第五百三十三話
御伽学園戦闘病
第五百三十三話「愚者の再臨」
リヨンは飛び出すと同時に佐須魔に接近する。だが大した力を持っていないと思っていた佐須魔はそこまで警戒していなかった。
「だから油断してんじゃねぇよ、馬鹿が」
次の瞬間リヨンの顔面からエネルギー弾が飛び出す。恐らく遠天かそれに類似したものなのだが、おかしい点がある、変な場所を狙って放ったのだ。
明らかに佐須魔に隙はあったし、当たらなかったとしても誘導する事が出来たので有利状況に持っていけたはずだ。それなのに撃ったのは結構逸れた右側。
「は?」
意味が分からず何を狙ったのか確認した佐須魔だったが、やはり後方には家ぐらいしかないし、その家にも何の細工も施されていない。本当に何も意味がない攻撃だった。と思ったのも束の間、腹部に物凄い衝撃が走る。
それは距離を詰めて来た流の攻撃だった。すぐに反撃を繰り出す事によって退かす事が出来たが結構痛い。ひとまず問題は無いので何とか式神をまともに戦える盤面にする必要がありそうだ。
「お前の式神は三分はろくに動けねぇだろうな、迅隼はウザいからな。まぁ一番の問題は、その間にお前が生き残れるかどうかだがな」
ラックも距離を詰めて来た。二人で殴り掛かって来るが当然左右から、防いだ場合何処かに必ず隙が出来る。正面の遠方にいる蒿里はオーディンの槍を手にしているし、ニアだっていつ動き出すか分からない。礁蔽と兵助だって覚醒などで主戦力に格上げされる可能性もあるのでとにかく今は相手の手札を切らせるしかない状況。それなのに追い込まれている。
様々な術が破壊され、身体強化も弱くなっているとは言ってもやはり厳しい。
「悪いけど、お前ら如きには負けるつもりは無いんだよ」
指を見せつけるようにして鳴らす。空気爆発が起こり強制的に距離が出来る、はずだった。
間にリヨンが飛び込んで、爆発の衝撃を体で受けた。凛々しい顔のまま佐須魔を睨みつけ、威嚇する。その脅威や凄まじく、佐須魔でも本能から来る恐怖を覚えたほどだ。
だが動きが止まったりする訳では無いのでむしろ有利になったと言える。近付いて来てくれたのだ、上手く行けば殺せる。
『呪・重力』
まずは重力で重力を増加させる。その後に何らかの呪で適当な攻撃を行った後強力な術で安全圏から攻撃するつもりだった。それなのに防がれる、当然と言えば当然なのだが。
察知したニアは瞬時に広域化を解く。
『呪・封』
蒿里の封。避ける術は無い。
練度が低いので精々一分半程度しか封印できないがそれでも上々。ここまで整ってきた盤面の上で能力が使えない相手。いくら身体能力が滅茶苦茶高くてもフィジカル強者が四人もいればどうとでもなる。
ここまで来たら蒿里も参戦する。
式神も消え、生身一つ。霊力操作もろくに出来ないので神殺しも神の力も普通の武器としてしか使えない状態。そんな馬鹿みたいなやり方でどうやって四人をいなすのか、腕の見せ所だ。
「オーディンの槍!」
声を出し、そのままぶん投げる。それに合わせるようにしてニアも前線に立ち、殴り掛かる。ただ一人ぐらいなら問題なく対処出来てしまうだろう。
それをカバーするようにしてラックが背後に回り、攻撃を行う。同時タイミングだ。
「避けれねぇだろ」
正面からオーディンの槍、右手にニア、背後にラック、となれば左手は流だ。四方向からの攻撃、避けたとしても追撃で体勢を崩されるのがオチ、ここで後手に回った時点で敗北へ一直線だというのは経験と勘で理解出来る。
故に、選ぶ。誰か一人にフォーカスすれば吹っ飛ばし、逃げ道を切り開く事が出来そうだ。だが全員強固な要塞そのもの。
手薄に見える蒿里は潤沢な手数でゴリ押してくる。
次に手薄に感じるニアは術式でどうとでも対応してくるだろうし、場合によっては奉霊も行使してくるはずだ。
ラックは話にならない、どうやっても式神で止められる。
ならば流しかないだろう。インストキラーは霊力総量の問題で通用しない、かと言って式神も単純なストッパーとしては弱めの性能。尖っている身体能力は実力で差を埋めれば良いだけの話。
「そうくると思ってたんや、せやからワイが、おるんやけどな」
流の背後に飛ぶ箱、鍵が開かれ飛び出してくる。手には知っている剣を持ちながら、斬りかかって来る。
「ワイが地獄でしてたこと教えたろか佐須魔、剣術や」
力は足りない。なので本来の持ち主に比べれば圧倒的に雑魚としか言えない。だがそれでも不意を突くにしてはあまりにオーバースペックな武具、名を[ライトニング]。
「行くよ!礁蔽君!」
「わーっとる!」
二人が同時に攻撃を行う。後退は出来ない、正面突破しか選択肢はないこの戦況で立ちはだかるは雷の剣。知っている、それの真の脅威を。
斬られてはいけない、斬られたら霊電が溜まる。そうしたら紫電を撃たれ大きな隙が生じてしまう。それは起点にするには充分だろう。絶対に駄目だ。
だがすぐそこにいるのにどうやって避けて、尚且つ逃げるのか。能力があれば余裕だが生憎封をくらっているので無理。とにかく択が無い中で絞り出した答えを更に潰される。
絶体絶命としか言いようがない。
「退けよ、そこは佐須魔の道だ」
唐突にして重力が増加する。重力は使えないはずだ。そうなると重力操作が出来る人物はただ一人。
「上出来だ、佐伯」
動きが鈍くなった礁蔽の顎にアッパーをかまし、そのまま流の右腕に軽く蹴りを入れ流れるようにして包囲網を抜けた。
「ナイスタイミング、運に助けられたよ」
「いえ、僕は見計らってたんで、運で片付けないでくれ」
「そうか。なら尚更凄いじゃないか。にしてもどうやって解除した?半田の能力」
「吐き出した、喉に指突っ込んで」
「…発動帯に怪我は無いか」
「あったらこんな事出来ない。それにまだ能力を失う訳にはいかないんだ、覚醒すら出来ていないってのに」
「まぁそれもそうだね。でも素質はある。僕を助けられる程の実力もある。出来るさ、この戦闘中に」
「そうだと良いですけどね。それにしてももう誰もいない、どうするつもりだ」
「僕今封くらってるんだ、だから能力使えない。でも蒿里のだからそこまで効果時間は長くない、解除された瞬間に仕掛けるから。時間を稼ごう」
「最適解…か。分かった、出来る限りの事をしよう。これでも一応、TISメンバーだ」
次の瞬間ラックが背後に回り殴り掛かる。半年分の力を使って生身のニンゲン佐伯への本気殴り、しかも不意を突いている、絶対に死ぬ。
「出来なくは無いんだ、こういうのも」
感覚がブレる。攻撃もろくに出来ない。体が浮いている、重力低下。
「でも増加より苦手だから、あんまり使うつもりは無い。こんな僕に挑むか?ラック・ツルユ」
「当たり前だろ。誰がどうすれば戦わないって選択肢取るんだ、馬鹿かお前は」
「馬鹿ではあるが、雑魚ではない。そう簡単に負けるつもりはない。来いよ、マモリビト」
ラックもやる気だ。だが出来ればラックは佐須魔とやり合って欲しい。だがまだ未知数に近い佐伯との勝負をフィジカル自慢の流かニアだけ担当させても難しい。かと言って蒿里を割くにも勿体ない。
ポメか迅隼で時間を稼ぐのもありかと兵助が考えていた時だった。ポンと肩を叩かれる。
「わりぃ、ちょっと手間取ったわ」
「…え?」
兵助は驚く。他のメンバーは重力増加と緊迫した状況故に気付いていなかった。だが気付かされる、たった一つの攻撃によって。
〈分断頼むぜ〉
《サンタマリア》
約八割程度、レジェストの力を貰っている。
「ラックー、俺がやって良いよな?ウォーミングアップさせてくれよ。こいつも、そう言ってる」
隣にはダツがいる、見覚えのある、あのダツが。
「…あぁ良いぜ。二分で片付けろ、式神全部使ってでもな」
「了解だ。んじゃちょっと待ってろお前ら、俺も手柄欲しいからな。何せ犯罪者だ、故意な生き返りは」
更に隣には、ガーベラがいる。
「紫苑!!来たんかお前!!」
「おう、紫苑再臨だ。待たせたな」
空十字 紫苑、乱入。
第五百三十三話「愚者の再臨」




