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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
最終章「終わり」
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第四百六十七話

御伽学園戦闘病

第四百六十七話「天災」


中央地点から出来うる限り離されて蒼は対面していた。だが災厄はやる気が無さそうで力も抜いて空を見ている。それなのに蒼は手が出せない、隙が無いと言う訳では無い、むしろ隙しかない。違うのだ、雰囲気が。醸し出す雰囲気が明らかに上位存在だと示している。

何が怖いかと言うと本人がそれを自覚してい無さそうな所なのだ。戦闘準備すらしていないのに気圧されている状況、手が出せるかと言われたら十割十分無理だ。

ただ蒼の目的は時間稼ぎ、それで充分だろう。


「ねぇやらないの~?」


まだ空を見ているがそう訊ねて来た。だが良い、わざわざ手を出す必要などない。そう思った直後の事だった、碧い炎が眼に灯る。覚醒が誘発されたのだ、何者かによって。

神やエンマならば絶対に何か言って来るはず、となると誰がやったのか。だがそんな事を考える間に一秒後の景色、視点が百八十度回転している。

すぐに首が飛ばされると悟り屈んだ。次の瞬間災厄が背後に移動して手刀を降っていた。災厄は露骨に嬉しそうな顔をした後蹴り上げる。


「くらわないよ」


身体強化が無かろうと一秒も先が見えていれば回避なんて簡単だ。そして災厄の嬉しそうな顔且つ消去法で誰が覚醒を起こさせたのかなど分かり切っている。


「でも良かったじゃないか、君の天敵が来てくれたようだよ。これで少しは楽しめるんじゃないか?」


「そうかもね、だから体を慣らすために君を殺すよ、和也 蒼」


圧が凄い、ただ強者から放たれる威圧。息を呑み構える。すると一秒後の景色で眼前にまで迫る災厄が見えた。

だが動かない。動かなくていい。ただ構えたままだ。災厄は蒼のすぐ真正面に移動したが何もしない。ただ瞬時に理解して"普通に"殴る事とした。流石にそれは避ける、ただの攻撃ならば避けて良いからだ。

一旦距離を取って再度構えながら息を整える。


「良く分かったね、多分一秒後なら迫った所までしか見えなかったと思うんだけど」


「一応アニメーションみたいに見えるからね、一瞬で迫ったにも関わらずすぐに攻撃しないって事は誘発させたかったんだろ、避けるって動作を」


「正解」


そう言いながら笑った。何故回避を誘発させようとしたのか、理由としては至極単純なものだ。蒼は身体強化が無い今それなりに意識しないと瞬時の回避は出来ない。そうなると未来視、または回避中のガードが薄くなる可能性があるからだ。

実際避けている間蒼の視線は常に災厄の手元に向いている。本来なら何らかの詠唱を警戒して口元を見る必要があるのだが手を見ると言う事は基本的に一番攻撃回数の多い場所を警戒していると言う何よりの証拠。

致命傷にも成り得る術の警戒を放って回数の多い方しか守れない、即ち限界なのだ。確かに質より量を対策した方が結果的に良い方向に繋がるパターンは多い。だがそれは弱者との勝負でのみ適用される。


「でもね僕みたいに強い奴との戦いでそう言う事をするのは、ただただリスクを取ってリターンを捨てている様なものだよ」


次の瞬間衝撃が顔面に伝わりよろける。その隙に災厄は距離を詰めたが既に一秒後を見て知っていたのでノールックで蹴りを繰り出した。


「うざっ!」


悪態をつきながらも回避し、隙は無くなったので再度距離が出来る。


「遅延か…にしても凄い精度だね、拳でも何でもないだろ?何の攻撃を遅延させたんだよ」


「これだよ」


災厄が指差したのは頭上にある小さな球体だった。小さいのと災厄本体の存在感によって打ち消されていたので気付かなかった、そこにあるのは権威(オーソリティ)だ。


「マジか…めっちゃ嫌だな、それ」


「分かるよ、僕も言霊とかそう言うの相手にするの嫌いだもん。でも使うのは好きなんだ、何でもできるから」


まず災厄は当たり前のように何も口に出さず権威(オーソリティ)の効果を発動していた。詳細は分からないが警戒が必要になった事に変わりはない。この時点で相当劣勢なのだが気合いを入れ直して向き直す。

先程のアドバイスか揺さぶりかも判別の付かない言葉は真に受けない。一秒先が見えるという特殊な能力の都合上人のアドバイスなど真に受けても大した効果が無いどころか効力が薄いからだ。


「だからさ、僕言ってるよね、絶対顔か権威(オーソリティ)見てた方が良いよ」


「僕には僕なりのやり方がある。実戦中に口出しされるとちょっとイライラするから黙っててくれないか」


「まぁ良いけどさ~、どうなっても知らないからね」


言い終わると同時に殴り掛かって来た。見えているので避けようとも思ったが避けると隙が生まれて先程と同じ様に遅延での攻撃が行われる。今の所遅延の対策と言うのは瞬時に『転』で霊力系の攻撃を無効にするぐらいしか考案されていない、だがそれも非現実的なので実質的に不可避なのだ。そんなので大きな隙を作られるなんてたまったもんじゃない。


「ほら、それで良い」


権威(オーソリティ)もギリギリ見える所へと無意識下で目線が移動していた。すると丁度タイミング良く権威(オーソリティ)異変が生じる。

ただ浮いていたのだがクルクルと乱雑に回転しだした。そして未来視で分かる、ヤバいのが来ると。すぐさま全力撤退を行う、背中を見せて逃げた。

災厄は追って来ていないと安心した直後、ほんの寸前まで踏んでいた地面が崩壊する。崩れ、現る。龍の姿。


「上手いね、避けるの」


賞賛、それもそのはず、災厄だってこれを避けられるとは思っていなかったからだ。一回目の遅延で隙を作った際に権威(オーソリティ)で影武者を作って操作していた。そして肝心の本体は海から地面へ侵入し、急に龍に成る事で破壊しながら喰い破ってやろうとしていた。

やはりこの未来視という能力は非常に強い、だが前提として蒼が優秀だと言うのもあるだろう。ただ災厄の方が優秀である事は変わりない、奪いたい、そんな欲が見え隠れし出す。


「…これも君のアドバイスのおかげさ、災厄」


「ほら言った通りじゃないか、僕は最強の霊何だよ、戦闘のプロフェッショナルって言うやつさ。だから言う事は聞いた方が良い、だって僕は最初から負けるつもりは無いんだから」


余裕があるので強くなっていく過程でも見て楽しんでいるのだろう。蒼は命をかけて全力でやっていると言うのに。ただ癪に障るだけであって間違った事は言っていない。

災厄は先代達の敗北から学び、強くなって再誕する。今までの化物達の集大成、それがこの[災厄]と言う野郎なのだ。だが蒼には作戦がある。光輝が死んだ通知が来た、もう時間稼ぎは必要無いはず。それに皆の限界も近いだろう。仕掛ける時だ。


「悪いね、少し待っててくれ」


次の瞬間蒼はいなくなった。霊力反応も無い、どうやら莉子の能力のようだ。こうも都合の良いタイミングで使ったと言うことはそれなりに協力してくれると言う事だ。面倒だとも感じながら災厄は待つしかなかった。



一方蒼が向かったのは災厄と一番離れた島の隅っこ、そこで霊力反応を消した後に小さく呟いた。


「エンマ、話そう」


視界が変化する。真っ白な世界、そこにはエンマと莉子がいる。


『やぁ、こっちで話すのは結構久しぶりだね』


(そうだな)


『まぁ良いや。それで何だい?死んでない人間と会話するのはあまり良い行為じゃないから早くして欲しいな』


(一撃、いや一瞬でも良い。僕に反体力を使わせて欲しい)


『災厄を殺すのかい?やめた方が良い、それはラックの仕事だ』


(知っている。でに僕はもう他の重要幹部に勝てる様な状態じゃない。だからせめてダウンさせて教師の時には動かせない)


『……そう言う事ね。理解はするけど協力したくはないかな』


(何で?最善策だと思うんだけど…)


『反体力の仕組み、しっかり理解してる?』


(いや…)


『反体力ってのは体力が霊力に変わる際に発動帯通過する動作で異常が発生した時に作られるエネルギーだ。そしてその異常って言うのは発動帯の破損何だよね』


(それって能力は…)


『使えるよ』


(なら別に…)


『どう潰れるか分からない。喰った人間の魂が何処に保存されるのか君は知っている筈だろう』


察する。分かっている事は能力が使える、それしか分からないのだ。破損させた際に莉子が消滅するかもしれない。そうする莉子は黄泉の国にいけない。


『知ってるよ、君は莉子を黄泉に行かせようと決めていただろ。それは大切な人だからだ。でも破損させたら叶わなくなる可能性があるんだ。僕だってそれは嫌なんだよ、だからそのまま…』


(分かった様な口を利く。先に謝っておくよ、癪に障ったら申し訳ない)


そう前置きし、伝える。


(莉子は僕がやりたい様にやらせてくれると思う。そこにエンマ、お前の意思は介入させない。常に感謝しているし尊敬もしている、だけどこれは僕と莉子の問題だ。口を出さずに、やってくれ)


珍しく強気だ。エンマは少し考えてから莉子の方を見た。すると莉子はどことなく嬉しそうにエンマの目を見て来た。


『仕方無いなぁ…ワガママな二人の言う事を聞いてあげよう。だけど文句は無しだよ』


(分かっている。最初からそのつもりだ)


『それじゃあ、ジッとするんだよ』


エンマが蒼の首元に触れる。

そしてその手から小さな針を伸ばし、肉体を貫いて行く。細いのだが身体強化も無しで急に刺されたのでビックリする。だが動いたら駄目だと抑え、我慢する。

異様な感覚、くすぐったい様な痛い様な。だがそれを軽く凌駕する異変が体に生じる。既に施術は終わったのだろう、ただ霊力の生産力が格段に落ちた。

その代わりに感じた事の無い感覚が満ちている。


『多分…出来たね』


(ありがとう)


『大丈夫。それじゃあそろそろ行っておいで。また後で会おう』


(あぁ、行って来る)



現世に戻り目を覚ました蒼はすぐさま走り出す。気絶したせいか未来視は解除されているのだが再発はない、分かっているようだ。

走り、走り走り続ける。身体強化のおかげですぐに見えた。龍から姿を戻し、待ち構えている災厄の姿が。


「さぁ見せてくれ!君の全身全霊を」


互いの拳が混じり合う。

言葉はいらない。ただ、撃つのみ。



第四百六十七話「天災」

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