第四十九話
御伽学園戦闘病
第四十九話「仮想世界」
扉の先は不思議な空間だった。白い空に白い床、そして真っ白な壁が無限に続く空間だった。
だが女が指を鳴らした瞬間真っ白だった世界は色付き、床が現れ、木が現れ、ファンタジーな家が現れた。ただ空だけは真っ白なせいで現実味は無い。
「うおぉ!なんやこれ!」
「ここは俺の世界、僕の空間、私が作った…そう『仮想世界』。自由自在に創り出す事が出来るし自由自在に破壊することが出来る世界」
「なんやそれ!お前は神なんか?」
「いいや私は…ただの人間だよ」
「はえーまぁええわ。そんでわいらは何をするんや」
「今から教えるよ」
そう言いながら再び指を鳴らす。すると皆の横に一人の少女が現れた。その少女は右目に包帯を巻いているメイド姿だ。紫苑はその少女を知っているらしく話しかける。
「なんでベロニカがいるんだ」
「一人だけ残っていろと言われたので私が残っています」
流がこの子は誰なのか訊ねると紫苑が返答した。中等部員二年生の[マーガレット・ベロニカ]と言うらしい。流は続いてベロニカだけが残されている理由を訊ねる。女は「待て待て」と言いながら全員分の椅子を創り出した。そこに座ってとジェスチャーをする、全員が椅子に座ると楽しそうに説明を始めた。
「まず君達はニアちゃんの目を覚まさせたい。そして私はその方法を知ってる。だけど簡単に教えちゃつまらない、だから君達がだーい好きな"戦闘"で勝った方のチームに助言を授けます」
するとラックが突っかかった。
「戦闘って言ってもあいつら居ねえぞ」
「それも説明するから。
まず君達にはある場所を目指して冒険をしてもらう。ですがその場所に行くのは不可能に近い、その為ヒントを与えます。そのヒントは合計で九個ある。でーすーがー、そのヒントを得る方法は各所に点在している"バトルドーム"で戦闘を行ってん貰います、
そして勝った者にヒントを与えます。負けてしまったらそこのドームのヒントは不明なままです。ちなみにバトルドームに入れる最大人数は両チーム二人ずつまで、それ以上は入れない。勿論一人で入ってもいい。
だけど注意しなきゃいけない事がある。負けた人は即リタイア、もうこのゲームには参加できません。でも安心して、私が保護して安全は守るから。
そして助言は最後まで残った者のみに与える、ちなみにその助言は誰かに教えようとすると頭から消えちゃって、何だっけってなると思い出すような仕掛けにするから。まぁこんな所だね」
大体分かった。中等部メンバーは既にマップに移動しているのだろう。ラックは楽しそうにウォーミングアップを始めている。女はニコニコしながら準備が出来ているか訊ねながら指を鳴らした。
すると全員の手元に一枚の地図が行き渡る、女はそれが戦闘フィールドの地図だと言う。ただバトルドームの場所は書いていないので自分で見つけ出さないといけないらしい。
全員軽く目を通し準備が出来たと告げる。女が「じゃあいくよ」と言いながら指を鳴らす。それと同時に思い出したかのようにルールを追加する。
「あと最初はみんなバラバラだから」
問い詰めようとした瞬間に全員眩い光に包まれ、散り散りになってしまった。
そうして助言を賭けた冒険が始まった。
[流視点]
流は現在どこにいるかを確認する為、地図を見ながら何か目印になるものがないかと探索を始めた。地図を見てみると様々な地形や環境のフィールドがあり自分は南に位置する草原エリアにいる事が分かった。地図にはバトルドームの位置は書いていないので戦闘に使える物を探しながら同時にバトルドームも探す。
数分歩いて理解した事、どこもかしこも緑、緑、緑で誰かの気配どころか家の一軒も無い。ただ数分だが歩いて分かった事がある、この舞台はあまりにもでかい。何故なら地図ではすぐそこに砂漠地帯があるはずなのだがほんの少しも砂漠が見えない、このまま歩き続けてもメンバーに会う事はおろかバトルドームさえ見つける事が出来ないかもしれない。
どうにかしなくてはと考えスペラを上空に飛ばし、偵察機のようにして探索させ始めた。ただこんな日に当たる場所で待ち続けるなんてそのうち熱中症になって倒れてしまう。どうにか日が当たらない涼しい場所はないかと見渡してもせいぜい林ぐらいしかない。ただあるだけマシなのでひとまず木の陰に入り、面を着けながら唱える
『降霊術・面・鳥』
現れたスペラに北へ飛んでメンバーとバトルドームを探す、並行して砂漠地帯までどれ程の距離か測ってくれと指示を出した。スペラは頷いてから北を向いて飛び立つ。流はこれからどうしようかと思いながら座り込んで、スペラの帰還を待った。
約十分が経った頃上空から館内スピーチの様な声が聞こえて来る
「言うの忘れてたけどバトルドームじゃなくても戦闘していいし落ちてるものとか、なんなら木とか伐り倒して武器にしても大丈夫だからねーそれじゃあ頑張って」
その声が止むのとほぼ同時にスペラが帰って来る。報告を聞くとここから15km程先から砂漠地帯が続いているらしい、メンバーとバトルドームは発見できなかったらしい。
砂漠地帯に行こうとおずおずと立ち上がった流の目にはある者が映る。見覚えのある鷹が流の方に向かって飛んできているのだ。すぐに戦闘体勢に入り、構えたが必要のない事だった。前方から宗太郎が手を振りながら走って来る。戦闘の意思がなさそうだったので力を抜きこちらまで来るのを待った。
「流センパーイ!」
「風間さん、君もここに飛ばされたの?」
「そうそう!それで流先輩の霊が見えたから!あ、あと宗太郎"君"でいいよー」
「え?君でいいの?」
「ん?先輩もしかして知らない感じ…?」
「何のこと?」
「あー…じゃあ歩きながら喋りましょう」
「分かった。僕砂漠地帯行きたいんだけど大丈夫?」
「はい!じゃあ行きましょう」
そう言って宗太郎と流は砂漠地帯に向かって歩き出した。そして宗太郎が話しをする前に一つ訊ねる。
「先輩は僕の性別どっちに見えますか?」
「そりゃ女の子に見えるよ?」
「やっぱそうですよね…実は僕男なんですよ」
流の脳みそは一瞬バグを起こした。こんな可愛らしい見た目なにもか関わらず性別は自分と同じ男だと言うのだ。
「驚きました?でも残念、一緒に来てる子の一人も男の娘ですけどその子の方がかわいいです!」
「ごめん…何が残念なのか分からない」
宗太郎は笑いながら色々な事を話した。そしてニアの話を始める。
「先輩、どうしても僕たちと戦ってニアちゃんの目を覚まさせたいんですか?」
「うん。僕は君達を殺してでもニアを救う」
「…んで…」
宗太郎は聞き取れない声量で何かを言った。流はもう一度言ってくれと復唱を要求すると宗太郎が大き声で答える。
「なんでそこまでしてニアちゃんに無理をさせるんですか!お兄さんから引き剥がして!裏切り者の餌食にして!」
そう俯きながら叫ぶ。だが流は迷わずに宗太郎の両頬を掴み、無理矢理目を合わせてから話す。
「僕だってニアが望むならそうするさ。だけどニアは僕らと一緒にいたいと言った。だったらそうさせてあげるのが僕なりの優しさだ。
素戔嗚の事に関しては僕も不甲斐なさを痛いほど実感した。だから強くなると決めた。みんなを、そして素戔嗚を護ってあげれるぐらい強くなってやるって決めたんだ」
宗太郎は流の言葉と表情から何かを受け取った、そして納得する。そして一言謝罪の言葉を入れた。
そして前方を見るとそこは砂が吹き荒れる砂漠地帯が見えて来た。流は「君の思いを聞かせてくれてありがとう」と言った後に砂漠地帯へと踏み込んでいった。
一方宗太郎は流の背中が見えなくなってから陰鬱な気持ちのまま下を向き、東に四十五度体の向きを変えてゆっくりと歩いていった。その肩には相棒、唯一心を許せている鷹が止まり宗太郎を励ましていた。
何十分歩いただろうか、流は視界の悪さのせいで延々と砂漠地帯を彷徨っていた。やがて水分も不足して来る、このままでは脱水症状でリタイアになってしまうと辺りを見渡すと偶然オアシスが目に止まった。
オアシスへと走って向かう、到着すると共に水を大量に飲み出した。そして喉の渇きが治り顔を上げる。するとそこには一人の少女がいた。その少女は話しかけて来る。
「やっほー久しぶり」
コールドスリープを解除する時に協力してくれた[佐須 陽]だった。流は急に現れた彼女に驚き声を出す。陽は少し笑ってから真剣な表情である事を提案する。
「流先輩、やりましょうよ」
流はその言葉の意味が分からず頭に?を浮かべ何をやるのかを聞く。陽は呆れたように指を地面に刺しながら返答する。
「分かりませんか。ここバトルドームですよ」
流は辺りを見渡す、ここに来る時はオアシスに向かう一心だったのと砂が吹き荒れていたせいで気付かなかったのだろう。オアシスの真上を中心に半径100m程の半円状のドームという事に今気付いた。
「それでやりますか?」
流は少し考える。だがここで引いていたら素戔嗚になんて勝てる能力者にはなれない。ここで引いたらニアを助ける事なんてできない。そう考えた流は決闘を承諾した、陽は「そうこなくっちゃ」と言って笑う。
その瞬間半透明だったドームは展開され外の景色を遮断する、そして完全な壁となり逃げる事は出来なくなった。流はスペラを召喚し戦闘体勢を取る。
そうしてこのゲームの初戦は櫻 流VS佐須 陽で始まった。
第四十九話「仮想世界」
2023 10/25 改変
2023 10/25 台詞名前消去




