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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第五百三十四話

御伽学園戦闘病

第五百三十四話「狭間にて」


ラックを送ってから紫苑も入る事になった。叉儺が付いて来てくれるとの事で短いであろう移動時間も退屈はしなさそうだなと思っていた。


「こんな風なんじゃな」


扉の中は謎の空間。マモリビトが対話を持ち掛ける白い空間と何処か同じ雰囲気を感じるが全く違う。具体的には色はあるし、それも雑に塗りたくった様な物ではなく現世にもあった何かを模しているのだと分かる程度にはしっかりとした色彩だ。

それだけではなく割れ目が点在しており、その向こうには現世、仮想世界、黄泉の国いずれかの風景と思わしき景色が映し出されていた。


「話聞く限りは全ての境界線らしいからな。普通に死ぬだけなら絶対に通らない場所らしいぜ。礁蔽とも話したけど唯一見たものが…えっと何処だったかな……黄泉の花園だったか、とにかくそこら辺だったらしいぜ」


「妾研究の為に結構出歩いていたし知識も付けておったつもりだったが…結構知らぬ景色というものはあるものだな」


「当たり前だろ、逆に全部知ってたら怖いわ」


「それもそうじゃな……でも最近になって思う事が増えたのじゃ。妾エンマの地獄じゃから反省する事しか出来ないのじゃが今までの選択肢が間違いだったと思うようになってきてな…あの時ああしておけばと後悔する事が多い…」


「まぁ良かっただろ。何せお前TISの奴らの中じゃ相当楽しそうだったし、何より強いからな。独自の研究で霊を神に昇華させる手段を見つけられる、そんな才能持ってんのに使わないって、クッソ勿体ないだろ……まぁ出来れば学園(こっち)側としてやってほしかったけどな」


とてもじゃないが敵組織の一員にかける言葉とは思えない。今ここで反旗を翻す可能性だってあるのだ。それなのに紫苑はまるで信頼関係を築いている相手かのように気楽に接している。

流石に気になったので訊ねてみる事にした。


「何故貴様はそこまで楽観的なのじゃ?今ここで妾が殺す事だって出来るはずじゃ」


紫苑は半笑いで答えた。


「あ?何言ってんだよ。黄泉(こっち)来てからのお前にそんな度胸あるなんて、俺思ってねぇよ。馬鹿がよ」


「何!?馬鹿にしておるのかこの妾を!」


「そもそも何だ妾って、厨二病かよ」


何か殴り返して来ると踏んでいたが、そうはならなかった。

俯きながら先程よりも小さな声で独り言のようにして言い返す。


「妾は崇高な貴族の末裔、それなりに威厳と差別化を図らなくてはいけなかった。それだけの事じゃ」


「あー…まぁ…あれだ……ドンマイ!」


今の雰囲気からは想像も出来ない様な表情でちゃんと馬鹿にした。


「まぁ貴様に期待などしておらん。だが突っかからないのじゃな、貴族の末裔に関して」


「突っ込む権利はねぇよ俺に。だって俺親いないのに第一世だぜ?意味分かんねぇだろ」


笑って良いのか分からないラインの自虐。だが叉儺はちゃんと馬鹿にしながら答えてやった。


「人造生命体が。だがビックリじゃな、貴様がアンスロとは」


「いや俺はアンスロじゃねぇだろ。だってそれ神、仮想のマモリビトが作った奴の事だろ?俺の基礎を作ったのはラックだ、半アンスロぐらいだ」


「どっちだろうと大して変わらん。それより妾が注視しているのは人外という方じゃ。確かに一瞬でマモリビトの力に適応していたとはいえどもまさか人外とは、あの時は思ってもおらんかった」


「俺も知らなかった。普通にただの捨て子だと思ってたんだけどなぁ。まぁでもこいつがいてくれたから何とかなったんだ」


そう言いながら運んでくれているガーベラの方を見た。ガーベラにはリアトリスの記憶はほとんど無い、だから意味の無い行動ではあるのだが、やはり紫苑からすればリアトリスと同じにしか見えないのだ。


「まぁ良い、どうせ妾もまだ戦う事になる。無駄話はその後にするぞ」


「は?まだ戦うって……まっさかお前付いてきた理由って!」


「そうじゃ」


不敵な笑みを浮かべる。


「仕方ねぇ!今ここで…」


ここで殺す意思を見せたその瞬間だった。叉儺が自分自身の喉に指を突っ込む、少し長めの爪を使って掻き出す、霊力発動帯を。


「は?お前何して…」


「魂とは能力発動帯、能力発動帯とは魂。故に喰った者は継承する。気になるのじゃ、見たいのじゃ、この世界の行末を。だが妾にはその権利も無いし、干渉も出来ない。そんな世界を見た所で面白味も無い。

妾がしたいのは妾の力が多少なりとも干渉した結果による世界の変化。だがTISとしては無理じゃ、お前がここにいる時点でな。だからこそお前を利用する」


「…」


「ダツとカワセミは修復済みじゃ、好きに使え。乱暴でも良いし、丁重でも良い。そこはお前の裁量次第じゃ、紫苑」


抱き着く様にして無理矢理口を開かせる。


「しっかり掴んでおれよ、ガーベラ」


ガーベラは両腕を掴んで運搬しているのでそのまま離さない、レジェストならそうする。


「おまっ!離せ早く!片手!!」


「そもそも何故妾だけ瓦礫を伝って走らなくてはいけんのじゃ。少しは乙女を労われ」


「何言ってんだよ!そんな事より早く発動帯戻せ!マジで死ぬぞおい!」


「覚悟無しに、ここまでやって来た訳では無い。二人になれるのは、ここだけだと踏んでおった。これ以上言わせるでない、紫苑」


抵抗できない紫苑の口に無理矢理発動帯を押し込み、飲み込ませた。

次の瞬間叉儺は消滅した。今まで触れられていた感触や温かみはあるし、ガーベラに訊いてもちゃんと存在していたと言っている。


「……意味が分かんねぇよ…」


二度目。叉儺の人生が断片のようにして流れ込んでくる。見たくもない記憶だった、酷い人生だったし、楽しい人生でもあった。その中で唯一自分自身が選んだ選択肢がこれだったとは実に皮肉なものである。

何かに縛られなくなった叉儺(こいつ)は誰の手にも止められない。佐須魔や來花をそれを見抜いていたし、だからこそ自由にさせながらも縛り付けていた。

それが無き今、こうも馬鹿な事をする。


「でも…ありがとな」


こうなってしまった以上受け入れる他ない。黄泉に帰った後どう飴雪に説明すれば良いか分からない事だけが不安だが、何とかなるだろう。

それよりも到着する。現世に。



「そこまでの思いがあるんなら、言葉にしてほしかったけどな。まぁ良い、行くぜダツ。叉儺に従え」


佐伯対紫苑、ガーベラ、ダツ。

三対一、制限時間二分のみ。

覚悟は全員、出来ている。



第五百三十四話「狭間にて」

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