第五百十七話
御伽学園戦闘病
第五百十七話「妖術」
スペラが出て来ると同時に來花も呼び出す。
『呪・自身像』
自身像がスペラを攻撃するため飛び立つ。だが流がそれは許さない。
『妖術・上風』
単純な風起こしである術、上風。だがおかしい、勢いが物凄い。今まで見て来た上風とはレベルが違うのだ。まるで戦嵐傷風でも浸かっているかの様な勢いなのだ。
自身像はその風に押されて吹っ飛んでしまう。來花が吹っ飛ばされる最中で腕を掴んだのでそこまで距離は離れなかったが思っていたより練度が高い。
ここで驚いた理由は一つ、何故妖術なのか。普通に考えて鍛えるべきなのは霊単体の力、本人の護衛術である人術、最強の手札である式神術の三択だろう。一番いらないと言っても過言では無い、あくまでサポート用に作られた妖術を、更にはその中でも場面調整でしか使われない上風の練度が高いのか。
攻略のヒントはそこにありそうだ。
「何故妖術の練度を…?」
「…そんな事も分からないのかよ」
流は憎悪を向ける。意味が良く分からない。妖術を鍛えるのはおかしいのだ、この戦況では。元々流の考えている事はあまり分からないのだが、今回は度が違う。命を懸け皆を守るはずなのにこんなふざけた行為に走ったのか、理解が出来ない。
そんな事を口にしただけなのにそこまで怒りを向けられる理由が全く分からない。訊ねてみようかとも思ったが流石にやめた方が良いだろう。
「まだ救いはあるかと思っていたけど……もう駄目だな、本気でムカつく」
次の瞬間流が追い風に乗って蹴りかかって来た。來花はそれなりに身体能力が高いので普通に受け止める事が出来る。どれだけ鍛えていようが來花は霊に近しいのでそこまで効かないのだ。
それどころか掴んでやったので反撃が出来る。自身像もそれを理解して鈴棒を振りかざす。それと同時に來花はサポートの一手を撃つ。
『呪・封』
こうすればスペラも止まるはずだ。そう思っていた。だが効かない、風も止まらない。それだけではなく自身像は右腕で軽々と吹っ飛ばした。想定以上の解決力、どうやって封を無効化したのかは分からないが何らかの対策を持って来ている。
故に姑息な戦法は通じない。単純にやり合う他無い、そうなると來花は一気に不利になってしまう。真正面での殴り合いはどうやっても流が勝つ。そこに呪が乗じる事でようやく対等になるレベルなのだ。
少し考え直す必要がありそうだ。
「ふむ……それならば」
『呪・富岳』
富士山の頂上に飛ばされる二人、何が起こったのかは大体理解した瞬間流は殴り掛かる。とんでもない速度で物凄い強さのパンチが繰り出される。來花はそれを避けたが反などが出来ない。簡単に言えばされるがまま。
「一度戻ろうか」
ゲートによって戻される。流は変わらず猛攻を押し付けている。來花はそれだけでも結構きついし、何処かで大きめの一撃をぶち込まないと普通に負けてしまう。
「まだ止めないか…ならば」
『呪詛 伽藍経典 八懐骨列』
流の体に十字の傷が刻まれる。通常のニンゲンならば絶対に死ぬ二度の斬撃、だが流は倒れない。まだ止まらず攻撃を行っている。ちゃんと血は出ているし、服も切れている。それなのに、それなのに止まらない。
異常だと理解する。今目の前にいる怪物はニンゲンなのにニンゲンの域を出ている。初めて見た、こんな奴は。一応レジェストの血族とはいえどもほとんど他人、來花だって呪の才能があっただけで他の術や能力に関しては一般人並みだ。勿論身体能力も。
だが息子であるはずの流はただの一般人と変わらないであろう身体能力が高い。
「硬い…」
「当たり前だろ、お前と本気でやり合うのに柔い体じゃ無理だろ。八懐骨列だけじゃない、呪は攻撃性が高いだろ」
「そうだな。だが、まだ甘い」
『呪術・羅針盤』
ただの羅針盤、回転する刃を容易に避ける流を狙い自身像が鈴棒をぶん投げる。ただ空中でも簡単に避ける術はある、スペラに協力を仰ぐのだ。スペラも相当硬いので足場に出来る。雀ならば空中でも自由に移動出来るので連携して回避するのだ。
ピッタリの連携で鈴棒を避け、今度は流が仕掛ける。スペラは來花に向けて突っ込みながら、流は着地と同時に走り出しながら唱える。
『妖術・上反射』
まずは上反射で対策。
『妖術・遠天』
スペラが遠天を放つ。向けたのは來花の右腕辺りだ。何故そこを狙ったのか、理由は一つ、神武を握っているのが見えたからだ。來花も理解していた、当然の事。
神武を手放すのは流石にダメなので絶対に離さない。そうすると問題が浮き出てくる。自身像は鈴棒をぶん投げたせいで拾うか再度召喚するまでろくに攻撃が出来ない無能状態。
実質來花一人なのに流がぶん殴ってくる。それだけじゃないし練度が異常に高い妖術が飛んで来ると来た、何か大きな一撃をここで入れる。そうでなくては、勝てない。
『呪詛…』
伽藍経典を撃とうとしたその時だった。すぐそこにいる流の背中に一人の影が見えた。それは守護霊、櫻 京香である事は理解している。だが少し違和感があった。知っているはずの京香の霊力ではなかった。何かが書き換えられている。
ずっと一緒にいたから瞬時に分かる。混ざっている、一匹の霊が。
「流お前まさか…!!」
「母さんは許可をくれたよ、お前を殺す為ならば何をしても良いって。だから僕は貰った、さっきだよ、薫先生からもらったんだ。こいつを」
流の手から少し顔を出す一匹の神話霊、白い頭を覗かせるそいつの名前は[白虎]。速度に全振りしているだけの雑魚だと知られていたはずなのだが、どうやってここまでの効力を発揮したのだろうか。
來花はその時ある会話を思い出した。
昔、京香とはまだ恋仲ではない能力者仲間の頃。
「私はまだろくに降霊術が使えない……京香はどうやってそこまで強くなったんだ?」
「うーん…そう質問されると結構難しいけどなー……簡単に言えば信頼かな」
「信頼?」
「來花って持ってるの干支神でしょ?その子達って結構意地張るタイプだからね、難しいかもしれないけど……基礎を基礎の域から脱する事が目標かな、まずは」
「基礎?」
「そう。例えば霊力操作、妖術、人術、他諸々。戦闘するにあたって絶対に知っておくべき事ってのがあるでしょ?それを皆基礎と呼んで発展させて行く。だけど私それが出来ないんだよね、ちょっと特殊な能力者だから。
でも何とかして強くなりたかったから基礎を基礎と考えないようにした。皆が当たり前だと思っている事を私の中ではとんでもなく凄い事だと仮定して鍛えていく」
「それがどういう結果に…」
「安直に例えるのなら"自信"ね。霊って言うのは基本宿主の精神状態を推し量る事が出来る。だからこそメンタル激強マンの方が有利に戦闘出来る。そしてその自信は特別な事が無ければ成功体験から作られて行く物。
自己肯定感を上げようってだけの話」
「ふむ…私はまず自分自身の強化に努めた方が良いと言う事か」
「そう言う事。何かあれば私が手伝ってあげるから、何でも言ってね!」
「あぁ…助かる。それならば早速で悪いのだが、妖術について教えて欲しい。正直存在価値が分からないのだ」
すると京香は誇らし気に言い放つ。
「妖術って言うのはサポートのために作られた術。だけど本領発揮はそこじゃない。妖術の使いどころは一つ、カモフラージュ」
カモフラージュ。
今の流の戦闘スタイルは京香と流を混ぜた物。故に知っている、妖術はカモフラージュに使うものだと。そして來花は思い出した、同時に理解する。カモフラージュのために強くしていたのだ。
そうなれば何を隠すのか。流ならば一択だろう。広範囲かつ高威力の術。
舞う、霊力が籠められた羽毛。
そうだ。
「死ね」
『流し櫻』
直撃。
第五百十七話「妖術」




