第七話
御伽学園戦闘病
第七話「神話霊」
流は木々の隙間から差し込んで来た陽の光を体に受け目を覚ます。既に起きていた素戔嗚とラックに挨拶をして伸びをする。蒿里とニアはまだ寝ているようだ、みんな朝早いのに珍しいなと思いながら軽い雑談をしていると、ニアが目を覚ます。
「おはようございま〜す」
ニアはまだ眠そうだ。素戔嗚が「もういいのか?」と聞く、話を聞くとニアは素戔嗚が起きてから寝たので一時間ほどしか眠れていないのだ。ニアは大丈夫ですと断ってから立ち上がる。今日は食材がないので朝ごはんは無い。
蒿里が起きるまで生徒会の話をする事になった。
「生徒会ってどうやって僕らの事を見つけてるの?」
「十中八九莉子か菊だ。あいつらはそれぞれ探索が出来る能力だ、まぁそれ以外にも普通に歩き回って探索もしてると思うがな」
「中等部も力を貸しているとするなら真浪あたりもかしているかもしれん」
「真浪ちゃんは協力しないと思いますよ」
同年代のニアが否定した事を疑問に思いラックが何故か聞き返すとニアは「あの子生徒会嫌いなので」と即答しラックと素戔嗚は何とも言えない顔をした。
そのうち蒿里が目を覚ます。そして目を覚ましてから監視されてる可能性が高いので早めに移動しようと元気いっぱいに言ってきた。待たされていたのにそんな態度を取られたラックは少しウザそうにしながらも行こうと立ち上がる。
ふと蒿里がスマホを取り出しマップアプリを開いてラックに見せる、現在地は島の中央だ。
「今ここだけどあと何日ぐらいかかりそう?」
「生徒会の妨害や休憩含めて三週間ぐらいはかかりそうだな」
蒿里は驚きと嫌気とショックが混ざった顔を浮かべる。ラックはこんな所で止まっていては時間を食うだけだ、と早速歩き出した。流たちも荷物を持ちラックの後ろに着いて歩き始めた。
三十分程経った所で雑談が始まる。
「ラックって二十歳だよね?タバコとか出来るの?」
「出来る。やらないが」
「何でやらないの?」
「菊みたいにはなりたくない。」
「あぁ…」
「でもあいつ頭いいし強いぞ」
「それはそうなんだがな…そういえば流のスズメ今は強く無いだろう?だけど霊を取り込むとどんどん強くなれるぞ」
「霊を取り込む?」
ラックは説明する。バックラーと降霊術の持ち霊は人の魂や他の霊を喰えて食べた霊が強ければ強いほどその持ち霊も強くなる、だから食いまくると強くなれるらしい。
流は新しい情報を得た、霊を食べればどんどん強くなれるのだ。見つけたらちょくちょく食べてみようと頭の片隅に置く事にした。
歩き始めて二時間は経っただろうか、緑が消えそこらじゅう家だらけになってきた。すると唐突に素戔嗚が刀に手をかける
「気を付けろ、何かいる」
ラックはメガネを外し、周囲を見る、そして数秒してメガネをかけなおした。そして二人いると言い戦闘体制に入る。素戔嗚は「ポチは今出せず上級を出せるのは十分程度」だと伝える。
ニアと蒿里、流は固まって少し後方で構える。ラックの「来た!」と言う声と共に正面から真っ赤な炎を纏った鳥が突っ込んできた。それを見た素戔嗚が急いで狐の面を取り出し装着しながら唱える
『降霊術・面・狐』
すると素戔嗚の肩にトノサマガエルぐらいの大きさの狐が現れた。狐は素戔嗚の方に乗ったまま何もしなかった、鳥が手で触れられる程近くまで来た瞬間に素戔嗚は唱える
『妖術・反射』
すると狐は前方に小さい盾のようなものを召喚し鳥が突進して来るのを防いだ。それと同時に鳥が雄叫びを上げる。「朱雀」だとラックが言う。それを聞いた素戔嗚は流にスズメを召喚しろと指示を出した、流は従って面を着け
『降霊術・面・鳥』
と唱える。スズメは元気よく飛び出してきた。流は注意してねと言い聞かせ不意打ちが来ないか警戒していた。
そんな時ラックは何か違和感を覚える。何故二人いるはずなのに朱雀でしか攻撃してこないのだろうか、ラックはまさか後ろにいる三人の方を攻撃したのではと思い流に蒿里とニアは大丈夫かと聞く、流は嫌な予感がして振り返ると二人は倒れている。血は出ていないが完全に意識を失っている。
そのままの事を伝えた流にラックは
「お前は俺らのことを気にせず、もう一体を警戒しろ!」
と指示を出した。流は了承し単独で降霊術士ではない方の能力者を倒すことになった。
[ラック&素戔嗚視点]
「朱雀がいるなら使い手の[灼]がいるはずだ。朱雀は体力が高いから[灼]本体を探し出して倒すしかねえ」
ラックは蹴りで、素戔嗚は刀で朱雀を攻撃している。そして朱雀の攻撃が来ると狐の盾で跳ね返し地道に体力を削っている。
朱雀は行動パターンを変え羽根を丸めた。ラックはすぐに素戔嗚の背後に回る、次の瞬間朱雀は身体全体から灼熱の炎をラックたちに向けて放った。素戔嗚は対抗して
『妖術・反射』
を指示する。狐は盾を出し朱雀の攻撃をギリギリのところで跳ね返した、だが朱雀に炎は効かないらしくピンピンとしている。そうして不毛な争いを続けている内にラックがある事に気づいた。
それは朱雀で二人の気を引きその内に流と蒿里、ニアを始末してしまおうと言う作戦なのではないかと、それを口に出すと素戔嗚もそれだと思うと、流の方に行くか?と問いかける。だがラックが今はこいつに集中しようと言うので素戔嗚は流の事は置いておき目の前の朱雀の事に集中する事にした。
[流視点]
ニアと蒿里の意識がない、そしてもう一人はおそらく自分を狙っている。どうしようか…二人は朱雀と交戦している。どうにかもう一人を探し出せないかと周囲を見渡すと来た道、林の方に人型の霊が佇んでいた。
スズメが威嚇している、こいつがもう一人の持ち霊なのだろう。霊と戦っても勝てる気がしない、どうすればいいか後ろで戦っているラックの聞いてみる。
ラックは攻撃の手を止めずに答えてくれた。
「人型ならバックラーの可能性が高い!バックラーなら霊を攻撃すれば本体にもダメージが行くからひたすら霊に攻撃しまくれ!」
そう言われたのでスズメにあいつを突けと支持を出した。だがスズメは動かない、何故行かないのかと聞くと何か言っている。何を言っているかは理解できる、どうやら『妖術・神速』を唱えろと言っている。何が起こるかは分からないがとりあえず何も分からないので言われた通りにしてみようと唱えた
『妖術・神速』
その瞬間スズメは棒立ちしていた霊に向かって高速で突っ込む。だが霊は避けるどころか棒立ちのまま動かなかった。スズメは霊の顔を突き始める、だが霊はびくともしない。スズメも一生懸命突いているが一切ダメージが入っていない様子だ。
どうにかダメージが入らないかと考えていた時頭部にもの凄い衝撃が加わった。
「は!?何もしてないのに…バックラーの霊の能力か!」
そうは言っても攻撃を止める理由にはならない、少しの痛みなど耐えてスズメに霊を攻撃させ続けた。
体の節々が痛みそろそろ限界かと思った頃ラックがこちらに来てくれた。どうやら朱雀は素戔嗚一人で相手にするらしくこっちを先に片付けるらしい。
だがラックが霊を見た瞬間
「…まじかよ」
と言って下唇を噛み少し笑う。どうしたのと聞くとスズメをしまえ、そして痛みに耐えろと言われた。
どう言うことか分からなかったがラックが言うなら間違い無いとスズメを戻す。それと同時に素戔嗚がこちらを心配する声が聞こえる、だがラックは絶対にこちらを向くなと言った。
「何故だ」
「[康太]だ」
それ聞いた素戔嗚は納得したらしく早めに片付けると言って戦闘を続けた。
流が何故未だに痛みがあるのかを聞く、ラック曰く持ち主は[麻布 康太]と言うらしく予想通りバックラーらしい、霊の能力は『霊から目が離せなくなる』。どおりで後ろを向こうと思わなかった訳だ、そして目が離せないと言うのを利用して霊を囮に後方から本体で殴ったりしているのだろうと言った所で後ろから声が聞こえる。
「お前らはもう終わりだ」
「そうか」
ラックは動じず適当な返答をする、それに怒ったのか康太は煽り口調で
「お前らの考えは全て無駄になったなぁ?」
ラックは呆れたように「これじゃ終わらねえよ」と言い放つ、康太はどう言うことだ困惑し攻撃の手を止めた。ラックは自分の能力が何か聞く、康太は速攻で『血流透視』だと言う。それを聞いたラックは笑いながら
「俺は複数持ちだ。その中にはすごく便利な能力がある、でもそれは霊力の消費が滅茶苦茶激しくてな。一分使うだけでも八割持ってかれるからあまり使いたくないんだ…」
「その能力って…」
「能力を無効化する能力だ」
その瞬間ラックは振り返り回し蹴りをくらわせた。康太は霊がいる方向に吹っ飛ぶ、吹っ飛ばされた康太は鼻血を出してうずくまる、ラックはゆっくりと康太に近付いて行った。
「クソ!折角お前に勝てると思ったのに!」
そう叫んだ康太にラックは「は?」と言って固まった。何故なら生徒会の目的はラック討伐ではなくエスケープチームの捕獲だ。
康太は小さい子供のように涙を浮かべ大声を出して
「イケメンで!頭良くて!身体能力化け物で!能力が強い!俺はお前に勝てない!」
それを聞いたラックはため息を吐いて冷たい目で康太を見ながら言う
「お前には俺がどんな経験をしてきたか分からないだろ」
足を振り上げ康太の頭に思いきりかかと落としをした。康太は瞬く間もなく気絶し霊も消滅した、ラックは流に蒿里とニアを守っているよう命じて素戔嗚の方に走って行った。
それとほぼ同時に蒿里とニアが目を覚ます、傷に気が付いた蒿里が回復術をかけてくれた。あっという間に傷は治った。
[ラック&素戔嗚視点]
「戻ってきたぞ!」
素戔嗚は一人で戦っていたせいで少し疲労している、ラックは早く決着をつけようと朱雀に突撃した。朱雀は再び丸くなり炎を放った。ラックは足に力を入れ跳び上がった。そしてそのまま朱雀の顔面を殴りつける、朱雀は衝撃によってフラフラとしている
「今だ!」
ラックがそう言った時には素戔嗚はもう唱え終わっていた。
『妖術・水刄』
すると狐の口から刀のような形状の水の固まりが発射された、その刄は朱雀の腹部を貫いた。
朱雀は奇声を上げながら灼の元へと還って行く。ラック達は還って行った方向に走った、少し先の道の角を曲がるとそこには疲労しきっている赤髪の少年[拓蓮 灼]がいた。ラックは瞬時に手刀を叩き込み気絶させる。
完全の意識がない事を確認してから流達の所へ戻った、そしてラックは蒿里に回復をしてもらう。
回復中素戔嗚が神妙な面持ちでラックに話しかける
「こんな調子でやっていたら負けるぞ」
「少し考えなくちゃな…」
ラックが考えているその最中流が気になっていた事を質問する。
「気になってたんだけど朱雀ってあの朱雀?」
「説明しよう。まず流、方角の神の四方神は知っているか?」
「うん」
「なら話は早い。あいつは四方神の一角の神話霊、紛れもない[朱雀]だ。
ちなみに四方神にはそれぞれ役割がある。朱雀が持続型、体力が高い。青龍が妖術型、霊力が高く妖術が非常に強い。白虎は凄く移動が速い、目で追えないレベルだ。そして玄武、反射型だ、妖術でも人術でも跳ね返せる」
霊の中にも色々な種類があるのだと初めて知った。
皆で話し合った結果今日は軽く休憩を取ってから再び海へと向かう事になった。二十分の休憩を行いラックが行くぞと立ち上がり歩き出したので流たちもそれについて行く形で歩き出す、ただ素戔嗚が着いてきていない。流が後ろを向くと康太に何かをやっている。
「おーい素戔嗚」
「あぁ今行く」
素戔嗚はすぐに立ち上がり小走りでこっちに来た。流は何をしているのかを聞いたが秘密だと言われ気になって仕方がなく何度も聞いたが素戔嗚は絶対に答えなかった。全く答える様子がないので流も気にしない事にして他の話を始めた。
そうして五人は再び海へと向かった
拓蓮 灼
能力/降霊術
神話霊[朱雀]を召喚し戦わせる
強さ/降霊術士,バックラー含め最強格、だが馬鹿なため中堅ぐらい
第七話「神話霊」
2023 4/13 改変
2023 5/23 台詞名前消去