第五百二十五話
御伽学園戦闘病
第五百二十五話「再三」
「やはりお前はそっちだったか、蒿里」
「うん……ごめん」
「いや、最初から分かっていた。お前が学園側に付きたいという気持ちを持っているというのは」
「……ならなんで、佐須魔に言わなかったの」
「俺とお前は同じく強制加入者だ。だが俺と違う点がある。拒否権無く幾つもの能力を取り込む事を余儀なくされ、心はどうしてもTISになれなかった。前にも言ったかもしれないが、あまりに酷い仕打ちだとこの俺でも思う程だ」
「慈悲かけたって事…?」
「それ以外に無いだろう。気にするな、あくまでも俺の独断だ」
「……ありがとう。おかげで今ここで戦えてる……そんな感謝すべき相手に向けるのは悪いと思うけど、殺す」
「あぁ。俺も師匠が残してくれた力を使って、お前を殺す」
両者の仲は深い。蒿里にとってはTISの中で数少ない僅かな信頼を寄せている相手でもあるのだ。それでも学園を取りたい。最初からこうなるとは予測していた。ただ皆のおかげで革命時ではなく、大会中に寝返る事が出来た。
少しだが恩はある。ならどうやって返そうか。少し考え、ラックにも相談したがやはり意見は変わらなかった。素戔嗚は本気でやり合えばそれで良いと言ってくれるはずだ。
『オーディンの槍』
一本の槍を手に、始まる。
まず仕掛けたのは素戔嗚だった。唯刀 素戔嗚を手に距離を詰め、そのまま振りかざす。だが蒿里はオーディンの槍で防ぎ、反撃で蹴りを行う。
一応身体強化も使っておいたが大した手応えは感じられない。恐らく何の弊害も無いだろう。だが蹴れた事に意味がある。単純な攻撃でも通用する。
現在素戔嗚は村正を折られた事によって模倣の天仁 凱が出せない状態のはずだ。それならばまともな手札は呪と犬神、剣術、体術ぐらいだろう。蒿里のレパートリーの多さならばそれぐらい簡単にいなすどころか反撃だって楽々出来る。
少なくとも現状では負け筋は無い。
「前までの俺ならばこの時点で不利だと悟り、少し消極的な手を取っていただろう。だがもう違う」
『呪術・氣鎖酒』
蒿里はアルコール耐性がろくに無い筈なのでこれで少しでも隙が出来るはずだ。今の素戔嗚にとっては一秒に満たぬ隙でも充分な起点になる。絶対に出来るはずなので、見逃さない。
だが蒿里は既に対策を思いついていた。
『弐式-弐条.封包翠嵌』
カワセミが現れ、蒿里に接近し、何かを喰ってから飛び立って行った。
「封包翠嵌は能力によって発生した異常だって食べてくれる。隙は見せないよ、少しも」
「やはり術式は潰す必要がありそうだな」
まるで潰す術があるような言い草だ。一応警戒はするべきだが蒿里に通用すると思っている手ならそもそも防ぎようがない攻撃手段でしかないので無駄な気もする。
「一つ言っておこう蒿里、俺は躊躇うつもりも無いし、機を窺うつもりもない」
次の瞬間だった。
『降霊術・唱・犬神』
犬神が飛び出し、噛みつく。だがオーディンの槍を使う事で容易に退ける事が出来る。妙に簡単だったので陽動だとは気付いていたし、すぐに視線を素戔嗚の方に向ける。
すると素戔嗚は思い切り刀を突き出し、蒿里の喉元を狙って突撃して来ていた。すぐに上反射を使おうとしたが犬神が目を光らせておりそんなポンポンを唱える隙を見せる訳にもいかない。仕方が無いので無詠唱で使おうとしたのだが結構距離を詰められている。
ただしすぐに無詠唱で使用すれば間に合う距離感ではある。なので使おうとした。使ったはずだった。
「お前も理解はしていただろう、初見の技を防ぐ事は出来ないと」
伸びた、剣先が明らかに伸びている。実際目視で分かるのだが喉元には到達していないはずだ。それなのに血が出ているし、発動帯が破壊されたのが感覚として理解出来る。
それが何なのかはすぐに判明する。伸びたリーチの部分は霊力で補われている。そう、スサノオの霊力で。これが唯刀 素戔嗚の特殊能力の一つ。草薙の剣ではスサノオが自発的に動く故素戔嗚では扱えなかった。だがこの刀は主である素戔嗚が完全に操作するもの。刀迦も実力を認め、この効力がある刀を渡したのだ。
「まだ終わらないぞ」
封包翠嵌は破壊された。だがそれだけでは終わらない。能力は壊せるだけ壊しておく方が得だ。
刀をグリグリと押し付け、破壊していく。弐式は全て破壊されたし、壱式も筅は使えなくなった。他の術式もいくつか使えなくなったがそもそも戦闘で使える様な代物ではなかったので問題は無いだろう。
それよりも術式の位置がバレている事が一番の問題だ。蒿里はこういったケースも加味され、発動帯に収まっている能力の位置も変えられている。それは佐須魔と伽耶だけが知っているはずで素戔嗚が知っている訳がない。そもそも位置が変わっている事さえ気付けないはずだ。
「何で分かったの…」
刀を抜き、体力で止血を行っている最中にそう訊ねた。すると素戔嗚は良く分かっていないようで逆に質問してくる。
「どういう意味だ」
「だから何で…術式の場所、それも封包翠嵌の位置をピンポイントで当てれたの…」
「霊力が発されていたから分かった。それだけの事だぞ?」
まるで当たり前のように言っているが普通に考えてニンゲンの出来る事ではない。佐須魔レベルなら話は別だが、素戔嗚が出来るはずが無い。まさか感覚でそんな事が出来るならば相当な才能の持ち主と言う事になる。だが蒿里の会見としては素戔嗚には剣術以外の才能は何も無いはずだ。呪だって天仁 凱のコピーがいたから何とかなっただけであって、素戔嗚本人の才能ではないのだ。
「普通出来ないよそれ、凄いじゃん…」
「…そうか、蒿里に言われると、少し嬉しいな」
素戔嗚は少しだけ微笑んだがすぐに真顔に戻り、攻撃を再開する。距離を詰め斬ろうとするがやはりオーディンの槍で防がれてしまう。犬神の攻撃自体は通っているのだが、大したダメージソースとして活用出来ないぐらいの攻撃力だ。
だが封包翠嵌が使えないのだから氣鎖酒は通る。かと言って適当に使った場合無駄に手札を切ってしまうだけだ。これは証明されてはいないが身体強化使い大体が知っている事なのだが、身体強化中に酒を呑むとアルコール耐性がドンドン付いてしまうのだ。
故に氣鎖酒も一番最初が一番強く効くはずだ。
「……一つ聞かせてよ素戔嗚」
「何だ、戦闘中だぞ」
「何で私が選ばれたと思う?」
「実験体にか?」
「そう。何でだろうと思ってさ」
「…正直俺もそこまで踏み込むつもりは無かったから知らないが……恐らく、器の問題だろうな。魂を取り込める量と同じで能力を得るには限界がある。その器が大きかった、それだけの話なんだろう。当時のTISは結構見境なかったからな」
「そうだよね……そんな私にとって関係のない理由で…こうなったんだよね……」
「そうだな。それだけの理由だ」
「……でも感謝しなきゃね。ただ悲観的になってるだけじゃどうにもならないし。TISに入って、学園に潜入してなかったら皆と仲良くなる事も、今こんな風に戦える事も無かったんだし」
その時の蒿里の顔からは明確な成長を感じ取れた。何が何処までそう変えたのか、素戔嗚には到底分からない。だが蒿里なりに受け入れ、成長しようと思ったのだろう。
素戔嗚だってそうだった。少し前からそんな事を思い、努力を重ねたら以外と早く結果は付いてきた。だがそれは譽、刀迦、矢萩、佐須魔、智鷹を主軸とした仲間と色々な話を重ね、鑑みる事が出来たからだ。
蒿里が話した相手は誰なのだろうか。
「お前は誰と話したんだ」
「…?……主にラックだけど…皆だよ。エスケープの皆。ポメも含めて。他のチームの皆とも話そうと思ったんだけど…時間も無かったし、それ以上いらないかなって思ったから…」
「そうか。それだけで……やはりお前は今まで土台が整っていなかっただけ何だな……やはり、そうか」
何故だか少し悲しそうだ。
「そうだよ、私の方が強い。だからここで示すんだよ。本気出すから、行くよ」
「あぁ、来い」
「覚醒」
「覚醒」
両者同時の自己覚醒。
霊力濃度、約九割。そこに居る霊、犬神のみ。
第五百二十五話「再三」




