第五百五十二話
御伽学園戦闘病
第五百五十二話「自死」
ケルベロス、紫苑が門番としての役割を果たすに当たって一番厄介だった仕事の原因だ。こいつは一度仲良くなると急激に懐くのだがそれまでの道取りが非常に長い、結構苦戦しながらもガーベラの力を借りたりしながら何とか仲を深める事が出来た。
そして紫苑はある日ある事に気付く。それはケルベロスの戦闘能力についてだ。やはり門番というのもあってか非常に戦闘能力が高い。
ただあくまでも大群を制する力であり、佐須魔などの強者に対抗するにはキツイ所があった。そこを紫苑がカバーした。それまでは単純な力でゴリ押すだけだったのが術や頭を使って立ち回るようになったのだ。
だが今日だけは違う。純粋に削るだけならば、そんな小賢しい真似は必要ない。潰す。
「潰せ」
ケルベロスが大きな体を揺らしながら突撃する。佐須魔は早速回復した神殺しを使う。
『邪魔、退いてくれ』
権威による命令。やはり馬鹿正直に突っ込んでも意味はないか、そう思った流が代わりに動こうとするがおかしい。ケルベロスは動きを止めないのだ。
それどころか怒っている様な所作を見せ、そのまま佐須魔にぶち当たった。凄い衝撃が全身に広がると共に猛烈な違和感を覚える。神殺しは使えたのでラックの技術は停止しているはずだ。それに霊力はちゃんと消費されたので発動自体はしている。だが止まらなかった。
「どう言う事だ…?」
「答えねぇよ」
紫苑は距離を詰める、ガーベラもだ。三人の一斉攻撃、三角形になるような位置取りだ。佐須魔ならばそんなの容易に避けられる。ただまずは試しておくべきだろう。
『退け』
紫苑に対して。すると効力を発揮し、紫苑は一瞬だが動きを止めた。
どうやらケルベロス以外には通常通り使えるようだ。となればケルベロスだけに何らかの権能があるに違いない。突き止めるのは難しいだろうが適当に戦っていれば勝手に死ぬはずだ。こんな霊の一匹如き。
「なんか忘れてねぇか?」
ラックの一言の直後、雨竜が全門放射をする。すぐそばにはまだ三人がいるのだが問答無用。
「あっぶねぇ!!」
全員躍起になって避ける。ただ大半は佐須魔のすぐそばに落ちたので問題は無い。むしろ隙を作ってくれたのでありがたいぐらいだ。
「流も来い!」
「了解!」
紫苑に続いて肉弾戦を仕掛ける。流石にキャパが厳しいので何とかして分散させたいと考える。だが人神は消えたし、他の霊を出した所で現状出来る事は肉盾だけ。変に手の内を晒すだけになる可能性を考慮すると正直出したくはない。
それに武具と佐須魔の力だけでも何とか防げるレベルではあるはずだ。それがどれだけ苛烈な攻撃であろうとも。
「防がせない手なんて、幾らでもある」
『呪・封』
蒿里が封を使用した。当然対象は佐須魔だ。だが遅いのだ。今佐須魔は本気で戦っている、そうともなれば身体能力は限界まで引き出されているし、反射神経なども滅茶苦茶跳ね上がっている。
唱えているようでは遅い。無詠唱の上反射で蒿里に返ってきた。約二分程度だが能力が使えなくなった。オーディンの槍は使えなくはないが戻ってくる性質が無くなってしまうので諸刃の剣も良い所、実質的に無能だ。
「しょうがねぇな、下がってろよ」
蒿里を守るようにしてラックが防御する。恐らく紫苑と流で手一杯だろうが念の為だ。
「佐須魔は自分だけで何とかしようとしてる!」
ずっと心を覗いていたので分かる。この情報を二人に落とし、ボルテージを上げさせる。
「紫苑君!」
「おう!」
二人が同時に殴り掛かる。佐須魔はこれを受けられない。理由としては反体力が発生する可能性が僅かながらに存在しているからである。
反体力はバックラーが相棒と同時に殴る事によっても発生する。佐須魔に反体力は超特効、この二人の反体力パンチなんてくらったら即死だ。
「まぁ避けるよな、佐須魔。でも俺らはそれ、見越してんだよな」
紫苑がニマっと笑う。佐須魔の背後にはガーベラが立っている。
「これが何の…」
鼻で笑いながら適当にあしらおうとしたその瞬間、ガーベラが手に握る、一本の剣を。
「brilliant!」
ラックの手には握られていない。
「何故!!」
どう考えてもガーベラが使える代物ではない。
「何故?それはどういう質問だよ佐須魔。もし何で扱えるのかって馬鹿みたいな質問なら答えてやるよ。ガーベラが"ちょっとラックだから"だ」
ラックの魂を融合した結果がこのガーベラ、なので使えると言いたいようだ。大分無理があるが実際普通に持っているし、斬りかかっている。
今はつべこべ言ってられる状況でもないのですぐさま打を手に取って受け止めた。神殺しを神殺しで防ぐ、変な光景だ事。
「あーあともう一つ。そうやって防ぐ事も、織り込み済みだ」
今佐須魔は紫苑達に背を向けている。なので霊力放出を最小限にして近寄ればバレない、そう判断した。そしてそのまま殴り掛かるのだ、バレずに重たい一撃を。
これが出来るのはごく少数。フィジカル強者だけ。そして今生きている能力者の中でフィジカルが一番強いのが誰かと聞かれたら全ての能力者こう答えるだろう、櫻 流だと。
「目逸らすなよ、佐須魔」
直後ケルベロスのアタックよりも重い一撃が背中に入る。防ぐ間もなく連撃、背骨を全て粉砕する意気込みで殴り続ける。だがガーベラを無視するわけにもいかない佐須魔は切るしか無かった。どれだけ無駄なカードと成り果てようとも、死ぬよりはマシだという判断を下して。
『降霊術・唱・蟲神』
現れた蟲神は早速鱗粉を撒き散らす。即行麻痺にして行動不能にしてやろうという考えだ。そしてそれは距離を取らないと回避のしようがない。だがここで距離を取ったら佐須魔に自由空間を与えてしまう事になる。出来ればここに居座って攻撃をし続けたいが無茶は厳しい。
紫苑とケルベロスは何も言わずにすぐに退避したが、迷う。
ラック達は何も言わない。
「…決めたんだ……やろう」
賭け、仕込んで来た賭け。皆が何も言わないのはそう言う事だろう、ここでやる。
それにはまず必要な手順がある。
「還れ!ガーベラ!」
ガーベラが還り、佐須魔には余裕が出来た。
なので潰す、背後にいる流を。
「遅いよ!!」
思い切り打を叩きつけた。
物凄い量の血が吹き出し、何も抵抗しないまま流はその場に倒れた。
だがまだ死んでいない。トドメを刺そうとしたその時、ラックが間に入る。
「これが俺の最後の仕事なんでね、失敗はしない」
brilliantと菫を握り、二刀流で挑む。
体が麻痺しているはずなのに全く問題は無さそうに見える。
「何が目的だラック、見捨てたはずなのに急に仲間みたいな動きしやがって」
「最初から仲間だ。逆にお前は分からねぇのか、今の動きの意味が」
「は?瀕死になる事に何の意味が…」
「最近がおかしいだけでよ、今まで覚醒やら新しい力を得るにはどうやって来た?一つだろ、マモリビトの力を借りてた。今回も同じだ」
「エンマか…だけどそれが一体何の強化に…」
「俺ずっと考えてたんだよ。黄泉に行くならワンチャン黄泉のマモリビトが無理矢理変化させれねぇのかって」
「黄泉に行く…?」
「まだ分かんねぇのかよ。起こすんだよ、櫻 京香、降霊術の女王様をよ」
第五百五十二話「自死」




