第五百三十二話
御伽学園戦闘病
第五百三十二話「セットアップ」
誰よりも速く攻撃を仕掛けたのは迅隼だった。それに続いてニアも動き出す。両者の速度は大体同じぐらい、少しの差はあるがほとんど同時タイミングで攻撃出来るだろう。
佐須魔はどっちの攻撃も防がなくてはいけない状況にある。迅隼は速度だけのように見えて普通に威力が高いし、何より速く潰しておかないと逃げの道を潰される。だがニアを無視すると単純な格闘で不利を取る事になる。
どちらも捨てられない要素。ならば、どちらも取る。
「そっちが短期で潰すつもりなら、僕も応じるよ」
《来い》
現れる式神、打を手にして向かうは迅隼の前。佐須魔がニアを潰そうとする。
「そんな単純な手は通用しないぞ」
「勿論分かってますよ。ですからこうやって、単純じゃない手を最初から見せつけているんじゃないですか」
近付いてきた佐須魔に向けて放つ。
『弐式-参条.鏡辿』
超近距離、わざわざ詰める必要のない術。ブラフか何かかと思ったが防がないとマズいので無詠唱で出す。
ウロボロスが顔を出し、鏡辿を防ぐ。
「気配出し過ぎだよ、流」
背後に回っていた流に回し蹴りを行う。だが単純なフィジカルだけで言えば絶対に流が強いので受け流すのはそう難しい事ではない。ただし問題もある、バレた。
流はリスクを負ってでも霊力放出を無くし、気配も出来るだけ消して移動したはずだ。それにニアの攻撃とウロボロスの巨体のおかげで目視で流の事を確認出来ていなかったはずだ。
「流!周囲に雑魚霊が無茶苦茶おる!まずそいつら何とかせぇへんと意味無いで!」
「分かった!じゃあ僕が…」
「んな事お前がする必要ねぇよ。俺がやる」
ラックがbrilliantを手にしながら唱える。
〈周囲掃討〉
《サンタマリア》
皆の周囲を囲むようにして弾幕を張る。だがそれだけでは意味が無いだろう、それだけでは。
「雑魚は死んどけよ」
まだ菫眼は発動しているので瞬宵は使える。
すぐさま周囲を高速移動しながらbrilliantでぶった切って行った。一時的に佐須魔の元に還って行くだけ、だが霊力消費も大した事無いし、三秒もあれば掃討可能。もう雑魚霊偵察は追い込んだ状況でないと有用ではなくなった。
「一応狙うぜ、こいよ二人共」
その指示と同時に流、ニアが佐須魔に向かって殴り掛かる。本来ならば式神が助けに入るべき場面なのだが迅隼が速くて仕留められないのにしっかりと妨害してくるせいで手間取っている。
「三方向からの攻撃、悪くは無いね。まぁでも、まだ甘い」
『止まってくれ』
権威による命令。三人の動きが止まる、そう思われていた。だがそんな事は無かった。油断していた佐須魔はそのまま三人のパンチによって吹っ飛ぶ。フィジカル強者の三人の攻撃を同時にくらうと流石の佐須魔でも結構な痛みを貰う。
だがまだまだ余裕。立ち上がって状況を確認する。結界が張られている様子は無いし、他の能力で妨害されているようにも感じない。とにかくフラットな状況にしか思えないのに権威が無効化された。
「対策はして来てるか…早めに分かって良かったって所か。にしてもどうやったんだろうね、ラック」
ラックの方を見ながら訊ねる。
「そりゃそうだわな。こんなの出来るのは俺だけだ。でも教えるつもりは無いぜ」
「そうか。まぁでも権威無しでも何とかなりそうだけどね。まだ本気出してないし」
「あんまイキってんじゃねぇぞ?俺だって本気出してねぇからな」
「そうだね。お互い様だ。だけど他の奴らはどうだ?精々蒿里ぐらいだろ、手の内見せてないの。かく言うラックだって選択肢は結構モロバレだろ、色々な戦闘の積み重ねで」
「あぁそうだ、バレてる。でもな、バレてるからこそ出来る戦術ってのもあるんだぜ」
まだまだ余裕そうな表情のまま距離を詰めて来る。それに応じる様にニアと流も息を整え、仕掛ける準備を終えた。
「まだまだ行くぜ。一旦合わせろよ、お前ら」
まずは堅いラックが前に出て様子を見る、という算段だった。それは全員理解していたし、遂行するつもりだった。だが流の体が反射で動いてしまった。ニアを突き飛ばす様にして。
「通用しないって、それ」
蒿里が被せる。
『降霊術・神話霊・ガネーシャ』
出来れば封包翠嵌が良かったが素戔嗚に破壊されているので代用だ。ガネーシャが破壊する、この結界モドキを。経闇暗、それによって流は攻撃をしようとしていたのだ。
だが後方で待機する意識が強かったので体がギリギリ追いつかず完全な攻撃にはならなかったし、何より経闇暗を無詠唱で使わせられた。しかも全員ノーダメージで破壊する事が出来たのでむしろアドバンテージを得れただけだ。
「分かったか?」
「私は…」
「僕は分かった」
「それなら充分だ。ニア、お前は蒿里の所で広域化何重かにして範囲をここら一帯に広げろ」
「はい」
一瞬で移動して指示通り広域化を使用する。流は何をしたいのかまだ分かっていないが、ラックは何の心配もしていない。何故なら信頼しているから。
「潰すぜ、術式」
弐式さえ分かれば大体の位置は分かる。全てをぶっ潰せば一気に有利になれるのだ。
「さぁ、行くぜ」
剣を握る。
「brilliant」
広域化によって全力で逃げなくてはくらってしまう範囲。brilliantの攻撃は両盡耿より少し強いか同じぐらい、こんな序盤でもろにくらっていい代物ではない。仕方が無いがゲートか何かで逃げようとしたその時の事だった。
「そう言う事か、ラック」
流は理解すると同時に一回詠唱を挟み、その後に放つ。
『妖術・反射』
スペラを出し、すぐに全方位反射を付けた。その後に撃つは切り札の一つ。
『インストキラー』
範囲内には飛んで来た五人と二匹、礁蔽、佐須魔がいる。そして現在流が霊力総量で負けているのはラックと蒿里、佐須魔の三人。それ以外には勝っている、はずだ。だが実際には全員に負けている、理由としては単純、ラックが一時的に抜いた。無理矢理奪ったというのが正しいが。
それによって計九人分の反動が流に向かう。だがそれは反射によって全て跳ね返される。上反射ではないので攻撃元ではなく、単純に跳ね返る。
威力が凄まじいエネルギーが九個、跳ねる。
「頼むぜ、シウ」
脱出不可の結界生成。
反射するエネルギー。
「お前が初めてまともに勝った戦いだぜ、流。でもあん時と違う事もある。一人減って、一匹増えた。そんでもって、俺は全力を出せる」
『半分だ!寄こせフロッタ!!』
しょうがないなぁ
エンマの半分の力を受け渡す。漲るパワーに便利な触手、ラック本体の凄まじい戦闘力が合わさる。それに加えて一時的にbrilliantでの視界妨害。
佐須魔はまだ気付けていないはずだ、エネルギーの反射に。それにまだ何個でも作り出せる、brilliantで。
「半年分だ、アーリア」
半年分の身体強化を、この一撃に籠める。
これ以上の小細工はいらない。ただ距離を詰め、殴るのみ。
「よぉ佐須魔」
光の群から顔を出したそいつの顔はかつての英雄とは思えないものだった。ただしとても面白い、まんま戦闘病そのもの。同じ様な笑みだ。
「良いね、僕も出そうじゃないか」
指を鳴らした。その瞬間ラックの傍にある空気が三倍になる。
「吸って無い訳ないだろ、僕はほとんどノータッチだったんだ。余裕はあったさ」
紗凪架 譽の能力。
「そうかよ、そりゃ良かった。好都合だ」
出す。
「リヨン、来い」
サルサの体を乗っ取っている状態。ならばその体に刻み込まれた能力は使用可能だ。リヨンが出る。
「合わせてやるから、暴れてみろ」
魔改造したのはラック本人、その張本人がそんな指示を出した。元々こんな事したがらない奴なのに。それが何を意味するだろうか。
リヨンは怪物だと、証明するだけ。
第五百三十二話「セットアップ」




