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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第五百三十八話

御伽学園戦闘病

第五百三十八話「神と言う名」


八朔、完全に想定外の行動をされたエスケープはどう対処して良いのか分からない。ひとまず距離を取ったが身体能力は絶対に上がっているし、何より目立つのが霊力上昇。

ただでさえ底なしと分かる程の量だったのに更に増えたのが感覚として理解出来る。明らかに何段か強くなった佐須魔相手に礁蔽が時間を稼げるはずもない。


「下がれ!礁蔽!!」


ラックが叫び、指示を出すがもう間に合わない。距離も距離、一応ライトニングを持っていると言っても礁蔽の練度じゃ一秒も耐えられない。

死ぬ、絶対に。その場にいる誰もがそう思っていた。次の瞬間、佐須魔の周囲に蟲が出る。そして一瞬だが霊力を吸い、能力の発動を止めた。

瞬時に流が礁蔽を回収し距離を取った。ニアとラック、蒿里も距離を取る事で全員安全圏と思わしき所までは後退出来た。


『助かったでエリ!』


『良いから集中してよ!!負けたら許さないからね!!』


『あいあい』


「ひえー怖い怖い、死ぬところやったわ」


「ほんとにね、礁蔽君気を付けてね。まだ死んじゃ駄目だよ」


「まぁ生きとっても大した役には立てんで?」


「肉盾になるにしても、タイミングってのは考えるべきだよ」


「…やっぱ流ちょっと冷たくなっとるよな、前より」


「そりゃあね、皆に助けてもらった時の僕なんかより何倍も強くなったんだ、性格も曲がるよ」


「まぁええわ、間ぐらいでうろちょろしとくで!」


礁蔽は前線四人と兵助の間ぐらいで気を窺う事にした。これは結果として良い判断であるが、現状の佐須魔からすると好都合であった。

八朔の力は全く分かっていない状態、そんな危険な状態でライトニングとかいう危険兵器を持っている奴が近くにいると全ての行動に大きなリスクが伴う。

逆に言えば遠いのでそこまで考えずとも何とかなるはずだ。注意すべきはやはりラックの式神、だが少なくとも紫苑が戻って来るまでは使わないはず。今が狙い目、ここを逃したらチャンスは激減するはずだ。


「行くよ」


直後佐須魔の残像が見えたかと思うや否やラックの眼前に移動する。

だが躊躇わない、もう既に知っている。紫苑の勝利が確定している事を。見えるに決まっているだろう、紫苑は自覚していないがラックの魂を喰ったので当然ラックだって混入している。故に見える。

なので、安心して放てる。


「まぁ約束とは違うけどよ、約束だけが全てじゃないぜ」


〈飛ばせ〉


《サンタマリア》


現れるサンタマリア。驚いたが問題は無い、幾ら速攻型とはいえども攻撃までには時間がかかる。その間に仕留めれば良いのだ、しかも距離は詰めてある。絶好の機会である事に変わりはない。


「悪いがもう準備してある」


引っ張られるようにしてラックが後ろに下がって行く。良く見てみると背中から伸びている触手が遠くへ向かっている。どうやら反動で高速移動をものにしているようだ。

こうなると誘き出されるだけ。無意味に追いかけるよりも手近な奴から片付ける。それに今一番狙い目のニアはラックの技術とやらの根幹に関わっていそうだ。


「じゃあ、こっちだ」


ニアとの距離を詰めようとする、が阻止される。迅隼の命を懸けた特攻によって防がれたのだ。


「行かせねぇよ!!」


そう果敢に離脱の急上昇を行おうとするが異次元の身体能力で片足を掴まれる。


「なっ!?」


「いい加減死んだ方が良い、そっちの方が、僕の為になる」


いとも容易く片足をへし折った。その激痛と屈辱に迅隼は怒りを押し出し、反撃の特攻を行おうとするのだが佐須魔はそれも予想出来ている。


「単純な相手をするのは面白くないね、やっぱり」


片手だけで打ち落とす。


「迅隼!」


ニアが助けようとするが蒿里が無理矢理引き留める。今飛び込んでも殺されるか瀕死になるか、少なくともその二択。行かせてはいけない。仕方が無い、ただの奉霊が佐須魔相手にここまでやれただけでも御の字と思うしか無いのだ。


「死んどけ」


振り下ろす、拳を。鈍い音と吹き出す血、たったこの二つだけで死んだと分かる。だがこれで良かったのだろう、奉霊は死んでも黄泉の国に行ける様改造されている。本来の主である初代ロッドの元に行けるのなら、それが本望であるはずだ。

だが佐須魔はそれを良しとしない。初代ロッドは完全なる学園側能力者、その重要な手先の一人を易々と逝かせる訳が無いのだ。大した力にはならないかもしれないが、もしかしたら化学反応が起こるかもしれない。そんな一抹の期待を込めて、魂を握る。


「喰うつもりだ!」


流が阻止するため足を踏み出したそのタイミングの事だった。

今この世界でそれを探知出来ているのはラック・ツルユただ一人だった。一度くらったせいか、マモリビトとなったせいか、はたまた両方が混じり合ったか。

だが感知は出来ても対象ではないので何もできない。たった十数秒の感覚、時が止まった様な、そんな感覚。仮想の堕天使の能力、そのもの。

動き出す。


「馬鹿面晒しながら喰ってるなんて、悲しむだろうな、死んだ皆が」


佐須魔の左腕、魂を掴んでいる方の腕。それが地面に落下した。


「ギアルは霊力を通す。だから半分だけど通すんだよな、反体力も」


聞き覚えのある声。


「宗太郎…さん」


ニアが声をかけるが宗太郎は佐須魔の方を向いたまま。


「返す」


そう言いながらいつの間にか奪っていたライトニングを礁蔽に返した。


「反体力の真髄、ちゃんと見たか」


少し振り向くその視線。


「まぁ良いや。皆ありがとう、さよなら。楽しかったよ、喰われ人」


何の説明も無しに、宗太郎は消滅した。

するとその解説を死に来たと言わんばかりに堕天使が舞い降りる。


「ペット以外の総意だ、宗太郎を連れて見せつける。その代わり彼の魂は一瞬で消える。難しい顔をしていたよ、今まで溜め込んで来た情報を一瞬で伝えなくちゃいけないってね」


「お前…そんな事を(あいつ)が許すと…」


「思ってないさ。でも僕らは知らず知らずこの世界に感化され、滞っていた成長を果たした。代表として言おう、僕ら仮想の住人が最も嫌う事は恩を仇で返す事さ」


大きく羽を広げる。


(あいつ)への恩は忘れたのかよ」


「恩?そんな物貰った覚えは無いさ。それとも今までの所業を恩と言い張るのなら誰もが総じて"恩着せがましい"、こんな言葉を口に出すだろうね」


「クソが…取れたじゃないか…腕……」」


佐須魔の左腕は取れた。


「そうかい。それは良かった。これからも見させてもらうよ、でも僕らの介入はこれで終わりだ。くれぐれも精進するように、エスケープチーム、一同」


次の瞬間堕天使は宗太郎と同じ様にして姿を消した。


「人騒がせな奴らやなぁ」


「でもそのおかげで僕らは助かった。左腕が無いんだ、しかも再生が出来ない何らかの理由があるに決まってる…これで!」


「それでも八朔を加味して丁度五分五分ぐらい。私がどれだけ霊を出しても多分意味は無い、シヴァがいるはずだから…」


更に深堀りしようとするが佐須魔が動き出す。ニアに向かって思い切り拳を突き出した。


「もう、許しませんから」


反撃でパンチ、佐須魔は吹っ飛んだ。


「やるね意外と」


ほとんど無傷。だが明らかに見る目が変わった。警戒すべき対象の一人として、ニア・フェリエンツの事を見ているのがヒシヒシと伝わってくる。


「しょうがないね、使おうか」


まさか必殺技か何かを使って来るのかと思いサポートしてやろうと思っていた矢先に起こる、誰も防げない攻撃。


『降霊術・唱・人神』


霊は服従するものである、それが契約であろうと吸収であろうと。逆らうにはそれ相応の対価が必要となって来る。

佐須魔に逆らうなんて事は自死の道に進むと言っても間違いではない。故に逆らえない、この女にはまだやる事がある。ホスピタル王国の政治、子孫との向き合い方の再確認、世界平和、多すぎるのだ、強すぎるからこそ。


「謝罪は黄泉(あっち)でさせてもらうわ」


たったその一言には様々な感情が籠められていたのだろう。なので虚しい、意味の無い礼儀なのだから。


「そんな物いりません。私が欲しいのは確実な勝利、平和な世界、アリスの平穏、この三つだけですから」


躊躇は無い。奉霊を見せた時点でそう来るだろうと予測していたから。奉霊は戦えない、初代ロッドに対して牙を向けない。

自分自身の力だけで潰す必要がある。神を名乗るその人を。



第五百三十八話「神と言う名」

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