第五百五十一話
御伽学園戦闘病
第五百五十一話「脳無し」
ニアが連れて行かれて直後の事、ラックと流と蒿里の三人は一旦距離を取って軽く作戦を立てる事にした。佐須魔は人神がいないので抑止力が弱まっており変な攻撃で致命傷を貰った場合どうしようもなくなるので一旦手を止めている。
そんな中で一人、礁蔽だけはソワソワしていた。それをふと視界に入れた流が手早く訊ねてみるとある事実とそれを踏まえた提案をしてくる。
「このままやとニアみたいにタイマン強制されて負ける気がするで、ワイら」
「……確かに。私は多分どんな相手でもタイマンは負けないけど…それはあっちも分かってるだろうし、時間稼ぎしてくるに決まってる……流はまだ全員に勝てる訳じゃないし、ラックに関してはもう時間も無い…」
「僕が"あれ"をするのももう時間無いし……どっかで覚悟決めてリスク負うしかないね」
「そうだな。んでそのリスクは誰が負うんだよ、発動者である流は絶対に駄目だが…俺も蒿里も兵助も重要だぞ」
「何やワイが行けって事か?」
「そう言う事だ。だってお前以外死んだら駄目だからな。逆に言えば今死ねるのはお前だけなんだよ」
「まぁ別に文句はないけど…ちょい癪に障る言い方やなぁ」
「はいはい、そういうの良いから。とりあえず私もサポートするから、頑張ってね、流」
滅茶苦茶圧をかけた応援メッセージ、多分本心では応援どころか不安しかないのだろう。だが流は笑顔で頷き余裕を見せる。
ひとまず礁蔽はここで死ぬ覚悟を決め、薫に『阿吽』で伝える。
『悪い!ワイ今から死ぬわ!でも黄泉行けるやろうから、また会おうな、ほな』
返事を聞く時間も与えず突っ込んでいく。一人で走り込んで来るのが異様で佐須魔は警戒したが、その裏で蒿里が術を準備しているのを見て察する、今までとは明らかに戦術が違う。
誰一人として死ぬのを許していなかったがあからさまな特攻。追い詰めているのだろう。だがそれは当然の事、このまま一気に叩き下ろす。
「そろそろ死ね!礁蔽!」
「だから死ぬ言うとるやろが!殺してみぃや!!」
鍵が挿し込んである箱を手に取り、空中に放り投げる。繋がっている先は海中、一気に海水がなだれ込んでくる。あまりの勢いに佐須魔は飛行し避ける。
だが目的はその回避行動、飛行こそが本当の目的。流されながらも何とかもう一つ箱を取り出し、開く。
「これで終わりや!」
飛ぶ先は事前に投げておいた空中、佐須魔の背後。持つべき物はたった一本の剣、ここまでずっと溜めておいた。だが更に溜めておく、ライトニングを託された理由はそれでしかないからだ。
礁蔽は大した戦闘能力を持たない。新たな戦術を編み出しても結局は後方支援特化の雑魚能力だ。だが奇襲や囮などには向いている力でもある。故に数回斬るだけで充分に効果を発動出来るライトニングは有効だと考えた。
「残念、一回じゅ僕を殺せない」
たった一撃、背中に斬撃をくらわせただけ。それだけの事で何故礁蔽は喜んでいるのか、理解出来なかった。それはライトニングの性質を知らなかったからだ。
佐須魔はてっきり[name ライトニング]ことサーニャ・ロゼリアが所有している時にのみ霊電は溜まるものだと思い込んでいたのだ。そもそも礁蔽が霊電を発する事自体出来ないはずだ。
だがそれはあくまで思い込み。霊電はサーニャが通常生成される霊力分を使用して生成している。そしてその霊電は体に溜められており、それを注入していると考えていたのだ。
実際には霊電は剣に蓄積され、それが放出されている状態だった。
「だーいぶワイにも入って来たけど、どうせ関係無いわ。せやけどお前は話が違うやろ?佐須魔」
今大会中ライトニングには何度か触れた。だが大体紫電などで抜けて行ったとばかり信じていたが、エスケープ戦に入ってから礁蔽に何度触れられたかは憶えていない。下手をしたら紫電二回分ぐらいは斬られている溜まっている可能性がある。
「やってくれたな、礁蔽!」
隙だらけの体を全力でぶん殴る。抵抗する間も与えず吹っ飛ばした。物凄い血が吹き出し、腹部には穴が開通していたがどうせ死ぬと分かっていたのだから何も文句はないだろう。
「礁蔽!」
兵助が助けに行こうとしたが蒿里が引き留める。
「回復術使えないんでしょ…?だったら行く意味無いよ。どうせああなったら死んじゃう。私達がするべき事、ちゃんと考えよう」
「…ごめん。気が動転してた。もう大丈夫」
そこで流れる。
《チーム〈エスケープチーム〉[ニア・フェリエンツ] 死亡 > 佐須魔》
ニアが死んだ。だがそれと同時に人神の霊力が消え、何処か憶えのある新たな霊力を感じ取れる様になった。ひとまず完全敗北ではないようなので安心だ。
そして直後。
《チーム〈エスケープチーム〉[管凪 礁蔽] 死亡 > 佐須魔》
二人が死んだ。紫苑はそろそろ戻って来るだろうが
「礁蔽は死んだか…まぁでも、行けるぜ」
「…やる?」
「あぁ、ニアが死んだから佐須魔は神殺しも神の力も使える。そろそろこっちも最終手段で抵抗するタイミングだ。俺も本気で潰す」
炎が更に強くなる。
「うん、分かった」
「そんじゃ押すぜ!出せよ!」
「分かってる!」
「了解!」
出てくる、スペラ。そしてガネーシャ、白虎、黒龍、アヌビスが同時に飛び出した。仕留めにかかる。ここからの一撃一撃は全てが繋がる、失敗は許されない。
当然、ラックと兵助も。
〈裁け〉
《キキーモラ》
強制的な裁き、逃げる術はない。だが佐須魔からすればこの程度の攻撃何の意味も無いに近しい。
実際キキーモラが判断している間は何の感情も湧かなかった。ただこの後どう動くか考えていただけだ。だが、ラックはそんな間にも手を進めるのだ。
〈全門斉射〉
《雨竜》
それだけでは終わらない。
『人術・厳・返』
急襲作戦の時に叉儺に使った術。周囲にペットボトルの蓋程度のエネルギーが三十個程度生成される。
そしてキキーモラの裁きが終わり、佐須魔が罰せられた。直後時が動き出す、それと同時に雨竜が撃つ。
『ボン』
ラックも唱える、エネルギーが一斉にラックに向かう。
「その程度の攻撃で…」
誰が予想出来るだろうか、ラックの全力攻撃と蒿里の霊達が全て隠れ蓑でしかないなんて。
「最初からこれで殺すつもりなんてねぇんだよ。こいつの霊力デカすぎるからな。なぁ?紫苑」
「まぁそうだな」
駆け付けた紫苑の背後に立つ大きな霊。黄泉に行ってから新たに仲間になってくれた一匹の霊。
地獄の門番、最初は揉めたし殺されかけた。だが今となっては良き友であり、ペット同然。
「やっちまえ、ケルベロス」
三つの顔を持つ巨大な犬。地獄の門番ケルベロス。
今いる霊達で、佐須魔の能力で出来る限り削り取る。
第五百五十一話「脳無し」




