第五百二十話
御伽学園戦闘病
第五百二十話「大切な人」
來花はそれから非常に危険かつ刺激的な日々を送っていた。呪の実用化と知名度の向上である。誰かを助ける為に使える能力だとは思っていなかったが、京香と話して情報を集めて行く内に案外出来るのでは無いだろうかと思ったのだ。
まだ霊力操作を完璧に習得したぐらいなのだが、やはり才能は凄いようだ。二ヶ月で霊力操作、呪の基礎、術の三つは最低限覚える事が出来た。この時点で戦闘は出来るレベルだ。
「ねぇねぇ來花、一つ聞きたいんだけど能力ってどれぐらい知ってるの?」
今日も講義が終わった後來花の家に集まってダラダラと雑談をしている。そんな中で京香が零した一言だった。
「私はそこまで知らないぞ?何せ血の繋がっている両親が能力者だった、という事実を知るまで能力に関してそこまで興味が無かったからな」
「多分結構な良い家系だよね?能力って大体血が全てだし」
「そうなのか?正直私はほとんど分からないぞ、そこら辺」
「調べてみない?私滅茶苦茶興味あるよ!」
「まぁ良いが……まだ大学生活慣れてないだろ?それに私の特訓もあるし……時間と精神的余裕が……」
「大丈夫だよ。今まで私がどんな生活して来たか知らないっけ?」
「知らないぞ。逆に凄い過去でもあるのか?」
「あるよ、結構凄いのがね!」
少し誇らし気だ。別に聞いても良さそうなので訊ねてみた。すると京香は食い気味に話し出す。と言っても結構端的に、短めだ。時間が無い。
「簡単に言えば私も魔の手が忍び寄ってた時期があったの。大変だったけど私の降霊術でボコボコにしてやったけどね!……まぁその代わり、母親は死んじゃったけどね。お母さんは生きてるよ、兄弟はいない。結構寂しくなっちゃうだろうけど田舎に置いて来て私は大学です!」
「私も会ってみたいな」
少しボーっとしながら喋っていたが、少し考えると結構ヤバイ事を言ったような気がする。それは京香も理解しており少し目が泳いでおり、気まずそうな声色で訊いた。
「えっと……告白?」
「あ、いや違う。本当に違う。京香程強い能力者の親となると少し気になると言うだけだ……本当にそれだけだ!」
「別にそんな焦んないで良いって、分かってる分かってる」
楽しそうに笑っている。気恥ずかしいのだがいつも通り能力の訓練を始めた。
その途中である疑問に気付いた。それは基礎トレーニングである霊力操作をやってみたやっていた所なのだが、ポーっと見ていたらそこでおかしな所がある。
「あれ…來花って霊力の芯どこに置いてる?」
「芯とは何だ?」
「え!?分からないの!?」
「あ、あぁ……」
「えーっと……簡単に言うと霊力操作をする時に集める場所、って言うのか?皆感覚的にやるものだからな……多分なんだけどさ、來花って全体に均等に流すイメージじゃない?」
「そうだな」
「普通皆心臓とか、頭とか、喉とか、とにかく何処かを中心としてそこだけ少し多めに霊力集めるって言うのが基本なんだよね。何でそんな事するかって言うと全体へ均等に流すと逆に崩れるんだよ、霊力って。
実は霊力って流れる速度速すぎて全体に流してると巡らないの。だから一箇所に凝固させる感じで溜めて置く、それで感覚的に足りないと思ったらそこに流して補填する…って感じ」
「…?……?……??」
全く理解出来ていないようだ。京香は少し悩んだがまずはそこを鍛え抜くべきだと判断した。これは能力者誰もが感覚で出来るはずだ。それなのに來花は出来ていない。ろくに能力を使って来なかった弊害なのだろうと考えているが、少し引っかかる。詳しく考えすぎて來花に心配された。
「あぁ大丈夫、ちょっと色々考えてただけ……もう正直ね、來花に教える事ってほとんど無いんだよね。この芯って話以外。そもそも呪と降霊術ってだけで相当ベクトルが違うし、何より私は努力したけど來花は努力しなくてもドンドン強くなれるタイプだからね」
「そうなのか……もう教えてはくれないのか…」
しょぼんとしている。
「そんな顔しないでよ、こっちが悪いみたいじゃんか」
「いやすまない…だが唯一の友も死んでしまったから……話し相手がいないんだよ、京香以外に」
「だったら普通に話せば良くない?訓練関係なく」
「…良いのか?」
「逆に何でダメなの?」
「……いや、確かにそう言われれば…」
「むしろ私は普通に友達だと思ってたよ?」
微笑みながら覗き込んで来る。耐性が無い來花は目のやり場に困るし、どんな反応をすれば良いのかも分からない。一方京香はそんな反応を見て面白そうに笑っている。
「でも実際私も友達多い方では無いし、來花と一緒にいる時結構居心地良いから…まぁこれからもよろしくね」
「あぁ…こちらこそ、よろしく」
何となく気恥ずかしい空気のまま、その日は何ら変わりなく過ぎて行った。
そこからたった二ヶ月で來花は呪を大体扱えるようになった。京香の見込み通り教えずとも感覚的にドンドン強くなっていくので教えていたころの面影はほとんど無い。
だが二人は能力者という側面を持ちながらもほとんどただの友人と言う関係性を築いて行った。大学構内でも二人が一緒にいる姿は良く見られていたし、京香の友達数人は既に付き合っているとさえ感じる距離感だった。
「ちょっとさ、ここ行ってみたいんだよね」
食堂、昼食を済ませ少し休憩している時にあるチラシを指差して京香が言った。そこには北海道のある小さな旅館の情報が書いてあった。特殊な旅館と言うわけでも無く、ただただ小さな町の近くにある旅館と言うだけだった。
何故そこに行きたいのか訊ねてみたが少し言いたく無さそうだ。となれば能力関係だと察せられる。
「まぁ良いが…何故私に?」
「一緒に行こうよ」
「一緒にか?いやだが…流石に男女二人は…」
「別に良いでしょ。今更でしょ、普通に來花の家泊ってるよ?私」
「…そう言われたらそうか……それじゃあ行くか、少し気になって来たしな」
「よし、それじゃあ日程決めよ、今すぐ!」
妙に乗り気だ。それほどまでに面白い土地なのだろうか、そう思うと來花もワクワクして来た。二人は早速日程を決めた。二週間後の水曜日からだ。勿論講義はあるのだがちゃんと出席していたし、まだまだ大丈夫な時期なので普通にサボる。
そして何事もなく二週間が過ぎた。朝早くから駅に集まり、新幹線を使って移動する。
「そういえばまだ聞いてなかったな、どんな場所なんだ?」
京香はヒソヒソ声で説明し始めた。
「簡単に言えば能力者をそこまで嫌ってない土地」
「そんなのがあるのか?」
來花は知らないので驚いている。それもそのはず、能力者戦争の事すらほとんど知らないような状態なのだ。
なので京香が能力者戦争を大まかに説明し、特定の土地では能力者が勝って共存をしようとしたから印象が良くなり、それが今も引き継がれているのだと教え込む。
納得した來花は更に楽しみになって来た。普通に少し長めの旅行なので付近の街なども行ってみたいと考えていたし、これは相当楽しくなりそうだ。
「だが何で私を誘ったんだ?能力者関連だからか?」
「間違いじゃないけど……ちょっとだけ間違いかな……」
「どういう事だ?」
「長く住むには…そっちの方が良いでしょ…?」
目で訴えて来ている。大分アピールされているが何と返して良いのか分からない來花はただ頬を赤らめるしか出来なかった。だがそんな反応が返って来るだろうと思っていた京香は笑って誤魔化し、いつも通り雑談で時間を潰すのだった。
時間をかけて到着した。北海道だ。更に人気の無い場所へと移動する事になるのだが、ひとまずは札幌辺りで何か食べたい。そう思いながら移動しようとしたその時の事だった。
「來花…?」
ふと声をかけられる。声の主の方を見るとそこには初老の女が立っていた。見覚えはないし、何故声をかけられたのかも分からない。だがその女は嬉しそうに衝撃の発言をした。
「憶えてないかい?母さんだよ」
死んだはずの、母親であった。ここで知る事になる、最悪の事実を。そして十字架を背負う事にもなる、一生償えない罪を。
第五百二十話「大切な人」




