第四百八十一話
御伽学園戦闘病
第四百八十一話「似た者」
元の義眼がバレる頃、絵梨花はようやく接敵した。一応すぐそこにはいたのだが互いに能力が能力なので近寄りたくなかったのだ。だが次第に距離を詰めていく事によって何とか視界内に入れる事は出来た。
「目には目を、って事で良いの?」
「まぁそう言う事だな!私は薫より強いから、お前みたいな不届き物を始末するには充分だろ?」
眼鏡を少しだけずらしながらそう訊ねた。一方問いかけられた譽は呆れながら返答する。
「面倒だよね、そう言うの。だってあたしの方が強いもん」
「そうか?概念に干渉出来るのは私も同じ、それだけじゃなくこっちは倍増だ。単純にそっちの"3"より効率が良いし、何より扱いやすい。結果は見えてると思うぞー?」
「まぁ良いけどさ、万が一にでもあたしが負けた場合の話…あんた相当なダメージ貰うよ。もう佐須魔と戦えなくなるレベル」
「何でお前は負ける前提で話をしてるんだよ。負けないんじゃなかったのか?」
少し不服そうにしながらも言い放つ。
「殺す」
指を見せつけながら、鳴らそうとしたその時絵梨花が少し速く指を鳴らした。
その瞬間譽の両手周りの空気が爆発し、指が吹き飛ばされる。何本か取れたがその前に三本に増やしておいたので問題は無い。少し多くなってしまったが適当に切り落とすか今後の戦いの道具として使えば別に良いだろう。
「うへーキモいな、増やそうと思うか?普通」
「無くなるよりはマシ。普通にキモいとは思ってるけどね」
現在右手の人差し指が一本取れて二本、他は二本ずつ取れて通常の一本。左手が全て二本ずつ取れており通常状態となっている。このままそういう回避方法を繰り返されると絵梨花の勝ち筋は大分薄くなる。一瞬にして殺してしまえば何の問題も無いのだが今までの戦闘を見てわかる通り譽は強い、判断力と行動力が高いし、何より今自分がどうすれば勝ちに突き進めるのかを感覚で理解しているようにも見える。
それは絵梨花も全く同じなのだが能力に多少の違いがあるので完璧に同じとは言えないのだろう。あと単純に頭の出来が違う。
「まぁそんな無駄な指もさっさと壊せば問題は無いよな!」
再度指を鳴らす。あまりにこなれた手付きだったのもあって譽は防げなかった。すぐに指を増やした後、増えた人差し指と親指を使う事によって一度で同時に計六回、指を鳴らす。
それは反撃ではなく回避のための使用だった。空気が爆発する事によって勢いを付け一気に後方に下がる。本人も結構痛いのだが絵梨花の好きなようにさせるよりかは幾分もマシ。最初の一撃を貰った時点である程度受け身になり機を窺う他無くなったのだ。甘んじてこの劣勢を受け入れるしかない。
だがそんな時だった、攻撃を続けようとしている絵梨花が確信を突く。
「お前自分が強いと思って油断してるだろ。言っておくけどな、私は本当に薫より強いぞ?」
次の瞬間、指が鳴らされたと同時に絵梨花が迫る。まるで瞬間移動でもしたかのように見えたが違う、物凄い筋力で一気に距離を詰めて来たのだ。沢山ある指の内どれか一つでも鳴らせれば良いと思い対処しようとしたのだが許されない。
指を狙うのは非効率なので首元目がけて一撃ぶっ放した。とんでもない鈍痛、吹っ飛ぶのと同時に意識も無くなりそうになったが何とか保つ。
「これで終わってると思うなら、私には絶対勝てねぇよ」
更なる攻撃、首元への強打。地面に叩きつけられ吐血する。
「下手したらこれで終わりだな」
指を見せつけ、鳴らした。空気爆発、ただし普通の物ではない。肺に残る空気全てを使用した空気爆発、内臓全てを破壊する、逃れようのない必殺。
譽は一瞬走馬灯の様なものが見えた気がしたがすぐさま振り払い、体力を何十倍にもする。体力は体を動かす事や自然回復に使用するのでとんでもない量があれば何とか耐えられると判断したからだ。
絵梨花相手に硬度を上げた所で機転を利かされて逆に不利になる事ぐらい分かり切っている。なので後手後手に回ってでも何とかくらいつき、何処かで大きな一手をぶち込む事によって逆転するのだ。
「どうせどっかで起死回生の一手、とか言ってデカいの入れようとしてんだろ?出来るわけないだろ、普通に考えて。私の戦闘スタイルは短期戦だぜ?そんな悠長にしてる暇あるなら今すぐ立って、殴り掛かって来いよ!」
降り被さるようにして殴り掛かった。だが次の瞬間譽の姿が無くなっている。背後から気配がするので背後に空気爆発を起こしたがそこには何も無い、霊力残滓だけだ。完全に誘導されたと理解するが時すでに遅し、正面からとんでもない勢いで拳が迫ってきている。
覚悟はしている、思い切り首に受けた。
「そういうヒント与えると、私は活きるよ」
霊力発動帯を確実に殴ったにも関わらず何の躊躇いも見せない絵梨花に少々焦りを覚えながらもまだ余裕があると高を括っている。だがそれは痩せ我慢や現実逃避などではなく本当に実力が近く、未だ勝敗が分からない故の態度なのだ。そんな事絵梨花も分かっているので一々反応は示さないが焦っているのも事実。譽と違い絵梨花の戦い方は長期戦に向かない、長引いたら譽に軍配が上がる可能性もある。
「そうかよ、折角親切心で教えてやったのに、恩を仇で返された気分だ」
「恩着せがましい、それだけ。あと言っとくけどさ、あたしが気付いてないと思ってるの?」
滴る冷や汗。やはり気付かれていた。
絵梨花が長期戦を好まない理由は二つある、一つが相対的な霊力総量の少なさと霊力消耗の多さにある。ドーピング無しの最大霊力量は約300程度。これだけならまだ高い方なのだが霊力消耗、これが問題なのだ。
一回の空気爆発で約20もの霊力を消費する。これは一回、即ち三回爆発が起きる場合60の消費に値する。それに一度の攻撃で何十発も爆発させる事がほとんどなので150ぐらいはざらに持って行かれる。
だがそれをカバーするかのようにして霊力を倍増させている。この行動のおかげで戦闘が可能になっているのだが、空気爆発など攻撃のために多大な脳と発動帯のリソースを割く必要がある。それに加えて霊力回復を同時に行うリソースを確保し、飽き足らず作戦を考えるリソースも割く必要があるのだ。
もうこの時点で一般人の思考は止まり、半パニック状態に陥るレベル。ただ血反吐も吐くような特訓と天賦の才によって平均三分間もの間万全な状態で戦闘が出来るようになった。
ただしそれ以降は失速するのみ、一方譽はそんな風には見えないのだ。
「…引き延ばしたいのか」
単刀直入に訊ねる。この返答によってはピークの時間を狭めてでも決める必要が出てくる。
そして返答など分かり切っていた。なのですぐにでも攻撃を仕掛けられる体勢を取っていた絵梨花だったが、飛んだ言葉は意外なものであった。
「いや?別に私だって短期戦の方が好きだし、乱入されないから勝率が高い」
「あっそ…」
安心したのと同時に一瞬、本当に一瞬隙を見せてしまった。
「これが狙い」
紗凪架 譽は名と反し誉を持たない。勝つ為にはどれだけ卑怯な手でも使うし、倫理観もドブに捨てる。
そんな奴に絵梨花は隙を見せた。正に油断大敵とはこの事か、次の瞬間には絵梨花の右腕が吹っ飛んだ。
「なっ…」
「まだ」
更に指を鳴らし、追撃しようとする。だが絵梨花は物凄い反射によって地面に何回も空気爆発を起こし空中に逃げた。そして右腕を生やそうとしたが出来ない。どうやら断面でずっとずっと小さな空気爆発が起こっているようだ。
もう右腕は捨てるしかない。だが一番の問題は火種を常に抱えている状態に陥った事にある。この小さな空気爆発がいつ大きなものへと変化し、右半身を持って行くか分からない。
「もうこれで、私の勝ちは確定したね」
譽、勝利を確信した笑み。
故に気付かない、絵梨花の瞳の奥底に。
獣の如く密かに、煮えたぎる怒り。
静かなる、疑似覚醒。
第四百八十一話「似た者」




