第五百六十五話
御伽学園戦闘病
第五百六十五話「終わり」
そう短くない時が流れた。
献身的な活動によって紀太は死亡した。兵助、桃季、理事長以外の死を代償として。
理事長は能力吸収を行った後から物凄く苦労してそれなりに権力を得て能力者が社会に参入出来るようにした。まだ受け入れられない部分もあるが安泰ではあるだろう。
「……今日か」
島はもう誰も住んでいない、だが皆の記憶には強く残っている。
少なくとも、ベッドの上の兵助の頭には強く。
扉が開かれる。
「…」
「桃季、どうしたの」
桃季は背も伸び、ボブぐらいに髪を切った。
「今日でしょ」
「……うん、今日が寿命だ」
短時間で突然変異体と化すためにエンマに頼んで寿命を縮めた。結果として騒動が終息を迎えた四年後、今日が寿命と決まっている。
病室のベッドの上の兵助は後悔などしていなかった。
「婆ちゃんも同じ事を思ってたんだと思う。だって婆ちゃんが佐須魔に殺されてなかったら僕はTISとあそこまで敵対していなかっただろうしね」
「…だからってさ…寿命削る必要無いじゃん…」
俯き、拳を握る。
「大丈夫だよ、黄泉の国で会おう」
「怖い…一人になっちゃう…」
「何を言ってるんだよ、友達もいるんだろ?まだ人生長いんだから、死んだ皆の分も楽しんでよ。そうじゃなきゃ僕、許せないよ」
笑いながら言う。
「うん。分かってる…分かってるけど…」
「見てるからさ、ずっと。ゆっくり、ゆっくりで良いから、僕らが感じられなかった幸せを感じてよ。僕が願える唯一の事だ」
「…うん」
声が震えている。
「…もうそろそろみたいだ。それじゃあ、一足先に」
そう言って目を閉じた。
息をしていないのが分かる。
桃季は何も言えなかったが何とかナースコールだけ押せた。それと同時に部屋に入って来る。
「間に合わなかった…ですか?」
「遅いよ伽耶…もう行っちゃった」
「そうですか…」
伽耶は兵助の前に立つ。
「透をありがとうございました。命に懸けても、守ります」
「…誰を?」
からかうように訊いてみる。
「あなたですよ、それより良いんですか?送ってあげなくても」
「そうだね。先に行ってて、辰」
干支辰が兵助の魂を守りながら昇って行く。それを見た二人は満足し、踵を返す。
「さぁ帰ろ!これ以上クヨクヨしても意味無いよ!」
「は~い。それより今日のお昼ご飯何にしますか~?」
「あんた無職なんだからそれぐらい作ってよ」
「無理です~」
大丈夫だ。強いから。
たった二人の能力者の内一人、桃季は生きていける。まだ女子高生だ、伽耶の力も借りながら、少しずつ頑張ろう。そう胸に決め、部屋を出た。
一方黄泉の国では六人と一匹が走っていた。
「ほんまこんな日に寝坊とかふざけとんのか蒿里!」
「ほんとにごめん!全然寝付けなくて…」
「ガーベラ、俺とニアとポメ運んでくれ~」
「きゃん!」
「ありがとうございます」
「ちょ!僕も乗せて!」
「それならポチに乗れ流!」
「ありがと!」
全速力で駆け抜ける。アルデンテ宮殿王座の間まで。
「来とるか!?」
扉を開く。
「別に僕は逃げないからゆっくり来れば良かったのに」
実に十二年ものお預け。
全員同じ反応だった。
「久しぶり!」
ゆっくりと振り向き、変わらない皆の方を見て微笑みがら応える。
「うん。久しぶり」
長きに渡る戦闘は、終わりを迎えた。
第五百六十五話「終わり」
御伽学園戦闘病 終




