第七十二話
御伽学園戦闘病
第七十二話「流れ込んでくる記憶、そして拒絶」
[流視点]
流は逃げる咲に無我夢中で着いていく。そして雨林地帯を抜けた時咲が足を止め停止する。流も連動するかのように立ち止まった、そして咲に声をかける。
「君は誰なんだ!どこかで見たことがある気がするんだが…」
「やっぱり記憶は消してしまったんですね」
流はこの少女が自分の記憶の事を知っているっぽかったので問い詰める。少女は質問には答えず流を見つめる、流は記憶の事をどうにかして引き出そうと様々な事を追求するが全て無視された。流は我慢ならず少女に掴みかかろうとする、するとようやく咲が口を開く。
「久しぶりですね。兄さん」
流は硬直する。今何と言われたか聞き返すが咲は変わらず兄さんと言う。その瞬間流の頭の中に忘れていた過去の記憶がなだれ込んでくる。その記憶はあまりに馬鹿馬鹿しい物だった、流が夢として見ていたある少年の記憶も自分だった事を知る。そして顔を掴んできたのは流の中で倒すべき存在の一人、そう[佐須魔]だったのだ。
両親の立ち姿、そして二年以上前の咲の姿も思い出す。咲は昔の面影はなく全くの別人と言えるほど見違えた。
そして何故自分の記憶がなくなっていたかも知る事になる。流は咲より一足先に島に保護された、そしてその時に現在香澄の狐に吸収されているレアリーに心を観られあまりに悲惨な状態だった事から理事長によって記憶を消されたのだ。記憶を消される時に理事長の能力は記憶操作だと伝えられる、そして触れると能力を無効化する[葉月 半田]に触れられ暴発を抑え込まれながら記憶を消されたのだ。ただ何故地下牢に閉じ込められていたのかだけは判明しなかった。
その場には薫もいたし兆波もいた、だから初めて会った時には二人ともあんな馴れ馴れしかったのだろう。そして半田と遭遇した時に頭痛がしたのは本来消したはずの記憶が蘇りそうになった事で起こった霊力のバグだろう。
だが流はそんな事気にしなかった、何故なら信じたくもない事がこの記憶の中に存在していたからだ
今はひとまず咲に話しかける
「咲…?」
「やっと思い出しましたか」
「お前は…ずっと…」
「私は貴方と違い記憶を消しませんでした。業を背負わなければいけない、なにより貴方に伝えなくてはいけない。ですが驚きましたよ、記憶を消してから行方不明になっていた貴方が急にエスケープチームに加入して生徒会を跳ね除けてましてやあの人まで…いえもういいですね。私は貴方のためにここまで業を背負って来た、だけど貴方は私なんてすっぽかしてご友人と遊んでいらっしゃった。正直な事を申し上げると私はもう、あなたの事がどうでもいいです」
その言葉に流は今までやって来た事に大きな後悔を抱いた。そしてここに来て素戔嗚と初めて会った時の言葉が脳裏に過ぎる
「それがお前の決断なら誰も文句は言わまい、ただ後悔はするなよ。これから必ず苦しい事があるだろう、だがどんな時でも後悔はするな。その後悔さえも楽しさに変えてしまえば全てが上手くいくさ」
素戔嗚はこうなる事も予測してこんなセリフを吐いたのだろう。流は咲に見捨てられた哀しさと素戔嗚への怒りと佐須魔への殺意が混ざり合い頭の中が真っ白になる。
そして自責の念からか次第に自分は悪くないのだという下劣な下等生物が思いそうな考えが出て来てしまう。そしてその他責の念は抑えきれなくなり咲に向けてその言葉を放つ
「だって…僕だって辛かったんだ!僕だってお前が来るのを待っていたかった!だけど…だけど!辛かった…しょうがないじゃないか!僕は悪くないんだ、だってそもそも僕はお前を先に逃したせいでこんな事になったわけだし…だから辛くて…待てなかったんだ…記憶を消してしまえば楽になれるって…」
咲は我慢が出来なくなりながったらしく情けない論を連ねる流を一喝する
「私は貴方のためを思って記憶を消さなかった!私も記憶を消してしまったらふとした時に記憶を取り戻した時に理解してくれる人が一人もいない、そんな状況に貴方を起きたくなかったから記憶を消さなかった!なのに貴方は僕は悪くない、しょうがないって私は貴方のために優しさで記憶を消さなかったんです!なのに…ふざけているようにしか思えません。記憶が溢れ出し混乱するのは分かりますがそんな状態では人の本性が出る、そんな根の腐っている貴方なんかと血が繋がっていると考えるだけでも悍ましい!」
その言葉で完全に拒否された事を理解した。流は数え切れないほどの感情が入り乱れ混乱し正常な判断が出来なくなっている、流は戦闘の為ではなくそれとは何か違う動機で咲を殺そうと殴りかかる。咲は驚き避けようとするが流は鍛えられた事もあり速い、避ける事が出来ずもろに拳を喰らいそうになったその瞬間ある人物が流の拳を片手で受け止める。そして流に話しかける、その声は聞き覚えがありすぐに誰だか分かった
「なにしようとしてるんですか、流くん」
原 信次だ。何故ここにいるのかはさておき流は離せと叫ぶ。原は落ち着けとなだめるが流は一向に落ち着く様子はなく抵抗を続ける。
そんな流に原は一言かける
「妹が生きてたんですからいいにしょうましょうよ」
流は「お前に何が分かるんだ」と大口を叩く。原はため息を吐いてからゆっくりと流に言い聞かせる。
「僕も妹がいました。だけど佐須魔さん曰くもう死んでしまったらしいです、だけど僕は探し続ける。絶対に何処かにいると信じているからです。でもあんたは妹と会えたじゃないですか?話せたじゃないですか?だったら十分じゃないですか?そりゃ二年間も離れてたら心も離れちゃいますよ。でも自分の妹が無事にお友達と楽しく日々を過ごせているって知れたならいいじゃないですか」
「うるさい!お前の妹は死んだんだろ!?じゃあ今の状況とは違う!知ったような口を…」
流は吹っ飛ぶ。そして原は黙って霊力のオーラを纏う、流は殴られたおかげかある程度落ち着きいつもの流に戻った。そして原に謝罪を入れる、原も気をつけろよと言い許す。
すると急にあの女が現れ原の首元を掴んでどこかに消えた。そしてそこにいるのは流と咲だけになった。咲はゴミを見るような目で流を見る。
流は咲を捨てる事など出来ず妹を傷つける事はしたくないがやるしかないのだ。ドームはないのかと聞くと咲は少し先の方に指を差す。そこには確かにドームがある、流と咲は黙ってドームに入った。
そして向き合い、完全に心の整理をつけてから流が戦闘体勢になると咲が呟きその声と共に最終戦、第九戦櫻 流VS櫻 咲の勝負が始まった。
「ドーム展開」
第七十二話「流れ込んでくる記憶、そして拒絶」




