第五百十二話
御伽学園戦闘病
第五百十二話「フェリエンツ/ガーゴイルⅣ」
黄泉の国に一度出向いた際に初代ロッドと話をした。そこでニアはある情報を得る。それはアリスに対する情報でもあり、術式の根幹の話でもある。
二人は向かい合うようにして卓を囲んでおり、その部屋には二人以外誰もいない。聞かれたくないからだ。切り出したのは初代ロッドだった。
「悪いわね、引き留めて」
「いえ、良いのですが何の用ですか」
「あなたアリスと戦うつもり何でしょ?」
「はい」
「私はあんまり悪い事って好きじゃないのよね、だから何方かと言うとあなたに協力しようと思ってる。だからある情報を…」
するとニアが遮った。
「おかしいですよ、あなたは生前どちらかというとTIS側の人間だったはずです」
だが初代は微笑みながら余裕そうな顔を見せつけた後に応える。
「正義っていのはその時代、情勢で変わるものよ。私達の時代は状況が違った。確かに能力者は迫害を受けていたけどこんな表立ってされる事はなかった。今は違う、暴力で何かを変える時代じゃなくなった。
もう力を私的に利用するのは駄目よ、暴徒を抑えて、誰かを守るために使わなくちゃ」
どうしても微妙に納得が出来なかった。だが意味自体は分からないでもない、腑に落ちないだけだ。それなら初代がニアに付くのもおかしいとは言えないだろう。
「それで話戻すけど……恐らくアリスは壱式を全部覚えてると思うの。全部強いから一応相伝されてるし」
「壱式を…」
「でもね、術式って全部弱点があるのよ、仮想のマモリビトが対処出来る範疇にしろって言う制約のせい。だから全部何かしらの対処法が出来てる。ただしニンゲンに出来る技ではないと思うわ」
「…」
「でも他の術を使って同じ様な事をして、打ち消す事自体は出来る。だから今日ここで教え込む。おいで」
ロッドがそう言うと首元に一匹の蛇が絡み付いた。そいつは一瞬ニアの事を警戒していたがロッドの者だと分かると優しい表情に戻った。
「[蛇鋼]、術を結構覚えてる奉霊。今からあなたの中にぶち込む」
「…え?」
「簡単に言えば常時降霊状態にする。そうすれば蛇鋼が持っている術を使えるようになるから」
「…分かりました」
「それじゃあ後でやるから先に壱式の説明、そして対策用の術を教えておくね」
そう言ってロッドは説明を始めた。
「まず壱条、筅。のれんに似た布が何枚か付いた傘の様な物が出現して、体を切り刻む。単純に斬撃で言えば術式の中で一番火力が出る、対策は簡単。上反射で良い。これは簡単な部類ね。
次に弐条……あ、言えない」
「何故?」
「これ口に出したら問答無用で効果が出ちゃうの、口で伝える事が物理的に出来ない……紙でやろ」
ロッドは紙に術の名前と効果を書き、見せた。ニアはその術の凶悪さに震えそうになったが抑え、すぐに聞こうとするが口を塞がれる。
「どれが条件になるか分からない、仮想にそうされた。だから言及しないで。この術の対策は今やってる"これ"、言わせない事ただ一つ。アリスも習得してるだろうから本当に気を付けてね。多分術式でトドメを刺されるのならこれだから」
「分かりました、気を付けます」
確かにこの術ならば簡単に殺されるだろう。それに対処法も原始的かつ非常に難易度が高い。ロッドの言い草からしても壱式の中で最も強い術は弐条のこれなのだろう。頭に叩き込んだと同時に復元出来ないようビリビリに破き、破片を適当に捨てておいた。
「さて次、参条、交朱丁鰐。これはどっちかと言うと降霊術に近いわね。そもそも強い鰐の奉霊を活かすのに単純な詠唱じゃ無理だと判断して編み出した術式なの。まぁ正直な所あまり気にしなくていいわ、その肝心な鰐がもう死んでて完全に無用の長物と化してるから。
ただ相手はTIS、何をしてくるか分かったもんじゃないから一応教えておく。対策は一つ、体力か霊力をその霊に注ぎ込むだけ。そうすればバランスが崩れて保っていられ無くなる。結構難しいけど…慣れれば楽な部類よ」
「参考程度に聞いておきますがその霊というのは…」
「名前は伏せるわ、色々あったの。でも凄い勇敢で従順だったわ。凄いお気に入りだった。彼が死んでいなかったら奉霊の長は"白煙"ではなかった、そう断言出来る程よ。ね、蛇鋼」
蛇鋼は「うんうん」と言いたげに頷いている。どうやら滅茶苦茶に強い鰐だったようだ。今もう見れないのは少々残念だがむしろ敵として戦う必要が無いのならありがたいのかもしれない。
そして最後の説明に入る。
「さて最後よ、壱式は肆条までしかないからね」
「少ないですね」
「まぁね、これ以上強いのは全部零式だし、零式は神以外基本的に防ぐ術を持ってないから教えるだけ無駄なのよ」
「そうですか…」
「それじゃあ最後、手屠魂鳳。これは黒い手が直接心臓を狙って来る。壊したりして撃退、何て単純な手は通じない。一生追いかけて来る。だけどね、ちゃんと対策はあるの。そのための蛇鋼」
対策の術があるようだ。そしてその説明に入る。
「その対策が肆式-壱条.尼魯幽壁って術式。これ両盡耿と同じ式に入る程強い術じゃないのよね、だけど伝えて欲しいからまるで強い術みたいに扱ってた。効果は単純、リセットよ。
術式による追加効果、永続効果、面倒な仕様諸々を全部無にする事が出来る。しかも霊力消費はほとんどない、そう、手屠魂鳳も完全に無効に出来るの」
「逆に言うと全部を消せる程の力が無いと対策は不可能何ですね」
「そうよ、それぐらいには壱式は全部強いわ。インフレーションが進む現代でも全然一線級の術ばっかりだからね。それを生み出した私も強いって事!」
「まぁそれは認めますし大変ありがたいです。ただ今回の話題とはほんの少し逸れるのですが…一つ聞いても良いですか」
「別に良いわよ」
「アリスに勝つにはどうしたら良いのでしょうか。私自身のフィジカル面の問題はこの際置いておきます、即興でどうにかなるような事でも無いので。ただ今のままだと勝てるビジョンがどうしても浮かばないんです。何かアドバイスを頂ければ…」
「そうね…」
ロッドは少し考えた後にあるアドバイスを授けた。
「そこまで実力に差は無いと思う。けど今のままじゃニアが負けるのも事実。だから私からはこうアドバイスしておくわ、全力でやりなさい。全てを出し切る気持ちで、後先考えず、ぶち込んでやるのよ!そうすれば、勝てる」
伸びる黒い手、それに反するようにしてある霊力が全てをかき消した。アリスが驚く間も与えず距離を詰め殴り掛かる。反応が遅れたアリスは吹っ飛ばされ、その際中も攻撃を与えられる。物凄い距離を巻き込みながら移動していく。
島全体に響き渡る轟音は皆アリスが起こしているものだと考えていた。いや正確には間違っていないのだが、アリスは受動的に起こしているだけ。抵抗が出来ない。
「なぜ…」
力が強い、明らかに強い。アリスと同等ぐらいだ。急激に強くなった、尼魯幽壁を使ってから。そこで気付く、霊力の変化。何かが混じっている、ニアとは違う霊力が。
それが奉霊の物だと気付くや否やアリスは怒りを露わにしながら放つ。
『肆式-弐条.両盡耿』
自爆覚悟、だがニアはそれを待っていた。術式での返答ではない、ただ単純に、妖術で返す。それが可能なのだ、蛇鋼が実質的な降霊状態なのだから。
そして放つのは上反射。妖術は基本サポートの術として用いられるのでそこまで火力が出る物はない、はずだった。
だがそれは発動者と、その時出している契約済みの霊によって質が大きく変化する。よく考えれば分かるはずだ、アリスに憑いていないのなら今憑く対象はただ一人だろう。
「皆さん、お願いします」
たった一つではない、今大会で出て来た奉霊の全てがニアに混ざっている。そんな状態で放たれる上反射、両盡耿は止められない。自爆、他者を巻き込む事無く、アリスの視界は光に満たされた。
第五百十二話「フェリエンツ/ガーゴイルⅣ」




