第五十九話
2023 11/24 改変
2023 11/24 台詞名前消去
御伽学園戦闘病
第五十九話「新たな目標/因縁」
ドームが展開されると同時に両者フルパワーで身体能力を発動する。ゆっくりと加速をつけながら走り出す、手で触れられる程近くに来た所でラックは殴ろうとした。するとファルは体を傾け、地面の手をつけて蹴りを行う。
ラックの攻撃は綺麗にかわされたが反対にファルの攻撃はラックの顎に直撃した。だが怯まず、足に力をいれて思い切り蹴る。勿論ガードなど出来ない体勢なので抵抗できず、吹っ飛んでドームの壁にぶち当たる。
だがファルは狼狽えず、すぐに体勢を整えて突っ込む、ラックは後ろに引くがどんどんと距離を詰められる。腹を括って前に出る事にした。
再び力と力がぶつかり合う場面が来る。ファルは再び殴って来ると予想してシンプルに殴りかかる。ラックはそれを読み、避けるようにして屈む。続けて足払いを行った。
宙を舞ったファルは転倒しそうになったが地に着く間も無く途轍もない力で蹴られ、天井にぶつかった。そのまま落下してくる、受け身を取る事が出来ず落ちると同時に鈍い音がする。よく見るとは口から血を吐いている。
「もう…あの時とは…違うの!」
そう呟き力強く立ち上がる、ラックはファルの動きを伺うようにして構えたまま静止している。ファルは数歩で殴れる距離にいるラックに向かって勢いよく走り出した。
ラックはガードをするがファルはラックの横を通り抜けUターンを行い、がら空きの背中に向かって渾身の蹴りを繰り出した。だが途中でその攻撃に気付き、前方に転がって回避を行う。
ファルは避けられたにも関わらずそこを攻撃した。
「どうした、目が潰れているのか?」
「右目は潰れた…左目は血が入ってまともに目を開けないの」
「そうか、チャンスという訳だな」
目が見えていないファルは音で判断しているのだろうと思い音を全く立てないよう器用に近付き、顔を蹴った。だが蹴る時の風切り音を聞き取ったのかガードをする体勢に移った。
だがほんの少し遅かったようで、間に合わず再び吹っ飛ぶ。壁にぶつかる寸前でドームの壁を蹴り、逆に反動をつけてラックの元へ向かう。
ラックは動かず、息すらもしないで硬直している。ラックが全く動かないせいで音が聞こえない、そのせいでどこにいるかが判断できず足を止めた。
そして立ち止まっているファルに一瞬で近づき、蹴りをくらわせる。ファルは押し出されたような声を出し、腹部を押さえながらうずくまる。
「悪いな、俺もお前と同じでやらなくてはいけないことを思い出した。何年も前に忘れたことを今思い出してしまった…その因縁を晴らすためには"あいつ"の所へ行かなくてはならなくなった」
「私との約束は…その因縁より安いものなの…?」
ラックはハッとして言葉を詰まらせる。ファルは言葉が返ってこない事に対して少し哀しくなりながらも続けて言葉を発した。
「私はね…怖かったんだよ?今まで縋ってきた『約束』が今果たされちゃったら、私は何を目指して生きていけばいいんだろうって…何を糧にして生きていけばいんだろうって…ずっと怖かったの…だけどラックにとってはその因縁の方が大切なんだね?」
「…いや…お前の方が大切だ。因縁の件はもうとっくに終わっている。ただ結末を聴きに行きたいだけなんだ」
「…私、新しい目標ができた。どんな手をつかってでラックを振り向かせる、絶対に!」
「そうか。出来るものならやってみろ」
するとファルはある物をねだった。
「ねぇラック。寒いからその学ラン貸してくれない?」
「別にいいぞ」
ラックは学ランを脱ぎ、投げてファルに被せた。するとファルは少し嬉しそうに学ランを掴んでから、力を振り絞って女に向かって叫ぶ。
「私の負け!もう終わり!」
すると上空からあの女の声が聞こえてくる。
『わかったよー。じゃあ転送するねー』
その一声と共にファルと学ランは姿を消した。ラックは次に女がなんと言うかを待っている。
『さてラック、君の勝ちだよ。ヒント教えるね[し]だよ、二度は言わないからね。じゃあ私は治してあげないといけないからまた会おうねー』
ドームは再び透明になり、改めて暑さに打ちひしがれる。ラックは一人で過去の因縁の事を頭から掘り出しながら、雨林地帯がある南東へと足を進めるのだった。
第五十九話「新たな目標/因縁」




