第六十話
2023 11/24 改変
2023 11/24 台詞名前消去
御伽学園戦闘病
第六十話「自分のいし」
[礁蔽視点]
礁蔽は中央に位置する住宅街に転送された。
「よっしゃ!大当たりや!」
ガッツポーズをして大喜びする。なんせ礁蔽の能力とベストマッチなエリアだ。ここまで喜ぶのにも無理はないだろう。とりあえずここで戦闘を行いたいのでドームが無いか、どんな住宅があるのか等を調査する事にした。
すると異常な事は一目でわかる。ここにある家は全てコンクリートなどの現代建築では無く、木だけで作られたファンタジーな家なのだ。
礁蔽は少々驚きながらも移動用に適当な家の玄関に鍵を挿そうとする。だが鍵穴が無い、他の家を見ても鍵穴が見当たらない。
「…まじで言うとんのか…」
となると能力が使い物にならないと言う事になる。唸って残念がるが現状は変わらない、今は色々な家に入って物色するのが先だと思い立ち、家に侵入する。
もしかしたら誰かいるかもしれないと思っていたがその心配は不必要だった。家の中には誰もいない様子だ。
そして再び異常だと認識する。内装は現代の家と同じなのだ。外装と内装の違いに戸惑いながらも隅々まで物色する。ただ特に目ぼしい物は見つからない。
困り果てながら外に出ると丁度自分の上空に鷹が飛んでいるのが見えた。すぐに宗太郎の霊だと察した礁蔽は屈んで身を隠す。だが少しして遠方から走って近付いてくる音がする。そして礁蔽のすぐそこで立ち止まり、更に方向を変え近付いてくる。遂にすぐそこまで来て肩を叩かれた、礁蔽は悲鳴を上げながら振り返るとそこにはうずくまっている礁蔽を心配する宗太郎がいた。
「大丈夫…ですか?」
「え?あぁ…まぁ大丈夫やけど…」
「良かった!急に隠れるから何事かと…」
「いや…わいを殺さへんのか?」
「殺すわけないじゃないですか。そもそもドーム外で戦うなんて霊力の無駄ですよ」
「そ…そうか」
警戒しながらも立ち上がる、宗太郎は鷹が飛んでいった方向に歩いて行く。礁蔽はドームを探すのも兼ねて宗太郎に着いて行く事にした。
すると道中でこんな話題が上がる
「礁蔽先輩は兄弟とかいるんですか?」
「わいは一人っ子やなー、兄弟いる奴が羨ましいって前までは思っとったけど…ニアとルーズを見てるとやっぱいいかなって思うまうで。逆に宗太郎はいるんか?」
「僕は姉が一人いますよ。でも能力者じゃないので外で暮らしてるんです…でも能力者じゃなくて良かったですよ。結果一人にはなってしまいましたが迫害とかを受けないですからね」
「せやなぁ…迫害はよ無くならんかなぁ…」
宗太郎は足を止め、振り向いた。何のためかと思っていると礁蔽はいつもとの違いに驚く。
その顔はいつもの可愛らしい顔ではなく、非常に嫌悪に塗れ冷酷で単調な表情なのだ。その顔で礁蔽の向かって現実を突き付けた。
「迫害が無くなることは永遠にありえません。人は自分とは違う者を嫌い、蔑み、殺すんです。僕達はただ弱者というだけだ…いや弱者ではない、弱虫なのかもしれない。
だって僕らは一般人を殺し回る事なんて造作もない力を持っているはずだ。だがそれらをしない理由はただ一つ『理解してほしい』それだけなんです。
でも一般人様はそれを極端に嫌がります。それは僕たちが彼ら彼女らを殺すことが出来ると知っているからです。結局は力で捻じ伏せるしかこの世は変わらないんですよ…そう考えるとTISは正しいのかもしれませんね」
礁蔽は態度が変わった宗太郎を心配しながらもその言葉が心の奥底で響く。ただTISを肯定する事だけは許す事が出来ず、言及しようとしたが宗太郎は無言を貫き通した。礁蔽が諦めて他の話題を振ると宗太郎はいつも通りになりニコニコしている、あまりの急変ぶりに少し心配するも、これ以上追及して何になるのか、そう思い先程と同じように普通に会話をする事にした。
十分程度歩いていると頭上で高く飛んでいた鷹が急に高度を下げ、宗太郎が出した腕に止まった。少し話し合って最終的に鷹は宗太郎の中に還った。
何かあったのか訊ねると宗太郎は「ドームがあった」と答えた。他の者なら乗り気になるかもしれないが礁蔽は乗り気ではなかった、何故なら礁蔽と宗太郎が戦っても最初から勝者の予想が着いてしまうからだ。
「ドームか…わいは…行かなくてもいいかな」
「え?なんでですか?」
「わいが戦っても負けて足引っ張るだけやし…」
「なんでですか!戦いましょうよ」
「いやでも…」
「さ!行きましょう!」
宗太郎は礁蔽の腕を掴んで走り出す。勢いに抵抗できず、引きずられてどんどんドームとの距離が縮まってしまう。すると次第にドームらしき物が見え隠れしてきた、宗太郎はテンションとスピードを上げる。
そしてそのまま強引にドームの側まで来てしまった。礁蔽は逃走を試みるが宗太郎が腕をガッチリ掴んで放さない。。
そんな時急に宗太郎が腕を放した。礁蔽は急に離されたせいでこける。
「なんで急に放すんや…」
そう言いながら体を起こし、顔を上げる。すると宗太郎がドームの中に入って行く姿が映った。
そして宗太郎は礁蔽に一つ問いかける。
「先輩はリーダー気取りの役に立たない脇役なんですね?」
礁蔽はカチンと来て言い返そうとしたがよく考えてみると言われた通りだ。戦闘は出来ないくせに頭が切れる訳でもない、流の様に隠し玉があるわけでもない。言葉の通り「リーダー気取りの役に立たない脇役」そのまんまだ。
だがその時、礁蔽は一つの言葉を思い出す。それは島に来た際、まだ中等部だった薫に言われた事だった。
「お前は主役だ、胸を張って生きろ」
何年ぶりに思い出しただろうか、自分の能力の限界を知ってから自分は主役になる事が不可能だと確信していた。だが薫に言われたあの言葉だけは常に心の奥底で溜まって覆いかぶさり、活発な動きを妨げる自己嫌悪を押し除けようとしていた。
そんな事は分かっていた。だがその言葉を自らの手で封じ込めたんだ。
なんでだろう?なんでそんな事をしたんだろう?
至極簡単な事だ、『理解してほしい』。脇役として戦う事の出来ない、可哀想な能力者として理解して欲しかったのだ。それはあくまでも逃避行だった。
弱い能力を持って生まれてしまった運ゲーに負けた事に対する逃避でしかなかったのだ。
だがもういい
自分が主人公だ!戦えなくてもいい!使えない主人公でいい、弱い主人公でいい、頼り無い主人公でいい、だから自分のやり方を貫き通すんだ!
その心を、思い出した。
「…ひっさびさにこんな気持ちなったわ……わいは脇役やない!!ダメダメでボロボロのクソ雑魚主人公や!!」
笑いながらドームの中へと足を進めた、宗太郎も笑って手を引く。ネックレスの鍵を首から外し、左手に持ち、右手は前に突き出す。
礁蔽だけの、礁蔽しかできない構えだ。
「やろうや!」
「えぇ」
宗太郎は握手をしてから、距離を取って呟く。
「ドーム展開」
すると瞬く間にドームが展開され、戦闘準備が完了した。礁蔽は大きく息を吸ってから、吐く。そして宗太郎の方を向いた。宗太郎は鷹を召喚して獲物の方に視線を移した。
そうして礁蔽は心の奥底に沈んでいた大事な物を引き上げて、戦う決意を固めた。
宗太郎は礁蔽というカモを倒す事に目を向け、ゲスな部分を露呈させながら戦闘体勢に入る。
二人は笑っている、凄く異様な光景が映し出しながら菅凪 礁蔽VS風間 宗太郎が行う第四戦が幕を開けた。
第六十話「自分のいし」




