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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第三章「工場地帯」
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第四十七話

御伽学園戦闘病

第四十七話「力」


数分間歩き街の広場まで到着した。そこには今回遠征に向かったメンバーほぼ全員と莉子がいた。到着した二人はとりあえず止血をする、その間絵梨花が学園に戻らないかと訊ねると傷だらけのラックが答える。


「紫苑とニア、素戔嗚が来てねぇ」


「なんでだ?佐須魔と來花がいなくなる直前ぐらいまで紫苑らしき霊力あった気がするけど」


「だから心配なんだ」


そんな会話をしつつ到着を待っているとフェアツの声が上空から聞こえる。そして紫苑が来たと言っている。やっと来たかと合流を待つ。

だが段々と皆の目にも映った紫苑は非常事態だと言わんばかりに全速力でこちらに向かって走ってくる。そして手には何かを抱えている、よく見てみるとそれは血だらけになっているニアだった。そして紫苑の背中にはあまりのスピードに吹っ飛ばされそうになりながらも何とか掴まっている生良もいた。


「ニア!?」


「説明は後だ!すぐに学園まで…」


そう言うと同時に莉子の判断によって全員学園へと転送された、そのままニアを抱えて走り出し保健室へと向かった。

転送されたのを発見したのか薫が校内から出てくる、絵梨花は軽く状況を説明してから薫にも回復を手伝うように指示を出した。

治療をしていると兵助も駆けつけてくる、そのおかげで治療のペースも上がり全員そこまで重大な傷ではなかったので普通に完治した。

ラックはニアの事が気になり保健室へと出向く、部屋にはタルベや時子先生と話している紫苑、そして傷は治っているが目を覚ます事なく眠っているニアがいる。


「もう大丈夫なのか」


「あぁ…傷は治せた」


「そうか。ところでニアはなんで傷を負ったんだ?素戔嗚と一緒にいたはずなのだが…あまつさえ素戔嗚もいない」


紫苑は顔を曇らせながらゆっくり素戔嗚の件、戦闘を行い勝利して佐須魔の施しを受けた件を話した。話し終わるとラックは信じられないと動揺すると共にあの時二人行動をさせなければこんな事にはならなかった、と強く後悔する。だが紫苑はラックを慰めニアは大丈夫だと言い聞かせた。そして他のみんなの状況を見てくると保健室から出ていった、会話が聞こえなくなるぐらいには紫苑が離れた事を確認すると時子先生に聞く。


「ニアは…起きないんだろ」


「…そうね。出来るだけの事はしたし本来なら起きていなくてはおかしいレベルに回復はしている、と言う事は何か異常が起こり目を覚ませない状況に陥っていると考えるのが妥当ね」


「あの時別れなければ…」


そう自責の念に苛まれるラックをタルベが慰める。


「いえそんな事はないと思いますよ、あなたたちが別れていなかったら來花と素戔嗚さんを同時に相手する事になっていた可能性だってあります。そうなったら勝ち目はゼロに等しいでしょう?なのでこれでよかったんですよ、あなたは最善の判断をしたまでです」


それでも自責の念は止まらない、自分の判断のせいで最悪の場合一生目を覚まさない可能性だってある。これから起こるであろう嫌な事を想像してしまっているラックは後悔するしかなかった。


「ラック先輩!流先輩知りませんか!」


すると叫びながら宗太郎が保健室に飛び込んで来た。その勢いに少し驚きながらも知らないと返した。少し考えるとその話し草から流がいないという事ではと気付き宗太郎に何があったのか聞いてみる。

すると宗太郎からは「いないんです」と衝撃の返答。ラックは焦りながら保健室を飛び出て、皆の所へと向かった。すぐに薫に話を聞く。


「礁蔽曰くいついなくなったのかさえ分からないらしい」


「はぁ!?」


「今莉子が工場地帯に戻って至る所を探しているそうだ、俺らが行っても意味はないから莉子の帰りを待つしかない」


自分では何も出来ないことを悟り、ゆっくり礁蔽へと近づいて行き声をかける。だが礁蔽は「一人にさせてくれ」と下を向き悲壮感漂う背中を見せながら学園を出て行った。ラックは自分の不甲斐なさに打ちひしがれただただ歯を食いしばって拳を強く握り、立ち尽くす事しか出来なかった。



同時刻

そこはまるで王座の間のような空間だ、だが椅子は三つある。空調などは完璧に整えられ快適な空間だ、そんな中央の王座に座っているには佐須魔だった。そしてその前方には[エンストロー・クアーリー]におもちゃの銃を突き立てられ、押さえつけられている流がいる。


「な~んで来ちゃったの」


「素戔嗚を…返せ…!」


「だから~素戔嗚は元々俺らの仲間でスパイだったんだって」


「そんなわけ…あるか!」


クアーリーは引き金に手をかけ殺してしまおうと提案する。だが佐須魔はそれを止め、流との対話を試みようと話しかける。だが流は素戔嗚の事しか口にせず佐須魔は呆れ果て流の拘束を解くように命じた。クアーリーは渋々後ろに下がる、流は速攻で走り出し座っている佐須魔の胸ぐらを掴んで足を腹部に押し付け圧をかけながら素戔嗚を出せと要求した。


「退け」


「素戔嗚を出せ!」


「退けって言ってんだろ」


佐須魔は霊力を解放し間近で流に恐怖を植え付けた。あまりの力に咄嗟に手を離して睨みつける、佐須魔は部屋の隅で見ていた原に素戔嗚を連れてくるよう命令した。原は「はいはーい」と腑抜けた返事をしながら部屋を出て行った。


「じゃあ素戔嗚が来るまで少しお話をしよう。そうだな…じゃあTISが解散の危機に陥った時の話をしようか。」


「解散…?」


「あぁ。三年前俺は來花の家族に手を出したんだ、母親は死んで娘は能力者だったから島に、兄はどこに行ったか分からなくなったそうなんだ。

そんで何が問題だったかって來花とは家族に手を出さないって約束してたんだ。でもその約束を破って俺と來花は大喧嘩、その時喧嘩を止めるためにその時の重要幹部No.1の奴が自分を犠牲にして喧嘩を終息へと導いてくれたんだ。

その導きってのは暴走した來花を殺す、それだけしかなくてね…來花とそいつは一緒に死んだんだ。それで重要幹部No.1と三獄を一人同時に失ってTIS内でも紛争に近い事がたくさん起こって色々な奴らが抜けて行った、重要幹部は五人脱退、優秀な(ジョウ)の奴らは五十名以上が脱退、()に関しては数え切れないぐらい抜けて行った。そうして俺らは壊滅の危機に至った、だけどどうにか持ち堪えて、ある程度復活させてここまで這い上がってきた。來花とも仲直りして凄くいい感じなんだ。

喧嘩は一年前なんだけどね」


「なんで死んだ來花がいるんだ?」


「あーそれはね、呼び起こしたんだ」


「呼び起こした?」


「そう、でもこれは人生で出来る数が決まってて無闇矢鱈(むやみやたら)と使えないんだよね?」


「そんな事を僕に言っていいのか」


「大丈夫さ、だってお前らは俺らに負ける以外の未来はないからね」


話しが終わると同時に部屋の扉が開く、すぐに振り向く。そこには素戔嗚がいた、流は素戔嗚に近付いて話かけようとする。だが素戔嗚は「近付くな」と一言残し引き返した。その時の流を見る目はまるでゴミを見ているかのような冷酷な目だった。流は遠ざかっていく素戔嗚に何度も問いかけるが素戔嗚は最後に「もうお前らと御遊戯(おゆうぎ)をしている期間は終わったんだ」と吐き捨てどこかに行ってしまった。

流はあまりのショックに硬直し後に絶望を感じた。流石に同情したのか原が肩に手を置き軽く慰めてくる、だが流はその手を跳ね除け再び振り返り佐須魔に向かって問う


「本人にこんな事を聞くのはおかしいのは重々承知の上で聞く、どうやったらお前らを殺せる」


その時の流は霊力や怒りを抑えきれず全面に押し出していた。佐須魔は不敵な笑みを浮かべながら嬉々として答える。


「普通本人に聞くかぁ!?やっぱ良いねぇ流君は!!面白い!じゃあ答えてやろう、重点的に鳥霊を成長させろ!そして自分自身も強くなれ。そうすれば俺には勝てなくても素戔嗚には勝てるようになる!俺は期待してるんだ、絶対に強くなってくれよ!」


その言葉を頭によく焼き付け流は人生の目標を定めた、『素戔嗚に勝つ』これを達成するために遠回りでもなんでもして力をつけると決意を固めた。


「じゃあ帰るといい、みんなが心配しているだろう…あ!少し待て」


佐須魔は流に触れ傷を治した。そして笑みを浮かべながらゲートを開く。一言感謝を述べゲートへと入って行く。

ゲートを出るとそこは校門の前だった、そして流は先程の事を思い出しながら地面に手を付け叫ぶ、ただひたすらに叫ぶ。あの時無理にでも素戔嗚を引き留めていれば結果は変わったのではないか、あの時佐須魔にも勝てる力があればTIS自体を壊滅させて素戔嗚を奪い返せたのではないか、そう色々な考えが頭を巡っては消え、巡っては消えを繰り返す。


この少年は敵の助言によって自分に何が足りないかを理解したのだ。ただ一つ『力』だ。



第四十七話「力」


被害

[軽傷,重傷者]ニア・フェリエンツ-エスケープチーム

[死者]

[行方不明者]杉田 素戔嗚-エスケープチーム


第三章「工場地帯」 終

2023 10/21 改変

2023 10/21 台詞名前消去

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