第四百九十話
御伽学園戦闘病
第四百九十話「旧1」
担がれる様な形なので薫には良く見えている、二つの銃口が翔子の頭に向けられている事に。
「兆波!!」
「見るなよ!一旦仕切り直すしか無いだろうが!」
兆波だって見捨てたい訳ではない。だがあそこまでノッている智鷹と戦うのは難しい、レールガンのせいで翔子のスローもほとんど意味を成していない。
もう一度仕切り直し、何処かで不意打ちでも入れるしかないのだ。
「いや今戦えば!!」
「お前の腕が無くなったらどうすんだよ!!崎田ももう治せるような状態じゃないはずだ!本当に終わるんだよ、今ここでお前が欠損でもしたら!」
身体強化が無いのに何とか運んでいる。ワガママを言う薫を押し付け、何とか走る。ここで薫が体の一部を失うと佐須魔戦でどう足掻いても勝ち目がない、そうなったら本当に終わり、最悪のケースである薫敗北ルートに進んだとしても佐須魔に対して削りも期待できない、詰む。
だがここで翔子一人を見捨てる選択肢を取れば安全に距離を取る事が出来るのだ、霊力の消費も無しに。
「…でも!!」
その瞬間、翔子の頭が吹っ飛んだ。諦めるしかなくなり、黙ってしまう。兆波も急に態度が変わった事と、背後から聞こえた音、そして全体がスローで無くなったので察した。
申し訳なく思いながらも後で会おうと心の中で誓い、ひとまずは距離を取ろうとしたその時だった。薫がまた暴れ出す。そしてあまりにも衝撃的な光景を口にした。
「銃口が…魂…」
完全反射で振り返った。遠方、目を凝らさないと見えないレベル。そこでは智鷹が翔子の魂に銃口を向けていた。誤算、普通ならば二人を追うだろう。だが違った、そもそも戦闘病患者に常識が通じるとは思わない方が良かったのかもしれない。
直後、放たれるレールガン。
「翔子!!」
兆波も叫ぶがすぐに正気を取り戻し、走り出そうとする。
だが動かすのと同時タイミング、心臓が銃弾で貫かれる。
「クッソ…!」
使っていない方の左手を普通の狙撃銃に変え、綺麗に狙撃したのだ。一般人状態の兆波がそんな攻撃をくらったらどうなるかなんて明白、限界だ。
「薫……悪いがもう運べない……ワガママ言わずに逃げて、佐須魔とやり合え…崎田はまだ死んでないだろ……瀕死でも役に立つはずだ……早く行け……災厄が今すぐにでも起きて来る可能性が…あるだろ……」
心臓を抑えながら薫を降ろす。
「んな事言ってる場合じゃねぇだろうが!お前も翔子みたいに…」
智鷹が迫りながら乱射している。すぐに前に立ち上反射を何十重ねにもして展開し、防ぐ。だがそれでは意味がない、距離は縮まるばかり、折角翔子が身を挺して逃がそうとしてくれたのに、無駄になる。
薫は考えた、ここでどうするべきなのか、自分自身の役目は何なのか。まるで数時間考えたような疲労感を覚えた後、結論を出した。
「…悪い兆波……死ぬなよ」
「いやそれは…無理だろ」
半笑いで立ち上がり、薫を押しのける。
「まぁでも先に逝くぜ、相棒」
少し振り返り、ニカッと笑いかけた次の瞬間ハチの巣になる。惨状を目の前にしながらも薫は離脱するしかなかった。安全面も考慮してゲートで移動する。相当遠く、智鷹が追いかけて来れない距離。
そしてすぐにでもゲートを閉じようとする。だが衝撃によって兆波の一部が飛んで来た。そしてそれは不幸にも一番見せてはいけない物であった。
胸ポケット、綺麗に貫かれている。血まみれになった布からずり落ちるようにして小さなリングが落ちて来た。一瞬にして呼び起される、過去の記憶。
忘れられない、四人の記憶。
十年程前の事、薫は中等部に上がった。外から移住して相当な時間が経ち、少しずつ友達も出来ていた。上陸当時の陰気な感じは消え失せ少し面倒臭い強い奴と言うイメージが浸透した。
そんな薫は中等部に上がったので何か新しい試みに挑戦してみようと考えた。そこで一番仲が良い共の元に向かう。一学年上だがそんなの問題ですらない。
「よぉ兆波」
「薫、どうした?やっぱ中等部に上がっても友達は出来ないか」
「違…くはねぇけどよ。ちょっと新たな試みをな」
「試み?何だよ」
「チーム、作ろうぜ」
「はぁ?何でだよ、大会出たいのか?」
「まぁそれもあるが……外、行きたいだろ。お前温室育ちで外行った事無いらしいじゃん?チーム全体で良い活動してたら場合によっては遠征も行ける可能性があるらしいからな…もう中等部だし頃合いだろ」
「確かに……俺も行ってみたいとは考えていたが…こう突発的に作るものか?大事だろ、チームメンバーって。俺ただの身体強化だぞ?」
当時の兆波はそこまで強くなかった、生徒会に所属していた頃の光輝よりも少し弱いぐらいだ。
「別に良いんだよ、俺が重要だと考えてるのは単純な力じゃねぇからな。勿論弱くて良い事は無い、だけど強すぎても制御に困るって事で悪い風に目を着けられる可能性があるんだよ、俺がいる時点で気にするような事じゃない気もするけどな」
「まぁでもそうだな、お前ぐらいのがいるとなると他のメンバーはそれなりに弱くないとちょっとバランスが崩壊しちまうか」
「そう言う事だ。まぁでも"大会見据えてます感"出しといたほうが好印象だろ、知らんけど。あと二人集めようぜ」
「そうだな。お前にアテは…無いか」
明らかに馬鹿にしている。
「舐めんなよ、一応ある」
「マジか、誰だよ」
「外のいる奴なんだ、ちょっとだけ関わった事があってな」
「はぁ?馬鹿かお前、無理だろ流石に。万が一受け入れられたとしてもイロモノ集団としか見られねぇよ」
軽く頭を叩き説得しようとしたが薫は本気のようだ。
「…ガチで言ってんのか?」
「本気だ。そいつの能力は回復術、しかもここだけの話なんだけどな……」
耳を貸すようジェスチャーし、誰にも聞かれない小声で伝える。
「あの[沙汰方 小夜子]の孫なんだよ。能力の練度もすんげぇんだよ。一回見た事あるけど取れた腕とかも一瞬で治してたぜ」
「そりゃスゲェな、是非仲間に入れたい所だ……けどそれじゃあ俺はチームには入れないぞ。何せ遠征に行けないのなら無駄な苦労にしかならないからな」
「……じゃあちょっとだけ方針変えようぜ」
「言ってみろよ」
「俺らは中等部の間ひたすらに強くなって名声を得る。そうすれば生徒会に入りやすくなるだろ。基本的には高等部から入れる生徒会、今の内に強いって事で有名になるのは悪い話じゃないと思うぜ?俺が高等部上がる頃には丁度乾枝か元のどっちかが会長だろ」
「確かに、それはありだな。俺も今の実力じゃちょっと満足出来てない所があるし……よし!その方針で決定だ!」
「おっしゃ、頑張ろうぜ!」
熱い握手を交わした後残りの一人をどうするか話し合う事にした。
「とりあえずもう一人の方には電話で確認取って大丈夫だったらしいから、明後日に一回島来るらしいぜ」
下校し、兆波の部屋でそんな話をしていた。
「おお、来れるんだな」
「まぁ永住って訳でも無いし、理事長としても強い回復術使いなら様子は見ときたいんだろ」
「それなら良かった。じゃあそれまでにもう一人集めておいても良いかもな。見つからなかったら三人で探す事になりそうだが」
「どうすっか…何か共通点とかあるとやりやすいよな…」
二人はそれぞれ出会った時の事を思い出す。何故仲良くなったのか、勿論最初の接点は転校生だったからだ。だがそこからどうやって話題を見つけたのか。少しして思い出した。
「あっ!」
そこで兆波が閃いた。
「俺らが仲良くなったのって誕生日だったよな!」
「そうだな、俺が五月二日、お前が五月三日で近いからっていうくだらねぇ理由だった」
「そう言えば俺のクラスにいるんだよ!俺と同じ五月三日誕生日の奴が!」
「おお、珍しいな」
「別に悪い奴でも無いし、能力も結構強いサポート系の女なんだよ、一回誘ってみないか?」
「よし、決まりだな。やっぱ俺は嫌われてる側の人間だからお前に任せる」
サムズアップを見せつけながら悲しい事を言う薫を励ましながら適当な場所で飯を食い、その日は解散する事とした。
翌日、一番時間があるであろう四限目の後、お昼の休み時間だ。薫が兆波のクラス、二年三組に出向いた。
「来たか、薫」
兆波が合流する。そして部屋の端っこでボーっと外の景色を眺めている女性徒の元まで歩み寄る。切り出したのは兆波だった。
「ちょっとだけ話があるから付き合ってくれよ、翔子」
時也 翔子である。
第四百九十話「旧1」




