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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第五百十三話

御伽学園戦闘病

第五百十三話「フェリエンツ/ガーゴイルⅤ」


ずっと前の事だ。曖昧なレベルの前の事、記憶を遡るとふと湧き上がってくる感情。憎悪でも無いし、憤怒でもない。ただただ虚無、これから先を考えた結果に編み出した負の感情。

ベッドの上でただ絶望するだけの毎日。神からの侮辱だと、そんな風にも思った。だがそんな絶望はとある日を境に破壊され、求めてはいなかったが楽しい日々へと変化した。



それは夜、真夜中の病室。寒い冬の日の事だった。扉が開く、冷風を浴びて目を覚ますとそこにいたのは長い黒髪を風に任せながら、隙間から瞳を覗かせた男だった。

ここは三階、簡単にこれる場所ではない。


「…やぁ」


優しい声に聞こえたが、そんな事は無かった。感じ取れる、私利私欲に塗れた嫌な人種だ。


「……」


「起こしちゃった悪いね。だけど提案があるんだ。僕らの組織に来ないかい?」


無表情で顔を見つめるだけ、言葉は出さない。


「……まぁ分かるよ、そういう気持ち。君が末期癌だって事ぐらい知っている…」


すると男は両頬に手を添え、目を見つめて恍惚としながら言う。


「だけど君は綺麗だ、その眼に秘めた何かが、必ず僕らに利を与えると解る。だからおいで、悪い様にはしないよ」


まるで屍、アクションは無い。すると男は察したようで微笑みながら条件を提示した。


「勿論無理にとは言わない。だけどこちらからも報酬は用意するよ。機械の体だ。全体を完治させる事は出来ない、だから首から上だけを治す。残りの体はもう取り換えだ、そうすれば治るよ、君の(それ)も」


一瞬目に光が映ったように感じた。


「本当に…?」


ここでようやく口を開く。


「当然さ。僕は嘘をつかないんだよ」


迷う。だが家族はもういないし、何か思い残した事がある訳でも無い、たった一人を除いて。別に好きな訳では無いがお金を出してくれた、見ず知らずの少女のために。なので何とかしてあげたい、救われたいという気持ちと共にそうも思った。

なので提案してみる。


「行きたいです」


「良かった、それなら…」


「ただ、もう一人連れて行ってください…」


「その人によるかな」


「この病院にいます…多分…」


「分かった。僕が探してきてあげる。それと名乗ってなかったね。僕は[南那嘴 智鷹]、よろしく」


「[アリス・ガーゴイル]です。よろしくお願いします」


「それで、連れて行きたいってのは誰だい?」


「[久留枝 紀太]という男の子です。私より少し年下の…」


「分かった。その子は能力者かい?」


「はい、私にだけ教えてくれました。色々いけない事をしているとも…」


「おっけー、それじゃあ行って来る。君はこれから本拠地に送られるから、説明を受けながら、改造してもらってね」


次の瞬間少し落下するような感覚を覚え、景色が変わった。研究室のような所にあるベッドに寝かされている。そしてすぐ傍には緑髪の白衣を着た女がいる。そいつは気味の悪い笑みを浮かべながらメスを手に取り、説明する。


「どうも~、[霧島 伽耶]です~。今からあなたの体を改造していくので、よろしくお願いします~」


「あの…どうやってやるんですか」


「簡単に言えば首と胴体を分けて、機械とガッチャンコするだけでよ~。安心してください、成功率は十割です~」


「…分かりました。よろしくお願いします」


身を任せ、目を閉じた。

すぐに麻酔が効いて、視界が真っ暗になった。



反するようにして満ちる光。どうやら走馬灯を見たらしい。死ねる、そんな事分かっている。体の全身が脳へと危険信号を急速で伝える。だがそんな事考えずとも分かっている。

面倒な体だ、ほとんど普通の状態と変わらないと言ってもこういう時にウザったい程危険信号を出して来る。だがそれもまた一興、この状況を打開する術は無いので無理矢理耐えるしかない。

光が明ける。ニアの上反射も止まった。


「……ズルいじゃないですか…私には…一匹も憑いていないというのに……」


左眼は潰れた、それ以外は何とかなったが結構な重症だ。それでも立っているし、喋りながら警戒も出来る。流石人外レベルのパワーの持ち主と言った所だろう。

ニアはまだ死なない事に少々驚きながらも次の一手を考えるため時間を稼ぐ。


「初代が私達学園側の能力者なので、仕方が無い事です。ですが私は最大限利用して勝ちを掴み取ります、そうでもしなくちゃ、勝てないから」


「そうですね…私は強いですから……だけど…ニアちゃんの方が……強いですよ…」


膝をつく。もうまともに立つ事も出来ない。上反射の効力が高すぎたのだ。


「私はこの数年間で戦いに生きるのも悪くないと思いました。でもやっぱり捨てられなかったんです、今までの楽しい日々が。でもそれを取り戻すには力が必要。

平穏を得る為に戦う、意味が分からないです…でも仕方無い事だと割り切ったら楽になりました。だからあそこまで無茶苦茶をして、色々な人に迷惑をかけました……でもエスケープチームの皆さんと話して確信したんです、やはり戦いなんてしなくても良いと。

……だからアリス(あなた)も…」


何とか言葉で丸め込もうとしたその時の事だった、アリスが眼前に迫る。物凄い気迫と怒りを露わにしながら。殴り掛かって来たので避けたが勢いと力強さが増していた。明らかに何かおかしい。能力者ではないので覚醒などは出来ないはずだ、となると戦闘病なのだが発症しているようにも見えない。

するとアリスが言葉を発する。


「やめてください…私はもう決めたんです、戦闘しかしないと。だから今ここで戦っているんです……そんな夢物語みたいな世界を…今更教えないでくださいよ……」


明らかに声が震えている。そこでニアはようやく理解した。アリスは自分自身が喜んでこの世界に飛び込んだ、そう思いたいだけなのだと。最初はただ希望に縋っただけだった。癌が治るという希望に。

だが天国と同時に地獄がアリスを挟み込んだ。あまりに無情だが対価は必要なのだ、アリスもそれは理解していたはずだ。もう引けないのだ、逃げる事が許されない所まで踏み込んでしまった。

だから現実逃避のようにして戦闘をしていた、忘れるために。


「良いじゃないですか、今更なんて事はありませんよ。罪は背負っているかもしれませんが、それを解消するための地獄でしょう?あなたが思っている以上に道は多いです!なので今からでも一緒に…」


再度殴り掛かって来る。だがニアはその拳を両手を使って受け止めた。まだ余地はある、押し切れそうだ。


「もうやめてください!!これ以上戦っても何の意味も無いでしょう!?」


「無いかもしれないけど…私はこうやって生きると決めたのです…もう、変えられないって知ってるから…」


更に攻撃を速める。ニアも受け止めるだけで精一杯、上反射を使ってしまうと何も変えられずただ殺すだけになってしまう。救いたいのだ、ただ殺したいわけでは無い、そんなつもりでここまでやって来たつもりは無い。

ずっと憧れて、追い越そうとして、無理だった。そんな凄いアリスをこんな風に失うなんてごめんだ。なので意地でも考えを帰る子とはしない、何としてでも説得する。


「もう、終わりにする」


アリスは全てを払ってでも終わらせると決意した。ここで、迷いの元凶であるニアを殺す。嫌だが仕方が無いのだ、いつもそうやって、割り切って来た。

放つ。


『壱式-壱条.筅』


ニアは、避けない。

ただゆっくりと、アリスの方に足を伸ばす。



第五百十三話「フェリエンツ/ガーゴイルⅤ」

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