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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第四百七十八話

御伽学園戦闘病

第四百七十八話「蟲神」


烙花蟲が物凄い速度で霊力を吸い、直後に蟲神に炎を直撃させた。それは霊力で出来た炎のため蟲神には良く効く、それに加えて急な攻撃だったのもあって意識できておらず防御なども何も出来ていない。


「エリ…!」


蒼はエリがやったのだと理解し、このチャンスを無駄にしまいと蟲神との距離を詰めた。それに合わせるようにして水葉も詰め、同時に攻撃を仕掛ける。

だが蟲神は強い、そんな事で動きを止める程やわに設計されていないのだ。一瞬にして体勢を立て直し、鱗粉を撒き散らした。その鱗粉は明らかに触れてはいけない霊力を放っており、離れようとしたが体が動かない。


「目で見た時にはもう遅いよ。鼻腔、口腔、何なら瞳、どこでも良いから粘膜に接触した時点でその麻痺毒は発生する。きついだろ、筋肉が離れるようで」


佐須魔の言う通りその麻痺は物凄い痛い。筋肉が何者かに引きちぎられる感覚だ。だが二人共これぐらいは慣れているので問題ない。それよりも単純に体が動かない事の方が問題なのだ。

鱗粉を常に撒き散らされると対処法がほとんどない。


「…」


「…」


言葉を発さずに目を合わせ、蒼が何とか頷いた。その瞬間水葉が無詠唱で発動する。


「了解した」


それは白煙が使う術。

二人と蟲神を巻き込むようにして発される強烈な嵐、そう『妖術・戦嵐傷風』である。これがあれば多少は耐えられるし、鱗粉も撒き散らす事で多少は被害を抑えられるはずだ。

嵐が明けると同時に蒼が飛び出す。蟲神は再度鱗粉を発そうとしたがそれは砂餠鮫が地面から跳び、喉元に噛みついた事で阻止された。


「助かった!」


身体強化を全開、そのまま思い切り殴り掛かった。

だが当然、それぐらい想定されている。


『妖術・上反射』


これでは殴れない。蒼が攻撃の手を止めようとしたその時、水葉が刀を振るう。


「やって!」


水葉が刀で上反射を受ける事によって少しのクールダウンが生まれる、そこを突くのだ。佐須魔もこんな状況でそんなリスキーな手段を取って来るとは思っておらず二枚重ねにはしていなかった。

蒼ならば一瞬を突く事などそう難しくない。


「貰った!!」


重い一撃、到底蟲神から出ると思えない鈍い音を立てながら吹っ飛んだ。相当な距離が開いたので一旦リセットだ。椎奈の元まで下がり霊力を補給する。


「私はほとんど霊力無限だから!二人共どんどん使ってね」


「大丈夫、私も自己覚醒で実質無限化出来るから」


「そうだね。でも覚醒は使わない方が負担が少ない。余裕があるのなら出来る限り…」


次の瞬間だった、原が光の剣を振るいながら間に入った。三人共驚異的な反射神経で回避したは良いものの、盤面が乱れる。三人は多少距離が出来てしまった。

佐須魔はちゃんと原の意図を汲み取って発動する。


『肆式-弐条.両盡…』


言いかけた所で砂餠鮫が佐須魔の首元にかぶりついた。両盡耿は中断された。


「邪魔だ!」


(ラキエル)で振り払う。ずっと身を挺して戦ってきたのもあって本当に限界のようで、何も言わずに地面に沈んで行った。もうこれ以上砂餠鮫の助けを借りるのは難しいだろう。

迅隼も動けない状態、白煙も水葉の指示が無いとあまり動けないし、肝心の水葉達は原も注意しなくてはいけなくなったせいで佐須魔に対して有効打を入れる余地が無い。

相当ひっ迫した状況ではあるが、両者厳しい事に変わりは無い。


「原、どれだけ行ける?」


「死ななければ幾らでも行けますよ。佐須魔さんが回復してくれるんでしょう?」


「いや、もう無理だ。小夜子の分は残ってるが他の回復術が全部無くなった。蘇生ぐらいは出来ても起きた直後は厳しいぞ」


「分かりました。それでも死ななければ大丈夫ですよ。最悪僕は体変えるだけなので」


「それもそうだな。それじゃあ行くよ、もう一回」


『肆式-弐条.両盡耿』


今度は止める術が無い。このままでは椎奈がヤバイ。椎奈が死ぬと蒼の出来る事が限られ、一気に不利になってしまう。だからと言って止める方法は無い。最悪の場合水葉が上反射か何かで少しでもダメージを軽減させてあげるぐらいだ。だが原がそれを止める為に水葉に向かて近付いて来ている。

それと同時に全員が光に包まれた。このままでは負ける、そう感じた水葉は少し無理してでも椎奈を助けに行く。光の中で原とすれ違い、右腕を少し斬られたが問題ない。


『妖術・上反射』


対象は当然自分、すぐに椎奈に駆け寄って光でのダメージを減らす。何とか耐えられそうとだと思う間もなく、絶望が押し寄せる。原と佐須魔の両者が光を掻き分けて飛び出してきた。


「させないさ」


だが白煙が大きな体を使って無理矢理引き留め、何とか耐えさせた。

光は明け、状況が一変する。蒼がTIS二人の背後から、水葉椎奈白煙が正面から。普通ならばこの時点で相当なダメージを覚悟でどちらかを蹴散らす必要性があるのだが、佐須魔はそれが必要無い。

何故ならこういった場面でも活かす為の、鱗粉なのだから。


「蟲神」


皆の上空、舞う蟲神。佐須魔を除いた全員が動かなくなる。それと同時に激痛に襲われた。

原は今の内にと考えて透明になって潜んだ。


「言っておくけど君らはもう負けてるんだよ、蟲神を呼び出させた時点で」


余裕綽々、既に勝負は決まっている、そう言いたいのだ。ただ水葉達だって諦めるわけにはいかないのだ。皆がここまで繋いできた好機、出来うる限りの全力をぶつけて少しでも削りたい。

佐須魔もその気持ちは理解している。だからこそ止めたいのだ。三人共戦闘病患者ではあろうが顕著に症状が出ていない。こんな良い状態で引き延ばす必要性は皆無だし、何なら最速で殺したい。

両者の気持ちは通っていると言っても良い程同じ目的。それなのに戦いは長引く、何故ならそれは佐須魔が心の奥底で酷く動揺しているからである。

それは刀迦が死んだ事にある。こんな所で死ぬとは想定していなかったので作戦が半分崩壊している。これ以上消耗してしまうと本当に薫との戦いが危うい、だからと言って式神の情報をもこれ以上渡せない。既に充分見せている手札のみで三人を打ち倒す必要がある。

そうなると必然的に手段は絞られる。


「こっちも結構考えて戦ってるんだけどね、強すぎるんだよ、二人共」


それでも何とかこぎ着けた、最良の戦況へと。


「これで終わりにしよう。充分強かったさ、全員ね」


心からの賞賛を籠めて、放つ一撃。


『参式-弐条.研仙鳥碧』


最早騎弦星己すらいらない、ただ広範囲をまとめて吹き飛ばす。


「僕の勝ちだ」


誰も動けない、蟲神の鱗粉のせいで。

三人はもう出来る事が無いと悟り、目を閉じた。

直後轟音を響かせながら押しつぶす。

山が消滅し、そこにいるのは倒れている三人の姿だった。だが誰も死んでいない、本当にしぶとい。


「まぁもう終わりで良いだろう」


適当に術で終わらせようとしたその瞬間、背後から首筋を噛まれる。まるで存在しなかったかのようにして小さな霊力で、カプリと。振り向いたらそこには香澄が立っており、その拳が迫っていた。

智鷹が帰って来ておらず、銃声は鳴り響いているので来るとは思っておらず油断していた。そのまま顔面パンチをくらった佐須魔は一瞬だけ狼狽えたがすぐさま立て直し、身体強化を使いながら全力で反撃の殴打を行った。

呆気なく香澄は吹っ飛び、木に衝突して動きを止める。

どうやら噛みついてきたのは銀狐だったようだ。何の目的があって隠密していたのかは分からなかったがひとまずは大丈夫そうだ。


「後は……頼むよ…」


そんな言葉を残して、香澄は動きを止める。


《チーム〈旧生徒会〉[諏磨 香澄] 死亡 > 佐須魔》


「どういう…」


直後勘付く、その異様さに。

ずっと気付けていなかった、何故椎奈の霊力を全く感じ取れなかったのか。ただ単に霊力放出を無くしているだけだと思っていたが違う、そもそも椎奈を黄泉の国から連れてきた理由だって単純に戦闘に参加させるためではない。むしろそれはオマケ程度だ。

本当の目的、それは多量な霊力そのもの。霊力は無限だと言っておきながらほとんど感じ取れなかったのはずっとずっと与えていたからだ。


「まさか…」


待機島からとんでもない量の霊力を感じ取った。


「やられた!すぐに全員集めろ!!」


原に命令した直後、譽が帰って来る。


「何かヤバイよ」


「知ってる!椎奈の霊力のほとんどが崎田と薫に渡っている!」


何を言いたいのか理解した譽はすぐさま椎奈を吹き飛ばした。瞬時に消滅し、通知が来る。


《チーム〈旧生徒会〉[多々良 椎奈] 死亡 > 紗凪架 譽》


だが霊力の気配は止まらない。


「もう遅いか…これ以上増える事は無いと願いたいが……とりあえず残っている三人にトドメを刺すぞ。譽がやってくれ、僕は『阿吽』で呼びかける」


「了解」


まず水葉に向けて空気爆発を行った。白煙が止めるに来るとばかり考えていたが、実際は姿が無い。


「捨てたんだ」


体内の空気が爆発し、即死した。


《チーム〈旧生徒会〉[姫乃 水葉] 死亡 > 紗凪架 譽》


次に蒼、最後に漆を殺す手はずだった。

だが蒼に視線を向けてその時、蒼は漆に向けて手を伸ばしていた。


「たのむ……莉子……漆…だけでも…!」


這いずって漆の時計からリタイアさせようとしている。


「無駄だよ」


鳴らし、爆発させる。蒼の下半身が別れる。とんでもない激痛に動きを止めそうになったが、それでも伸ばす。


「頼む!莉子!!」


最後の願い、大きく避けんだその瞬間、蒼は一瞬で位置が変わり、漆の時計に触れた。譽はすぐさま指を鳴らそうとしたが蒼が少し早かった。

リタイアが押される。


《チーム〈旧生徒会〉[高田 漆] リタイア》


それでも殺してやろうと譽が指を鳴らしたその時だった。


「正義名乗るのならよ、ルールぐらい守れよ」


ゲートから天照大御神と共に現れ、防ぐ。


「よくやった、蒼」


漆をゲートに放り込み、任せる。

それと同時に島に大量のゲートが生成された。


「休憩も計画も立てさせねぇよ。一旦リセットだ、佐須魔」


華方 薫、不敵な笑みを浮かべながらゲートに沈んだ。

それと同時タイミング、終了の通知を知らせる間もなく始まった。

ゲートによってTISと教師、そして集まった強者達を島全域に散らす。


「待ってろよ佐須魔、ここで終わらせてやる」


旧生徒会の戦いが終わると同時に、教師陣が投入された。

それだけではない、サルサ・リベッチオとリヨン、兆波 正円、コア・ケツァル・ルフテッド、絡新婦の増援も同時に入る。

ここにいる皆はこう考えている、これにて全てを終わらせると。



第四百七十八話「蟲神」

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