第四百九十七話
御伽学園戦闘病
第四百九十七話「最適」
螺舌鳥悶、佐須魔はすぐさまゲートを使い何処かに飛ばした。だがその際視線を山羊だけに向けていたので他の奴らから全員目を話していた。
すぐに顔を上げたが誰もいない。絵梨花は霊力残滓が少し残っているので分かるし、薫は隠れているだけなのだろう、正円はまだ戻っていないだけ。だがケツァルだけが分からない。
霊力残滓も無いし、気配も感じられない。
「何処だよ」
次の瞬間背後に気配を感じる。
「ここさ」
振り返りながら打をスイングしたが一瞬にして姿は消えた。その時点で佐須魔は察した、それが何なのか。
「そこまでやるんだ、霊力との同化」
佐嘉が最終的に辿り着いた境地、霊力との同化。非常にリスクが高いはずだが何の躊躇も無く発動して来た。非常に面白いが両盡耿を使ってしまえば勝てる。いつかのアイトも同じ様にbrilliantで対処したのだ、出来るはずだ。
『肆式-弐条.両盡耿』
光が満ちる。だがケツァルの姿は現れないし、死んだとも思えない。何も起こらなかったというのが結論だ。
「成長してるのか」
「勿論だ」
前方にケツァルが出現する。
「悪いが私はそう簡単には死なない。究極の技とされたこの同化を更に極めた、それが善とされる行為かどうかはどうでも良い。ただ見せつける、私の強さを。そして払拭してやる、役立たずだという印象を」
「良いね、自己中だ。大体の奴が正義を語って挑んで来る。それが嫌な訳じゃないがマンネリしちゃうからね、そう言う奴が一人や二人居た方が僕としても楽しいよ」
「こちらとしては心外だがな、命を懸けた戦いをまるで暇潰しのように扱われると」
「ごめんごめん。でも実際そうだろう?」
圧をかけながら訊ねる。だがケツァルにそんなちゃちな圧は通じない、何故なら初代地獄に短い期間だが落とされていたから。肝が据わっているのは昔からだが、内心で焦ったりする事も無くなった。それに無茶な戦闘は避けるようになったし、基本味方のためになる動きを優先するようにもなった。
現に今は正円が戻ってくるまでの時間稼ぎと絵梨花を助ける為にこうして戦っているのだ。
「どうだろうな、案外勝てるかもしれないぞ?ニンゲンよりも体に巡る霊力量が多い神ならな」
「流石に見くびり過ぎじゃないかな、僕はニンゲンを超越した存在。幾ら黄泉の国で特訓をしていようが関係ない、仮想世界で訓練をして来た僕からすると赤子がハイハイから立ち上がるぐらいの成長にしか見えないよ」
「それで充分、子供の喉元に刃を突き立てる事は可能だ」
「いやまぁ呪で成長止められてるから中学生の体ではあるけどさー、身体強化も滅茶苦茶に強くて、術も沢山明付けて出力もそこら辺の達人よりも上、霊も大量に持ってて頭も切れる、おまけに仲間もいるんだ。そんじゃそこらのガキと同じにしてもらっちゃ困るよ。
僕にだってプライドって物はある」
「そんな物を持っているから中途半端にしかなれないんだろ、実際お前は感情的になる場面が何度かあった。もっと冷静に術でも撃っていれば何とかなったはずだ。
私や黄泉の国にいる精鋭からするとまだまだ甘い」
「…煽る暇があるならいい加減気付いた方が良いよ、後ろ」
ケツァルの後方を指差す。何か仕掛けていたのかと急いで振り返った。だが何も無い。そして気付く、ブラフだ。前を向こうとしたその時、既に佐須魔がすぐそこまで迫っていた。
霊力と同化して退避しようとするが距離的に間に合わない。
「駄目だろ、油断しちゃ」
一瞬にして避ける胴体、二つに分かれた。
「なっ…!」
「遅いよ」
まだ終わらない。雷を使わない打の攻撃、その体格から発せられるとはとても思えないスピードと精度で体が分離していく。霊力との同化は発動帯さえ無事ならば出来るので問題は無いが、佐須魔としてはそんな事を知らないのでとりあえず適当に攻撃しているのだろう。
ひとまず霊力と同化して逃げる。
「よし分かった、発動帯だな」
敢えて発動帯を残しておいたので分かる、ケツァルは他の能力者と同様発動帯を破壊すれば何も出来なくなるのだ。そろそろ正円は戻って来るだろうが絵梨花が来なければ二対一でも余裕、絶対に勝てる自信が佐須魔にはある。
「そっちから来なよ、どうせ負けないから」
「良く言うな」
現れたケツァルは体がくっついており元に戻っていた。
「良いねそれ、僕もやってみたい」
「駄目に決まっているだろ、これも習得されたら話にならない。何があってもお前には渡さないと誓った上で現世に来ているんだ」
「そっか。じゃあ無理矢理にでも、奪おうかな」
打をゲートの中に放り込み、手にする。単純に戦闘をするための道具、髭切。
「単純な刀で何を…」
次の瞬間の事、佐須魔は自分自身の右目を突き刺した。意味が分からず困惑するケツァルを追い越し、戻って来た正円が殴り掛かる。チャンスだと感じたようだ。
だがこれは準備、捧げる為の。
「ホルス」
飛び上がる。正円、ケツァル、絵梨花、薫の四人が全員空中に放られた。効力強め、相当浮遊した。そこで佐須魔が撃つのは両盡耿でも、壱式などの強い術式でもない。本来こんな場では使い道が無いはずの、雑魚術式。
『玖什玖式-参条.雷鳴残林』
発動者を中心として周囲に大量の雷を落とす術式、基本的には大群を一掃する目的で使われるのだが今回は相手が四人、どう考えても適切な場面ではない。だが使った、カモフラージュとして。
何のカモフラージュか、簡単、打の雷である。
「お前からだ、絵梨花」
取り出した打を振りかざし、雷が発生する。雷鳴残林の雷のせいで絵梨花は気付かなかった、迫っている事に。だが一人、薫だけは霊力の異様な動きで分かる。だが対処が間に合わない。速度がヤバイ。
「絵梨花!!」
そう叫んだ頃には遅かった。絵梨花の体は雷にぶつかる、物凄い音と光を放ちながら焦げ、落下した。薫がすぐさまゲートを使ってキャッチする。
「大丈夫か!」
左半身、特に顔の損傷が激しく意識が無い。息も絶え絶え、いつ死んでもおかしくない状況。すぐに回復術をかけて対処しようとするが佐須魔がそれを許さない。
ケツァルと正円は何とかして佐須魔を止めようとするがホルスがその体を使って止めて来る。神としては充分過ぎる力で押し返され、二人は阻止された。
「ヤバイ…」
打を掲げながら笑顔で迫って来る佐須魔を見た薫はどうするべきか悩んだ。悩みに悩んだ。そして出した結論は一度逃げる事だった。
こんな所で戦っても佐須魔が有利になるだけ、他の奴らが来るのを待って今は絵梨花を回復させるのが先だ。そうでもしないとろくに攻撃が通っていない佐須魔を倒すのは無理だ。
「逃がさない」
髭切をぶん投げる。だが流石にケツァルが動いた。霊力と同化し、すぐさま薫達の前に出現する。だが防ぐものは無いので生身で受けた。相当痛かったがひとまず何とかなかった。すぐにでも逃げてもらおうとするが、遅い。佐須魔のスピードを舐めすぎだ。
「まだまだ」
『弐式-弐条.封包翠嵌』
封包翠嵌を飲み込んだ術、それはケツァルの霊力同化である。一瞬だが使えない状況、ケツァルコアトルもいつの間にか消えているので助けには入れない。何も出来ない女が晒されている状況、非常にマズイ。
だがケツァルは死をも受け入れようとしていた。だがその時、正円が飛び込んでくる。ホルスにタックルをかまして、そのまま。
「いい加減にしろよ!!」
怒りを露わにしながら佐須魔に突っ込んだ。反体力持ちを放っておくことは出来ず、佐須魔はそちらを向いた。そして打を思い切り振りかざす。
正円は避ける気を見せない。避けようと思えば避けられるはずなのに。佐須魔は囮だと分かっていたので不思議には思わなかった。だがそれだけが目的ではない。
「死ね」
打が首をはねる、正円は動かなくなった。
「正円!」
ケツァルが助けに入ろうとしたが薫が無理矢理引き留めた。
何故なら入る必要が無いのだから。正円がわざと死んだのには理由がある。一匹の霊が本領を発揮するのに魂が必要だったからだ。正円は最初からそのつもりだった。
「犠牲を無駄にはするなよ、リヨン」
猫は人を喰らう、そして力に変えて主を援助する。
その力は凄まじく、そこら辺の霊何かと同じにしてはいけない。それもそのはず、そいつは"唯一"現世のマモリビトの息がかかった霊なのだから。
「さぁ、始めよう」
刀を抜く。
佐須魔も本番だと悟り、気合を入れ直した。
「あぁ良いさ、始めよう。サルサ、リヨン」
能力者戦争の負の遺産、兵器である生物であり、剣士、サルサ・リベッチオ及びその相棒リヨン、現代の神を前にして、虎視眈々と水面下で作戦を進めながら戦闘開始。
第四百九十七話「最適」




