第五十五話
2023 11/14 改変
2923 11/14 台詞名前消去
御伽学園戦闘病
第五十五話「一年前の約束1」
[ラック視点]
転送されてから周囲を見渡す。どうやらラックは火山地帯に飛ばされたようだ。やはり火山地帯と言うだけあって相当熱い、辛抱ならんと一分も経たずに学ランを脱いだ。
とりあえず熱いとどうにもならないので高山地帯か雨林地帯へ行く道か、涼める場所を探すことにした。
そもそもよく考えたらおかしいだろう、火山地帯というだけなら別に熱くない筈だ。もしや噴火する寸前なのではないだろうか、その予想が当たっているならばすぐにでも移動しなくては行けない。
早めに下山しようと下を見た瞬間驚愕する、南西の方向には途轍もなくでかいまるで壁のようになっている山々が佇んでいるのだ。
だがこの火山が小さいという訳では決してなくこの山も現世に存在していたら世界でも五本指に入る程の大きさだ。なのにそれを軽々と超える高山地帯の山に驚き、魅入ってしまった。
「ありゃすげぇ…あいつあんなのも作れるのか…」
数十秒間固まっていると後ろの方から声が聞こえてくる。
「ラックーーー!!!」
振り向くとものすごい勢いで[コルーニア・スラッグ・ファル]が山を下って来ていた。ラックは露骨に嫌そうな顔をして下ってくるのを待つ。すぐそこまで来るとファルは足を止める。急停止に転びそうになった所をラックが掴んで止めた。ファルは一言礼を言ってから体勢を整えラックに話しかける
「やーっと来たね!」
「さっさとどっか行け」
「えーー!なんでそんな事言うの」
「うるせぇからだよ」
ファルはしょんぼりとしてしまった。ラックはうざったそうに付け加える。
「あーもう分かった!一緒にいていいよ!」
「ホント!?やったー!」
「ところでどこに行く予定なんだ」
「予定…?」
「まさか…何も考えてないのか?」
「うん!」
ラックはこれでもかと大きいため息をつき歩き出した。ファルもカモの子のようにトテトテと付いて行く。ファルが話題を振りラックが適当に返すといういつも通りの雑談をして山を下る。数分歩いて200m程降りた。二人とも身体強化を持っているので楽々下山していく。だが山は大きすぎるので他の地帯までは相当先になりそうだ。
「ねぇこの火山地帯にはバトルドームあるのかな?」
「あーそういえば戦闘しなきゃいけないのか…まぁ他の奴らに任せるか」
「え?なかなか厳しくない?だって礁蔽先輩と兵助は戦闘役じゃないんでしょ?」
「いやまぁ流もいるし紫苑もいる、なんなら蒿里もいるしそれに素戔……いや戦わなきゃいけないな」
ラックは今までの緩い声から戦闘時のしっかりとした頼りになる声に変わった。ファルもそれに気付き少し冗談を言っている雰囲気ではないと黙った。
そのまま沈黙が続き歩いてから二十分が経った。二人とも疲れを感じたのか一旦足を止める。そして座れそうな岩に二人で座って休憩を取ることにした。
「熱いねー」
「あぁ、熱い。飲料が無いのがキツいな…というか喉が乾くなら腹も減るんじゃないか?」
「そう言われればお腹空いて来たかも」
「ならこれ食うか?大して美味くないが」
そう言ってラックはポケットからカロリーバーを取り出した、ファルは犬のように飛びつき貪り始めた。ラックは寝転び空を仰いでいる、綺麗な水色の空を見ていると陽光に当てられたからか段々と眠くなって行く。そのうち睡魔に勝てなくなり目を閉じて眠ってしまった。
どれ程寝ていたかは分からない、だが感じたことの無い霊力を体に受け目を覚ます。すぐに体を起こすと横でファルがスヤスヤと寝ていた。ひとまず霊力の発信源は何か捜索してみるとどうやら西方に佇む岩島からの反応の様だ。目を凝らしてみると霊力で構成されているドームが展開されているのが見えた。
発信源も分かって自分とファルは安全と分かった。とりあえず火山が噴火する可能性だってあるので眠っているファルを起こそうと手を伸ばした時あることに気付く、遠方の岩島で展開されているドームの霊力と全く同じ霊力が周囲に漂っているのだ。
まさかと思い周囲を見渡すと薄い半円状の何かがある。やはりここはバトルドームの様だ。それを伝えようとファルを起こそうとしたが再び手を止める。何故止めたか理由は明白だ。
ファルと戦闘する事になる
自らの手で倒すなんてやりたくない、もう一度も。ただラックの中にも葛藤があった、ここでファルを置いて先に行くかファルを起こして戦闘をして勝利しヒントを得るか。悩んだ末前者を選び、音を立てずに立ちあがろうとした瞬間言葉が放たれる。
「ねぇラック」
すぐにファルの方を振り向く、ファルは少し眠そうだが話を続ける。
「なんで私を起こさなかったの」
「それは…お前と戦いたく無いからだ」
「そっか。でも私はラックと戦いたいよ?」
「なん…」
「覚えてる?一年前の事」
2011年 某月某日
その日は大会で壊滅した三年生に変わって二年生の中でも頭一つ抜けている降霊術士[姫乃 香奈美]が正式に生徒会長に就任する事になった日だった。就任式はなんの困難もなく終了する。式が終了した直後生徒会室に生徒会メンバーが全員徴収された。
そして生徒会室に行くとそこには能力を活用して様々な教科やクラスを受け持っている[柏田 元]が待っていた。
元は全員集まると早速本題に入る
「集まっていただき感謝します。今日は新会長の就任式がありましたね、それに合わせて一人メンバーが増えます」
「本当ですか!?人数が少なくて困っていたので助かりますね」
式が終わって少し気が抜けている香奈美が嬉しそうにそう言う。
「えぇ。では既に来ているので入って来てもらいましょうか」
元が廊下の方を向いてそう言うとほぼ同時に扉が開く。扉の方を凝視していると数秒して姿が垣間見えた。その姿はスラッとした体型で髪は水色で襟足は白、黒ブチ眼鏡をかけ学ランを来ている男が立っていた。
その男は扉を閉め数歩前に歩いてから自己紹介を始める
「[ラック・ツルユ]、歳は十九で二年生、能力は言わない。俺はお前らの事を信用していない。島に来たのは一週間前だ、何かあるやつはいるか」
とてもエリート集団の生徒会の前とは思えない態度に全員一瞬思考が停止する。だがすぐに蒼が言葉を口にした。
「い、一週間!?」
「あぁ。それまで外で物を作ってた。なんか文句あるか?」
「い…いや…なん…でも…」
「他に何も無いなら俺は帰る」
ラックは他の人が質問をする間も取らないで話も聞かずに退室してしまった。嵐のような人物に場は固まる、数秒してから香奈美がため息をつき元に同情を求める。
「めんどくさそうな奴が来ましたね…しかも私より二歳上じゃないですか…」
「そうなんですよねぇ…でも彼の実力は本物ですよ。なんせ翔子先生の能力で動きを1/2にした状態で兆波先生との本気勝負で勝ちましたからね」
「え!?」
「少し癖が強いようなので…まぁ頑張ってください」
香奈美は生徒会長になって初日というのにとんでもない問題児を抱える事になり頭を抱えた。だがこんな序盤から情けなくクヨクヨしていられないと心の中で喝を入れ皆でラックをどうするか話し合う事にした。
「まぁとりあえず皆で彼の対応を…って菊はどこに行った?」
「さぁ…まぁあの人はいてもいなくても変わらないしいいでしょう」
影は半分呆れと半分諦めの感情を押し出しながらそう返答した。
「そうだな。では会議をしようか」
そうしてラックとどう向き合って行くかの会議が始まった。
一方ラックは寮に帰ろうと廊下をスタスタと歩いていた。するといきなり目の前がもふもふで覆い尽くされる。何が起こったのか理解できず硬直していると視界が戻った。
すると前方には額に水色の紋様が彫られている小さな黒い九尾がいた。どうやら謎のもふもふはその狐の尻尾だったようだ、だが大きさ的に顔の位置にくるのはおかしいから誰かが持ち上げていたのだろうと思いもう一回正面を見てみる。すると予想通り黒狐を抱えている菊がいた。
「なんの用だ」
「いや面白い奴だなって思ってよ」
「それだけか?なら俺は帰る」
「おーちょいちょい待て待て」
「なんだ」
「とりあえず付いてきな」
そう言った菊は黒狐を肩に乗せて歩き出した、ラックもそれに付いて行くように歩いて行く。二十歳になって校内で酒やタバコをやりまくっている問題児菊と見たことのない愛想の悪そうな男が一緒に歩いている様子を見て一般の生徒は離れていった。
菊は歩きながらタバコを一本取り出して火を点ける。ラックは留年しているなんて事は知らないので訊ねる。
「おい何でタバコ吸ってんだ」
「私二十歳だぞ」
「そ、そうか」
流石のラックでも少し情けをかけているような声色と表情になってしまう、菊は何か気に食わなかったのかもう一本タバコを取り出し「吸うか?」と言って差し出した。ラックは「おう」と言って咥えた。菊は当たり前のように火を点ける。そして吸いながら一階に降りて歩いているとふと気付く。
「そういやお前十九歳って…」
その瞬間二人の肩に手がポンッと置かれる。菊は冷や汗をかきながら振り向いた。ラックは表情を変えず振り向く。二人の肩に手を置いたのは他の誰でも無い薫だった。
「菊?俺言ったよな?学内で吸うならベランダとか外で吸えって。そんでお前はまだ十九だよな?なんで吸ってんだ?」
薫は笑っているが目が笑っていない。菊は一瞬で手を退かし走って逃走を始めた。ラックも菊に付いて行く形で逃げていく。二階の窓から飛び降りたところで菊は黒狐を手放し「頼んだ!」と言って置いていった。すると黒狐は巨大化し霊力が半端なく増大する。
ラックはそれが何か追及しようとしたが菊が無視するのでとりあえず走る、数分間走り続けると菊が足を止めた。。
「ここだ」
そこには[御伽学園寮 A棟]と書いてある建物があった。菊はやりきった感を出しながらタバコを一本取り出し吸おうとしたがラックを見て取り出したタバコを箱に戻した。
そしてラックの方に近付き「未成年はタバコ吸っちゃいけないんだぞ」と言ってタバコを引き抜きそのまま咥えた。ラックは「何だこいつ」という目をして睨んだ。
そんな事は構わずラックを置いて菊は寮内に入って行く。そして一階の一番奥の部屋へ向かう。部屋の前に立つだけで獣臭が分かる、菊は普段通りドアノブに手をかけドアを開いた。すると部屋の中にいる大量の動物達が菊を出迎える。
「おーおー今日はやたら多いなー」
「なんでこんなにいるんだ…?」
「私の能力は『生物と話せる』能力なんだ。それに加え妙に動物に好かれやすい体質でな、部屋に帰るとめちゃくちゃ集まってるんだよ。こいつら勝手に窓こじ開けたりして入ってくるんだ。まぁ可愛いからいいけどなぁ」
そう言いながら菊は大量のペットフードを用意している、ラックは手伝おうとするが菊が「こいつらは警官心が強くて私以外の匂いがついてる飯は食わないから手を出すな」と制した。ラックは後ろに下がって菊の作業を眺めながら話しかける。
「なんで連れてきた」
「ちょい待て」
菊はテキパキとペットフードを複数の皿に分け終え動物達に分け与えた。その様子を見ながらラックの質問に返答する。
「私は???の血筋なんだよ。動物に好かれるのもそれが理由かもしれない」
「何故そんな事を俺に教える、俺がTISの氏客だったらどうするんだ」
「それはねぇな、だってこいつらが教えてくれた。お前は―――――なんだろ?」
ラックの方へと振り向きながらそう言った。するとラックは今までとは違う恐怖に満ちた表情を浮かべながら菊の首を絞め、持ち上げた。あまりの速さに動物達も反応できなかったがラックが異常な事に気付き吠え噛みつき突撃する。
その些細な攻撃を受け正気を取り戻したのか菊を解放した。地面に落ちた菊は半泣きで咳き込み、息を切らす。ラックは小刻みに震えたまま立ち尽くしている、菊は息を整えてからラックに慰めの言葉をかけた。
「大丈夫だ、落ち着け。わかってる、お前の苦しみとかそうなるのも分かる。だから落ち着け」
そんな言葉をかけられたラックは何かに安心したのか倒れてしまった。菊もこんな事になるとは思っていなかった。ひとまず興奮状態の動物達を落ち着かせようとしていると部屋の前に薫がやってくる。
「どうした!?何か音がしたが…」
扉を開けた薫の目には興奮状態の動物達、息を切らし涙目でへたり込む菊、そして倒れているラックという様が映った。勿論どう言う状況かなど理解できずに菊に説明を求める。菊はラックをベッドに寝かせてから他の人には秘密にするように、と釘を刺してから全てを話し始めた。
その話は後に知る事になるだろう。
第五十五話「一年前の約束1」




