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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第四百六十九話

御伽学園戦闘病

第四百六十九話「脱兎が如く」


黒煙、崇高な奉霊が一匹。黒く深い羽毛に宝石の様な輝きを見せる白を混ぜながらもやはり黒い瞳。美しいという言葉が良く似合う、初代ロッドが奉霊として迎え入れていたのも分かる程だ。

だがそんな艶美な外見とは打って変わって戦闘能力は非常に高い。これと言って特別な術や効果がある訳でも無いのだが奉霊の中でも特に心を読むのが上手い。姫に合わせるのも勿論敵の動きを予測する事だってそう難しくない。

そして今は『阿吽』と言う便利な術がある時代、これは人術でも妖術でもなく素戔嗚の委託の様な"独術"に分類されている。奉霊は初代ロッドのおかげで術というものへの解像度が高いのでも少し訓練するだけで問題無く使える。

こいつが奉霊と言う事を知る前に試していたので既に習得済みだ。


『私も戦う』


『分かりました。ただどうか無理はしないように。血は遠ざかっていると言っても数少ない姫の一人、我は護る事が役目です故』


『違うだろう、戦え。そんな保守的な考えは捨てて私と戦うんだ。何度も言っているだろう、私とお前は便宜上主従関係だが末は立場に立つのだと。今がその時なんだ』


『…分かりました。止めはしません。やりましょう、我々の本気をぶつけましょう』


刀迦は完全に姫として動いていると分かると距離を取って動こうとしない。やはり菊もそうだったのだが最近のロッド姫は色々と厄介な奴が多い。香奈美だってそうだ、黒煙は元々のスペックが高いとロッドの手記に軽く書かれていたがあまり戦闘では使われていなさそうな雰囲気が出ていた。

それは恐らく術への適性の無さなのだろう。丁や團、黑焦狐に比べると奇抜性に欠けすぐに飽きてしまったようだ。それでも手元に置いていたのはそんな不満を軽く超えて来るオスとしての魅力、または別の突出した何かがあったに違いない。

警戒は解かない、これ以上時間もかけられない。何故か中央に数人が向かっているのが分かって明らかに足止めされているとも気付いたからだ。


「私を全力で抑えに来るのは別に悪い選択肢じゃない。けどね、釣り合ってないよ。せめて菊が生きてる状態で来なきゃ…」


次の瞬間、刀迦は完全に反射だけで刀を振っていた。確かにその一瞬で何かを斬った。だが目で捉える事は出来なかったし威力が尋常じゃない。元々刃こぼれし出しているのだが一瞬にして刀身の半分まで削られた。既に刀として使用するのが嫌になってくるレベルなのだが"使うのは可哀想"だ。

この鈍で何とかするしかない。この化物を。


「そう言う事するのなら、私もするだけ」


『降霊術・神話霊・干支兎』


十匹程度の兎達。数が少ないので囮ですらないのだろう。だがこんな時はこうすれば良い。


『妖術・戦嵐傷風』


一掃確実。


「めんどいな、ホントに」


黄泉の国でのフラッグ戦で巻き込まれたので知っている。戦嵐傷風の脅威は張り裂ける様な痛みでも、霊力の隠蔽でも、視界の妨害でも無い。この術の真に怖い所、それは範囲と継続性にある。

当時は宮殿内、壊れてもすぐに再生する特殊な能力耐性素材を使っていたのでほとんど傷も付いておらず分かりづらかったが皆が帰った後に軽く宮殿を散歩していると分かった。

至る所に数ミリ単位の傷があると。二日かけて探し出すと宮殿全体を包み込む何らかの攻撃による傷だった、霊力残滓と組み合わせて香奈美のものだと判明し、必然的に戦嵐傷風だと探り当てたのだ。

そして次に継続性。この術はそんな広範囲をまとめて吹き飛ばそうとしても数十秒は何のブレも無く使えていた。相当練度が高いのは見て取れた。するとどうだろう、範囲を狭めて更に長い事効力を発揮したりも出来そうだ。

簡潔に言うと、未知数である。


「でもチャンス」


この状況、馬鹿正直に戦うのであれば非常に嫌な風に追い込まれているのだが別に刀迦は戦いたくない。それよりも速く來花の元に行きたい。なのでこのまま逃げ出す事にした。香奈美は戦嵐傷風の中、霊力感知だってろくに働かないはずだ。

悠長にも背中を見せ、踏み出そうとしたのと完全同時タイミング。足を掴まれ嵐の中に放り込まれた。いや違う、掴まれたのではない、加えられた。

とてもじゃないが黒煙のサイズではない、丁も小さすぎるので無理だ。順当に考えると砂餠鮫だろう。だが姿も霊力も感じられない。半霊なのですぐに何処に移動したか、同じく嵐の中に入って眩ませているかの二択。


「……」


仕方が無いので目を瞑り、霊力感知ではなく単純に勘と小さな音だけでカウンターを行う事にした。元々このやり方で重要幹部をボコボコにして来た経歴もある。少し弱くなるぐらい刀迦にとっては大したダメージでも無いのだ。

そして嵐が晴れる。その瞬間三方向から近付いて来ている感覚がした。大体の息遣いから後ろに砂餠鮫、右斜めに黒煙、左斜めに香奈美と言った所だろう。

普通の人間ならば精々そこで終わり、反射で正面側のどちらかを攻撃するだろう。実際香奈美もそう来ると思って上反射を自分と黒煙に張っている。

だが刀迦は長年の経験、そしてその経験を超越しえるセンスによって、そんなピンチを脱する。何か考えながら動いたのではない、目を瞑りながら、何も考えずただしっくり来た動きをするのみ。


「なっ…!?」


香奈美の驚く声が聞こえると同時に、衝撃が走る。香奈美を斬りつけた、上反射を実質的に無効化する手順を使って。その後同じ様にして黒煙も攻撃した。

その際に上反射をくらう。だがその反動で振り返りのスピードが上がった。故に砂餠鮫は避ける事すら出来ず柄で叩き落とされた。

だがしかし、そこで終わらないからこその神兎 刀迦である。

目を開き黒煙を叩き斬った。オーバーダメージ、香奈美の動きがほんの一瞬だけ止める。既に一回斬られて相当焦っている筈なのでここらで決める。


「死んで」


砂餠鮫は致命傷だったのか姿をくらましている。そして黒煙はすぐには出てこれないだろう、無防備状態。刀迦はそんな状態の獲物を見逃すほど弱くない。

刀を振り上げ、真っ二つに斬ろうとした。だがほんの一瞬だけ理解が追いつかなかった。確かに全力でやったはずだ、上反射対策で先に一発小突いてから本気で斬った。

それなのに刀が動かない。香奈美に到達する目前で透明の壁に阻まれているかのようにして、止められた。そして香奈美は一方的に攻撃出来るようで、透明壁をすり抜けて一発ぶん殴って来た。

その後黒煙を呼び出し場を整える。


「何それ」


「術式だ。私は元々ロッドの血と言うのが血液検査、そして菊の言伝で知っていたからな」


知らなかったのは水葉と父が違う事。ロッドだと言う事は隠して今までやって来た。だがしっかりヒッソリと訓練はしていた。ただ術式はロッドの者だったら誰でも完璧に使えるわけでは無い、結局適正も必要だ。

そして香奈美にはその適性が無かった。菊に教えてもらってはいたが習得出来た術はたった二つだけ。その内の一つがこれ、『伍什弐式(ごじゅうにしき)-壱条(いちじょう).丹焼爽(たんしょうそう)』である。

術式には既に防御系の術はある、ラッセルが使っていた弐什弐式だ。ただそれ以外にも防御の術が一つだけ存在していた。それがこれ丹焼爽。

これは簡単に言うと敵を透明の四角い箱に閉じ込めると言うものだ。それに反してロッドの一族の者の場合はそれが適用されず、自由にすり抜けられるという代物。


「出れない…」


これが箱だと言う事に気付くと同時に追い詰められていると理解する。

壊せない上に一方的な攻撃が可能。そんなのたまったもんじゃない。それにこんな姑息な術を使われるとイライラしてくる。元々やりたくもない戦闘になのに、早く來花の元に行きたいのに、そんな気持ちが煮詰まって行く。

刀迦は怖い。それは単純な力という意味でもそうなのだが、何より怒った時だ。自制はしているが暴走している。動きが変わるのだ、まるで獣のように乱雑な太刀筋へと変化する。元の力が怪物な上に何も意識せず動いているので行動が読めない。

佐須魔でも戦闘を渋るレベルの面倒くささだ。そんな状態へと変化した上に、ほんの少しいつもより自制が強かったらどうなるだろうか。

答えは簡単、もっと更に強くなる。


『降霊・刀・干支兎』


「基礎は忘れない。堅実に、そして一瞬で終わらせる」


刀迦の右眼の奥に、何色なのかも分からないような火花が散ったのを香奈美は見逃さなかった。



第四百六十九話「脱兎が如く」

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