第五百二話
御伽学園戦闘病
第五百二話「生き残る術」
二人は早速動き始める。これ以上取り巻きが増えると厄介なので出来る限り早めの行動が吉なのだ。
全速力で移動すると一分程度で敵が見えた。二人共隠密を使っているのでバレていない様だ。息を殺し、状況を確認する。佐須魔が原、來花と話しているようだ。
「……」
崎田は考え抜いた末、実行する事とした。親指を立ててにっこりと笑って見せる。こんな切羽詰まった状況なのに良くそんな呑気でいられると心の中では思いながらも、ちゃんと勇気付けられた。
まずは乾枝が動かなくては行けないので立ち上がる。そして隠密を解除してわざと足音を立てながら接近する。三人は当然そちらを向いている。
「あれ、出て来たんだ」
「吹っ飛ばされたからな、運が良かった。それよりもあれを解いてもらおうか」
「経闇暗を?嫌だよ、勿体ない。折角お前以外全員捕えているんだ。絡新婦はいないみたいだけどあいつ一人じゃ出来る事はタカが知れてる。僕らの勝ちだよ、今諦めれば生かしても良いよ。どうせ革命で全員死ぬけど」
どうにも癪に障る。表情から伝わってくる、余裕だと言いたいようだ。実際佐須魔からすると智鷹一人の損失で実質的に薫、翔子、兆波の三人を機能停止にさせたのだから楽だっただろうし、拍子抜けでもあっただろう。
だが今まで繋ぐために死んでいった仲間の事を考えたらとてもじゃないがそんな顔は出来ないはずだ。それなのに佐須魔は半笑いで馬鹿にするような目を向けている。
信じられない、ただそんな感情だけが浮かび上がっていた。
「そんな顔するなよ、僕だって仲間が死んだら少しは悲しむさ。だけどそんな感情に囚われて復讐に身を任せ、本来の目的を忘れるなんて馬鹿な事はしたくないんだ。だから皆そう重く受け止めないよう心がけている。それがTISのやり方なんだよ」
「やっぱり間違ってると確信出来たよ、再度ね。人間が持ち得る最低限の感情さえも捨てて革命を起こそうとするだなんて、それはただのテロだ」
「どうだろうね。唯一革命を起こしかけた事例、能力者戦争はテロの域を超えていた。でもそれは無能力者側が無知で、能力者を恐れ皆殺しと言うある種の革命を起こそうとしたからだ。結果として無能力者側によってあの事件は"戦争"と名付けられた。仕掛けたのは無能力者側なのにね」
「……」
「何も言い返せないだろ。結局は勝った方が上手い様に事実を改ざんして歴史を作って行くのさ。だから僕らが勝てばそれが正史になる。どうでも良いんだよ、過程なんて。どんなやり方だろうが結果が全てだ。
それにお前らは無能力者を嫌っていたはずなのに、いつの間にか無能力者と同じ価値観、世界観、全てを共有して生きている。ずっとおかしいと感じていたんだ。
僕はお前らの事を"力があるだけの無能力者"として見ている。クソを殺すのに情は必要無いからね、こっちとしてもそれなりに気が楽だ」
「間違っているな。お前は確かに自分で言った、勝った方が歴史を歴史に出来ると。そしてそれは現実となると。それにどんな嘘が混じっていようが現実だ。
私達はそんな救いようの無い事実を寛容にも受け入れ、それでも何とか藻掻こうとしているだけ。常識の範囲を出て、まるで自分達が真の正義だとイキる小者にはなりたく無い、それだけだ」
「決着の付かない話はやめよう、時間の無駄だ。それよりも経闇暗を止めに来たんだろ?やろうよ、そうじゃないと僕は解くつもりは無いよ」
佐須魔が戦闘体勢に入る。だがその必要は無い。
「まぁ謝っておくよ、悪い」
「はぁ?」
「私が戦うのは、こちらだ」
次の瞬間來花と原が乾枝によって連れて行かれていた。腕で押し出す様にして、距離が離れる。佐須魔はそこでようやく気付いた、真の目的に。だが協力するのは絡新婦だとばかり考えていたのでそこまで警戒はしていなかった。
それが致命的なミスと成り得るのだ。この大井 崎田と言う化物の前では。
「やった!」
意識していなかった。懐に潜り込まれ、喉元を貫かれる。たった一つのナイフによって。回復しかけていた発動帯が再度傷付けられた。完全には壊されていない、やはり天才だ。
ここで全てを破壊しに行くと絶対に殺される。佐須魔の発動帯は所持している能力の数故に通常の能力者よりも大きいからだ。だが一箇所、一部を狙うだけならば奇襲だけでも充分過ぎる。
それは両者が理解している事。なので佐須魔は分かる、経闇暗などが収納されている場所が破壊されたと。分かりやすく同じ場所に留めておいた封包翠嵌、鏡辿も使えなくなっただろう。
結構な痛手ではあるが、それ以上に崎田を始末出来るのならば問題は無い。すぐさま打を手に取って、振りかざす。避ける術を持たない崎田は左腕を代償に命を繋ぎ止めた。
「ったぁ…」
もう肩から叩き斬られたので血が凄い。すぐに魔法の止血剤を作って血を止める。勿論血の流れには異常が発生しないように出来る魔法の止血剤だ。
それを見ていた佐須魔は勝ちを確信する。何故ならヒビが入っていないので霊力補給チョコは食べていない。持っていたしても食わせる余裕を与えるつもりは無いので実質的に崎田の霊力は相当少なくなっている。人智を超えた物はあと一回、通常生成でも大した物は作れないはずだ。
そうなればただの片腕の無い負傷済みの女。佐須魔が負ける要素など何処にも無いだろう。このままさっさと終わらせて、続いて来るだろう奴らに備えるのだ。
「……」
だが当然感じ取るだろう、その異常に。とてもじゃないが霊力が減っているようには感じられないのだ。霊力感知は大まかな量なら分かるのだが、全く変化していないように感じる。というよりも一瞬だけ大きく減っていたがすぐに回復した。霊力補給チョコは食べていないはずだ。
「どう言う事だ、一瞬で回復したが…」
「凄いでしょ」
そう言いながら首元を見せつけた。そこには大きめの傷があった。理解する、こいつは能力発動帯さえも作り上げてしまったのだと。怪物過ぎる、それと共に気体が急速に膨れ上がる。こんな奴と本気でやり合ったらどんな結果が出るだろうか、そんな妄想が佐須魔の思考をジャックする。
だが落ち着くべきだ。薫やサルサが駆け付けてこないとも限らない。それに絵梨花も来るだろう。そうなったら崎田と悠長にやり合う余裕は無い。仕方が無いがお預けだろう。
「仕方ないか……即行で終わらせる」
一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに気合を入れ直す。その気迫に塗れた顔は崎田の心を奮わせた。互いに互いの力を見て高揚し、戦闘に期待を抱いている。
だがこの戦闘はそう長くは出来ないだろう。どちらも強すぎるのだ。三秒程度あれば終わると予測出来る。どちらも一撃に全てを籠めるのだ、そうでなければ、不利にしかならないのだから。
「行くよ」
「私も!!」
霊力を操作し、作り上げる形、全てをぶつけたと胸を張って言える、強力な一撃。
そこに起こる、天文学的な確立で発生する奇跡。
『戦』
人術でも妖術でも術式でも、その他術の全てに該当しないとある技。
それはこの世で何人が習得しているのかさえ判明していない秘伝の技。
だが偶然として、いやもしかしたら必然としてかもしれない。とにかく引き合った、知らず知らずの内に。
『戦』
全く同じ、霊力の動き。
二人が使った一撃は同じだった。全てを知る佐須魔と様々な術を持つ崎田の全力が同じ技、こう形容しても間違いでは無いだろう。
理論値、所謂最果ては、この技だと。
第五百二話「生き残る術」




