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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第五百十四話

御伽学園戦闘病

第五百十四話「フェリエンツ/ガーゴイルⅥ」


筅を受けながらも迷いなく進む、このまま戦っても両者にとって良いことは無いと判断した故の行動。これで負けても後悔は残らない、そう確信を持っているので出来る事。

アリスはそれが不気味に感じ、更に攻撃を追加しようとする。だがニアの眼を見ると蛇に睨まれた様な感覚に陥って一瞬だけ萎縮してしまった。その隙を突かれる。


「もう、これ以上戦わなくても…」


だがアリスは反するようにして殴り掛かる。筅を受けながらアリスの攻撃も受け止める。この時点でニアはボロボロなのだが、それでもまだ諦めない。目の前の勝敗よりも今後の将来を視野に入れているのだ。

アリスもそんな事は分かっている。大人しくニアの言う事を聞いた方が楽で、良い方向に行くのだろうと。だが引くに引けない時は誰にだって存在する、それが今なのだ。


「意地を張っても良い事が無いと言うのは分かっています…分かってはいますが今更変える事も出来ないんですよ。変えたいとあなたが本気で思うのなら、殺してください」


もうここまで行くと本当に変わらないのだろう。悟ったニアはその言葉を信じて一度殺す事にした。元々黄泉の国でやり直してもらうつもりだったので問題は無い。

いや、ある。ここで殺せるかどうかだ。殺せないと作戦は崩壊して、下手をしたら学園側の敗北に一直線で繋がる可能性がある。そんな相手を一人で殺し切れるのだろうか、今までの攻撃は何方かと言うとアリスがミスをしたからくらっていただけ、何らかの結果によって全力集中でもされたら勝てるビジョンは浮かばない。

僅差ではあるが、明確に差があるのだ。


「そこまで言うのなら…やりますよ」


それでも覚悟を決めて、動く。一瞬にして背後に回り込み殴り掛かる。アリスは完璧に反応し回し蹴りを繰り出した。避ける暇は無いのでくらいながらも殴る。

両者の攻撃が当たると同時にすぐさま距離を取り、傷を確認する。アリスは右の脇腹が、ニアは少しでも衝撃を受け止めようとした左手の骨が折れている。

結構痛いが止まっている時間は無い。すぐに次の攻撃を行う。今度は両者真正面から。速度だけで言えば互角、パワーも考慮するとアリスが勝つはずだ。だが今のニアには奉霊が憑いている。故に完全互角だ。


「やはり純粋に殴り合ってもらちが明きませんね。それなら、こうしましょう」


ニアが少しスパイスを加える。


『弐式-参条.鏡辿』


対象は当然アリス、時間制限を設けたのだ。アリスが尼魯幽壁を使えるのなら話は別なのだが、絶対に使いたくないはずだ。それは尼魯幽壁のあるデメリットにある。

勿論ただで効果を無くせる都合の良い代物ではない。一つ大きなデメリットが存在しており、発動する度に今後一生術式の効力が弱くなっていくのだ。

ニアは物理攻撃も可能だし、最悪半減程度にまで弱くなったとしても広域化で誤魔化しながら戦う事だって出来る。それに比べてアリスは術式がメインウエポンから外れると一気に戦力が低くなり、ニアとの勝負に勝てる確立はガクンと下がる。なので使えないのだ。

ただ鏡辿はくらったら尼魯幽壁か発動者が解除、または一度死ぬしかない。


「なら、こうするだけですよ」


アリスはこう予想した、ニアは時間を稼いで鏡辿でじわじわ死に追い込むのだろう、ならば全力で詰めて攻撃すれば何とかなるはずだ、と。

だがニアは動じずに迎撃する。予想外の行動なので少し対処が遅れる。普段よりも遅い回避、見逃すはずもなく、凄いパンチを腹部にくらい吹っ飛ばされた。

鏡辿のせいで元々壊れかけている体に全力パンチ、そろそろ限界だろう。これがどれだけ機械の範疇を越えた体であろうとも、限界は訪れる。


「…あと、一撃ですね…」


大きな一撃をくらったらもう死ぬ、それはニアも理解しており、躊躇などはしていない。何故ならニアも相当限界が近いからだ。優勢とは言ってもそれなりに攻撃を受けているし、降霊状態でも耐久度は対して変わっていない。あくまでこの奉霊達は術に対して強い効果を発揮してくれるだけなのだ。

だが勝ちは確信していた。もうアリスに負ける事は無い、そう思いながら一瞬で距離を詰める。完全に予測していたので拳を突き出すアリスだったが、ニアは途轍もない反射神経でそれをかわした。

ただ避けるので精一杯だったので次の手が出せない。追撃を行う。蹴り上げようとする、顎辺りを。


「そんなので…!」


だがニアは避けない。もろにくらい、気絶しそうになりながら思い切りアリスの服の襟を掴んだ。そして大きく勢いを付けて全力でおでことおでこをぶっつけた。

重い音が響くと同時に動きが止まる。二人共強い衝撃を受けたのでまともに動けない状態なのだ。だがもうここで、勝負は決まる。拳と言葉で。


「結構…ワイルドですね……」


「まぁ…これが最適解だと思ったので……どうですか、気分は」


「良い筈がないでしょう、くらくらしてますよ」


「そうですか……もう、終わりにしましょう」


「えぇ…そうですね」


元々背水の陣のせいで疲れていたのも相まって限界だ。あと一撃、避ける事はせず、ただどちらが速いのかを競う。

構える。合図はいらない。ただ自分のタイミングで一歩踏み出すだけだ。

次の瞬間、踏み出した。同時タイミング、目で見れるはずもない超速で一撃が放たれた。まるで真剣勝負でもしたかのように立ち尽くす。崩れることは無い、ただアリスがゆっくりと腹部に手を当てるだけだった。


「ずるいですよ……奉霊(それ)は……」


ニアのリーチが明らかに長かった。それはちょっとしたズルをしたからだ。霊が体から出る動きを途中で止め、あたかも体から生えて来たかのようにする一種の技術。使い所などほとんど無いのだが、ここでは有効だった。


「こうでもしないと、勝てないですから」


リーチを伸ばし、手を掴んだ。その後フリーになった腹部に思い切りパンチをぶち込む。そうすれば勝ちだ。

アリスの体には穴が出来た。もう修復も、生命活動の維持も不可能だ。負けだ。少々卑怯な手だとも思ったがそこまで本気になってくれたと考えればそこまで気にならない。

ただ向き合い、最期にほんの少しだけ話しておく。


「私の負けですね…最後に伝えておきたい事があります……」


「良いですよ」


「恐らくニアちゃんは起こされます……あなたの力が必要とされる……だからその時で良いです…絶対に会う事になりますから……紀太さんに伝えてください……待っています、必ず来てください、と……」


前半の意味が分からなかったが多分その内嫌でも分かる事なのだろう。了承する。


「分かりました。必ずや」


「ありがとうございます…」


アリスはヒョロヒョロとした足取りでニアの方に歩み寄ってくる。少し警戒しながらも明らかに戦闘の意思が消えているのを見て大丈夫だとも思っている。


「頑張って…」


しゃがれ、弱弱しい声色でそう言いながら、最後にニアに抱き着き、目を閉じた。


「はい、勿論」


ニアも軽く抱き返してから、その場にアリスを寝かせた。


「行ってきます」


《チーム〈TIS〉[アリス・ガーゴイル・ロッド] 死亡 > ニア・フェリエンツ》



第五百十四話「フェリエンツ/ガーゴイルⅥ」

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