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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第四章「別世界へと」
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第六十七話

2024 4/22 改変

2024 4/22 台詞名前消去

御伽学園戦闘病

第六十七話「栄養分」


[ラック視点]


ファルとの戦闘に勝利したラックは火山地帯を抜け雨林地帯へ向かっていた。その時ふとした考えが浮かぶ、この島で戦闘する場合各所の立地によって得意不得意が出るだろう。草原地帯は全員普通、住宅街は礁蔽、雪原地帯は雪に足を取られても戦うことの出来る流や紫苑、火山地帯は低所の不利を取っても反撃のできる蒿里と紫苑、砂漠地帯は砂に巻かれても圧倒的な連携で場を掌握することのできる紫苑、雨林地帯は小さな体で隠密行動ができる流など様々な考え方が出来る。

そんな中高山地帯は山の(いただき)や山中で戦うことになるだろう。そうなると万が一山から崩れ落ちた際、身体能力で落下に抗えるのは自分だけ。そしてリアトリスなどで受け身を取れる紫苑も戦えるだろう。だが岩島の方で紫苑の霊力がした、となると自分が率先して高山地帯に行くのがベストだろうと考える。

ラックはすぐに方向転換を行い、高山地帯へと足を進める。まだ山を降りている途中だったのもあり、難なく高山地帯のすぐそこまで向かう事が出来た。

高山の麓から見上げ、再度その高さに呆然とする。最初からここの頂点に飛ばされていたらどんな人間でも高山病待ったなしだろう。


「やっぱすげぇな・・・とりあえずまぁ登るしかないか」


異次元の高さを目の当たりにすると登るのが少しだけ嫌になって来るが、名案を思いついた。それは身体強化をフルで発動して速攻で山を駆け上がるといったごく単純な事だ、普通に上がるよりも体力の消費が数倍も違うだろう。しかもフルで発動すればこんな山ちょちょいと登れてしまうので霊力の消費も大した問題ではない。

これで行くと決めたラックはすぐさま能力をフルパワーで発動する、みなぎる力を全て足に集中させ山を駆け上がった。障害物なども全て避け標高9000m、いや10000mはあるやもしれぬ山を三十秒前後で登り切った。ラックは自分でもこのスピードに驚き、今日は調子がいいかもしれないと少し強気になっていた。

山を登り切ったは良いが、少し休憩を取りたい。ひとまずはその場に座り、一息ついている時だった。前方からラックを呼ぶ声がする。誰が来ているのか分からないので、慎重にそちらを見ているとそこには派手なピンクと黒のゴスロリにツインテールの髪、いわゆる地雷系という格好をしている少女がラックを呼んでいたのだ。


「誰だっけ、お前」


「初めまして。私は[四葉(ヨツバ) |桑クワ)]。中等部二年生です・・・そんなことよりお前紫苑先輩と仲いいけどどういう関係なの」


四葉は会って早々ハサミを突きつけながらラックに質問をする。あまりの急展開に一瞬戸惑うがすぐに「ただのメンバー、友達」と返答した。すると四葉はほっと胸を撫で下ろし、ハサミをカバンにしまった。

何故ハサミで脅してまでそんな事を聞きたかったのかと訊ねると四葉は少し俯いて小さな声でボソボソと呟き出した、だが何と言っているか分からないので聞き返すと普通の声で言い直す。


「ちょっと好き・・・だから」


ラックに電流が走る、即座に「あんな奴やめておけ」と警告するが四葉は提示する問題点さえもカワイイ、カッコイイと言って聞かない。挙句の果てにはハサミをラックに突きつけ「それ以上悪口を言わないで」とキレてくる始末だ、もう呆れ放っておくことにした。

そんな事はさておき、ラックはドームを見なかったか訊ねる。四葉は思い出したように本題に移る。


「私ドーム見つけたの!だけど戦闘する人が見当たらなくて退屈してたの」


「そうか・・・じゃあ俺とやるか?」


今日は調子が良いので負ける気がしないラックは強気に勝負を持ちかける、四葉は瞬時に頷き、ドームへ案内すると歩き始めた。ラックは着いて行く形で元来た方向とは真逆の方へと降って行く。

その最中四葉は正面の山の頂点にあったと説明し、また山を登らなくてはいけないのかとガッカリした。だが桑はガッカリしているラックに「あれ見て」と言い、少し前方を指差した。

何かあるのだろうかとその地点を見るとそこには山の景観と明らかにミスマッチなリフトがある、ラックは自分が登ったのは無駄だったのか、それでは霊力が消費されただけではないかと信じたくない心半分であれが何かと聞く。


「リフトだよ?」


ラックは嘆き項垂れる、そして自分が登った山にはリフトがなかったという一抹の希望に賭けその事も聞いて見る。


「あったよ?」


意気消沈。身体強化は力が増す分、霊力も消費するし何より疲労が溜まるのだ。戦闘直前だというのに疲労を蓄積してしまっては、単純に戦闘が不利になる。

四葉はそんなラックを見て少し励ましてからリフトに乗り込んだ。ラックは気を入れ直し、リフトに乗り込んだ。二人が乗り込むと自動で動き出す。数十秒気まずい時間が流れたが、しっかりと山頂へと到着し二人は地面に足を着けた。


「そんで・・・ここがドームだな」


「そうだね」


「どれぐらいの大きさか知ってるか?」


「知らないけど・・・なんで?」


「この範囲が山の麓までとかだったら大分面倒くさい戦いになりそうだな、と思ったからだ」


「まぁやらないと分からないよ。私は準備万端だけど・・・」


「俺もだ」


互いが少し距離を取って向かい合う、そして自動でドームが展開された瞬間ラック・ツルユ VS 四葉 桑による第六戦の第一打が放たれる。

ラックが一瞬にして距離を詰め四葉の胴体を蹴った。体格差も激しい上に身体強化をかけているラックの蹴りを喰らった四葉は当然吹っ飛び、転がる。だが華麗な身のこなしで受け身を取った事により山から完全に転がり落ちる事はなかった。そして四葉はどこまでドームが展開されているか報告する。


「山の麓まで展開されてる」


「そうか分かった、ありがとう」


そう言いながら再び距離を詰め今度は跳び膝蹴りをかます。四葉は避けようとしたが、完璧に避け切ることが出来ず脇腹に少しダメージを負った。だが動く事など容易い、反撃でラックの心臓部にハサミを突き刺そうと突撃してくる。ラックは避けなかった、いや避けられなかった。

ラックの左胸にはハサミが突き刺さる。何故ラックは動けなかったのか、単純明快四葉が速すぎたのだ。身体強化をかけ動体視力も上がっているはずのラックでさえも目で捉えられない程のスピード、そして確実に正確に心臓部へとハサミを刺してくるこの技術。もしや自分は今思っていた以上に強い能力者と戦っているのかもしれないと思ってしまった。

だがラックは絶好調、守りに徹するなど言語道断、ガンガン攻めていく。四葉はその攻撃を約半分かわし残りの半分は体で受けて、反撃をするといった戦術を取っている。

だがそんな戦術を取れば先に消耗し切ってしまうのはどう考えても四葉の方だ。だがまだピンピンしているし、それどころか息切れすらもしていない。


「中等部に強いのがいるとは聞いていた・・・・・・能力と霊の相性がいい宗太郎。TISと戦わせても充分通じる技量を持つ美琴。そして圧倒的なチート能力で戦う真浪。この三人かと思っていたが・・・お前もそいつらと同じレベルなのか・・・」


「まだいるよ。可哀想な運命の女の子がね」


「可哀想な・・・運命?・・・・・・あぁ、そう言う事か」


「というかそんな放置してたら傷が深くなって死んじゃうよ」


「なにバカなこと言ってんだ?心臓に刺さってんだ、抜こうが抜かまいが大して変わらねぇよ」


ニカっと笑ったラックは四葉に攻撃を仕掛ける、会話中に攻撃するセコいやり方だ。だがこうでもしないと大きなダメージを与えられない、絶好調なラックでさえもそう感じるほどこの少女はタフなのだ。

そうして不意打ちは見事にヒットした、したのだが何故か四葉は動かない。今までなら反撃はするか少し揺らめく程度には動いていたのに、今回は全く動かない。何かおかしいと感じたラックはすぐに後退した。


「案外弱いんですね」


その言葉に当てられ動きが固まってしまう。そしてある事に気付き、振り向こうとしたその瞬間頭に大きな衝撃が発生し、ゆらめいて倒れ込んだ。

何にやられたのか、リフトだ。標高9000m以上はある山の頂まで数十秒で行けるリフトは相当な速度が出ているはずだ。そんなリフトと後頭部が勢い良くぶつかり脳震盪を起こしたのだ。

気絶してしまいそうになった所で痛みによって正気を取り戻す。心臓に刺さっていたハサミが倒れ込んだことにより更に奥深くまで刺さったようだ。

首の皮一枚繋がったラックはメガネの位置を整え、半分以上開けないまぶたを無理やりこじ開けて笑う、笑う、ひたすら笑う、そして狂人のように笑いながら四葉に特攻を始めた。

四葉は冷静に対処しようと身構えたが既に遅かった、ラックに殴られ一瞬にして空中へ押し出される。転がり落ちるのだけは避けようと対処を試みた矢先ラックが追撃を入れるため跳んだ。こう自由に動くことの出来ない空中では攻撃を完璧にかわす手など無い。


「死んどけ!!」


そう叫びながら殴りかかるラックの左腕を掴んだ。そしてすぐに引き寄せ、ラックを下にして落下を始めた。ラックも自分がクッションの代わりにされていると気付き、体勢を変えようとするがガッチリと掴まれた左腕のせいで逆転できない。残り10mも無い、そんな所でラックは思う


別にいいじゃないか、落下の衝撃を喰らっても。その直後にこいつを殺せば。


今のラックには冷静さが欠けている。誰がどう考えようが愚策、万が一この落下の衝撃で気を失ったらそこまでだ。だがラックには自信があった、絶対に倒れない自信が。

その自信はどこから湧いてくるものか、“高揚”だ。人は気が浮けば何でも出来てしまうと思い込む、その思いは事実に変わる事だってある。

そんな内に残り1mまで来た、四葉は勝ったと確信して少し力を緩めた。その直後ラックは大きな衝撃と共に着地を果たす。四葉は勝っただろうと思い、気を抜くがラックはそんな四葉の首を絞めた。


「俺の勝ちだ!」


「はは・・・・・・それは・・・どう・・・かな」


首を絞められ、苦しそうにしながらも少しでも不安になるような言葉をラックに向けて投げかける。だがラックは今更気にする事では無いと耳から耳へ流した。そして数十秒絞め続け、四葉が息を止める。ラックは手を放した。

その数秒後四葉が立ち上がる、ラックは困惑した。完全に息の根を止めた四葉が生き返ったのだ、だが能力だろうと考えすぐに攻撃を仕掛ける。

悪手だった、急激に身体能力が上がり、ラックの攻撃を完全に捉えて避けて、逆に攻撃を仕掛けてきた。ラックはかわせず吹っ飛ぶ、山から落ちるギリギリの場所で堪えて反撃を切り出す。だが四葉はまた凄まじい反射神経でかわし、ラックを蹴飛ばした。その蹴りは信じられない程の威力で肋骨が何本か逝かれてしまう程の威力だ。


「なんなんだ・・・その力は」


「私の能力は『死ねば死ぬ程強くなる』能力。これと真浪ちゃんが作ってくれた心臓に付けられている仕様『体力保存』、これは上限まで体力が溜まっていて更に体力の回復が起こった時に、普通はそれ以上回復せず無駄になっちゃうけどこの体力保存があれば溢れた分の体力がそこに無限に貯蓄されていく。

そして死んだり怪我をした場合はそこからドンドン差し引かれて回復していく。今私はあと七十回は死ねる、そして私自身の能力と掛け合わせればあんたなんか簡単に倒せるってわけ」


ラックは確信する、勝てない。だがまだどうにかなるかもしれない、身体強化フルパワーで殴れば死ぬかもしれない。そう信じ込んで雄叫びを上げながら殴りかかる、そんなラックに冷たい目線を送りながら「もう終わり」と言って反撃の拳をみぞおちにぶち込んだ。

リフトとの接触による脳震盪、度重なる攻撃、そして落下の衝撃が蓄積していたラックはその程度の攻撃でさえも限界に達する事は何らおかしい事では無かった。

ラックは目を閉じ、血を流しながら倒れる。敗北した。数秒後ラックは消滅し女の声が聞こえる。


『いやー強いねその能力、それにその肺の仕様。ほぼチートじゃん』


「ありがと。それでヒントは?」


『ヒントは[ら]だよ。残るヒントは二つ!頑張ってヒントを突き止めるんだよ!それじゃばいばーい』


ドームが消える。四葉はまだ強化が続いている内に、他の相手を見つけるためルンルンでスキップをしながら山を下っていった。

そんな彼女の実力は想像を遥かに超えているものだ。だがそんな彼女にも勝てる能力者はいる。そして彼女はその人物と戦う為、ひとまず雪原地帯へと向かうことにした。



第六十七話「栄養分」

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