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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第四百七十三話

投稿忘れましたが9月18日分です。

御伽学園戦闘病

第四百七十三話「神兎 刀迦」


生まれは不明、ただし家族無し。東京都内を適当に歩き回りゴミを拾って食うドブネズミのような生活を送っていた。だがドブネズミは一匹では無く、何十匹も生活していた。故に縄張りが出来るのは当たり前、そこらに転がる屑達は厳しい環境下で育って来たからか妙に縄張り意識が強く喧嘩に発展する事が多かった。

小柄かつ無口な少女が生きられる場所ではない。


「何勝手に入って来てんだよ、ガキがよ」


大きな男が近付いて来る。雰囲気から見て取れる、能力者だ。この界隈では基本的な指標は強さで決まっている。なので普通の世界と違って能力者が重宝され、それなりの地位を確立しているのだ。

一方能力も無く、明らかに貧相な体格。勝ち目は無いように見える。


「俺は身体強化だぜ?今逃げるってなら…」


次の瞬間男は吹っ飛ばされていた、それだけではなく腹部が尋常ない程痛む。だがそんな事を考えている内に目の前に拳が飛んで来た。

男は死んだ。この地域一帯を仕切っていた強い奴にも関わらず、ぽっと出の少女一人によってたった数秒で。それを少し遠くから見ていた取り巻きは腰を抜かし逃げ出してしまう。

何か食糧を持っていないかと漁り出したが何も持っていない。ムカついたので一撃蹴りを入れて顔面をグチャグチャにした後その場を去った。


「…なに」


住処と言うにはあまりにも酷い路地裏、普段はいつもここで寝ている。もう動くエネルギーが残っていないので眠るため帰って来たのだ。だがそこに見ない男がいる。

金髪に白いメッシュ、眼鏡をかけて和服を着ている。


「数日間同行を監視していた。そこで提案がある、私達と共に…」


言葉が全然理解できないので即座に蹴りかかった。だが男は軽く跳ね除ける。自分が最強だと感じていたのでそんな風に扱われて少し驚いている。


「言葉が理解出来ていないのか……ならこうしよう」


すると男の真横に謎のゲートが出現する。そしてそこに手を突っ込み、二つの物を取り出した。


「ありがとう佐須魔、あとで金は返す」


そう言いながら手に取ったのはペットボトルに入った水とコンビニで買ったであろうパンの二つ。そして投げるようにして渡そうとするが警戒しているのでキャッチしない。


「食べると良い」


それぐらいの言葉ならギリギリ理解出来る。だが警戒が解かれるわけでは無いので手を付けようとはしない。すると男は落ちたパンの袋を破き、屈んでから差し出した。

本能的に理解する。こいつに敵意は無いと。普通ならばここで見下ろしながら差し出すはずだが、屈んでいる。敵より姿勢を低くする意味など存在しないので恐らく大丈夫だろう。

それにお腹が空いていたのは事実、まだ警戒しつつもパンを手に取って食べ始めた。美味しい、一気に警戒が解けた。それを感じた男は頭に手を起きながら訊ねる。


「来てくれるか?」


正直意味は分からなかったが多分良い事だと感じ、頷いた。


「そうか。では食べ終わってからにしよう」


男の表情も少し柔らかくなった様に感じる。どうやら警戒をしていたのはお互い様だったようだ。

食べ終わり、水も飲み干すと男は早速行こうと手を握る。すると先程と同じようなゲートを出現し、潜る。その先は普通の家という感じだった。だが少女にとっては初めての事であり、刺激が強すぎてボーっとしてしまう。


「お帰り來花。ちゃんと連れて来たね」


「あぁ……だが本当にこんな子供を引き入れるのか?」


「うん。天才は歳関係なくドンドン引き入れた方が良い。こいつは無能力者だからちょっと違うけど能力者だった場合島に連れて行かれると面倒だ」


「それもそうか…ひとまずこの子は言葉もあまり知らないようだ。最低限の知識と振る舞いは出来た方が後々得に繋がるだろう。私がやる」


「良いの?家族いるじゃん」


「キツイ。だがお前ら二人に任せるとろくな風にならないと分かり切っている」


智鷹はこの場にいないがまぁ反論は無いだろう。とりあえずは來花が育成する事となった。

そこからは非常に大変だった。本当に言葉が分からず五十音から覚え、カタカナ、簡単な漢字と進めて行った。五十音をマスターした辺りで急に成長速度が上がりスルスルと記憶した。

だが急激に吸収した弊害か言葉を言葉として認識出来ず、形として捉えてしまう癖が出来てしまった。これに関してはもうどうしようもないと割り切る事にして次は最低限のマナーや態度を教える事となった。


「俺蒿里の所行って来る」


この頃佐須魔は蒿里の体を色々弄って能力をどれだけぶち込めるかという酷過ぎる実験を行っていたので基本家を開けていた。智鷹は既に姿を隠している時期だったので実質的に家にいるのは刀迦一人と言う状況。

來花も自分の家族があるので毎日来てくれるわけでは無い。結局野生暮らしをしている時から性格が変化する事は無かった。ただし戦闘、言語に関しては物凄い成長を見せている。


「刀迦ー、いるかー?」


來花がやって来た。急いで出迎える。刀迦は料理が出来ないので基本來花か佐須魔が作っている。今日は來花が作ってくれた。時間は二十二時、既にご飯は食べたようで共に食べはしなかったが一応食卓自体は囲んだ。

この時間は密かに楽しみだった。単純に気が楽な状態で來花とコミュニケーションを取れるからだ。


「そう言えば名前を付けてから三ヶ月か……何か不満とかは無いか?」


神兎 刀迦、そう名付けたのは來花だった。苗字も何も不明、そもそも出生届も出されていなかったので完全に一から名を付けたのだ。


「無い……むしろ嬉しい」


「そうか、それなら良かった。にしても本当に凄いな、たった一年足らずでここまで成長するとは思ってもみなかったよ」


今話した言葉も全て理解出来ている。たった一年の成長とは思えない。小さい内に拾って教育したのは間違ってなかったのかもしれない。最低限のマナーも最近は身に付いて来てそれなりに一般人として生活出来るぐらいにはなって来た。


「これなら軽く潜伏も出来るな。ひとまずは安心だが……やはり人を殺す事に抵抗は無いのか?」


「別に…?」


逆にあるのかと言わんばかりの態度。佐須魔に智鷹に京香、來花の周囲にはそう言う人間しかいないので感覚が狂いそうだ。だがちゃんと常識人と言えるのは來花ぐらいなので自我を保って刀迦だけでも真人間にしてやろうと心に決めた。


「さぁ、皿を洗ったら少しだけ勉強をしようか」


「うん」


当然のようにご馳走様など言わない。どこまで行っても「弱い奴が悪い」と言うスタンスが抜けないのだ。ただその内治るだろうと考え來花も放置していた。來花が皿を洗っている内に刀迦はひたすら漢字を頭に入れていた。

このまま行けば教育は想定より何倍も早く終わりそうだ。そうすれば本題の戦闘にも力を入れられる。TISに迎え入れた以上戦闘能力を鍛えないと言うのは有り得ない。ここ最近はメンバーも着実に増えて来たのだ。最古参の刀迦が使えないままなのは少し問題である。

來花が皿洗いを終えると同時タイミングの事だった。家のドアが蹴破られる。すぐにそちらの方を向き、攻撃態勢に入る。だが來花は真っ青になった。


「ようやく見つけました」


そこに立っているのは青年、仮想の(マモリビト)のペットだ。


「落ち着いてください。別に敵意が…」


次の瞬間刀迦はその場にあった机の足をへし折り、殴りかかった。その際の速度は凄まじく來花は目で追えなかった。青年は特殊な空間(バリア)によって攻撃を阻止するのでくらわないが速度については褒める。


「素晴らしい速度ですね。あなたただの無能力者でしょう?こんな事もあるんですね。ですが武器を降ろしてください。先程も言った通り僕に敵意はありません。ただ伝言があるんですよ」


「刀迦、離れろ」


身を案じて刀迦と距離を取らせる。いくら才能があっても來花の方が慣れているし強い。


「伝言とは何だ」


「主からです。仮想世界に基地を作っても良いとの事です」


「…は?」


「ただ作るか作らないかはあなた方の自由。便利でもありますが不便な点も目立ちます。しっかりと考えてから決めてください。決定したら佐須魔のゲートで何処でも良いので地獄の門の前に来てください。そうしたら仮想世界へと案内しますので」


「…分かった」


「それでは失礼します……あ、ドア壊したのは申し訳ないです。直すつもりはありませんけど」


そう言い残し青年は去って行った。何とか無事だったが怖かった。明らかにオーラが違う。來花も能力者の中では最強格だがあんな化物見た事が無かった。

ヤバイ雰囲気を感じ取った佐須魔が戻ってきて事情を聞き、一旦來花を連れて三獄で話し合う事となった。


「刀迦、すまないが今日はここにいてくれ。ドアが壊れているから危ないかもしれないが……大丈夫か?」


「うん。大丈夫」


「よし、良い子だ。それじゃあ行こう佐須魔、早めに結論を出そう」


「そうだね」


二人はゲートを潜った。残された刀迦は暇になってしまう。勉強という気分でも無くなってしまったし、かと言って遊び相手はいない。暇になってしまったので久々に外に出て散歩でもする事にした。小さい女の子一人だがパワーが異次元なので何ら問題は無いだろう。

散歩を初めて二十分程が経過した。元々人気があまりない地域ではあるが時間も相まってほとんど人がいない。そんな中更に暗い場所、木々が多い茂デカめの公園に入りボーっとしながら歩いていた時の事だった。

何の気配も無かったのに声をかけられる。


「よう、バケモン」


すぐに振り返り、確認する。そこにいたのはフードを深く被り顔を隠している青年と思われる野郎だった。霊力を全く感じない。当時霊力放出を抑えられるとは知らなかったが感覚的に理解する、こいつは強いと。

乱雑な戦闘体勢に入いろうとすると男が制止する。


「落ち着けよ。別に俺はお前と戦いたい訳じゃねぇよ。ただお前の力を抑えるために来ただけだ」


少しだけ顔が見えた。外国人のような顔立ち、水色の眼に笑っている口元。

すぐに殴り掛かったが男はいともたやすくかわし、跳んで距離を取りながらこう言い残した。


「覚えとけ、俺の名前は[アイト・テレスタシア]だ。お前らTISを潰す事になるであろう能力者、ってな」



そう、刀迦の力はアイト(ラック)によって制限されているのだ。

そして今現在崖っぷちに立たされた刀迦は取り戻そうとしている、本領というものを。



第四百七十三話「神兎 刀迦」

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