第四百八十五話
御伽学園戦闘病
第四百八十五話「再開の接触」
白い世界。
目を開けるとそこにはエンマ、元、叉儺がいた。
「悪いね、ほぼ同時タイミングだけど二人共話したい事があるからセットだ」
「あたしは別に良いけど……なんで叉儺がいるの」
すると叉儺は水を得た魚のように煽り出す。
「ただのニンゲンに負けてなっさけないな、譽!」
「うっさい、あんただってほとんどニンゲンの紫苑に殺されてるじゃん」
「あれはラックというマモリビトの力が半分近く入っておったし、何より式神術を行使して来たからな、妾ではあれが限界じゃ。だがあれのおかげで今代は進化したのじゃ、文句を言うでない」
「…」
一方的にまくし立てて来るので少しむすっとしながら睨みつける。
「まぁまぁ喧嘩は後にしてよ~、それよりもどうだった?絵梨花との戦いは。能力が色々似てる二人だったけど」
譽は今回の戦闘を思い出してから大きな溜息をつき、凄い目つきでエンマを見上げながら訊ねる。
「覚醒」
恐らく「何で覚醒誘発をしなかったのか」と問いたいのだろうが、エンマは真面目に返答する。
「佐嘉の部下に許可を出したのは僕だ、後は言わずもがなだろ。それに椎奈と礁蔽とかも特例として許すつもりなんだ、僕は君らの味方じゃないんだよ」
叉儺の方に視線を移す。
「妾の方を見るな、暇だから観戦しているだけであって何か手が出せる訳ではないのじゃ」
「あっそ。そんであんたは何で黙ってんの」
元の背中を軽く叩く。
まるで今起きたかのようにハッとした元は少しだけ複雑そうな表情を浮かべ、呟くようにして言葉にしていった。
「思っていた以上に仲が良くて、しっかりした関係性なんだなって…今思いまして…」
「でも不憫じゃな、魂が何とか生きている最後の瞬間が敵組織の無駄話とは。妾も同情する」
「あんたに同情する心とか残ってたんだ」
鼻で笑いながら煽り返した。
「なんじゃ?妙にテンションが高いな、良い事でもあったのか?」
「まぁそこそこね。そんでどうすんのさ、あんたは」
今度は強めに元の背中を叩いた。
「私は舞台装置ですので、何か思い残したわけでも無いですし、このまま消えますよ。他の皆の役に立てたのならそれで結構ですから…」
譽が質問する。
「一つ聞きたいんだけどさ、乾枝にはちゃんと言い残したの?」
痛い所を突かれた元は動きを止める。言葉が出ない、何も言い返せないのだ。
察した譽は馬鹿を見る様な目を向けながらもエンマに頼む。
「あのさ、どうせ乾枝ここ来るでしょ?そん時に適当に伝えてあげなよ」
「良いよ~。まぁ僕もそんな事だろうとは分かってたけどね~。でも作戦段階から命を使うって決めてたのに、前大会のチームで唯一の生き残りである乾枝と何も話さないとはね~、どう思う?叉儺~」
「陰キャって感じじゃな」
エンマは遠回しに、叉儺は単純に悪口。
「まぁ別に私達はそう言う関係ではないんですよ、ただ戦闘を共にした友人であり、それ以上でもそれ以下でもないです。親友というのも微妙な立ち位置、もっと踏み込んだら互いに良い事は起こらないと理解していましたから…」
「何かあったの?」
「別にそんな深刻な話では無いんですけど…乾枝の両親を殺したのが私なんですよ。と言っても遠征に行った際に乱暴している所を見かけたから何ですけど……両親を見た感じ無能力者っぽかったので、つい…」
TISの二人はドン引きだ、とてもじゃないが元からそんな殺伐とした雰囲気を感じ取れないからである。だが稀に起こる無能力者両親から生まれる能力者、それが乾枝だったのだろう。
そんな境遇の子供は大抵捨てられて野垂れ死ぬ、その事を島で知った乾枝は元に対して何も言えず、かと言って距離を取る訳にも行かなかったので結果としてあんな関係性になったのだろう。悪いと否定するまでではないが、妙に壁のある関係性に。
「まぁ分かるよ、大切な人殺されると何とも言えない距離感になるよね。私は自分で親殺したけど」
「僕も分かるよ~、戦争のせいで大切な戦友を何人も捌いて地獄に放り込まなくちゃいけなくなったからね~。マモリビトとしての第一の仕事がそれだったんだよ~」
「マモリビトも結構大変なんじゃな。妾は現代のが欲しかったぞ」
そんな所でエンマが手を一回叩く。
「さて、無駄話もこれぐらいにしよう!教師の皆全員強いせいで展開が滅茶苦茶早いんだから、こんな所で油売ってる場合じゃ無いんだよ!」
元の前に立ち肩をガシっと掴んで言い放つ。
「君はよく頑張った、最後の霊力散布は普通に良い作戦だし、凄く有効なはずだ。見せてあげられないのは残念だけど、願うんだよ」
「いえ、願わなくても結果は分かっているので大丈夫ですよ。それよりもまだやる事があるんでしょう?最後に一応これ、返しておきますね」
義眼を外し、渡す。
「ありがとう、君のソウルのだから、返しておくよ。それじゃあ、またいつか会おう」
「そうですね。どうかこれからも生徒達をよろしくお願いします」
本当に何の悔いも無さそうな真っ直ぐな顔で、笑いもせず、ただし真顔というには少し嬉しそうな表情のまま元は消滅した。残されたのは三人。
譽は一旦地獄に送られると思っており、何年閉じ込められるのか聞こうとする。だがその時、予想だにしていない発言が耳を通過する。
「譽、君は選択肢がある。
一つ、地獄に行って三十年間何も無い空間で自分を見つめ直す。
二つ、叉儺、光輝、フェリアの三人と協力し、紫苑の再臨を手伝う。
尚後者を選んだ場合、地獄での監禁は無くなるものとします!」
譽の性格からしても実質的に強制的に択を迫られると言っても間違いではない。
こんなの選択肢は一つだろう。
「後者、当たり前でしょ」
「うん、知ってた」
少し悪い笑み、エンマはひとまず叉儺との視覚共有を遮断し、命じる。
「既に光輝とフェリアは着いている。今から紫苑は霊達を連れて地獄の門に飛び込む。設計上マモリビトなら現世に行けるはずだ。だがあそこは魔境、とにかく蛆虫みたいに魂が這いずり出ようとしてくる。
皆でそれを対処して、最終的に誰か一人が一緒に門に飛び込んでもらう。僕はこの大会に決着が付き次第助けに行くけど、一日ぐらい初代ロッドの子世界に居てもらう事になる。
その痛みは凄いから、三人で良く決めてね」
「…ん?四人じゃない?」
「フェリアは駄目だよ~、僕の可愛い娘なんだから~」
二人でぶん殴ろうとしたがどうやら時間が無い様なので早速飛ばされる事となった。二人共能力は生きているので叉儺は一時的にダツの頭だけ、譽は出力半分に抑えられた状態でのみ使えるように発動帯を弄られた。
「さぁ行くよ、ランダムに黄泉の国の陸地に飛ばされるから。能力とか術使っても良いから端の地獄の門に行くんだよ」
二人の頭に手を置き、優しく声をかける。
「それじゃあ、頑張って」
次の瞬間両者は運良くアルデンテ王国へと飛ばされた。瞬時に霊力感知を行い、海に出ようとしているのが分かるや否や合わせるようにして島へと向かう。叉儺はダツに足場になってもらいながら、譽は空気爆発を上手く扱いながら。
結局五分程してほとんど同時タイミング、島が見えて来た。それと同時に合流も出来た。
「いるね」
「そうじゃな」
光輝が気付いたようで警戒している。それもそのはず、エンマは面倒臭がって伝達していないのだ。光輝からしてみるとTIS二人が意地でもマモリビトの能力を奪いに来ている様にしか見えないだろう。
だが敵意が無い事を何とか伝え、上陸する。
「飴雪がおらんとは珍しいな」
「あぶねぇからな、一応あいつ無能力者だし。んでまぁ譽は負けたんだな?」
「そう言う事。あんたを助ければ地獄での反省無くしてくれるって言うから、仕方無く来た」
「よし、それなら今から俺は行く。とりあえず門を開けたらなだれ込んで来るだろうから、全員で潰す。ある程度落ち着いたら誰か一人が俺に付いて来てくれ」
「妾が行こう。一度は体験しておきたいからな」
「了解だ」
「だが聞かせろ紫苑、何のために誰か一人が共に入る必要があるのじゃ?妾には到底理解出来ん」
「簡単に言えば魂の識別?だったかな、俺はもうニンゲンじゃないからニンゲンの魂が無いとマモリビトだって判定されない?らしいんだよ。
とにかく俺も軽く理論を聞かされたばっかだ」
そう言いながらフェリアの方を指差した。
「はい、私もあまり詳しくは知らないのですがお父様がそう言っておりました。ですので叉儺さんが紫苑さんと一緒に飛び込んでください」
「了解じゃ。だが良いのか?フェリアは光輝に能力を渡しておるのだろう?しかも返品不可能の方法で」
「えぇ、そうですね。ですが大丈夫ですよ、私だってロッドの一族ですから。それも、濃い血の」
「猫人化か何かを使うと言う事じゃな」
「はい、そう言う事です」
「よし、妾としては何も問題は無い。譽、お主はどうじゃ」
「別に大丈夫」
「よし!んじゃ開けっから構えておけよー」
紫苑が門の取っ手に手をかける。四人が準備をした次の瞬間、紫苑が扉の片方を開けた。するととんでもない量の魂が溢れ出て来る。だがそいつらは他の四人の手にかけられる前に、たった一匹の霊によって喰い殺された。
「…紫苑?妾初めて見たぞ、そいつ」
「あ?言ってなかったか」
そう言いながら撫でる、今にも全員を噛み殺してきそうな風貌の怪物を。
「とりあえずこいつが全部喰っちまった。光輝、お前は本土に戻って俺が行った事を報告、英雄面々には絶対言っとけ。それとフェリアと譽は学園の奴らとか、TISの奴らとか、現状で地上にいる奴らを全員宮殿に集めてくれ」
「分かった、俺はとりあえず行って来る」
「承りました」
「おっけ、行って来る。行くよ、フェリア」
フェリアに移動手段が無いので譽は抱きかかえ、空気爆発で海を渡り始めた。光輝も負けじと水面を走り出す。
「よし、それじゃあ入るぞ叉儺」
「分かっておる」
「でも何で志願したんだよ、お前そういうタイプじゃないだろ」
叉儺は普段通りの口調で言葉を返す。
「飴雪がいないからな」
「は?」
「まぁいいではないか、時間が無いのだろう?行くぞ」
「そうだな、詳しくは後で聞くわ。それじゃ、レッツゴー!」
アトラクション気分で二人は飛び込む。内側から閉じられる地獄の門。
再臨は、まだ残されている。
第四百八十五話「再開の接触」




