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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第五百六話

御伽学園戦闘病

第五百六話「布都御魂(ふつのみたまのつ)(るぎ) (あらため)


手に取ったそ刀には全くと言っていい程霊力が籠っていなかった。だが何だか胸がざわめくし、それなりに凄い物だと言うのは見れば分かる。問題はその効果にある、薫の式神、恐らくとんでもない性能のはずだ。

花月中なので破壊は不可能、戦闘が終わるまでに何回か効果を受ける事になりそうなので常に警戒しつつ、髭切で応戦しよう。それに身体強化も戻って来たのでやれる。


「自発的に動かない式神、今の所見たないね。面白そうだ」


ひとまず先に仕掛けたのは佐須魔だった。いきなり詰めてこない時点でそれなりに受け身で行きたいのだろう、ならば乗ってやる方が良い。膠着して増援や新たな結界などが張られると面倒だ。

すぐにでも効果は判明させ、優位を取る。


「そう来るだろうな、お前の事だ」


薫はかかってくる髭切に合わせるようにして布都御魂(ふつのみたまのつ)(るぎ) (あらため)を動かす。その瞬間だった、唐突にして刀から霊力が溢れる。まるで跡を作り上げるかのようにしてゆっくりと、明らかに"白"という色が付いた霊力が、軌道をなぞる。

佐須魔はそれが本当に剣の動きだと思い、回避行動を取った。首元を狙っていたので反るようにしてよけたはずなのだが、次の瞬間には胴体が斬られていた。

幸いな事に身体強化のおかげで切断はされなかったが、結構深く斬られたし、明らかにおかしい事に気付いた。これが布都御魂(ふつのみたまのつ)(るぎ) (あらため)の力なのだろう。


「へー、視線誘導か。弱くは無いけど、式神として扱うにはパンチが足りなさすぎるよ薫。もっと良い式神が作れたんじゃない?」


まるでへでも無いような余裕綽々の笑顔を見せつけ、そう煽ってみた。すると薫は以外にもしっかりと応えてくれた。


「ちゃんと考えろよ、普通に考えて俺がそこまで考慮してない訳が無いだろ。こいつを形どったのは花月を作り終えた後、お前を殺すための式神なんだよ。言いたい事、分かるよな」


「まだ不思議な力があるんだろうなって言うのは分かるけど……どうせしょうもない力だろ?僕が特段気にかける必要は…」


「無かったらこんな風に見せつけるように使わねぇよ」


再度斬りかかって来る。佐須魔は髭切で適当にかわしながら再度明白な霊力が出て来るのを待つ。あと二回程ならくらっても大して支障は無いので解明する。この霊力について。

今分かる習性として一つ、あの霊力は幻覚に近いのだが少し違う。あからさまに意識を持って行くように作られている。

新たなエネルギーとして見るのが良いのだろうが、何だか引っかかる。霊力だとすると一つおかしい点があるのだ、どう作られたのかという所にある。

霊力は能力発動帯による体力からの変換と、僅かに発生する自然な物しか発生しないはずなのだ。それ以外は何百年も発見されていなしい、絡新婦やラックでさえ言及していない。故に存在していないのだろう。

そうなると媒介はあの刀身自体なのかもしれない。とすると刀身に秘密があるようだ。少なくともギアルではない事は判明している。ギアルは霊力を吸収する金属であり、放出は特殊な加工をしなくては不可能だからだ。


「……(ラーケンス)と近い感じかな…」


やはり幻覚か何かと考えるのが普通だろう。幻視でかく乱するタイプの攻撃となれば対処法は一つ、目を瞑るのだ。視覚は無くても大丈夫である、薫程の霊力放出があればどれだけ離れたり、近付いたりしても大体の位置は分かる。それと同時に集中力が上がるので呼吸音なども聞きやすくなるはずだ。

ひとまず視界を塞いでどうなるか試してみよう。


「目を塞ぐってのは間違いではない。だけどな、違うな佐須魔。もっと考えろよ」


次の瞬間佐須魔の目は開いた。急激に、何の脈絡もなく、強制的に視界を取り戻した。すると目の前にあるのは視線を持って行く白い霊力。

次の瞬間首元が斬られた。発動帯の一部が壊れたのは分かったのだが、思考にも干渉しているのか何処が破壊されたのか具体的には分からない。

何か重要な能力が不発になる可能性があるので注意するしかない。だが注意も何も言ってられない状況であるのは確かなのだ。この剣が現れた事によって何かが変わった。明確には掴めないものの何かが変わった。そうぼんやりと理解する。


「何かが変わっている、何かがおかしいと本能では感じ取っている。だが意識がそれを阻んでいる、僕の中の意識が、理解から遠ざけている。そう、理解出来た」


明らかに佐須魔の顔付きが変わっている様に見えた。だが一瞬にして元通りの笑顔に戻り、早速攻撃をしてくる。薫は布都御魂(ふつのみたまのつ)(るぎ) (あらため)を使って応戦する。このまま戦えれば薫の勝利は揺るぎない筈だ、想定よりも上手く刺さった事に感謝しながらドンドン突き進むのだ。

両者の刀が激しくぶつかり合い、大きな高音を鳴り響かせる。結界の外にもそれは届いており、すぐ傍で不安そうにしながらも待っている素戔嗚が謎の刀と髭切がぶつかっている事を理解した瞬間、他のメンバーにも『阿吽』で伝えておく。

どうやら來花と原は未だに乾枝に手間取っているようで救援には来れなさそうだ。アリスも乗り気ではなさそうだし、佐伯もまだ能力回復の手はずを整えている最中、災厄は回復しているので動けない。結局今満足に行動出来るのは素戔嗚だけのようだ。


「……今俺に出来る事は何だ…」


思考を巡らせる。今後の戦闘を前提としてどうすれば皆のためになれるか考えに考えてみる。


「……やはりシウの結界術が厄介だな……何とかして壊せないものか…」


呟きながら島の中央にそびえ立つ柱を見て呆然とする。やはり今現在素戔嗚に出来るのは[唯刀 素戔嗚]を体に慣らし、少しでも全力を出せるようにする事だろうか。


「やはり今俺に出来る事は唯刀への順応ぐらいか。まぁ有益ではあるし、今の内にやっておくのはありだな」


ひとまずこの結界からは離れて臨時の訓練を行う事にした。精々500m程度しか離れていない近場ではあるのだが、何かあったらすぐに駆け付けられる距離なので大丈夫だろう。

早速始めようとしたその時だった、前方にある人物がいる。素戔嗚は一旦手を止め、声をかける。そいつは冷たい目で素戔嗚の事を見ているので話しかけて欲しいのだろう。


「どうした、蒿里」


「…貰ったんだ」


何処か悲しそうな顔をしながらそう言った。素戔嗚は表情一つ崩さずに返答する。


「あぁ、師匠から認められた証。こいつを使って俺は学園側の能力者を叩き潰す。必ずや、皆と共に」


「……和解の道は…考えてないんだね」


「当たり前だろう、俺は誓った。もう道には迷わないとな」


真っ直ぐな顔を見た蒿里はほんの少し俯いてから訊ねる。


「やっぱりTISの考えには賛同?」


「あぁ、元々そうだ。お前はどうなんだ、蒿里」


少し気まずそうに斜め下を見つめながら、詰まる言葉を無理矢理押し出した。


「でき…ない……よね」


「そうか。知っていたさ、別に責めるつもりもない。お前はそういう奴だと前々から悟ってはいた」


「…いつから…?」


「学園に行って一ヶ月もしたら分かるさ。エスケープチームとして四人で時間を共にしている時、俺はお前を[樹枝 蒿里]だと認識出来なかった。知っている顔とかけ離れていたからだ。もうその時には分かったさ、戦いたくないんだろうとな」


「……じゃあなんで、引き延ばしたの」


「何の…」


「襲撃、あんたが誤魔化して少しだけ期間を先延ばしにしたの、知ってるよ」


「……何処から仕入れたんだか……まぁ良い、理由は単純、情報が揃っていなかったからだ。当時はラックがマモリビトだと言うのも憶測でしか無かったし、何より流が脅威だった。万が一にでも式神が開花していた場合最悪のパターンでは重要幹部を失って敗走だった。

だがそれを防ぐために俺達は派遣されていた。内部の情報を知るためにな。だから先延ばしにした、それだけの話だ」


「……長いね、いつも、そんな事無いのに」


軽く微笑みながら言った。


「お見通しか。じゃあ良いだろう、言ってやるよ、誰にも言っていない本当の理由を」


「うん」


「お前のためだ」


「……うん」


納得がいった、ついでに少し嬉しそうだ。


「当時は今と違って俺にも余裕があった。だから少し無茶をしてでもあの平穏(たいだ)を続けたかった。情が湧いたんだよ、お前と、学園の奴らに」


「やっぱりそうだよね……強いもんね、私なんかと違って……」


「勘違いするなよ、お前も強い。その軟弱な精神を補う程の強大な力が…」


「いらないよ、そんなの……知ってるでしょ、こんなのいらないって、私がどんな風に、どんな思いをしてこんな力を持ったかって」


ポロポロと涙を流しながら言葉を零す。素戔嗚は困った様な顔をしながらどう慰めるべきか考えていた。だがその時だった、素戔嗚に『阿吽』で連絡が入る。


『乾枝がそちらに逃げた。もうボロボロでろくに戦えもしないだろうからトドメをさしてくれ。頼むぞ、素戔嗚』


『分かりました』


「どうやら死にかけの乾枝がこちらに迫っているらしい。さっさと殺す、お前は見たくもないだろ?さっさと行け」


最後に慈悲をかけてやったが、蒿里はそれに反発する。まだ止まらない涙を頬に伝わせながらも素戔嗚の指示を無視して立ち尽くしていた。蒿里は頑固なのでこうなったらもうどうしようもないだろう。素戔嗚は諦めて迎撃態勢を取った。

十数秒後、足音がする。そちらを見るとボロボロで血だらけの乾枝が立っていた。戦闘の意思などそこには無い様に見える。素戔嗚も最後の言葉ぐらいは残させてやろうと思い柄に手を添えるぐらいで斬りかかりはしない。

すると状況を把握したのか乾枝は少しだけ口角を上げてから顔を上げ、口を開いた。


「どうした素戔嗚……殺さない…のか……」


「遺言ぐらいは聞いておいてやる。それに魂は黄泉の国に送ってやる、俺も鬼ではないからな」


「それは…ありがたいね……」


会話をしながらも血を吐いている。腹部には十字の傷があるので恐らく八懐骨列をもろにくらったのだろう。それに他にも斬撃を受けたような痕がある、他の術などもくらったり、原の光の剣も受けているだろう。生きて歩いているだけでも御の字と言った所か、もう長くは持たないだろう。


「早く言っておけ。何も残せずに死ぬぞ」


「そう…だな……」


乾枝は決めた、最後の最後まで、ちゃんと使命を全うしようと。


「素戔嗚…決めたのなら最後までやり切れよ…中途半端は…俺が…許さないぞ……」


「言われなくてもやり切る、それは俺が今まで殺して来た奴らへの弔いでもある」


「蒿里…思っている以上に…君を敵対視していないよ……気が向いたらでいい…決着が付いてからでも良い…戻って来なさい…それが君にも、学園側にも最善策…だろう……どうか自分を卑下しないでくれ……君は充分…凄い人間さ……」


物凄い量の血を吐くと同時に言い終わった。


「さて、素晴らしい戦闘だったろう、俺は見ていないが賞賛には値するはずだ。お疲れ様とだけ言っておこう、乾枝 差出」


次の瞬間、首が跳ね飛ばされた。蒿里はその光景を見て何も思えなかった、いや違う、小さすぎた。乾枝が死ぬなんて事よりも皆が待ってくれているというデタラメであろう言葉に心が揺れた。大きく、とんでもなく揺らされた。

ここに来てようやく思えた、やってみようと。

ほんの一瞬蒿里の目に希望が映った様な気がしたが、気のせいだっただろう。だがすぐに走り出し、いなくなってしまった。素戔嗚は止めはしなかった、それよりも早く適応するのだ。

そう、蒿里のためにも。


「ちゃんと気持ちを入れ替えてから来い、蒿里」


素戔嗚の最後の対戦相手は既に決まっていた。誰一人として異議は無いだろう。最後の対戦相手、それは誰よりも強大な力を持ちながら、誰よりも能力を嫌っている一人のニンゲン。

そう、蒿里だ。



第五百六話「布都御魂(ふつのみたまのつ)(るぎ) (あらため)

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