第五百六十三話
御伽学園戦闘病
第五百六十三話「不要」
「どっちにするんや、ラック」
沈黙。
するとそこで一人が口を開く。
「どうせ決められないんだろ」
レジェスト。
「お前…喋れるのかよ…」
「まぁな、俺だけだが。それでどっち行くんだよ、好きな方行けよ」
言い方からして黄泉に行けと言っている。
その事に気付いた礁蔽が異論を唱える。
「いらんわ!」
「いや、不安定な世界な事に変わりはない。アイトがいた方がやりやすいだろ」
厳とアーリアも頷いている。
「だからいらんわ!」
互いに押し付け合う状況。そんなに不要な人物なのかと少し落ち込んでしまったがそれを見たエンマが呆れながらもフォローする。
「二人共もうちょっとしっかり言葉にした方が良いと思うよ~?」
「…それもそうだな。俺はアイトが必要だとは思わない。精々仮想世界で起こる不祥事なんて喧嘩とかその程度だ。そもそもそれ以上の事はマモリビトしか出来ないし、そうなったら止める術が存在していない。お前は不必要何だ、アイト」
「じゃあワイの番。簡単に言えば能力者は強くなったから問題ないっちゅー事や。百年近く我慢しとったんやからそっち行ったれや」
「だから俺らは別に必要として無いって言ってんだろ、話聞けよ真っピンク野郎が」
「これ地毛や!!」
「だったらもっとおかしいだろ馬鹿が!!」
「喧嘩すんなよ…」
今後大きな影響が出るだろうである選択を二人に押し付けているのは申し訳ないが、どう考えても喧嘩する所じゃない。しかもどうでも良い髪色なんかで。
だが妙に心地よい。それぐらい馬鹿で何も考えず言い合える仲だったはずなのに能力者戦争の仲間も、現代の仲間も、いつしか戦闘のための仲間にしかならなかった。
「悪かったな、お前ら」
「何や急に、悪い事でもしたんか?」
「した。大量の無能力者を殺したし、間接的だが能力者も大量に殺した。殺人鬼だからな、俺は」
「でもそれワイらに関係無いやん」
「あるんだよ。レジェスト達は酷い人生送らせたし、あんな戦争してなければ礁蔽達が戦う必要も無かったはずだ」
「だったら責任取って仮想世界に行けや!」
「だから黄泉行った方が何十倍も利益に…」
「でも仮想世界で待っとったら蒿里来るで?驚かせて遊ぼうや!」
馬鹿過ぎる提案。レジェストは大きな溜息をついていた。
だがラックにとってはとても魅力的な提案に聞こえた。
「…そうだな。それも面白そうだ」
レジェストは何も言わなかった。ただ楽しそうに笑ったラックを見て怠そうに納得するだけだった。厳とアーリアも全く同じ心境で、断る訳にもいかない。
「それにカッコつけて来たしな。今更戻れねぇよ」
「何の話や?」
「何でも良いだろ。とりあえず俺は仮想世界に行く」
「おっけ~。それじゃあ四人まとめて行こうか。礁蔽は黄泉ね~」
「了解や」
気味の悪い笑顔を浮かべながら指を鳴らした。同時にその場にはエンマしかいなくなる。そして白い世界もエンマの物に変わっていた。目の前に立っている奴がそれを証明している。
「悪いけど口は封じさせてもらうよ。何するか分からないからね」
口が開けない佐須魔。喉元は流と同じ様に穴が空いている。
「まぁ何個か質問しなくちゃいけないんだけど…まずは武具、神殺し、神の力、他諸々はどうなった?心の中で考えれば伝わ…」
「神殺しは燦然、菫以外は基地に置いてたから回収された。神の力は全部回収。他の武具もほとんど基地に置いてあったから回収されただろうね」
「そうか……え、何で喋ってるの?」
「喋れるよ。だって一時的に原の力借りて透明にしてるだけだろ?触手を」
「まぁそうだけど」
「見えるんだよ、それぐらい。でも安心しなよ、もう戦うつもりは無い。というか戦えない」
「能力は完全に壊れたの?」
「いいや、完全とは言い難いね。霊力生成は出来る、操作も一般能力者並みには出来る。今の僕はちょっとフィジカルが強いだけの一般人だ。勝てるはずも無いんだよ、お前らに」
「それなら良いけど。君は初代の地獄だよ、分かってるだろうけどね」
「うん。それぐらい納得してるさ。むしろ魂壊されないだけラッキーさ」
意外にも反抗せず受け入れた。一応それなりに覚悟を決めていたのだろう。
「それで最後に聞かせてくれよ、何でああなったのか」
佐須魔は突然黙りこくる。だがエンマも同じく黙って圧をかける。
すると面倒くさそうに笑いながらも佐須魔は答えてくれた。
「嘘は言っていないさ、革命を起こしたかった。能力者戦争の記憶を見た時脳が痺れた、素晴らしいって感じた。だから全てをひっくり返そうと思っただけだ。かつて同じ思想を持っていたんだ、お前だって分かるだろ?」
「まぁね、分かるよ。なら何で、"受け入れた"んだ」
「……うーん、何と言うかさ、あいつらに託した方が良い方向に向かう気がしたんだよんね。それに勝った所で主戦力がボロボロの僕、紀太、伽耶じゃ生き残った奴らを殺し切れないしね。二人のためでもあるんだよ」
「…嘘は良くないだろ、ずっと見て来たんだよ」
「確かにそうだ、僕は負ける事も作戦に入れていた。だけどそれはサブプランとしてだ。最初から悪役になってやろう何て考えてない。結果としてそうなった、それだけの話さ」
「そうか、でも意外だね。負けた場合も考えて宣戦布告しとくなんて、さ」
「遠回しで嫌味ったらしい、面倒だぞ、そう言う所」
「君に言われたくないね~。まぁでも分かってるよ、本心ぐらい。とりあえず初代地獄で数百年は苦しんでもらうけど、その後は場合によって僕の地獄に移しても良い。そして更に態度が良かったのなら地上に揚げても問題は無いって判断した、今」
「良いの?隠し通して暗躍して壊しちゃうかもしれないよ」
「そうなったら全力で止めるさ。僕らを誰だと思ってるんだ」
「…それもそっか。それじゃあ行かせてくれ、他の奴らもいるんだろ」
「うん。それじゃあ行ってらっしゃい」
パッと消える。
「さて、僕も戻ろうかな。皆待ってるだろうし。何より、招集しなきゃ」
エンマも戻る。後片付けはもう少し残っているが些細な事、それよりも現世の行く末を見守り、バランスを保つ事に注力しよう。もう戦闘の脅威に怯える必要は無いのだ。
楽になったこの世界で、ただ淡々と仕事を熟すだけで良い。それ以上の事は誰も望まないだろう。
「さて、帰ろう。皆疲労が溜まっているだろう。詳しい話は明日や明後日にでもすれば良い」
ライトニングが切り上げようと判断する。時刻は午前四時、太平洋の真ん中なので既に日も登っている。
「僕桃季拾って来る」
兵助がゲートを使って回収しに行った。
「ルーズ、お前滞在許可降りてるか?」
「最大半年だ。お前は?」
「俺最大三ヶ月。ケルベロスは後一ヶ月を戻ってくるよう言われてる」
「それなら残党狩りにも参加出来そうだな。とりあえず復興やら政治やらが関わって来るから、そこら辺頑張ろうぜ。俺ら霊力無限だしな」
「おう。そういや漆とレアリーどこだよ」
「漆は精神状態が悪くなっていたから気絶させた。レアリーは何とか保っているがまぁまだ気分悪そうだな。とりあえず漆はちゃんと向き合ってもらうしかないな、流石に酷ではあるが」
「とにかく大丈夫だな!よっしゃ帰ろうぜ!薫、ゲート出してくれ」
「…おう」
ゲートが生成される。当然繋がっているのは学園。
兵助と桃季も少し遅れながら帰ってきた。理事長はまだやる事があると戻って来なかった。
ひとまずそれぞれ明日の昼頃に集合するまでは自由時間となった。だが時間も時間、寝て起きたら丁度昼だろう。
「とりあえず遺体は能力館に置いておく。それで紫苑、ちょっと付き合えよ。俺とお前は寝なくても問題ないだろ」
「?別に良いぜ」
二人は何処かに行った。
「私は…漆さん、連れて行きますね」
レアリーは未だ目を覚まさない漆を連れて寮へ。
「なら私も寮に行かせてもらう。何かあったらマズイからな。行くか?エリ」
「うん、そうする」
大人しくなってしまったエリを見て少し複雑な感情を抱きながらも振り払い、ライトニングも寮へ向かう。
「私とりあえずラックの家行ってポメの餌持って来るね。先に行ってて」
ポメを頭に乗せた蒿里は一時ラックの家に。
「悪い時子、まだ治ってねぇから家で治して貰って良いか?」
傷が治り切っていない薫は時子の家で少しずつ治療を受ける事にした。
残ったのは兵助と桃季。兵助は基地で寝ようとしていたが桃季が動きそうにない。ずっと俯いている。
「どうしたの?何かあった?」
「…皆死んじゃったのが…受け入れられなくて…シウはまだ生きてるけど…」
「眠れそうに無い?」
首を立てに振った。
「お腹空いた?」
更に頷く。
「なら基地おいで。ご飯作ってあげるよ。こう見えて僕上手いからさ」
手を引き、基地に向かう。
実感が得られないのも仕方が無い。今まで家族の様に慕ってきた人が全員死んだのだ、シウは意識だけ。受け止められないだろう、まだ小学校高学年ぐらいの子供なのだ、当たり前の反応だろう。
「大丈夫。ゆっくり変えて行こう、本当に、ゆっくりで良いから」
第五百六十三話「不要」




