第五百十話
御伽学園戦闘病
第五百十話「即座必殺」
最終決戦が始まる頃の事、仮想世界では本当に珍しくある事が起こっていた。それは仮想の王こと仮想のマモリビトの元に住人が集められていたのだ。寝巻男は眠気が限界だったのと、ペットの青年は薫に殺され長い復活期間中なのでいない。
だがそれ以外の住人は全員いる。玉座の前に跪かされ、説明を受ける。
「は~いようこそ~。まぁ今日集めた理由は一つ、折角お気に入りの世界で終焉か革命かの選択肢が迫られる日、結構皆の弟子というか子分もいるだろうから、全員で見ようね~」
仮想の王は妙にフランクに、楽しそうにしながらいつぞやのラックのようにスクリーンが設置してある舞台を容易した。住人達は各々好きな席に座り、鑑賞する。その中でも一層ワクワクしているのは仮想の堕天使と仮想の少年だ。
二人はそれぞれニアとアリスの担当だったのでどちらが勝つのか楽しみなのだ。ちょっとした賭けもしてみた。どちらが勝つかは予想が出来ないので一応賭けとしては成立している。
「どっちが勝つかなー」
「まぁ俺としては一応弟子的な存在であるニアに勝って欲しいが…」
「分からないよねー。どっちも感情的だし、ヒステリックってかは感受性が高い感じだけど」
「変な決着になる可能性もあるからな、とりあえず他の所はどんな感じだろうな?」
「私はちょっと…漆君が心配…」
堕天使の隣に座っている仮想の天使はそう呟いた。漆の担当であった天使としては当然の反応、だが堕天使からするとまるで馬鹿みたいだ。
「いや大丈夫だろ、羽根持たせてたんだろ?精神力も多少なりとも強くなるんだから、どうせ生き残って何かして楽しませてくれるだろ。お前の弟子ならこっちとしても心配は無いぜ?」
「そうだけど…」
天使は複雑そうな顔をしながら無理矢理納得した。
「私のお薬、役に立ったんでしょうか…」
隅っこの席で縮こまっている魔女は何故だか隣に座って来た病人に訊ねた。すると病人はスクリーンから目を離さず、適当に返答した。
「まぁ立ったんだろ、そうじゃなかったらあそこまで戦えなかったしなー」
「それなら良かったですけど…」
嬉しいが不安、そんな感情だった。他の住人達もそれぞれ適当に会話をしながら観戦している。王は膝に双子鬼を乗せながら楽しそうに眺めている。
「意外、この世界好きなんだ」
二つ分離した席に座っている喰われ人が話をふっかけてくる。
「まぁね、私が一番最初に作った世界なんだよ、これが」
「……それがこんな有様…統治は力だけ与えたコピーと呼んで良いかも分からないような存在に任せて、面白くなってきたら急激に干渉する…超厄介者じゃない」
「そうかもね、でも私はそういう神だから。嫌な死んでも良いよ?」
そう言いながら何処か本能が騒めく笑みを喰われ人に向けた。だが慣れているので動じずに断り、スクリーンに目を向ける。現在最終戦が始まる直前、そこで喰われ人は少し気になった事があったので神に訊ねてみる事にした。
「何でここまでインフレを許したの?私と病人と寝巻が居た世界ではここまで無秩序に成長していなかった気がするんだけど」
「言ったじゃん、最初に作った世界だって。不完全が完全になる、だから皆で見るんだよ。こういう瞬間が、一番面白い」
神は目を輝かせていた。それが妙に気持ち悪かったが、何処か嬉しくもあった。ひとまず状況を確認する。早速戦闘が始まりそうになっている。
そんなタイミングだった。舞台を破壊するようにして一人の男が乱入してくる。死んだはずの男、魂までも破壊され、この世に存在する事が許されなくなったはずの青年。
「あれ~?何で君がいるの、宗太郎」
「鷹拝が完全に死んではいないからだ。分かるだろ」
「…まぁそっか、霊力が消えればいなくなるでしょ。最後だけ見る?別に私は…」
「違う、教えろよ、反体力について」
神の目つきが変わる。無邪気さを放り投げ、今までの嫌な顔に様変わりだ。だが宗太郎は構わずに話を進めようとする、それもそのはず、もう時間が無い。
鷹拝は死にかけ、仮想世界換算で後二分も持てば良い所なのだ。その時間内に知り、活用する必要がある。宗太郎は知っていた、現状のエスケープチームでは佐須魔に勝てないと。
なので協力するのだ、宗太郎はあくまでも学園側の能力者のつもりだ。どれだけ迷惑をかけようとも、その意思だけは曲げる事は無い。
「だけど反体力を知って何になるのさ。正円が覚えている事が全てだよ、ニンゲンが知れる反体力の活用法は」
「違う、僕が知りたいのはそこじゃない。反体力の生成でも活用でも無い。教えろよ、"流れ"について」
「…反体力は霊力や体力と同じ様に体を巡る際に特定の挙動がある、とでも言いたいのかい?」
「ほとんど答えだろ、分かってるなら教えろ、簡潔に」
「良いよ。霊力と同じ。自分で動かそうと思えば動かせるし、特定の位置だけに纏わせることも出来る」
「信じるからな。それが答えだって」
「好きにしなよ、私はあくまで面白いと考えた選択肢を取るだけだから。それよりももう終わったんでしょ?最期ぐらい見て行きなよ」
「……それもそうだな」
宗太郎は喰われ人の隣、神からは離れた席に座った。
感じられる、今その場には完全死をした能力者が全員揃っているのだ。魂だけかもしれない、精神だけかもしれない。だが数十年、または十数年という短い生涯の根底に根付くTISとの戦いが終わるこの日この時、皆黙って見守るだろう。
この場にいる誰もは理解していた、どちらがか勝つのかは。それは現世の者達とはかけ離れた予想だった。
現世の者達は絶望していた。一番強い教師達が敗北した事で学園は完敗したのだとばかり思い込んでいた、これで人類は終わりなのだと悲観的になっている奴らばかりだった。
だがそんな心配は無用なのだ。何故なら今から戦うのは他の誰でも無いエスケープチームなのだから。
そしてそんな最終決戦で一番最初に接敵した人物、それは一番弱い奴だった。
「良かったやん佐須魔、リーダーとリーダー、最後の最初には丁度ええやろ」
「そうかな?そうかもね、でも思い知ると思うよ。お前は無力だ。もう僕に敵はいない。ここで終わらせよう、礁蔽」
「ほな、行くで」
小さな南京錠を左手に、右手にはネックレスにしている鍵を手にして、戦闘が始まった。
両者一撃目から譲ろうとしない。だが先に撃ったのは礁蔽だった。避ける暇も与えない、避ける事さえ許さない、何もさせない、即座に放たれる、謂わば必殺。
『開錠』
礁蔽が生み出した最初で最後の詠唱文言である。
第五百十話「即座必殺」




