第四百九十五話
御伽学園戦闘病
第四百九十五話「反体力の真髄」
正円の登場、佐須魔はそこまで焦っていなかった。それもそのはず、正円は記憶ではあっさりと殺されている雑魚の部類、当時は強かったのかもしれないがインフレが進んだ現代においては捨て駒程度にしかならない。どうせ小手調べ要員だろうとしか考えていなかったのだ。
実際間違ってはいない、ただし侮っている。兆波 正円は強くなっている。こいつは一度地獄に落ちた、本当にただの手違いなのだが初代ロッドによって無間地獄に落とされた事がある。
そこで何人もの異常者に出会い、ある技術を習得した。そこからの躍進は凄まじく、エンマが間違っていると気付きアルデンテに招くまでの間に物凄い力を手にした。敵によっては佐嘉なんかを超すレベルの力を。
「神ってのはよ、こんなもんか」
二つの術を発動した。
佐須魔もそれは理解出来た、だが次の瞬間視界に映ったのは遠方に立っている薫と正円だった。そして妙に視線が低い、そして胸部が痛い。
視線を落とすと物凄い血が出ている。どうやら攻撃されて吹っ飛ばされていたようだ。だが気を失っていたわけでは無い、記憶がない。
「…?何だ、これ」
「分からないか、分からないよな。現世で習得してる奴は一人もいないからな」
「習得……何か使ってたな、術」
「あぁ使ったさ、だが分からなかっただろ」
この時点で分かる事は二つ、記憶が飛んだか完全に停止していた、そして正円はその事を理解している。故に全ての時が飛んだ訳では無い。あっても翔子のようにスローにしたぐらいだろう。
だが違うと感じる、単純な違和感なのだが佐須魔の視界はブラックアウトしていなかった。ただ殴られる寸前から吹っ飛ばされた所が抜け落ちている。
そして薫は別に驚いている様子も無い、恐らくは佐須魔にだけ効力が発揮されている。リイカが生きていたらこの時点で勝てているのだが死んでしまっている。
「ちゃんと守っておくべきだったな…まぁ仕方無いか、やるぞ、アセビ」
一度降霊を解いていたので再度降霊、二人は警戒を強めたが何か大きな変化がある様には見えない。正円は薫とアイコンタクトを交わした後動き出した。
するとまた佐須魔は瞬間移動のようにして吹っ飛んでいた。木にぶつかっており二人とは相当の距離が出来ている。
「…どうだ……分かった、まだだな」
このままではハメられて終わる。だが佐須魔だってそんな簡単にやられるつもりはない、そもそもここで死ぬ気はない。対策の手は既に打っている、後は待つのみ、効果が"来る"のを。
『弐式-参条.封包翠嵌』
何とか未知の術を解除出来ないかと使った封包翠嵌。だがカワセミが何かを食った様子は無く、すぐに消えて行った。
「解除は不可能……やっぱり僕自身にかけられると言うよりかは全体効果か…一旦これで…」
『妖術・上反射』
全方位に二重になるようにして展開する。だが次の瞬間また時間が飛ぶ、そして先程と変わらず吹っ飛ばされていた。
「上反射も意味無し……何だ?本当に」
現状では分からない。心を読もうにも黄泉の国にいるような奴が何を思っているか分からないし、そこにもトラップが仕掛けられているかもしれない。大分ピンチな事に変わりは無いので少しでもリスクがある行動は取れないのだ。
「どうした、反撃してみろよ」
「…そうだね、確かにしておくべきだ」
打を手にして、振りかざす。雷が正円に直撃したと感じたその瞬間、吹っ飛ばされる。今回は吹っ飛んでいる最中だ。すぐに正円を見るがただ殴り終わった時の動作のままだ。
「…殴る事に意味がある感じだな……なら」
『呪・封』
こすうれば術も封じられて一気に優勢になれるはずだ。ここで畳みかける。
佐須魔は打を振りかざそうとした。だが次の瞬間、吹っ飛ばされた。
「……封も効かない?」
頭上を確認するが結界は無いように感じる。蟲の邪魔も入っていない。
「何だ、その術」
「流石にそこまで言う訳ねぇだろ?神なんだったらそれぐらい解明してくれよ、俺より強いはずだろ」
「…良いよ」
次の瞬間だった。正円の時が飛ぶ。
「…マジか」
全く同じ寸法、ではない。似ているが全く違う。それは完璧に習得している正円だからこそ分かる感覚である。
「スゲェな、真似たのか」
「違う、ただお前の記憶を弄っただけだ。ゲートを使えばそれぐらい出来る」
「そうかよ」
「でもこれで分かった事がある、お前のは術じゃない」
「…!」
「おかしいよな、僕は術じゃなくゲートでの不意打ち記憶操作で疑似的に同じ事した。それなのにお前は完璧に同じ物だと思っていた。分かるはずだろ、術なら」
「どうだろうな、俺が感覚的に覚えていたら…」
「それを言った時点で違う事が裏付けされた。甘いよ」
「だが術じゃない事が分かった所でお前に対策は出来ない」
「どうだろう、出来るかもしれないよ」
絶対に揺さぶりだ。それは分かっている、だが正円からするとこの戦法が対策された時点で敗北が確定するのだ。あまり無茶は出来ないし、隙を突かれて薫を殺されたらただの戦犯だ。
細心の注意を払いながらもこのまま出来るだけぶち込んでいく。少なくともまだ対策はされていないので問題は無いはずだ。そう思っていた。
直後、薫と正円では捉えられない速度で佐須魔が移動した。
「術式!」
薫が言うのだから間違いない。だが紗里奈も記述と似ていたから反射的に叫んだだけであり詳細は分からない。そもそも紗里奈は有用な術式以外覚えるつもりが無かったので大して知らないのだ。
故に二人は身を寄せ合って動きがあるのを待つしかない。佐須魔は二人の周囲を物凄い速度で移動している。あまりに速いので既にいなくなった場所の霊力残滓でしか移動先が分からない。だが感知する頃には他の場所にいるので後手後手になってしまうだろう。
「すんげぇ速さだな」
「まぁ術式はそう言う物…それよりちゃんと見た方が良い、死ぬ」
「なぁ紗里奈、一つ聞きたい事がある」
「何?」
「この術式は、ちゃんと移動してるのか?」
恐らく瞬間移動なのか、それともちゃんと体を動かして移動しているのかを聞きたいらしい。
「ちゃんと移動、少なくとも転移とかそう言う系では…」
次の瞬間正円が大きく跳び上がった。そして何をするかと思えば地面に向けて拳を突き立てる。そして雄叫びをあげながら思い切り地面のぶっ叩いた。
ただの奇行、そんな訳ないだろう。ここに来ての公開、正円が何を使っていたのか、佐須魔に知らしめるための行動。佐須魔はすぐに動きを止める。
「どうだよ佐須魔、分かったか」
「…あぁ分かったよ。凄いね、反体力を完全習得とは」
「まぁな」
「にしても本当なんだ、神への特効って」
「それは知ってただろ。現世の戦闘員全員知ってるぞ」
「いや違うよ、真の特効。単純な攻撃力増加じゃない、"それ"さ」
「あぁ、意識の問題か」
「そう、意識が飛ぶ訳じゃないが記憶が消える。それ、凄いね。僕の使い道は神殺しぐらいだけど…まぁ弱点あるだろうしいらないかな」
「そりゃ残念だ、師匠にでもなってやろうと思ったのにな」
「いやいや、勿体ないよ。折角ならそれで瀕死にまで追い込んでくれよ、そっちの方が覚えやすい」
「それもそうだな、まずはくらうのが先だよな。でも良いのか?殺しちまうぜ」
少し笑っているが確かに殺意を向けている。
「良いよ、出来ないって知ってるから」
佐須魔は殺意で返す。
「スゲェなホントに。こんなヤベェ場面なのに全く動揺してねぇ、始めて見るぜ、ここまで壮大な野望もって自分の死を恐れない奴」
「それは君が見て来た矮小な奴らと同じにしているからだよ。何より僕は仲間を信じている。僕がいなくたってあいつらだけでも充分出来るさ。だから僕は今大会で死んでも良いと思っている。まぁ何があっても絵梨花は道連れにするつもりだけどね」
「薫は良いのかよ」
「別に良いよ、もうただの雑魚だから」
「それもそうだな。でもよ、忘れてんじゃねぇか?俺がいる」
「問題ないよ、殺す手段思いついたから」
その瞬間、佐須魔の心は分裂した。いや違う、魂が二つになった。ここに来ての新たなる技術、バックラーの霊であるアセビを利用した、反体力の効力半減化である。
だが正円もそれを察し、全ての手札を見せる事にした。
「良いぜ、それなら俺もこうする」
小さなナイフを取り出して切った、首元を。
第四百九十五話「反体力の神髄」




