第四百六十八話
御伽学園戦闘病
第四百六十八話「光彩」
両者の拳が互いの顔面にクリーンヒットする。普通ならばそこでどちらかが狼狽したり、一瞬気絶するレベルなのだが、起こらない。まるで何も無かったかのように次の一手を繰り出している。
血も出ているし災厄に至っては顔面の一部が崩壊している。それなのに楽しそうに笑いながら権威すら使わずただ殴り合おうとしている。やはりそうだ、災厄は戦闘病患者だ。
「強さの象徴とでも言いたげだね」
「当たり前だ、実際僕は強者を煮詰めた結果に出来た存在。君のようなハリボテやっつけ工事で出来た強者じゃないんだよ。正真正銘、真の髄から上位者なのさ!」
その間災厄の速度と力はじわじわ上昇をしている。まだ弊害が出てくる程ではないのだがこのままのペースだと二分後には手の付けようが無くなってしまう。幸いな事にそこまで時間をかけるつもりは無かったので何とか乗り切れそうだ。
災厄の体はボロボロで所々が崩壊している。蒼の反体力が未熟なのか、災厄に効果が薄いのか分からない。神などに使っていた時はもっと効力が高かったはずだ。
そう言った所も解明していけると今後に繋がる。
「無駄だよ蒼!反体力の効き目が低いのは耐性を持っているからだ!!一個前じゃない、もっともっと前から僕は反体力で殺されてきた、もうそれがトドメになる事は有り得ない!」
知っていた、どうせ耐性もあるのだろうと。だが殺せなくとも機能停止ぐらいにまで追い詰めるのはそう難しくないはずだ。何回か殴られたせいで蒼の体にも相当ガタが来ている。これだけ耐えただけでも上々だ。
「予想は付くさ、だけど現に効いてはいる。さっきまでの僕だったらこうはならなかった。これで良いんだよ、怪物」
雑魚が必死に強くなってくらいつこうとしている様は物凄く滑稽なのだが、面白い。そもそも強力な覚醒能力を捨ててまで反体力に拘る意味が良く分からない、人外に対して有効、それが災厄にも通ずる事は確かだ。だがそれでも未来視を取った方が良いように感じる。ここに来て反体力と身体強化での攻撃、決定打に欠けることぐらい少し考えれば分かりそうなものだ。
それでも現実として蒼は反体力を取った。こいつは相当強い、何だかんだ頭も切れる。絶対何か企んでいるはずだ。災厄は戦闘病にかかりながらもそんな事を考え、動いていた。
「言っておくけどね蒼、僕の実力はこんなもんじゃないよ」
次の瞬間速度が跳ね上がる。一瞬の事過ぎて対処が出来るはずもなく、流れるがまま腹部を殴られ吹っ飛んだ。何本もの木を突き破り、動きを止める。
骨はボロボロ、内臓はグチャグチャ、ドーパミンがアホみたいに出ているので何とか耐えられているがそれでも滅茶苦茶に痛む。血も吐いて気分が悪い。
だがその直後には既に災厄が迫っている。何とか蹴りをかわし、そのまま立て直す。少し不格好でも仕方が無い、チンタラ整えている余裕は今の一撃で何処かに旅立った。後はただガードを繰り返し、良いタイミングで反撃をぶち込んでやるだけ。
ただ問題も存在している。災厄がドンドン強くなっているのだ。想定の二分なんか耐えられそうにない。あと十五秒も持つか分からないレベルだ。
そんな短時間で隙を晒すかどうか分かったもんじゃない。このまま賭けても良いのだが折角ここまでやって来たのに失敗して何も出来ずに敗北など許されるはずがないだろう。
「これで終わりにしようか、災厄」
雰囲気が変わる。この一撃に全てを懸けて来ると感じ取ったのだ。それと同時に災厄も同じ雰囲気へと変化する。互いに後一回で決着をつけるつもりだ。
そして動き出す。最後だけは単純に混じり合うのではない、どちらか一方が殴れるタイミングを探す。蒼は出来うる限りの反体力を纏って攻撃してくるはずなのだ、流石の災厄でもそれはくらいたくない。
だがくらった時の対策も今の内に施しておくが吉だ。
「させないよ」
一瞬にして蒼が迫る。出来ない、そんな悠長な事。
すぐさま距離を取るが追いかけて来る。だが恐らくすぐに攻撃してくるつもりは無いはずだ、ゆっくりでいい、確実に安全かつ殺傷性が高いタイミングを狙う。
「あとは任せるよ、ラック」
呟き、距離を詰める。何故このタイミングなのか、まさか変な隙でも作ってしまったのか、そう思いながら災厄は逃げようとするが遅い。もう逃げられる距離ではないと悟り防御に徹する。
思惑通り。
「知ってるよ、だって君は"人間"だ」
何をしたかったのか理解できた。だが既に拳が着弾している、敗北だ、災厄の負けなのだ。
「僕は負けてないさ。だが光栄に思え、忘れないさ、和也 蒼」
炸裂する反体力、災厄は消滅を免れる為活動を停止し、姿をくらました。一方蒼はこれで終わりだと思って油断した、次の瞬間炸裂するエネルギー、負けていないの真意とはこれだったのだ。遅延による攻撃。既にボロボロで動けない程だったにも関わらず被弾、どうなるかなど明白だ。
「さいあく…」
その場に倒れた。だが気絶までは行かない、ただ体が動かず眠くなってきている。もう役目は終えただろう、これ以上無茶をしなくても誰も文句など言わないはずだ。
そう自分に言い聞かせながら目を閉じようとしたその時だった、触られる。生存確認、何とか反応を示すと聞き覚えの声が耳に入る。
「さぁ起きて!」
霊力補給。だがもう意味は無いのだ、今更霊力補給をしても。今必要なのは体力、反体力の生成に体力が使われるせいで回復までが遅い。
「さぁ早く!行ってあげなきゃマズいでしょ!」
「…む…り……」
「何で?霊力渡しておけば……あ、なんか反体力になってるじゃん」
事情を把握したので仕方が無く待つしかない。だがそうも行かないのだ、既に香澄は行ってしまった。放っておけない。
「じゃあ私行くからねー。蒼もちゃんと来てね!」
ゆっくり頷く。すると椎奈は走って行ってしまった。蒼はまだやるべき事があると理解し、回復に専念する事とした。
一方その頃待機島あの空き部屋、薫、兵助、エリの三人だけの部屋での出来事だ。
「別に知ってるけど…」
「どんな感じだ?」
「何か……フワッとした後にブワって来る」
「…酷い語彙力だな。まぁでも助かった」
エリの頭を軽く撫でてから兵助の方を見る。
「本当にやるんだな、兵助」
「前々から話し合っていたんだ。それに折角透が教えてくれた。そもそも適合には一ヶ月とかかかるはずだから今大会中には発現しないよ」
「それもそうか。んじゃやるか。エリ、そこ動くなよ」
「うん…」
薫はゲートを生成する。そこに何があるのか、答えは簡単、魂だ。ライトニングにずっと引き留めてもらっていた、その魂。人物は[タルベ・カルム]。
魂、エリ、適合の時間。導き出すにはそう時間はかからない、エリは声を出そうとしたが薫に口を塞がれる。まさか透が教えていたとは思っていなかったが確かに有効かもしれない。
だがこれは兵助にやるべきではない、強力な回復術が無くなるのは痛手過ぎる。そう言いたいのだ。それに反論するかのように薫が言う。
「俺らが入る頃には既にあいつら万全だ。回復なんてする余地は無い。エスケープの時だって同じだろ。だからもう必要無いんだ、この回復術は」
「うん。そうなんだよ、だから僕はタルベの魂を喰う。上手く行くかは分からないけど、無理でも何とかするよ。だから心配せずに見守ってくれエリ」
透のカードとは突然変異体化である。
第四百六十八話「光彩」




