第五百十五話
御伽学園戦闘病
第五百十五話「崩」
兵助はターゲットである原から少し離れた所に飛ばされた。それは良いのだが問題が一つある、完全に調整が済んでいる訳では無い。だが佐須魔戦に兵助は必須だし、出来る限り原を早く倒す必要があるのだ。
そうなると未完成の状態で新たな戦術を見せる事になる。多分大丈夫だが万が一にでも失敗したらもう目も当てられない惨敗で終わるだろう。
それは避けなくてはならない。だが失敗する時はどう足掻いても失敗するだろう。もう人員もいないので誰かに任せる事も出来ない。それに完成しているかどうかは原と戦ってみないと分からないのだ。
「…まぁ、やるか」
覚悟を決めた。様々な物を背負っている。今エスケープで一番の責任を抱えているのは間違いなく兵助だ、ラックを差し置いてそこまで背負ったのにも理由がある。
それは生徒への償いに近い。元々兵助は起きた時から教師になる様薫や理事長辺りに圧をかけられていた。だが落ち着くまでは無職だった。それが良くなかった。もっと早くから教える側に周り、戦力の底上げに勤めていたら結果は変わっていたかもしれない。
そう思うと居ても立っても居られないのだ。故にここまで全力で挑んだ、干支組、突然変異体を引き入れたのもそれが理由だ。
「よく考えれば失敗だらけだったな……まぁでも、それも今日で終わりだ」
歩く。原の元まで。
夜風は心地よかった。真冬なのに妙に暖かく、だが涼しかった。丁度良い気温の中対面する。
「やぁ原」
「どうも」
「君も結構長い事生きてるよね。皆と接触したTISメンバーなのに最終決戦まで生きてる」
「そうですね。能力上当たり前の事ではあるんですが…そう簡単に死ぬと怒られちゃうので、佐須魔さんと霧に」
「体を改造出来るのは本当に厄介だ。でも僕は完封する術を持っている」
「……やるんですか?僕と」
「伝わらなかったか?」
「いえ、自分は鬼じゃないので確認してあげただけですよ。そちらから来るのなら、返り討ちにするだけです」
右手を光の剣に変形させる。それと同時に兵助も戦闘体勢に入った。
すぐに動き出す。兵助が距離を詰めてすぐさま殴り掛かった。だが原は軽くかわし、反撃を行う。迫る光の剣を見た兵助は怯む事無く左手を突き出した。
違和感は物凄いのだが原も止めない。このまま片手を持って行けるのならむしろ有利になれるからだ。別に何か考えがあったとしても兵助如きに負けるとは思っていない。
そう、簡単に言えば慢心だ。
「駄目だろ、油断しちゃ」
次の瞬間原の右腕が吹っ飛ぶ。何かに斬られたり、離された様な感覚でも無い。ただポロリと取れた。何が起こったのか理解出来ないがひとまず距離を取る。
すぐに状態を確認すると崩れ落ちるようにして壊れている。何か嫌な予感がする、明らかに術か能力的な何かだ。新たな戦術を取って来るとは容易に想像出来るが思っていたよりも積極的な様だ。
すぐに右手を生やす。結局これぐらいの攻撃ならノーダメージと変わらないのだ。
「まぁ生やして来るよね。でも着想は得てるんだよ、常に」
すると次の瞬間には右腕が再度取れた。それが何なのかは理解する。何らかの小さな攻撃が右腕に発生しているのだ、譽が絵梨花にやっていたように。
これでは満足に再生出来ない。やりようはあるが敵前で瞬時に再生する方法は無いと言っても良い。ここまでやれる兵助が簡単に逃がしてくれるとも思えない。想像以上に面倒な相手だ。
「何か新しい事はしてくるだろうと思っていましたが…結構好戦的何ですね、あなたも」
「そもそも戦う術を持っていないのにここに来るわけないだろ、何も持っていないんだったら時子や理事長の様に見ているさ」
「それもそうですね。にしても意外に冷静何ですね、元チームメンバーが二人も完全死を遂げたものですから薫のように怒りに憑りつかれたように挑んで来るものかと思っていたので」
「怒ってるよ、勿論。だけど僕は弱いから適当に戦っても絶対に勝てない。抑えるしかないんだよ、悔しいよ、友達の死すらもろくに向き合えない僕の弱さに」
その時の兵助の雰囲気は一段と尖っていた。原は少し面白くなりそうだと感じ、ちゃんと本気で戦う事にした。それに兵助を潰す事が出来ればTIS側の勝利は確実なものとなる、回復がろくに出来なくなるのだ、負けるはずがない。
「そうですよね。でも安心してくださいよ、そう遠くない内に、あなたも同じ所に行けるので」
兵助は魂を殺すか佐須魔に渡すよう命じられている。そして今現在佐須魔は戦闘中、礁蔽と戦っているので負けることは無いが何がおこるかは分からない。なのでもうここで魂ごと潰すつもりなのだ。
なので行けるだろう、翔子と兆波も同じ末路を辿ったのだ、兵助もそうなるに違いない。そう思いながらの発言だった。直後、原の首が崩壊する。
完全反射で作り変え、耐える。だがヤバかった、まるで剣のような崩壊を起こしていた。右腕の攻撃もそれなのだろう。
「崩壊系ですね。あくまでニンゲンの範疇のようですが……とりあえず、こうしておきますか」
何か対策を施したようだ。だが目に見えて変わった訳では無いので分からない。ひとまず攻撃してみないと分からない。兵助は距離を詰め、殴り掛かる。
その時点で触れる事が条件なのは丸わかりだ。いや、違う。思い出すと二回の攻撃はどちらも触れてはいなかった。一回目は光の剣に対して左手を突き出したタイミング、二回目はそもそも近付いてすらいなかった。
恐らくこれはブラフ。別の条件があり、それを隠すための行動なのだ。それならば何か似通った行動があるはずだ。共通点を一早く見つけ出すのだ。
「どうやら気付いたようだから教えてあげるよ、原。僕のこの力の条件は、触れる事だ」
意味が分からない。どちらも触れていなかったのに条件が触れる事だと言っている。もう分かる、嘘だ。少しでも意識を逸らさせるための妄言、聞く価値もない。
すぐに左手を使って攻撃を仕掛ける。両者の拳がぶつかり合ったその時、左手が吹っ飛んだ。本当に触れた瞬間の事だった。まるでその条件を決定づける様に、その瞬間。
「まさか本当に…」
「だから言ったじゃないか、触れるのが条件だって」
「いやいやおかしいでしょ。だって先程までの二回はどちらも直接触れていなかったはずですよ」
「そう見えていただけだよ…いや正確には違うか。そう記憶しているだけだよ」
「……どう言う事ですか」
「もうその事も忘れたかい?潜蟲 憶蝕だよ」
第五百十五話「崩」




