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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第五百二十七話

御伽学園戦闘病

第五百二十七話「揺れる」


式神スサノオ、すぐさま蒿里は対策の一手を打とうとするのだが、それが許されない。物凄い勢いでスサノオは距離を詰め、そのまま斬りかかって来た。ただ認識する事しか出来ず、避けられなかった。それほどまでの速度。

叩き斬る様な動作の後、蒿里の右腕が吹っ飛んだ。とんでもない激痛なのだが覚醒と軽い戦闘病、身体強化が相まって何とかなっている。だがもうこれを治す術は何処にも存在していない、右腕を失った状態で戦う事を強要された。


「まだだ」


次は背後に回った素戔嗚が斬りかかる。だが流石にもう大丈夫だ。振り向きながら蹴りを行い、ついでに左手でオーディンの槍(グングニール)を振り回す。怪力なので近付けない。

ただしそれはスサノオへの意識が皆無というのを示す事と同義。隙を見逃さないスサノオは再度攻撃を行った。はずなのだが何も起こらない、本当に何も起こらない。

確かに剣は振り下ろされている。だが何も起こっていない。いや違う、破壊された。攻撃の威力を殺された。


「危ないな…もう」


無詠唱の降霊術、消費は大きいしここで切って良い手札でもない。だがそれでも、使わなければ死んでいた。アクシデントを押し付けられたのなら、こちらもアクシデントを押し付ければ良い。


「頼むよ、ガネーシャ」


薫は託した。もう自分は戦えないと悟り、唯一適合出来るであろう蒿里に。ガネーシャの扱いはとても単純である。ただ殴らせ、主を護らせれば良いのだ。全てを破壊し、再生させる事が出来るのだから使いようは無限大。蒿里ならば上手くやってくれるだろうと思っていたが、こんな所で使うとは思ってもみなかった。

だが決して悪い判断とは言えない。そもそも來花が式神術を素戔嗚に受け渡している何て学園の誰も想定していなかった自体故ある程度の強い手札を切らざるを得ない状況なのだ。


「ガネーシャ…そこまでして勝ちたいか、薫」


何とか立ち上がらせ、協力までしてくれた紗里奈の相棒であるガネーシャを譲った。それがどれ程侮辱的な行為なのかは理解しているはずだ。なので腹が立つ。一応素戔嗚も降霊術士の中では上澄み、少しばかりだがプライドも持っている。それなのにこんなやり口で戦われるとどうしても馬鹿にされていると感じてしまう。


「違うよ、薫は素戔嗚を馬鹿にしたかった訳じゃない。ただ勝つために手段を選ばなかっただけ」


「それが我々を…!」


「でもそれはTIS(そっち)も同じ。神モドキになって無茶苦茶してるでしょ。お互い様何だよ」


それを言われた何も言い返せない。あまりに全うな意見だからだ。

だが素戔嗚一人からすればそんなの知ったこっちゃない。だが言い合っても意味は無いので怒りを何とか抑え込みながら、このまま押し切る事にした。


「やれ、スサノオ」


またもや同じ様に距離を詰める、がそこに隔たる巨大な壁、ガネーシャ。その気迫と確かな力で他の追随を許さない破壊力を持つこの霊を前に知能と意思を持ったスサノオが出来る事は一つ、後退だ。

如実に現れた、霊と式神の違い、式神の弱い所が。こいつらは意思を持つ、しかも式神術は霊と違って命令なんてしても大抵意味は無い。なのでこの様に当人の意思で逃げたりするともう主からは手が付けられない状態になる。


「戦え!そうでなければお前は死ぬ!!」


だが戦っても死ぬ、そんなのは目に見えているのだ。どう足掻いてもガネーシャに一撃貰った時点で即死。成す術無く死ぬだろう。

これは戦略的撤退であり、敵前逃亡ではない。それに素戔嗚も分かっているはずだ、ろくな勝機も見いだせないと。それなのに無理して戦う必要は無い。まだやり合っている佐須魔と礁蔽の所にでも割り込んで人数有利を作り出し、叩き潰すのが最適解のはずだ。重要幹部もろくに戦えない佐伯と素戔嗚の二人にまで減ってしまった。もうつべこべ言っている暇は無いのだ。


「何故俺が、お前を選んだと思っている」


冷たい目を向けながらの言葉だった。だがそれには確かに、熱い思いが籠っていた。

素戔嗚は蒿里と違い能力を選べた。好きな霊を一匹貰えると言う約束だったからだ。選択肢は本当に沢山あった。もう憶えていない程だ。一ヶ月近くかけて考え抜いた結果スサノオを選んだ。

そいつは結果品で降霊術でも呼び出せないくせに刀に降霊しても全然言う事を聞かないので佐須魔に吸収されて以来何も出来ていなかった謂わば問題児だった。

そんなスサノオは選んだ理由はただ一つ、その闘志に憧れたからだ。まだ子供だった頃のその選択、後悔などしていない。むしろ今までの人生における選択で一番良い結果だったろう。そう思える日が、いつか来るのだと信じていた。

それが今だ。


「俺達はまだ、何もしてないだろ」


どの一言でスサノオは動きを止めた。ガネーシャが接近しているにも関わらず、ただ立ち尽くし素戔嗚と草薙の剣へ視線行ったり来たりしている。犬神もそろそろ危ないと動き出そうとしたその時だった。


「そうだ、それこそお前だ」


スサノオは草薙の剣をガネーシャに向けた。ガネーシャはすぐさま殴り掛かり破壊しようとする。だが物凄い剣捌きで華麗にかわされ、それどころか反撃で斬られまくった。凄い技術だ。


「そんなので倒せると思ってるなら大間違いだよ」


蒿里が助けに入る。今出来る最大限のサポートとは精々妖術だろう。だがその小さな助けが勝敗を分ける。


「させるか!!」


それを阻む犬神。幾ら蒿里でも干支神化している神格をそう簡単に対処出来る訳ではない。それに加えてまだ素戔嗚が入ってくるかもしれないとなると無理に戦う事は出来ない。

まだ手札は残っている、一旦ガネーシャは自分で何とかしてもらうとして、蒿里は最短で仕留める、素戔嗚本体を。

考える。どうすれば一撃で、防がれる事無く殺せるか。そう易々と通すはずがないのは分かっているのだが、何処かにつけ入る隙があるはずだ。


「……!」


よく考えたら一人で戦う必要は無いじゃないか。協力しよう、折角仲間もいて、余裕もあるのだから。


『流、薫!訊きたいんだけど、式神術って指示出す時どんな感じ!?すぐ教えて!』


流は戦闘が終わっているし、薫は観戦しているだけなので勿論すぐに答えられる。


『僕は普段降霊術でスペラに指示出す時と全く同じだった』


『俺は刀だから意思って意思は無いが……まぁ…強いて言うなら発動帯が"揺れてる"感覚はした。ホントに僅かだけどな』


『ありがとう。助かった』


勝ちを確信した。発動帯が揺れる感覚、これが蒿里と相違の無い認識の現象だったのなら、既に道は開けている。

その揺れる感覚は二つの能力で感じている。目躁術と壱式全般、この二つで僅かだが発動帯が揺れている感覚を覚えた事が何度かある。気になって一人で調べた事があったのだが、そこで判明した事としては超特徴的な霊力の動かし方で発動する能力というものだ。

簡単に言うと通過して生成された霊力を無理矢理下に押し込み、再度発動帯に戻させる。そして戻した霊力と生まれる霊力を合わせた物を上手い事発動帯に通し、放つと発動できるのだ。

これは他の能力では見た事もない挙動なのだが、この二つではまるで常識かのように扱われている。故にどちらも現代の継承者が異常に少ないのだ、当然他の理由も相まっているが。


「これで終わりだよ、素戔嗚」


そう言いながら走り込む。何か確信出来たのだと理解した犬神は素早く妨害しようとするのだが、更に一匹の霊が飛び出す。そいつは鋭い牙を持ちながらも白い体毛をまるで稲妻かのようになびかせ割り込む。

薫が渡したもう一匹、四方神が一匹[白虎]である。

その速度と牙を活かし、無理矢理犬神を素戔嗚から引き剥がした。スサノオもガネーシャとやり合っており助けられない。丸裸状態の素戔嗚だが全く動じず刀を構える。何かしてくるとしても一瞬で切り裂いてしまえば何の問題もないはずだ。


「何で分からないかな、こう言う事が出来るんだよ、私なら」


手を鳥の形にする。降霊術・唱の派生、手印。面よりも安定するが攻撃性に欠け、現代では超初心者や意図的にしか使われないやり方。そして今回は、後者だ。


『降霊術・唱・鳥神』


蒿里の正面に飛び出す巨大な鳥神、これを無視出来るはずもなく、全精力を注いで振り上げる。鳥神を斬れれば蒿里だって殺せるはずだ。


「これで終わりだ!蒿里!!」


振り下ろした斬撃。手応えは無かった。まるでハリボテのように崩れ墜ちた鳥神の後ろには上反射を構えた蒿里がいた。そしてすぐに理解する、何をしたかったのか。斬撃を返したかったのだ。

当然自分の最大限を籠めた斬撃がほぼ完全状態で返って来るのだ。とんでもないダメージを受けた。血も出たし、一瞬意識を失いかけた。それほどまでの攻撃を受けた状況で冷静な判断が出来るだろうか、いいや出来ない。

オーディンの槍(グングニール)を手に近付いて来る、叫ぶ。


「スサノオ!!」


そこが、狙いだ。眼下を過ぎるオーディンの槍(グングニール)、完全反射で避けたがジャンプした。故に避けられない。触れられた。喉元、発動帯。

流す、霊力。反発し、拮抗する。止まる霊力、式神術自体の逆流霊力と通常霊力、それに加えて蒿里の霊力を間に挟むようにして流す。接触が出来ないだけじゃない、拮抗状態は続くので体はとんでもない激痛と倦怠感に襲われる。

だがそこは流石素戔嗚、すぐさま距離を取って何とか治そうとする。ただし、更に流石と言うべきだろう、蒿里の天才性は。


「勝ちだよ、私の」


次の瞬間、戻ってくるオーディンの槍(グングニール)が素戔嗚の喉を貫いた。直後消えるスサノオと犬神、何の別れも告げられず、引き裂かれる。

その場に倒れ、夜空が視界一杯に広がる。急激に風が寒く感じ、毛布でもかけて欲しい気分だ。口元から血を流し、ただどうにかして体を動かせないか模索するがどれも失敗に終わる。


「……行って来るから、先、逝ってて」


「……」


ゆっくりを視線を蒿里の方に向ける。そして同じ方向に唯刀 素戔嗚が落ちているのを見て、何とか手を伸ばす。だが届かない。

それを見た蒿里は理解した。ゆっくりと唯刀 素戔嗚を手に取り、素戔嗚の前に立つ。そして、突き刺した。素戔嗚は満足そうに微笑んだ後、目を閉じた。


「ありがとう、一緒に居てくれて」


そう言葉を残し、背を向けた。


《チーム〈TIS〉[杉田 素戔嗚] 死亡 > 樹枝 蒿里》



第五百二十七話「揺れる」

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