第四百八十八話
御伽学園戦闘病
第四百八十八話「ボス」
翔子、兆波のペアと対峙する智鷹。現在元の霊力によって智鷹は能力が使えない状況。佐須魔や素戔嗚のように自身の霊力で押し返せるのなら話は変わるが、智鷹はそこまで霊力が多くないので出来ないだろう。一応出来なくはないがここで使うと単純な戦闘での弊害が大きすぎるのだ。
なので今は逃げるが吉だろう。
「逃がさねぇよ」
逃げようとバックステップの予備動作を見せた瞬間、兆波が目の前に移動してくる。恐らく翔子の能力とかけ合わせた結果物凄い勢いで移動して来たのだろう。すぐに防御しようとしたがほとんど意味は無い。全力の攻撃は凄まじく、滅茶苦茶に吹っ飛ばされた。
何本もの木々を薙ぎ倒し、土煙に巻かれながら、血を纏い、目を回しながら。結果として距離を取れた事に違いは無いのだがすぐに追いつかれるだろう。
「痛いね結構、まぁ、問題は…」
背後に感じる尋常じゃない殺意。振り向きながら殴り掛かるが右手の拳が粉砕され、そのまま再度吹っ飛ばされた。どうやってもフィジカル勝負では勝てないと悟り、どうにかして能力を発動できる手段が無いか探す事にする。
力技は無理なので小賢しい手でも何でも使うつもりだが、中々思いつかない。智鷹は潤沢な時間を与えれば無数のアイディアが湧き出て来るのだが、こう追い詰められている状況だとあまり浮かばないタイプなのだ。
「まぁでも、何とかなるか」
真正面に飛んで来た拳を受け入れ、またもや吹っ飛ばされる。TISのボスとは思えないボコボコ具合、殴っている兆波が変に心配するレベルだ。
だがこれで良い。こういった瀬戸際だからこそ面白い作戦が浮かぶのだ。そもそも今出来る事は無いし、佐須魔は戦闘をしている。助けも呼べる戦況じゃないので自分一人で何とかしなくてはいけない。神頼みにも近しいが、これが智鷹のやり方だ。
「おいどうした、抵抗しろよ」
流石に怪しいと感じた兆波が対話を試みる。現在智鷹と兆波、翔子以外の全てが遅くなっている状態だ。
「良いのかい?攻撃しなくても」
「別に問題は無い、能力を使えないお前に負ける気はしないからな。それよりもおかしいだろ、何も抵抗しないってのは」
「そうかな~?佐須魔と違って霊力を押し返せない僕だからこうしているだけ、って言ったら?」
「一番有力な線ではあるが、ボスであるお前がその程度の実力とは考えづらい。流石に刀迦や佐須魔に比べれば格下だろうとは思っているが、來花より格下なんて事は無いと考えているからな」
「それは光栄だね、僕はそんなに強くないけど」
惑わされている。そもそもTISのボスという本来接触すらしたくない相手なので警戒するのは当たり前なのだが、妙に軽い態度の智鷹に上手く翻弄されている。
だが兆波もやられっぱなしではない。ここまで呑気だとやはり策があると仮定して動くべきだと判断し、翔子に速度を戻してもらう。智鷹もスローになった。
その瞬間に殴り掛かる。やはり何の抵抗もする気が無さそうで、顔面をぶん殴った。勢いよく吹っ飛んで行く過程で少し気になる部分が見つかった。
少し離れている翔子の元に行き、相談する。
「少し気になる事がある、あいつ抵抗していないようにも見えるんだがちゃんとしている。霊力操作が完璧だ。何であそこまでやって一回も気絶していないのか気になっていたが多分殴られる場所を完璧に予測して霊力集めて防いでる。しかも体内の九割ぐらい使って」
「はぁ?それって予測ミスった場合下手したら死ぬじゃない」
「そうだ、そこが気になる。確かに武力での反抗は無いが……何か待っている様にも感じる。予定通り早めに潰すぞ」
「了解。このまま八分の一で行くよ」
「頼む」
兆波が動き出す。その瞬間、心臓を貫く一つの弾丸。完璧な偏差撃ち、予測通りの動き故、狙撃完了。
「なっ!」
「隠れて!」
翔子が更に効力を増やす。当然訓練をしていた、今まで最大八分の一だったが現状最大効力は十二分の一、これだけ遅くすれば兆波でも避けられる。
すぐにヤブに飛び込んで軽く移動し、止血を試みる。当てた技術も凄いがどうやって撃ったのかが分からない。どう考えても霊力を押し返しているようには見えなかったし、当然智鷹がいた場所には元の霊力が充満している。
「大丈夫?」
近付いてきた翔子に軽く状態を見せる。
「身体強化してたからそこまで大きな傷にはなってない。それよりも問題は…」
「どうやって能力を使ったかね」
「あぁ、そうだ。距離取ったせいで見れなかった……翔子は分かったか?」
「分からない、私も距離があって見れてなかったから」
「少なくとも元の霊力を押し返した感じはしなかった……そうなると何か別の物体を媒介にしたのか…?」
「別の物って…例えば何よ」
「体力とかだな」
「まぁそうなるわよね。でもそうしたら私達迂闊に近付けないわよ、グレネードランチャーとか使えるらしいし」
「…マズいな、たった一発でここまで動きが封じられるとは……とりあえずまだ十二を継続してくれ」
「分かった。でも出来るだけ早く作戦、考えてよね」
「あぁ」
思考を巡らせる。まず元の妨害が効いていないと言う事で単純な対策では恐らく意味は無い、だからと言って真正面から勝負を仕掛けるのも良い手とは言えない。翔子が十二分の一を保てる時間はそう長くない、八分の一だと先程のように狙撃されたり、機関銃でゴリ押しされたりする場面が増えるはずだ。そうなると一気に兆波は不利になり、下手したら翔子だけを残して死ぬ可能性がある。
だが仕掛けなくても逃がすだけ、どうにかチャンスを作り出す手段が欲しいが生憎身体強化単品、自己覚醒も出来ない兆波では難しい。
「…無茶、するか」
「別に良いけど…ミスったら終わりだからね?」
「それよりもまずは媒介を特定する必要がある。それさえ封じれば俺らの勝ちだからな」
「まぁそれはそうだけど……じゃあ行くって事ね」
「おう。八倍に戻してくれ、そのタイミングで走り出す」
「了解。行くわよ」
八倍に戻る。その瞬間兆波は立ち上がり、移動を始めた。十二分の一だったのもあり智鷹はほとんど移動していないし、警戒も出来ていない。すぐさま背後に回り込んで殴り掛かる。
当然回避や反撃なども出来るはずがないので綺麗に吹っ飛ばされた。だがぶっ飛んでいる最中、兆波の方を向き、右手を瞬時に機関銃に変えて乱射して来た。
「あっぶね!!」
驚異の反射神経によって全て避けられたが結局何が媒介かまでは分からなかった。むしろ何かが減っていた様には見えなかった。霊力も、勿論体力も。もしかしたら一弾分の消費は滅茶苦茶安いのかもしれない。
「……行くか」
もう近付いて些細な違いを見つけ出すしかない。一気に距離を詰め、吹っ飛んでいる智鷹を真上から叩き落とした。血を吐く智鷹に構わずぶん殴る。
だが少しした所で機関銃を向け、撃って来る。すぐさま回避に移り、別の方向から蹴りをくらわせる。智鷹は避けようとはしないが反撃には出るようになって来た。
このまま続ける事が出来れば判明するだろうが、リスキーでもある。それなりに強いはずなのでこれ以上引き延ばすのは危険だ。
「…!!」
気付く、違いに。
すぐさま移動し、翔子の元へ走った。
「分かった!」
「本当?」
「多分そうだ。もしかしたら見間違いの可能性もあるが……あいつ、前髪ちょっとだけ減ってないか?」
そう言われて少し遠方の智鷹を見る。戦闘開始時は激しい動きで乱れていたのもあって目に少しかかる程度だったのだが、目にはかからない長さになっている。
不自然なのだ、切る暇なんて無かったし顔面をぶん殴った際にすり減ったとしても前髪だけあんな風になるとは思えない。
「髪を伸ばしてる理由にも説明が付くだろ…?」
「確かに。じゃあ媒介は、髪って事で良いのね?」
「断定して良いだろ、あいつは霊力以外にも髪を使って銃を撃つ事が出来る」
「まぁ分かった所でどうする事も出来ない気がするけどね…」
「そうだな、髪切るのなんて難易度高いし、そんな事するぐらいなら普通に殴った方が有効だ」
「とりあえず能力は使えるってのは分かったから、髪って分かった事がバレないように動いて。ヤバそうだったら私も前出て戦うから」
「助かる。じゃあ行って来る、覚醒なんてさせないさ」
本番が始まる、髪が媒体だと判明した以上注意が必要である。多少気楽にはなったが少々難しい側面もある。智鷹の髪は長いので実質的に能力使用は元の妨害が無い時と同じだ。
作戦では智鷹に妨害が通じる前提だったのでここからはぶっつけ本番、センスが問われる戦闘になって来るだろう。別に兆波にセンスが無い訳ではないのだが、何となく嫌な予感がしていた。
初めて見た時からそうだった。智鷹に感じるのはカリスマ性でも圧倒的な脅威でもなく、滲み出るセンスの高さ、謂わば異常なまでの、才能だ。
「大丈夫かい?僕はもう"慣れたよ"」
握る短剣。
逸した才能。
TISのボスは戦闘の天才ではない、南那嘴 智鷹は武具製作の才能である。
第四百八十八話「ボス」




