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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第五百五十七話

御伽学園戦闘病

第五百五十七話「間際」


一瞬で引き抜き距離を取る。反撃を許さないその姿勢、満点の動き。実際誰も援護出来ず、ダメージトレードも出来なかった。流はただ首元を抑え、何とか止血しようとしている。

そして一匹見当たらない。スカベンジャー事旧鳥神の姿が何処にも無いのだ。発動帯を壊されたようでもう存在しないと予測出来る。仕方が無いが惜しい戦力だったと割り切るしかない。

それよりも流を後退させる方が優先だ。能力は既に戻っているので蒿里が助けに入る。


「流は下がって!紫苑!」


「分かってる!!」


二人で時間を稼ごう、そんな仕草がバレバレだ。佐須魔にとってそんな攻撃は攻撃とも呼べない。いなす必要すらない、雑魚の戯れ。無視で良い。

直後二人の間をすり抜けるようにして流にトドメを刺しに行く。何とかして止めようとしたが間に合わず、ギリギリでガーベラが一瞬触れられただけ。後は蒿里がオーディンの槍(グングニール)を投げたがどうやっても間に合わないスピードだ。


「これで終わりだよ、流」


リーチが伸びているのでもう届く、そんな距離。

にも関わらず流は微笑んでいた。当初の予想とは大きく外れたルートであったが、これで充分果たせるであろうと考えたからだ。


「…」


佐須魔は戦闘病だと思って気にしておらず、そのまま斬りかかる。だが当然許されるはずもない、そんな暴挙が。


「させるかっ!!」


コンが牙を突き出しながら飛び込んだ。流石にコンの攻撃は放置出来ない、下手したら一桁術式ぐらいの脅威はあるからだ。ただ突っ込んでいるのは流の方、正面に対象が二人いる状況。視線を逸らす必要は無いので非常に楽に対処出来る。


「それぐらいで…」


権威(オーソリティ)を使って退かそうとしたその時、魚神が神武の所へ移動して来た。どうやら流の霊力が少し付着していたようだ。


「だからそれぐらいで…」


次は旧蟲神がやって来る。佐須魔には色々な耐性があるので少なくとも三回は刺さなくてはいけないはずだ。そしてそんな時間は何処にも無い。ただの無能蟲でしか無い筈なのだ。

それは刺す場合の事。あくまでトリガーとして使用しないのなら全くと言っていい程に問題は無い。


『妖術・遠天』


掠れた声で何とか唱えた遠天。それは超接近していた旧蟲神から放たれる。あまりに近いので避ける術はない。くらうしか無かったが正直問題は無いだろう、大して痛く無いはずだ。


「そこじゃないんだよ…佐須魔」


流の思惑。突っ込む際にラックに頼んでいた事、それ即ち式神術の発動である。そして紫苑もそれは察していた、同じ式神は同時に出せない。なのでラックが雨竜、紫苑が状況に応じてサンタマリアかキキーモラのどちらかでサポート寄りの行動をすると言うのが決めている事だった。

だが結果として願わなかった。そのやり方は流がいないと成立しないからだ。そう、流の式神がいないと火力不足且つ予測可能な域の攻撃であるから。


「ただ持っている霊を式神にするような馬鹿が…何処にいるんだよ……」


流の式神はスペラではない。

式神とは何でもありだ。代償と詠唱の条件さえ満たしていれば。概念だって良いのだ、薫だってそれのおかげで少し特殊な戦い方を実現させていたのだから。雨竜やサンタマリアが浮いているのだって同じなのだ。

ならば流の式神とは何なのだろうか、答えとしては"模倣する物体"だ。その時流が想像した物に姿を変え、攻撃してくれる。だが代償は計り知れない。

ただそんな代償さえも実質的に無い物と出来る条件が存在する。死の間際。


〈全部使おう〉


《雨竜》


それに合わせるようにしてラックと紫苑も唱える。


〈吹き飛ばせ〉


《雨竜》


〈逃がすなよ〉


《サンタマリア》


一瞬にして三隻の船が出現する。そしてサンタマリアが戦場を整えるために一瞬で放つ。流と佐須魔を囲むようにして円状に弾を落とす。

そして空かさず放つ、二隻の雨竜。とんでもない轟音と共に巻き込むようにして。


「どうせ死ぬんだ、致命傷でも負ってくれよ、佐須魔」


「嫌だね、僕は逃げるだけだ」


ゲートを作り出した。このまま逃げ切れる、そんな甘い思惑を引き潰す。


『インストキラー』


霊力総量だけで言えば絶対に佐須魔が勝っていたはずだ、先程までは。

だがそれは当然の事、今まで封などが流に通用しなかった理由がそこにある。流の封などは全て京香(しゅごれい)が肩代わりしていたのだ。霊力操作も出来なくなるので譲渡も出来なくなる。

だが少し前には既に解けていた。なので渡せる、それだけの事。


「全部合わせれば、通用する」


ただでさえ多い流の霊力に霊、そして守護霊が合わさったその以上なまでの数値ならばインストキラーも通用する。

血を吹き出し狼狽した佐須魔にコンが噛みつく、ケルベロスの腕をそのまま引きちぎった。それだけではない、魚神も自分の力だけで喉元を突き刺し、発動帯に大きな損傷を与えた。

その結果ゲートが消滅する。


「もう逃がさないよ、佐須魔」


弾は間近、一緒に死んだって構わない。仕留めきれなくたって問題ない。やってくれる、皆が。


「いや、まだ逃げられるさ!」


ご自慢の身体能力で逃げ出そうとするその時、視界に飛び込む、小さな羽毛が。当然の如く霊力を孕んでいるそれは、力を帯びると同時に攻撃性を持った。


『流し櫻』


逃がさない、絶対に。

ただでさえ弱っている佐須魔に直撃流し櫻、動きが止まるに決まっている。

そして大きな音と土煙を立てながら着弾した。

十数秒間大量の弾が落ち続けた。音が止むと同時に周囲の霊力濃度は薄くなり、雨竜が一隻消滅した。もう分かっている、流は死んだのだろう。


「……お願いだから…」


蒿里が縋るような声で晴れるのを待つ。

ゆっくりと消え去った煙の先、へこんだ地面にへたり込むボロボロの佐須魔。そして流の姿はもう無い、死んだのは間違いない。通知が来ていたのかもしれないが誰も見ている余裕など無かった。

ただうな垂れて動かない佐須魔から視線を離せなかった。

よく見ると右足が無くなっている。意外だったがあの猛烈な攻撃を受ければ当たり前だ。恐らく片目は無いだろうが見えない。


「……ま…だ……」


声とも分からないその音は皆の耳がしっかりと受け止めた。

全員戦闘体勢に入る。ラックももう全力で戦うしかないと悟った。だが佐須魔は瀕死、自然回復も追いつかない。押し切れる。

そんなタイミング、戦闘要員三人が襲い掛かろうとするより早く足を進め、感謝を述べる。


「ありがとう流、射程圏内だ」


兵助が動く。


「終わりだ、佐須魔」


夜明けはそう遠くない。



第五百五十七話「間際」

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