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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第四章「別世界へと」
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第六十一話

2023 11/24 改変

2023 11/24 台詞名前消去

御伽学園戦闘病

第六十一話「八つ当たり」


先手を取ったのは当然宗太郎だった。鷹に突っ込むよう指示を出す。そして鷹は物凄い勢いで飛行し、礁蔽のデコに爪を食い込ませる。

礁蔽は血を流しながらも逃げ回る。ドーム内には建築物が四軒程度しか無い。そのくせ鍵穴はないので現在の状況は降霊術士に立ち向かう無能力者といった所だ、誰が見ても勝ち目など無いだろう。だから礁蔽は逃げに徹する。ただ無策で逃げ回っているわけでは無くしっかりと作戦があるのだ。


「逃げても無駄ですよ!」


宗太郎は追い風になるよう、強い風を発生させた。鷹は後方から吹き荒れる風に乗って、目にも止まらぬスピードで礁蔽に攻撃を仕掛ける。礁蔽は体に宿るわずかな霊力を使って、後方にいる鷹の位置を特定して攻撃を避けた。最近様々な戦闘のおかげで霊は見えるようになってきたが多少集中しなければ見えないのだ。

だが宗太郎は止まらず攻撃の指示を出す、鷹も完璧に風に乗り攻撃を行う。ただ礁蔽は脅威の回避力で全てかわしていく。


「ほいっ!」


そう声を出しながら一本の太い街路樹の陰に隠れてやり過ごそうとする。だが鷹はもの凄いパワーで木を切り裂き、礁蔽を引きずり出した。礁蔽は想定以上のパワーに驚きながらも近くにある違う木に隠れる。鷹はそれを破壊して礁蔽は再び隠れる、そんな押し問答が続き、遂には隠れる木がなくなってしまった。

現在礁蔽の真横には家がある、先程までは遠くにあり到達は不可能だろうと考えていた家の真横にいるのだ。しかも家は四軒続いている、今家に入られると厄介な事になると判断し、宗太郎は攻撃の手を強めた。

極力避ける様立ち回るがどうしても当たってしまう。ただ怯みはせずドアを開けて家の中に飛び込んだ。宗太郎は「一手遅れた」と悪態を吐きながら追い風を止めた。


「[鷹拝(ヨウハイ)]もう殺してもいいからさっさと終わらせて来てくれ」


鷹拝は頷き礁蔽が入って行った家の二階の窓から特攻した。数秒後鷹拝(ヨウハイ)と礁蔽が格闘している音が聞こえてくる。どうやら鷹拝(ヨウハイ)の圧勝、かと思われたその時、傷だらけになった鷹拝が飛び出してきた。

何があったのか聞くと礁蔽は包丁を振り回して抵抗してきたらしい。宗太郎は唯一の相棒が傷つけられた事に酷く腹を立てる。

すると急に目の前が白い光で包まれた。目が押し潰れそうな光に抵抗しながら目を開けると、礁蔽が殴りかかって来ていた。瞬時に左側に回避を行い、近くにあった窓から飛び出す。

その場の勘で逃げたがそこは家の中だった。恐らく礁蔽の能力の対象指定で連れて来たのだろう。


「くそ!あたらんかった!」


「どういう事だ!?鍵穴はないはず…」


「いいやここにある家は見た目とは裏腹に内装だけはわいらが住んでる場所と同じや。だったら鍵の付いたクローゼットぐらいあるやろと思ってな!」


「うぅ…なら!行け鷹拝!」


宗太郎は再び風を発生させた。鷹拝は同じように風に乗って礁蔽がいる二階の窓から突撃する。二度も来ると思わず包丁を手放していたせいで礁蔽は抵抗出来ない、宗太郎は今のうちに家の中に飛び入り、階段を駆け上がる。その瞬間足を掬われ階段から転げ落ちや。見上げてみると礁蔽が笑いながら見下ろしている。


「一回にはタンスがあった!わいの鍵はどこでも移動できる、この家に入ってきた時点で宗太郎、お前は抵抗できん」


礁蔽は飛び降りながら蹴りをくらわせる、クリーンヒットした宗太郎はうずくまり鷹拝に助けを求める。すると鷹拝はすぐに駆け付け礁蔽を剥がそうと奮闘するが、礁蔽は変わらず宗太郎を蹴り続ける。

じきに苛立ってくる、何故こんな雑魚に負けているのか、戦闘向けの能力ではない奴に負けているのか、その苛立ちは力へと変わる。宗太郎は叫びながら立ち上がり殴り掛かった。

だが礁蔽は走った事によって乾燥した唇を少しだけ舐め「それを待ってた」と言わんばかりに俊敏な動きで攻撃をかわし、背後に回り込む。宗太郎も反応できたので振りり向こうとするがそれが悪手だ。鷹拝は急に消えた礁蔽に対応できずそのまま攻撃をしてしまった。宗太郎は背中がガラ空きだ、そして鷹拝は勢いがつきすぎて止まらない。その直後鋭いクチバシが宗太郎の胴体に刺さる。


「…え?」


「お前は霊を見なさすぎや、状況を把握しろ、全体を通して見ろ、大局を見据えるんや。わいは勝てんことぐらいよお分かっとる、やが少しでも傷つけといて流や蒿里達に託すんや。だからわいは文字通り死ぬ気で行くで」


「僕に説教を垂れるな!!お前みたいな戦うことも出来ない能力者は僕より下だ!!僕に楯突くことなんて…」


「ちょい黙れや。わいは戦いなんて思っとらん、そもそもわいはお前一人を殺す事が出来る能力や、倒すじゃなくて殺す、やけどな。

直接殺さなくとも外に送って迫害やらで死んでもらう事だって出来るんやで、少しは口を慎めや」


明らかに態度と雰囲気が変わる。今までどんな状況でも明るく、冗談めいた顔しかしなかった礁蔽がここまでキレている事に宗太郎と礁蔽自信も嫌な感じがしてしまう。

ただそんな嫌な感じを礁蔽に覚えている事さえ苛立ってくる。すぐに鷹拝に還ってくるよう命令した。鷹拝はただちに宗太郎の中へ還る。


「僕は霊がなくても戦える!お前なんかに…」


「お前の霊は淋しそうや。そんな目をしとった。だが前見た無霊子の躑躅の相棒の目とは違う。全てを諦めている目や「もう主人はこちらを見てはくれないのだろう、争いの道具としか見ていないのだろう」そう言ってる様に見えた。お前は…」


「黙れ!!!」


宗太郎は近くに落ちていた包丁を持ち礁蔽に刺そうとする。礁蔽は驚きはするが避けようとはしない、宗太郎は避けない事に動揺して刺す寸前で包丁をピタリを止めてしまった。


「やっぱりな。お前に人を殺す覚悟はない。わいとは違う、まだ無垢な心なんや。目の前で人が死んで、人を殺して、そういう経験をしてない。まだ甘々の赤ちゃんや」


そう言って少しだけ距離を取る。宗太郎は詰めようとするが体が動かない、何故かと思いテンパりながら礁蔽の方を見ようとしても上手く動かない。どうやら頭を掴まれているようだ。放せと怒るが礁蔽は無視して話し出す。


「わいはある事をすればガキは成長すると思うんや。それは敗北でも大切な人の喪失でもない、成長に必要なものは『諦めの植え付け』や。

ガキっちゅーのは単純なんや。やから「何もできない」「何もさせない」「何もやりたくない」、この三つを心の芯に植え付ける事でガキはオトナへと成長すると思うんや。

だからわいは今からお前に諦めてもらうっちゅーわけ。わいらエスケープにもTISの奴らにも勝つことなんて出来へんと諦めてもらう。

その為にわいは今ここで退場して蒿里やラック、流達にお前をボコボコにしてもらう。悪いな、最後まではやったらんで」


「は?あんなやつら!」


「あんまあいつらを舐めんほうがええ。お前が思っている以上に辛い思いをして暗い過去を乗り越えて、毎日欠かさず努力をしてる。勿論お前がしてないとは言わんが、あいつらはそこらの人間より圧倒的に特別な能力者達だ。せやから今のうちにボコボコにされて自分ではどうやっても到達できないランク帯やってこと自覚してくれや」


「なにを知った様な口!!」


「知ってるで。あいつらのこと全部わいは知ってる。わいが唯一できるリーダーぽい事は話を聞いてやることぐらいやからな。そしてわいは受け入れた、全て聞いて受け入れた。

…ほんまは素戔嗚がTISちゅーのも知っとったんや。せやけど受け入れたんやから知らんふりをせなあかんねん」


「もういい!話にならない!死ね!」


痺れを切らした宗太郎が包丁を突き刺そうとした瞬間、礁蔽が女に向かって「降参」と叫ぶ。すると一瞬にして礁蔽の姿は消えた、宗太郎は女にどこに行ったか聞くが女はクスクスと笑いながらヒントを与える。


『ヒントは[く]ね。じゃあばいばーい』


女の声は消えた。

すると宗太郎の中にはどこにぶつければ良いか分からない怒りに満たされた。そして次第に衝動を抑えられなくなり、大声を上げながら物に当たり出した。

すごい勢いで家の部品が壊れていく。そして一軒の家が完全に壊れたところで視界がシャットアウトして後方から見知っている女の子の声がした。


「もーどうしたのー」


「ごめん…落ち着いた。ありがとう(アズサ)


現れた女の子は[白石(シライシ) (アズサ)]。ピンクに近い髪をして長髪、後ろの方で結んでいて、セーラー服を着ている可愛い子だ。中等部は何かと精神が虚弱な子が多い、そんなヤバイ中等部員の中でもまとめ役的な立ち位置にいる頼りになる女の子だ。


「それでドームが建ってたみたいだけど勝ったの?」


「うん。ヒントは[く]らしい、じゃあ僕は行くから」


すぐ行ってしまおうとする宗太郎を引き止めた。「さっさと戦いたい」と言うが、梓がご飯を作ったと言うと同時にお腹がなる、空腹だったのも事実、ひとまず梓のご飯を食べる事にした。

そうして煽りと怒りが混じり合う第四戦はなんとも中途半端に幕を下ろした。だがこの礁蔽の言葉は近い未来宗太郎の生き様に大きな影響を与える事になるのだった。



第六十一話「八つ当たり」

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