と兆波、そして数名のメンバーはどこに行くのか理解した。
「まさか地獄の門を使って行くのか!?」
「えぇそうですが?」
「いやいやいやいや流石に無理があるだろ!そもそも門を開けるのは佐須魔とマモリビト三人、何処にいるかもわからない五人目しか開けれないんだぞ!?」
「いいえ?開ける事が出来る人がこの中に存在しますよ」
フェリアはちらりと視線を動かす、その視線の先にいるのは礁蔽だ。礁蔽はハッとして門なら能力で開けられるかもしれない、そう呟く。
薫は考え込むがエンマに指示されたのなら出来るのだろうとフェリアを信用することにして目的の門まで全員で向かおうとしたその時朱雀を持っている拳とその朱雀に乗って拳に運ばれている影と灼が飛び出してきた。全員夢のような状況にフリーズする、そして拳が誰も反応してくれない事に突っ込むと
「いや…なんで間に合ったかも分からないしどう言う状況なのかも分からない」
胡桃がドン引きしながら言うと拳はただ暗闇の世界を朱雀を運んで走ってきただけだという。障害物などはなく合理的な手なので良いとは思うが絵面があまりにもシュールなのだ。
そんな事も察せないバカな拳は須野昌がいない事に気付く、そして紫苑が時間がかかるだろうが絶対に来ると伝えると早速フェリアは歩き出す。
「あ?どこ行くんだ」
「禁足地だ」
「あー分かった」
目的地を聞いた拳も歩き出す。灼は朱雀を戻してから遠征の詳細を教師に伝えた、残りの仕事は全て取締課に丸投げして帰ってきたとの事だ。
三十分ほど歩き禁足地まで到着する。禁足地は大きなフェンスで入れないようになっている。フェンスのドアの鍵を礁蔽が開け禁足地に入る。禁足地は覆い茂る木で真っ暗だ、そしてフェリアはずかずかと草をかき分け進んでいく。そしてある場所で立ち止まる。フェリアの目の前には禍禍しい門が鎮座している
「さぁ開けてください。扉は私が閉めるので溢れてしまう霊達は薫さんが対処してください」
「わかった。じゃあ礁蔽、開けて全員扉の中にぶち込め」
「りょーかい」
礁蔽は鍵を取り出し門の鍵穴に挿し込む、クルリと回し錠を開く。その瞬間物凄く重苦しい空気や霊力が襲いかかる、取っ手に手をかける事が出来ない。震えや冷や汗が止まらない、その時扉の奥から声が聞こえてくる
『あとちょっとだ、がんばれ』
その声である程度心が落ち着く、そして誰かの手が自分の手に重なる。誰が触れてきたのかと振り返ると須野昌が何食わぬ顔で「さっさと開けろや」と手を強制的に動かした。そして扉を開く、礁蔽は薫と兆波以外を全員扉の先に飛ばす。
一瞬で景色が変わった。その先は畑で野菜を育てているザ田舎といった家の前に繋がっていた。
フェリアはまだ止まらず家を通り越し先にある崖へと向かう、そして崖っぷちにある男が座っている。男は振り向きながら口を開く
「ようこそ、僕の国[アルデンテ王国]へ。歓迎するよ。初めまして、そして久しぶり」
男の先には壮大な景色が映し出されている。色とりどりの花が揺らめく草原や栄えている町、海や川ましてや城まである。ここはまるで異世界のようだ、そんな世界を護り保護し続けている男エンマの姿は若き子達の瞳には神のようにも映るであろう
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第五章「黄泉の王国」
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第七十五話「黄泉の国」




