第五百十九話
御伽学園戦闘病
第五百十九話「力の在り方」
二人は土曜日が空いているとの事で集まる事とした。京香は実家暮らしなのであまり連れ込みたくないらしく、一人暮らしである來花の家に集まる事にした。
昼下がり、初めて異性を家に上げる事による緊張を何とかほぐしながらお茶を出す。軽く雑談をした後本題に入る。
「さて、本題に入りましょう。あなた多分ろくに能力使えないでしょ?」
「あぁ、使えない。使おうとも思っていないからな」
「そうね、じゃあ完全に才能なんだ。あなた結構強い、能力者の中でも上澄み」
「そんなにか?」
「うん。それで聞きたいんだけど、霊力とか霊力放出とかって…分かる?」
霊力は曖昧だがそれなりに分かっているつもりだ。対して霊力放出については聞いた事がある程度で全然分からない。そこで京香によって説明を受ける事になった。
結構長かったが説明が上手だったのもあってすぐに理解出来た。そして今からするのが霊力放出を一般人並みに抑える訓練だと言うのも文脈からして理解出来る。
「ここまで理解力が高い人ならそこまで時間はかからないと思う。今から私が言った事、真似してみて」
一から手取り足取り教えてもらった。二時間程かかってしまったが何とか霊力放出の操作を習得出来た。これで基本バレる事は無いだろう。
「さて、今日やる事終わっちゃったなー。私やる事無いし、居て良い?」
「自分は別に良いのだが…大丈夫なのか?変に疑われたり…」
「別に大丈夫大丈夫。友達って言えば良いだけだしね」
「それもそうだな、すまない」
「それより名前で呼んで良い?」
「良いぞ、好きにしてくれ」
「ありがと。そういえば來花って近くの大学の所の生徒でしょ?」
「そうだな。それがどうした?」
「私来年度から入学するの、先に言っておこうかなって思って」
「そうなのか。頭が良いんだな」
「まぁ一年遅いけどね、ちょっと浪人してたの。勉強が疎かになってた訳じゃないんだけど、去年色々あったんだよね」
「色々……聞いても良い大丈夫な話か?」
「うーん…」
京香は少し考えてから口を開いた。
「まぁ同じ能力者だし、遅かれ早かれ知る事になるだろうから、今言っとくよ」
そうして京香は去年起こった件に関して話し始めた。まとめると京香の能力である降霊術の師匠的な人が何者かによって殺害され、その犯人を追いかけていたらしい。結果として京香自身の手で復讐を果たしたがそいつが持っていた霊を取り込んだ事による身体的な障害が凄まじく、ここ最近までろくに動けていなかったとの事だ。
気分転換にリハビリも兼ねてランニングをしていたら來花を見かけ、霊力放出が明らかに多かったので声をかけたらしい。
「そうだったのか……凄い人生だな」
「まぁね。でもスッキリはしたし、これから華の大学生活だから、気負わず行くつもりだよ。まぁでも分からない事とか沢山あるだろうから、よろしくね!」
屈託の無い笑顔を見せつけられた來花は、惹かれた。
そこから二ヶ月が経った日の事だった。時は三月、もうそろそろ新入生がやって来て、來花本人の学年も上がる。当然留年等はしない。だが一つ懸念点がある、友人だ。ここ最近大学内で見かけない。食堂にもやって来ないし、他の友達と話している様子も無い。勇気を振り絞ってその人に話を聞いてみても見かけていないと言っている。
何かあったのだろうかと心配になって来た。
「後で行ってみるか…」
一応家を知っているので今日講義が終わり次第行ってみる事にした。もしかしたらサボっているだけかもしれないが、それでもたまには話しておきたいのだ。
すると最後の講義が終わった時だった。部屋で出て廊下を歩いている時話しかけられる。高校と思われる制服を着た可愛らしい女の子だ。
「翔馬 來花さん……ですか?」
「そうだ。君は誰だ?」
「私…[佐藤 流]の妹です…」
とても暗い表情で自己紹介をした。ここ最近見ていない友人の妹、確かに存在は知っていたが会うのは初めてだ。
「初めまして、それで何故ここに?」
「少しお話があります…私の家に、来てください…」
断れる雰囲気でも無いし、そもそも向かおうとしていたので素直に付いて行く事にした。当然友人の家だ。入って案内されたのはリビングだった。そこには友人の両親もいて妙な雰囲気を漂わせている。
「君が來花君か、申し訳ないな、急に呼び出して」
「いえ、それよりもどうしたんですか」
「…流がな……行方不明なんだ」
「え…」
「ここ数ヶ月大学に顔を出してはいなかったかい?」
「いえ、私も見ていなかったので今日訪ねようかと思っていた所…です」
「そうか…それはすまない。あいつはたまに連絡が取れなくなる時があってな。どうせ彼女とほっつき歩いているんだろうとばかり思っていたが……今回は遅すぎる。それで捜索願も出した…三日前に。そこで仲良くしていると聞いていた君を呼んでみたんだ……だが何も知らないのなら仕方が無い。すまなかったね、急に呼び出して。何か進捗があればまた…」
「私も協力しましょう。彼は大切な友人です、数少ない、大切な。そんな友人に危機が訪れていると言うのに何もしない訳にはいきません。些細な事しか出来ませんが、何卒」
頭を下げる。すると両親が慌てながら頭を上げる様説得した。
「ありがとう、本当にありがとう。それじゃあ一応、電話番号を教えておくよ」
家族全員の連絡先を受け取り、その日は解散した。帰っている最中はずっと記憶を掘り返していた。何処かに行くなどと言っていなかったか、行動に変化は無かったか、様々な事を辿ってみるが何も分からない。
困り果てながら公園のベンチに座ると隣に京香がやって来た。
「どうしたの?今日は走ってないみたいだけど」
「あぁ…京香か…」
とりあえず事情を話す。
「まぁ誘拐とかの線が妥当な考えだろうね。だけど一つ気になる事があるんだけど……何で今まで届を出してなかったの?」
「それはあいつが結構な頻度で消息を断つ期間があってな…私も知っていたんだが…」
「それがおかしいでしょ。一応他人である來花がそこまで干渉しないのはまだしも、親がそこに不干渉なのは絶対におかしい。しかも未成年、普通に考えて異常だと思わない?」
「確かに…そう言われれば…」
「ちょっと私も気になる。一旦來花の家で話そう」
「そうだな。行こう」
二人は來花の部屋で色々話した。出会い、今までの事、以前消息を断った際の話、今回消える直前の動向。やはり急すぎてろくな情報は得られなかった。だが少なくとも今からでも探すべきである事、そして京香も協力するべき事案である事という二つの結論は出た。
後者の理由を追及してもはぐらかされて聞かせてはくれなかったが、何らかの理由があるのだろうとひとまず無理矢理だが納得させた。
「とりあえず足が届く範囲で良い、無理はせず捜索しよう。少しでも時間は惜しいよ」
「そうだな。行こう」
早速動き始めた。
だがここら周囲を探したがやはりいなかった。ひとまず解散となり、明日の早朝から探す事になった。
次の日二人はいつもの公園に集まり、軽く準備運動をしてからそれぞれ探し出す事にした。今日は人気の無い所や少し危ない場所まで隅々洗いだす算段である。こまめに連絡を行い、両者が無事かつ何ら異変が無い事を伝え合っている。
捜索を始めて五時間後、もう少しで正午になる時だった。來花に電話で連絡が入る。今まではメールでの連絡だったので緊急事態だと感じすぐに出る。
『見つかった!』
『本当か!?何処だ!』
『森!大学の裏の!』
そこは大学の裏、と言っても少し離れた場所にある森だ。基本人が入る場所ではないので嫌な予感を覚えながらも全速力で向かう。ニ十分程かけてようやく到着した。
京香の元に駆け寄ると同時に絶句した。言葉が出ないし、体も動かないのだ。
「何故……」
いた、確かにいた。だが、死んでいた。首を吊っている死体だった。
「…警察には連絡した。多分すぐに来ると思う……そこでさ…一つ気になった事があって調べてみたの……」
あまり良くない事だとは承知の上で、少々触らせてもらったらしい。そこで判明した事、それは。
「彼、能力者っぽい」
まるで雷が直撃したかのような衝撃だった。そこで推察出来る、何があったのかなんて。何故なら彼の家系は紛れも無く、無能力者の血だからだ。
「…ふざけるなよ……クソ野郎が……」
あの顔を思い出し、物凄い怒りを覚えた。だが京香に止められる。
駆け付けた警察による質問責めを終え、一旦來花の家に帰る事にした。時刻は深夜一時、相当眠気も来ている。だがそれ以上に來花は様々な感情に押しつぶされそうでとてもじゃないが眠りたい気分ではなかった。
それを察したのか京香は眠い目を擦りながらも話しをする。
「大切だったんだね、彼が」
「あぁ…唯一の友達だったからな…」
「そっか……告発とかは、しないの?」
「証拠が無い。それにどうせバレる事だ、我々が追及する必要は無いだろう…」
疲れ切った様子だ。何と声をかけて良いか分からなくなった京香は黙ってしまった。すると來花がポツリと呟く。
「決めた」
「何を?」
「私はこの力を使わないと決めていた、里親にも秘密にしていたこの力を。だが今自覚した。あいつは能力者だった、それなのに隠して私に接触し、独りだった私と仲を深めてくれた。どんな事を思っていたかなんてもう分からない。
だが少なくとも、慈愛の意はあっただろう。そんな気持ちを持てるのは、強かったからだ。あいつは大人だった、強い奴だった……憧れてしまう……」
拳を強く握る。
「だが私は強くない、まだまだ未熟で子供だ。だがもう居ても立っても居られないんだ。だがそんな私にも幸いな事に尖った力がある、この、能力だ。
使う、私はこの能力を使って困っている人を助け出したい。使える力があるのなら、塞ぎ込まずに使いたい。誰かのために」
「…うん。私も協力するよ、何かあったら言ってね。絶対、助けるから」
「ありがとう。だが勉学は疎かにしないようにしよう、二人共な」
「そうね、これからもよろしく」
「あぁ。よろしく」
來花の力があれば救えた命だろう。だが恐れていた故に救えなかった。そうだ、もう理解者もいる。隠す必要など無いだろう。使うのだ、人のために。
それが私の、信念となるはずだった。
第五百十九話「力の在り方」




