第四百九十四話
御伽学園戦闘病
第四百九十四話「英雄」
アルデンテ宮殿、エンマの視覚共有を利用して皆で見ている。近くに飛ばされた奴はそろそろ合流する頃だ。
現在は翔子と兆波がやられた所である。エンマはしっかりと捉えていた、二人の魂が撃ち抜かれるところを。それを見た学園の者は皆辛そうな顔をしていたが英雄達は他の事を心配していた。
「なぁララ、これヤバくねぇか?」
ソウルが訊ねる。
「そう?あの二人がやられたらむしろ薫が怒りでパワーアップすると思うけどね」
「するだろうな、だけど多分これ以上薫が強くなるとしたら神眼ぐらいだ。んで神眼の効果、俺らは知らないけど発動条件だけはエンマに聞いたよな」
「……壊れる程の感情の昂りね」
「…佐須魔と違って薫はまだ正常な部類だ、ヤバくねぇか、心が」
「仮に壊れたとしたら動かせるのは降霊で降ろされた霊か…出来れば紗里奈ね。でも両者強覚醒は出来ないと思うわよ、あれって本人の魂に刻まれる物だから」
「そうなったら負けるよな、普通に」
「負けるわね、どう思う?桜花」
「ただいまです。そうですね…私の見解としては完敗とまでは行かずとも大会での勝利は厳しいでしょうね。革命前に何とか立て直して、革命中に殲滅するぐらいしか……それでも相当な被害は出てしまいますが、仕方無いでしょうね。割り切る他ありません」
「それじゃあ私達の苦労は無駄になるって事ぉ!?」
ファルが合流した。どうやら桜花の話が聞こえていたようだ。
「いえ、無駄では無いですよ。あなた方の助けが無かったらここまで追い詰められていませんから。先陣を切って詳細を判明させて行った生徒会の皆さんは素晴らしいです」
ファルの手を握り、微笑みながらそう言った。するとファルは嬉しかったのか抱き着き、すぐに観戦モードに切り替えた。とりあえず胡桃が状況を説明しておく。
そこでファルが呟いた。
「でもラックいるなら大丈夫でしょ」
「いやラックは今体が無いから協力…」
「『阿吽』は?」
「…確かに。術が使えればの話だけど阿吽は簡単な部類だし……指示とか情報共有ぐらいなら出来るかもしれない…」
「ラックなら出来るでしょ!!」
「そうかぁ?俺はあいつに出来ると思えねぇがなぁ」
ソウルがファルの頭を掴みながら反論する。
「何でよ!英雄何でしょ?仲間何だから信じれば良いじゃん!」
「俺らは情だけで繋がってる訳じゃない、多少なりとも利害関係何だよ。だからお前らよりは冷静に物事が見れる、言っとくがあいつは馬鹿だぞ、あのラックとか言う奴は」
「強いよ!!」
「いや、馬鹿だ。弱い訳じゃないが馬鹿だ。だってよ、普通に考えて見ろよ、明らかに仮想のマモリビトが作り出した野郎とは言っても一般人にマモリビトの力分け与えるか?普通。
しかも厳やらアーリアやら、何ならレジェストの力も与えたやがった。自由だからグチグチ文句は言わねぇけどよ…先を見据えてなさすぎだ。感情的過ぎる」
「…うーん、でも叉儺倒せたんだし充分じゃない?」
するとソウルは呆れた様に鼻で笑い、元の場所に戻った。
「最悪俺も出るつもりだ、現世に戻るのが大罪でも俺は戦う」
「何言ってんのあんた、能力無いんだから意味無いでしょ」
「あるに決まってんだろ。相手は光輝へどういう経路で能力が渡ったか知らない、静架の能力と考えるのが普通だ。そうなれば俺に能力が戻っていても何もおかしくない。
んで俺義眼無くても覚醒ぐらいできるからな、とんでもない圧力になる」
「…まぁそうね。でも行くにしてもソウルだけよ」
前方で観戦している馬柄、ベアには釘を刺しておく。
「とりあえず準備運動しながら見るか…」
ソウルが準備運動を始めるのと同時タイミングだった。英雄全員の顔色が変わる、勿論馬柄を含めて。感じ取った、世界を跨ぐ霊力反応。
「あいつ俺らの会話聞いてんのか?」
「どうだろうな。だがあいつは出来るらしいぞ、『阿吽』とやらが。ちゃんと見せてもらいたいな、甲作を犠牲にして作り上げたマモリビトとしての力を」
その時現世では薫とサルサが話し合っていた、強覚醒や今後のプランについてだ。そこでサルサは脳内にこんな言葉が流れて来た。
『お前達は負けろ』
それはサルサだけでなくリヨン、正円、ケツァル、そして潜んでいる絡新婦の能力者戦争組全員に届いていた。そして何をしたいのか伝達される前に全員気付く。
やはりこいつはボスには向いていなかったかもしれない。こんな土壇場で物凄い賭けの案を提示し、強行突破しようとしている。それにこいつは絶対拒否を無視する。
『俺は従っとくぜ』
『私もそうする』
『俺とリヨンもそうさせてもらう』
絡新婦は何の返事も無かったが問題は無いだろう。それで良い。
そして薫とサルサの話はまとまった。始まる、最強対最強が。
「それじゃあ、行って来る」
ゲートを作り、くぐった。そこにはボロボロの崎田と佐須魔がいる。
「よくやった崎田、そんじゃやろうぜ、佐須魔」
「…あぁ、良いよ」
両者霊力放出を少し多くする。
「楽しみだね、紗里奈」
「…!」
「気付かないとでも思ったか?僕は心が読めるんだ、見るに決まってるだろ。対策しておけよ、薫が最初にやっておかなかったら今頃全部筒抜けだぞ」
「悪いな、この体は慣れてない」
「それじゃあ行くよ。出来ればこんな所で死ぬなよ」
打を手に持ち、大きく振りかざす。崎田を避難させようとしたがそんな余裕も無いようだ。三回連続で振り下ろされる。三回の電撃、地響きすら発生している。
『肆式-弐条.両盡耿』
いきなり本領発揮、だが薫は対策を準備しているのでそれを利用させてもらう。
『人術・砂塵王壁』
ただ砂塵王壁を使う訳ではない、極小範囲で広域化を使っている。これによって無駄な手間を省けるのだ。結構難しい技術なので紗里奈は出来るか不安だったが何とか成功した。
すぐさま反撃に出る。
『弐式-参条.鏡辿』
当たれば一気に優勢、畳みかければ勝ちさえ見れる勝負の一手である。だがおかしい、手応えが無い。術式は基本的に当てると喉元に当たったと言う感覚が伝わるのだが全く感じれなかった。
恐らく当たっていない。一応目で見ないと確信は出来ないが当たっていない前提で動くべきだろう。それならばもう少し仕掛けておく。
『降霊術・神話霊・白虎』
白虎ぐらいなら今の内に出しておいてもさして支障は無いだろう。飛び出した白虎はすぐさま駆ける。両盡耿などへでもない、走り走り走り続ける。
幸いな事に両盡耿で霊力感知は無理なはずだ。白虎を使う利点である奇襲が成功するはずだ。そう考えていた、甘い。人間の単純な思考が通じるはずがない。
直後本体に物凄い衝撃が走る。どうやら完全に反応されて蹴りでも入れられたようだ。そしてオーバーダメージが全て薫に向かったのだ。
想像よりも痛い。今まで薫が受けて来た攻撃は感覚として残っているので分かるのだが比べ物にならないオーバーダメージだ。何が起こったのか小一時間考え込みたい程である。
「…でも…」
だがこれで良かったのかもしれない。何故なら一人目の突入は薫がまともに攻撃を受けたら、という事になっているのだ。まずは小手調べのため、投入される。
「初めましてこんにちは。それじゃあやろうぜ、神」
能力者戦争時代の身体強化使いで最強は誰かと聞けば英雄は皆口を揃えてこいつの名を挙げるだろう。それは生きていた頃ではない、死んだ後の黄泉の国での異常なまでの特訓によって培った後天的戦闘センス。そして磨き上げられた肉体と能力から放たれる物理攻撃。
名を兆波 正円。
「嫌なんて言葉は、聞きたくねぇぞ」
一撃目を放つ。佐須魔は避けられなかった。
第四百九十四話「英雄」




