第五百五十六話
御伽学園戦闘病
第五百五十六話「血」
確かに來花に刺しておいたはずだ。武具は弔いの意味も込めて消えるはず。それなのに佐須魔の手には神武がある。
「避けろケルベロス!」
だが完全には避けられない。出来る限りの全力で回避行動をしたが左前足が取れてしまった。ただそれぐらいの痛みなら我慢できる。
一旦後退して来たケルベロスに謝罪の意味もありクッキーを食わせる。とりあえず軽い止血を行い、様子を見る。何故神武があるのか分からない流は冷や汗をかいている。
単純な白兵戦が苦手な來花だったから何とかなっただけであって、佐須魔が持ったら手が付けられない代物だ。
「何でお前が持ってる、佐須魔」
「武具は消えるよ、確かに。でも魂が現世から無くなった時に消えるんだ。それまでに回収してしまえば問題は無い。逆に何で想像つかなかったの?そんな事も」
真っ当な意見を述べながら落ちた足を拾う。軽く観察してから問題ないと考えた佐須魔はそれを自身の左腕があった部分に押し付け始めた。
意味が分からなかったが唯一脅威を理解していたラックが飛び出す。
『瞬宵』
間に合わない。
「遅いよ、ラック」
両手で握る、一つの剣を。
「まぁ継ぎ接ぎだし、そこまで持たないだろうけどね。それより良いの?無茶して」
振り払う。もう駄目だ、ラックは悔やみながらもまたも後退した。
「は!?何で腕がくっついてんだよ、おかしいだろ!」
「おかしいよ、だってくっついた訳じゃないもん」
よく見るとくっついている訳では無い、回復で伸びた腕の肉がめり込んでいる。本当に無理矢理繋げているだけ、今までに比べれば使い勝手は悪いだろう、サイズも不釣り合いだ。
だが片手の状態に比べると手数は増えるし、単純に剣が使いやすくなる。
「……紫苑君」
「何だよ」
「僕が腕を潰す。だから…」
「駄目だ、そこまで近付いて攻撃なんてしたらお前でも…」
「だから提案してるんだよ、死なないのなら一人でやるさ」
「……失敗しないんだよな」
「しない、言葉通り命懸けるよ」
「そうか、分かった。行くぞ」
紫苑は体勢を整える。止血を終えたケルベロスはもうクッキーなんてどうでも良い、ただ佐須魔への怒りを動力源に動くのだ。ガーベラも問題は無い。
「ラック、お願い」
そう呟き、異形に近しい見た目へと変貌した佐須魔に向かって突撃し始めた。
『妖術・旋甲』
佐須魔は理解した、何故封や他の術が通用しなかったのか。それと同時に対処法も当てはめられる。
『呪・封』
流に対して。
「そういうの良いと思うよ、小賢しくて。だけど甘い、一対一でやる事じゃないよ、流」
速度が落ちた流に対して放つ。
『壱式-壱条.筅』
だが堅い布を何回か殴り無理矢理突破する。その際に傷も出来たがそこまで問題ではない、それよりも速く佐須魔の元へ、そう思いながら視線を戻す。
「遅い」
神武で斬りかかって来る。だがこんなの何度も練習した。流が下側、そして速度も勝っている。ならば上方向に蹴り上げる。ここで減速しても近付いてきたのだ、それで良い。
束の間、流の服に血が染み込む。
少しばかりキョトンとした顔で言葉にし、引き抜く。
「僕の強さは手数の多さだ」
透明の風のようだった波紋は血に代わり簡単に肉眼で分かるようになった。
そこでただ一人気付く者がいる。必然と言えば必然であるが。
「血が…抜けない?」
ラックが佐須魔の手を見ながら呟いた。当たり前だ、眼鏡が無いアイトの姿で戦っているのだから常に血流透視は発動している。霊力自体は問題が無いので放置していたがこんな所で役立つとは思ってみなかった。
おかしいのだ、流の血が波動に乗って動いているだけならまだ納得出来るが薄まっていない。その波動は佐須魔の霊力で出来ているのだが、血が薄まらない。
常に体から霊力が流れ込んでいるのだ。波動に乗っている血は新陳代謝の様に古くなった霊力と共に抜け落ちる、それが普通のはず。
「何の意味が…」
その行動に意味があるはずだ。思考を巡らせるが何も分からない。そもそも波に触れた事がほとんどないラックでは情報不足過ぎる。誰かの記憶を見て判断しても良いが単純に時間が足りない。今ある十数秒で結論を出すのは不可能か、そうも思った直後。
「何で溜めてるんだ…?」
兵助の一言。ラックは盲目になっていた、血流透視という血を酷く強調する視覚状態で物事を捉えてしまったからだ。
「眼鏡!」
飛んで来た眼鏡を受け取り、かけて見る。すると兵助の言った通り手にずっと霊力が溜まっているのが分かる。ずっと回っている、抜けて行かない。それならば血が抜けないのも当然。
そしてまるで天啓かのように閃く。
「流!避けろ!!」
肉弾戦を繰り広げている流。最初の一撃以外用心して血は出していない。だがそれでも流血で血は増えて行く。何をしたいのか分からないまま何とか左腕を潰そうと奮闘していた時に唐突として投げかけられる言葉。
経験が豊富なので別に硬直したり、抵抗したりもせず何かヤバイ攻撃が来るのだろうとしか思えず回避行動を取る。だが遅かった、遅すぎた。
「もう遅いよ」
『血』
神武の特殊状態。流はずっと意識していた、刺されないようにと、スタンしてしまうのだから。そしてこれにも注意していた、血、血を刀身に変換し伸ばすもの。
それは血液内にある霊力と血を利用している。なので霊力と血が必須、そう必須。だが制限はない、血さえあれば、問題は無い。それがどれだけ霊力によって希釈されようとも。
「言っただろ、手数の強さだって」
伸びた剣先は流の喉を貫いた。
第五百五十六話「血」




